社会を動かす“仲間”の作り方|前川裕奈さん×笛美さん(3) #しゃべるっきずむ!

 社会を動かす“仲間”の作り方|前川裕奈さん×笛美さん(3) #しゃべるっきずむ!

容姿で人を判断したり、揶揄したりする「ルッキズム(外見至上主義)」。言葉の認知が進む一方で、まだまだ理解されていない概念でもあります。「ルッキズムってなんなの?」「これもルッキズム?」など、まずはいろいろしゃべってみよう!自身もルッキズムに苦しめられた経験を持ち、Yoga Journal Onlineでも「ルッキズムひとり語り」を執筆する前川裕奈さんとゲストが語り合う連載が「しゃべるっきずむ!」です。第二回は、広告業界で働きながらSNSを中心に活動するフェミニストの笛美さんとおしゃべりしました。

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世の中が変わったら、企業も変わらざるを得ない

前川裕奈(以下、前川):最近はルッキズムという言葉も認知度が上がってきて、見た目重視の話に違和感を感じる人も増えてきていると思います。でも、やっぱりその場で「それルッキズムですよ。やめてください」とは言えない、という声も聞きますね。

笛美:私も面と向かって言われたら、たぶん言い返せないと思います。

前川:そうですよね。ただ、同じ温度感で話し合えるアライ(仲間)を作っていくことは解決策のひとつになるんじゃないか、とも思っているんです。20代前半の頃の私にはそういう人はいなかったから、見た目に悩んでいたとしても「自分が悪いんだ」と思ったりもしてたんですね。

笛美:わかります。誰も「それを許す社会が悪い」とは教えてくれませんでしたから。

前川:一方で、仲間作りの方法にも難しさを感じてます。私の場合は、29歳でルッキズムという問題にようやくきちんと気づけて、発信方法としてアパレルブランドの立ち上げを選びました。商品やブランドの発信を通して、お客さんと同盟を組んでいくことで「セルフラブ」の大切さを広げていきたいと思ったから。その延長線上で、本やコラムの執筆にもつながっています。笛美さんはSNSの活動が中心ですけど、仲間作りや声の届け方はどうやって選んできていますか?

笛美:実は、最初は周りにアライが作れなかったからネットに逃げてきた、というのが正しいというか……。現実社会で言いづらかったことをブログに書き始めたのが、私の発信のスタートだったんですね。そこでいろいろな反応をもらえたことで、社会にはわかってくれる人もいるんだと思い始めて。その後に「「#検察庁法改正案に抗議します」のtwitterデモで名前が知られるようになったという経緯があります。

前川:そうだったんですね。

笛美:広告業界って、いくら内側から声を上げても聞いてもらえないけれど、世の中が変わったら変わらざるを得ないんですよね。時流を掴めなければ仕事ができないってことだから。私がインターネットで発信を始めたのはすごく遠回りなことだったかもしれないけれど、そういう意味で一緒に社会を変えるアライを作ったということなのかもしれないですね。

笛美

それぞれの仲間や同盟の作り方

笛美:とは言うものの、自分の方法を他の人におすすめすることは全然できなくて。私は広告業界にいたから、遠回りしてもどうにかなると思えたのかもしれないけど、やっぱり大変だとは思います。だから、他の人たちに何を言ってあげられるだろうとは、ちょっと思いますね。

前川:わかります。私も自分の伝え方・仲間作りの方法として起業がしっくりきたけれど、みんながそうじゃないと思います。起業したらそれでお金を稼いで生きていかなきゃいけないし、時間もお金もかかるし、誰にでもおすすめはできないな、と。

笛美:そうですよね。

前川:笛美さんの文章やイラスト、ハッシュタグを使っての発信も、もちろん誰もができることじゃないですよね。常にいろいろなことにアンテナを張って、それをクリエイティブに落とし込む。たぶん、私だったら1つの投稿を作るのに3年くらいかかると思いますよ。

笛美:3年!!(笑)

前川:だから、あれは笛美さんだからこそのアライの作り方だなと思っています。笛美さんはSNS、私は事業化、というように、みんなそれぞれ自分たちのやり方があるんでしょうね。それは必ずしも大きなムーブメントじゃなくてもよくて、家族や友達との話に滑り込ませるだけで、何かしらの動きになるかもしれない。誰かを救えるかもしれない。だから草の根レベルでも小さい声を届けてくのはすごい大事だな、と個人的に思っています。

笛美:例えば、会話のなかで「あなたはもうわかってると思うけど」という枕詞があるだけで歩み寄り方が変わったり、愚痴を聞いているうちに「それはあなたのせいじゃないよね」と社会の問題につなげたり。地味でもできることは、いろいろありますよね。前川さんは、会話に滑り込ませるときに気をつけてることはありますか?

