〈しゃべるっきずむ!座談会〉「先輩」「上司」になった私たちが「ルッキズム」を生まないためには?

 〈しゃべるっきずむ!座談会〉「先輩」「上司」になった私たちが「ルッキズム」を生まないためには?
しゃべるっきずむ!

容姿で人を判断したり、揶揄したりする「ルッキズム(外見至上主義)」。言葉の認知が進む一方で、まだまだ理解されていない概念でもあります。「ルッキズムってなんなの?」「これもルッキズム?」など、まずはいろいろしゃべってみよう!自身もルッキズムに苦しめられた経験を持ち、Yoga Journal Onlineでも「ルッキズムひとり語り」を執筆する前川裕奈さんとゲストが語り合う連載が「しゃべるっきずむ!」です。

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ルッキズムはどんな人の日常にも潜んでいるけれど、まだまだ話題にはしづらいことかもしれません。それでも少しずつ言葉にすることで、ルッキズムのない社会につながっていくと信じて、身近な方々と答えのない座談会をおこなうことにしました。今回は前川さんの友人を2名招き、「呪いをかける側にならないためには?」というテーマでおしゃべりしてもらいました。

人の上に立つ側になった同世代の女性たち

裕奈:30代後半になってきた私たちの世代は、だんだんと後輩や部下ができ、人の上に立つことも増えてきたんじゃないかと思います。今までは上司や先輩などに見た目について言われる側になることのほうが多かったけれど、今度は自分たちが後輩に呪いをかける可能性も出てきた、と。そこで、今回は私の高校からの友人であるふたりに来てもらい、ルッキズムに関して考えていることを話していきたいと思ってます。

りん・みゆき:よろしくお願いします。

座談会

裕奈:私自身は、最初に入社した会社がかなり体育会系だったから、めちゃくちゃルッキズムに晒されていました。こういうやりとりが社会人では当たり前なんだ、と刷り込まれちゃってて、「これがルッキズムか」などと思うこともなかった。「今日商談あるのに、すっぴんなの?」とか「今日ちょっとメイク濃すぎない?」とか。私は新入社員の名簿用の写真が盛れてたから、「顔が全然違うんだけど、この人いつ来るの?」っていじられたりとかね。

りん:うわあ。

裕奈:今、自分が経営者の立場になって、やっぱり私の発言が社員の人たちにとって大きいと感じてる。特に私の会社は規模が小さいから、私の声がダイレクトに社員のみんなに影響するんだよね。そもそもルッキズム的な発言をしようとも思わないけれど、受け取り方は皆それぞれだからこそ、本当に気をつけなくちゃいけないなと思ってます。

りん:わかるな〜。私は、新卒で入った日系企業で10年以上働いています。課長をしているので、直属に新人の部下がいたり、グループ会社の年上の方々が自分の部下として働いていたり、人をまとめる役割を担うことが増えてきた。実際、昇進時にはリーダー研修を受ける必要があって、気をつけるべき発言などいろいろ勉強したよ。

裕奈:時代の変化も感じるね。みゆきは今、外資系企業に勤めているけど、そのあたりはどう?

みゆき:私の肩書きは一般社員。ただ、外資の特色なのか、年上の上司や同僚が後から入ってきてる場合も多くて。

裕奈:外資は特に入れ替わりが激しいから、どんどん古株になっていくよね。

みゆき:そう。私は今の会社は3年目なので、新人に教えたり指示する場面も徐々に出てきているね。

裕奈:立場や環境は少しずつ違うけれど、後輩や部下ができてきた同世代。それぞれにどんな世界が見えているのか、率直に話せたら嬉しい!

「何も言えない」問題……ってある?

裕奈:私はルッキズムも含むセクハラやパワハラ発言をしないように、ものすごく考えてスタッフの方たちに声をかけてるんだよね。ただ、逆に「私は言われたら嬉しいけど、人によっては傷つくかも……」などと考えすぎてしまう場面は多々ある。

りん:裕奈は特に、ルッキズム問題について積極的に発信しているしね。

裕奈:そうそう。「普段あんなに発信しているのにできてないじゃん」と思われてしまうのもわかるから、余計に考えるかな。めちゃくちゃ頭を使って言葉選びをしているし、一生懸命言葉選びをしていること自体は皆に伝わっていると思う。だからこそ、間違った言葉を選んだ時は教えてね、とも伝える。りんも部下に対して「何も言えない」みたいになったりする?