前川:私は普通に喋ってるだけで、結構な圧があるんですよね。ちょっと怖い感じになっちゃうんで(笑)

笛美:そうですか?

前川:その自覚があるからこそ、対立構造を作らない言葉選びをしようとしてます。「どっちが悪い」「私の言うこと聞いて」とかじゃなくて、「悪気なく細いのがかわいいと思っちゃうのもわからなくもないけど……」と。まずは聞く耳を持ってもらいたいから。

笛美:確かに対立構造になると相手も構えちゃうから、それはすごくいいですね。

前川:特にルッキズムの話は、「美人と付き合いたいと思うのは、そんなに悪いこと?」みたいな入門編の会話からスタートすることが多いんです。人間だから「自分のタイプの子を好きになる」のは当たり前のこと。私だって自分なりのイケメンの定義があって、そういう人の容姿に惹かれる自分もいるし。ただ、それを「こういう顔じゃなきゃイケメン/美人じゃない」と押し付けるのは違くない?っていう話をします。

笛美:今聞いてて、私は男の人とそこまでルッキズムについて話したことがないかもって思いました。なるほどね。

前川裕奈

世代や国境を超えて、自分の世界を広げよう

前川:仲間作りの話で言うと、私はやっぱり自分より若い世代の呪いを解きたいという気持ちが強いんですよね。私自身、10代の頃からルッキズムに苦しんできたから。でも同時に、私の言葉が若い子にどこまで響くんだろうか?とも思うんです。

笛美:わかる。私自身がフェミニズムを知った時に「なんで年上の人は伝えてくれなかったんだ」ってちょっと思ったんですよ。そういう気持ちもあって『ぜんぶ運命だったんかい』を書いたけど、でも自分が年を取ってみたら、自分の言葉がどんどん若い人に届きにくくなっていると感じますね。上の世代の人たちも、一生懸命やってきてくれていたのかなと思いました。

前川:親に言われても聞かない、みたいなのと似てますよね。「いや、彼氏に好かれるためにダイエットして何が悪いの?」って。響く伝え方があればいいんだけどなあ。

笛美:エネルギーのある若い人ほど、「かわいい」を追求したいって思うだろうしね。

前川:笛美さんが「広告のなかに大人の女性のロールモデルがいない」って言ってましたけど、もっと私たち大人が、ちゃんと人生を謳歌してるよと表現して伝えていくべきなんでしょうね。

笛美:あとは、私も裕奈さんも海外に出ることで得た気づきがありますよね。私の場合は、海外に出て初めて、日本で抱えていた悩みは絶対的なものじゃないんだとわかったところがあるんですよね。「女性は愛されなきゃいけない」「30歳までに結婚しなきゃいけない」とかの考えが、実は日本だけのものなんだって。

前川:視野が広がりますよね。

笛美:別に海外が正しいとは思わないけど、 “違う場所に行く経験”が、すごくいいんだろうなと思います。もしも自分の今いる場所で違和感があるなら、海外に限らずいろんな環境を試していい時代だと思うし、私自身はそうしていきたいなって思います。

前川:おっしゃる通り、私も海外に行くことが正解とは思わないですが、日本の「であるべき論」から物理的に離れられる利点はありますよね。私がブランドを立ち上げたスリランカはまだまだ途上国で不便なこともいっぱいあるけれど、少なくとも私の中にあった「細いのが正義」とか「色白がモテる」みたいな価値観は一切聞かない。日本の良さも含めて、自分の環境を俯瞰視できるのが、外に出る魅力かなとは思いますね。

笛美:そうですね。

前川:今はインターネットで、外との世界とのつながりを簡単に持てるからいいですよね。いろいろな国の発信を見たり聞いたりして、日本の狭い範囲での「であるべき論」にとらわれない価値観を身につけてほしいと思います。

社会を“動かす力”は誰にあるのか

前川:根深い問題に立ち向かうなかで、笛美さんの「#検察庁法改正案に抗議します」のTwitterデモには勇気づけられました。ルッキズムを考えたときに、今後同じように大きな波で社会を動かすことができるんだろうかって、笛美さんに聞いてみたかったんです。

笛美:どうなんだろう。たしかに一度ああいう大きなムーブメントが起きると、またできるんじゃないかって気持ちが私の中にもずっとあります。最近はTwitter(現X)だけでなくInstagramやtiktokにも注力しているんですけど、実際に100万回再生を連発したり、自分が応援していた人が当選したり、ちゃんと手応えもあるんですよね。手を変え品を変え、どうすればムーブメントが起きるのかを、ずっとSNS上で研究をしてきたつもりなんです。

前川:すごいですよね。いろいろなSNSをひとりで試しながら反応を見ていて。「これは感触がいい」「これは違う」みたいなトライアンドエラーを、ずっと実験している。

笛美:いろいろな素材や出し方でパフォーマンスを見るのは、デジタル広告のノウハウを使っています。本当はもっといいやり方があるのかもしれませんが。

前川:地道にトライアンドエラーを繰り返すって、仕事だったらできると思うんですけど、プライベートの時間を使ってやってらっしゃるのがすごいなと尊敬です。

笛美:たぶん私も前川さんと似てて、結構ハマり性なのかもしれません。今まで誰も広告業界のノウハウを社会問題に取り入れてこなかったんだとしたら、やってみたらどうなるのか見てみたくなっちゃったんだと思います。

前川:今のところ手応えを感じているのは、どんなところですか?

笛美:かつては、すごく有名な人やパワーのある人が1人いればどうにかなるんじゃないかと思っていました。でも今では、あまり関心のなかったたくさんの人たちが、ほんの少しでも動いた瞬間が一番変わるんじゃないかと考えています。ただ、彼らにどうやって動いてもらうかはまだわからないんですよね。単純に時間やお金をかければいいわけではないから、そこに面白さも難しさもありますね。

前川:アンテナを張ってない人に届けてこそ、本当の変化が生まれますよね。ルッキズムの問題も共感してくれる人はまだ限られているので、さまざまな人に自分ごととして捉えてもらえるように発信をがんばっていきます!今回はありがとうございました!

プロフィール

笛美さん

広告業界で働くかたわらSNSでフェミニズムや社会問題について発信。著書に「ぜんぶ運命だったんかい おじさん社会と女子の一生」(亜紀書房)がある。2020年に旧Twitterで480万回ツイートされた「#検察庁法改正案に抗議します」仕掛け人。

前川裕奈さん

慶應義塾大学法学部卒。民間企業に勤務後、早稲田大学大学院にて国際関係学の修士号を取得。 独立行政法人JICAでの仕事を通してスリランカに出会う。後に外務省の専門調査員としてスリランカに駐在。2019年8月にセルフラブをテーマとした、フィットネスウェアブランド「kelluna.」を起業し代表に就任。ブランドを通して、日本のルッキズム問題を発信。現在は、日本とスリランカを行き来しながらkelluna.を運営するほか、「ジェンダー」「ルッキズム」などについて企業や学校などで講演を行う。著書に『そのカワイイは誰のため? ルッキズムをやっつけたくてスリランカで起業した話』(イカロス出版)。yoga jouranal onlineコラム「ルッキズムひとり語り」。

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AUTHOR

ウィルソン麻菜

ウィルソン麻菜

「物の向こうにいる人」を伝えるライター。物の生まれた背景を伝えることが、使う人も作る人も幸せにすると信じて、作り手を中心に取材・執筆をおこなう。学生時代から国際協力に興味を持ち、サンフランシスコにて民俗学やセクシャルマイノリティについて学ぶなかで多様性について考えるようになる。現在は、アメリカ人の夫とともに2人の子どもを育てながら、「ルッキズム」「ジェンダー格差」を始めとした社会問題を次世代に残さないための発信にも取り組む。



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