りん:リーダー研修もあったし、最近はメディアでもセクハラやパワハラの話はよく聞くから、やっぱり気をつけてるよね。特に新人に対しては、その人にとって何がOKで何がNGなのかわからないから、最初はめちゃくちゃビジネスライクに接することにしてる。「彼氏いるの?」みたいなプライベートなことは絶対に私からは聞かない。でも、だんだん親密度が上がってくれば話したそうな子はわかるし、逆に私がアウトなことを言っても教えてくれる関係になれたらいいなと思ってる。

みゆき:相手のことを知らないと、最初は難しいよね。私は基本的にオンラインで仕事だから、対面したときに「思ったより背が高いね」と言われることが多くて。背が高いことがコンプレックスだった時期があるから、私はサイズの話はしないようにしてるかな。

裕奈:「意外と細いね」「意外と太ってるね」とかはそこまで聞かないけど、身長に関しては、悪気なく言及しちゃう部分な気がするね。

りん:「背が高いですね」は、褒め言葉だと思って言っちゃうかもしれないな。

みゆき:あとは、外資ならではかもしれないけど、肌の色はセンシティブな話題かな。いろいろなバックグラウンドの人がいるから、肌の色だけで出身地とかを判断しちゃいけないし、そこには絶対に触れない。もし聞きたいなら、せめて「バックグラウンドは何?」とか「大学はどこに行ってたの?」とか、そういうところから聞くようにしてる。

裕奈:それわかるなー!kelluna.の拠点であるスリランカでも、本当によく”Where are you from?”って聞かれるんだよね。それもやっぱり、肌の色や見た目の違いから勝手に判断や推測して出てくる言葉だと思う。広い意味では、見た目で判断するルッキズムだよね。もちろん彼らは悪気があって聞いてるわけでもないし、ただ私は海外育ちということもあって、昔からこの質問は苦手。血筋は日本だけど、育ちは海外だし、今はスリランカをホームと思って一緒に働いてるわけで...…。

りん:“Where are you from?”がダメだなんて思ってなかった、今の今まで……。

裕奈:もちろん、ほとんどの場合は悪気がないこともわかるし、人によっては聞かれても気にならないことだったりするよね。

みゆき:うん。他の発言と同じく、結局は受け取る側がどう思うかなんだとは思う。

りん:でも、「嫌な思いをする可能性がある」こと自体を知っていないと、何も考えずに言っちゃうかもしれないね。

裕奈:そうだよね。やっぱり「知る」ってすごく大切なんだと思う。「痩せたね」という言葉が嬉しい人もいる一方で、太れないことがつらい人もいる。ルッキズムは悪気なく言っていることも多いから、いろいろな事例を「知って」いくことで、誰かに対してかける言葉がだんだん変わってくるとは思う。

一番大事なのは「関係性の見極め力」

裕奈:最近、私の周りからはルッキズム発言をする人が減ってきた気がする。それは「裕奈のいる場では発言に気をつけなくちゃ」と、私が思わせてしまっているのかもしれないけど。でも、この間久々にルッキズム的にアウトな発言をしまくるおじさんに遭遇して、りんに愚痴を言ったときに「ああ、いるよね〜」みたいな反応だったのが印象的だったんだ。私の周りから減っただけで、まだまだあるんだなって。

りん:めちゃくちゃあるよ。私の参加する飲み会なんて「太ったな」「化粧濃くなってないか?」みたいなルッキズムのオンパレード。「胸でかい」みたいな発言も耳にするし、みんな卒倒しちゃうと思うよ。

裕奈:マジか。

りん:でも、実はそういうやりとりをしてるおじさんとは結構仲が良くて、私もタメ口で言い返すようなコミュニケーションが成り立ってる距離感でもあるんだよね。ルッキズムはよくないと思うけど、やっぱり関係性にもよるんじゃないかと思う。関係性と距離感ゆえの発言だってわかってたら、「何も言えなくなる」こともないんじゃないかな。かといって、「じゃあこの子は誰がどういじってもいい」みたいなのは違うから、そういう場面は作り出さないようにはしている。あくまでもいじっていいのは、仲が良い関係性だけ。

みゆき:関係性は絶対ある。ただ、そういう関係性を無視して「あの人が言ってるから、この会社はそういうコミュニケーションをしていいんだ」みたいに“社風”として広がっていくのが一番ダメだと思う。「社風だから」と思い込んで、大して距離が近いわけでもない人が見た目についていじるような発言を社内でするのは、誰も気持ちよくないよね。

裕奈:合意の上であれば言っていい範囲も広がっていくと思うけど、それを「社風だから」とか「こういうキャラだから」と発言すると呪いになっちゃうね。特に上司と部下のような権力差がある場合は、相手が嫌な顔できないから「喜んでる、笑ってるからいいんだ」と思いがち。そこは、ちゃんと見極められる私たちでいたいよね。

コミュニケーションに正解はない

裕奈:あと、「かわいい」はトリッキーだよね。日本人が多発するワードでもあるし、私もそう。そして言ったあとに「大丈夫だったっけ」と考える……。

りん:え!「かわいい」もダメな可能性があるのか!愛おしいなという気持ちを込めて言ってるけど、それが伝わってなかったらダメなんだよね。

裕奈:うーん。例えば、職場や飲み会で若い女の子に「かわいいね!」と言っていると、相手は「仕事の能力で評価されたいのに……」と思うかもしれない。まあ「かわいいね」くらいだったらいいのかな、「かわいい女の子がいると盛り上がるね」とかはアウトだけど。その辺は正直、私にもわからないから悩むところ。

みゆき:明確な答えがないから、難しいよね。

裕奈:褒め言葉に関していつも思うのは、英語だと”You look good today!” とか“You have good vibes." みたいにふんわりと褒めることができるんだよね。でも、日本語だと急に「小顔でかわいい」とか「痩せて綺麗になった」みたいな具体的な褒め言葉になっちゃう。「今日のバイブス最高じゃん」とか言わないしね(笑)

みゆき:急にギャルみたいになっちゃうね(笑)

裕奈:「めっちゃハピネス感じるよ」とは言いづらいから、それが総じて「かわいい」になっているのかなと思う。曖昧なニュアンスの褒め言葉が日本語にももっとあったらいいな。

りん:私は具体的に褒められたら嬉しいけど、これも距離感とか場面に応じて使い分けするのが良いんだろうな。

裕奈:考えれば考えるほど正解なんてないけれど、今後ますます後輩や部下、社員が増えていくであろう私たちは、どうコミュニケーションを取るべきなんだろう。

りん:ルッキズムに限らずかもしれないけど、自分の価値観を押し付けたり、「当然だよね」みたいな前提で話をしないように気をつけようとは思った。「この発言は嬉しいはず」「こういうコミュニケーションがしたいはず」と決めつけずに、やっぱり相手をまずよく知らなくちゃいけないよね。

裕奈:そうだね。私たちが部下への言葉選びで悩んでいるように、過去にルッキズム発言をしてきた先輩たちも彼らなりに考えてはいたのかな、とか最近思うよ。一生懸命考えて発言して、もし傷つけてしまったら謝るしかないなとも思う。年下の子たちとも積極的にコミュニケーションをとって、自分の価値観もアップデートしていきたいな。今日は来てくれて、本当にありがとう!

 

⚫︎前川裕奈さんプロフィール

慶應義塾大学法学部卒。民間企業に勤務後、早稲田大学大学院にて国際関係学の修士号を取得。 独立行政法人JICAでの仕事を通してスリランカに出会う。後に外務省の専門調査員としてスリランカに駐在。2019年8月にセルフラブをテーマとした、フィットネスウェアブランド「kelluna.」を起業し代表に就任。ブランドを通して、日本のルッキズム問題を発信。現在は、日本とスリランカを行き来しながらkelluna.を運営するほか、「ジェンダー」「ルッキズム」などについて企業や学校などで講演を行う。著書に『そのカワイイは誰のため? ルッキズムをやっつけたくてスリランカで起業した話』(イカロス出版)。yoga jouranal onlineコラム「ルッキズムひとり語り」連載中。

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AUTHOR

ウィルソン麻菜

ウィルソン麻菜

「物の向こうにいる人」を伝えるライター。物の生まれた背景を伝えることが、使う人も作る人も幸せにすると信じて、作り手を中心に取材・執筆をおこなう。学生時代から国際協力に興味を持ち、サンフランシスコにて民俗学やセクシャルマイノリティについて学ぶなかで多様性について考えるようになる。現在は、アメリカ人の夫とともに2人の子どもを育てながら、「ルッキズム」「ジェンダー格差」を始めとした社会問題を次世代に残さないための発信にも取り組む。



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