〈対談〉しゃべるっきずむ!フィットネスをめぐる“体型”の話|前川裕奈さん×mikikoさん(1)

 〈対談〉しゃべるっきずむ!フィットネスをめぐる“体型”の話|前川裕奈さん×mikikoさん(1)

容姿で人を判断したり、揶揄したりする「ルッキズム(外見至上主義)」。言葉の認知が進む一方で、まだまだ理解されていない概念でもあります。「ルッキズムってなんなの?」「これもルッキズム?」など、まずはいろいろしゃべってみよう!自身もルッキズムに苦しめられた経験を持ち、Yoga Journal Onlineでも「ルッキズムひとり語り」を執筆する前川裕奈さんとゲストが語り合う連載が「しゃべるっきずむ!」です。第9回は、ニュージーランドを拠点にパーソナルトレーナーとして働くmikikoさんと「運動とルッキズム」について、おしゃべりしました。

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思わぬ形での、フィットネスとの出会い

裕奈:mikikoさんはニュージーランドで現地の方々を中心にフィットネスを教えているんですよね。それと並行して、日本の方々に向けて「フィットネス」を切り口に、体型の話やルッキズム、ジェンダーの問題まで幅広く発信をしているのが印象的です。

mikiko:私は20代でニュージーランドに来たので、それまではずっと日本で運動と付き合ってきたんですね。それで海外のフィットネスについて学ぶうちに、日本でやってきた運動やダイエットと全然違う!という衝撃があったんです。フィットネスに関して、海外目線のことを日本語で発信する女性が少ないと感じていたので、noteやXで発信し始めました。

裕奈:私自身も日本のルッキズム問題を提起することを目的にフィットネスウェアのブランドを起業したのと、個人的にランニングやロードバイクなども生活の一部なので、mikikoさんの発信にとても共感します。

mikiko:ありがとうございます。裕奈さんはいつから運動を?

裕奈:私が運動を始めたのは大学2年生のときで、それまではまったく運動をしていませんでした。きっかけは失恋。当時は恋愛に全力すぎて趣味もなく、破局後に時間も有り余ってたこともあって走り始めました。そして、そこで人生初めてランニングをしたら、急激に痩せて。もともとぽっちゃりしていたから、どんどん体重が落ちていく快感で、悪い意味で運動にハマっちゃったんですよね。

mikiko:ああ……。

裕奈:1ヶ月で約10kgも痩せて、それが楽しくて楽しくてしょうがなくて。どんどん、”痩せるための運動”の虜になっていきましたね。社会人になってからも、どんなに仕事が多くても常にランニングと筋トレを続けていました。とにかく少しでも手を抜いたら太ってしまう恐怖心との戦いで……。運動すること自体は良いのですが、頻度が過度だった上に、なにより「極限まで痩せてみたい」と思い始めていたので、食事もしてなかったんですよね。強弱はありながらも、20代後半までそんな生活が続きました。

ハムスターのような、小さな女の子に憧れながら

mikiko:裕奈さんの話を聞いて、私と違う部分も似ている部分もあるなと感じました。私の場合は、家がスポーツ一家。父が剣道の先生をしていたので、姉たちと一緒に5歳から運動を始めています。段を取ったり全国大会に行ったり、男の子の中にまじってずっと剣道していました。バスケやテニスもしていましたね。

裕奈:たしかに、スタートは正反対。おもしろいですね。

mikiko:ただ、私もずっと体型へのコンプレックスはあったんですよね。やっぱりスポーツをしているとガタイがよくなるので、ハムスターみたいな、小さくてかわいい女の子に憧れていました。でも、自分にはスポーツがあるし、それが取り柄だからしょうがないって思ってるような10代でしたね。

裕奈:運動をしている側にもコンプレックスがあるんですよね。

mikiko:そうですね。そのままプロのテニス選手になるために体育の名門大学に進んだんですけど、1年目で進路を変えて、スポーツを辞めたんですよ。プロになりたいわけじゃない、と気が付いてしまったというか。そこで「スポーツだけだった取り柄がなくなっちゃった」という挫折だけならね、よかったんですけど……。

裕奈:そこで止まらなかった?

Lサイズの服が、どうしても許せなかった

mikiko:運動を辞めたら、アスリート体型が緩んでくるんですよね。体型が変化したときに、例えば「こんな大根みたいな脚を見せて恥ずかしい」みたいな、いろんなところで聞いていたルッキズムの言葉を自分に投げるようになっちゃったんです。摂食障害を発症して、毎日食べてはトイレで吐くという生活を、2ヶ月ぐらい続けてました。

裕奈:ああ……。これまでは「運動」という強味があったけれど、なくなったときに「痩せなきゃ」と思ってしまった、みたいな?

mikiko:そうです。当時は洋服のLサイズしか着れないのが、どうしても許せなくて。試着室でガッカリするたびに「痩せたら洋服選びが楽になるのに」「もっとファッションを楽しめたらいいのにな」と、Mサイズを目指していましたね。

裕奈:日本はサイズ展開が少ないですからねえ。

mikiko:結局、そんな生活をしててもガリガリにはならなかったんですけどね。当時は食事は1日1食にしたり、筋肉つかないように運動を辞めたり。なるべく水も飲まないみたいな感じで、どんどん減らしていく方向になってました。

裕奈:わかります。私も摂食障害のときは、むくむのが嫌で水を飲んでませんでした。今じゃ1日3リットルは余裕なのに、数滴すら敵に思ってた。体重を減らしたくて、下剤とかもめっちゃ飲んでましたし。今振り返ると、本当に身体に悪い……。運動が幼少期に身近にあったmikikoさん、成人してから始めた私、順序は逆ですが、いずれにせよコンプレックスと戦っていたのか...…生きづらっ!

mikiko:本当ですよね。

堂々とする女性たちは、美しい!

mikiko:それがやっぱりつらくて、あるときふと「こんなに自分を苦しめて、何をしてるんだろう」と思ったんですよね。それで、やってみたかったことをしてみよう!と思って、大学を休んでイギリスに旅行に行きました。そこで、初めて「自分は日本の美の基準にとらわれていたんだ」と気がつくことができたんです。

裕奈:わかる!外からの刺激で気づけるものって多い。私も、アメリカ留学や、仕事でインドやスリランカに行ったことで、容姿や運動そのものの捉え方が大きく変わった経験があります。mikikoさんは、その後のオーストラリアでの経験も大きかったのかな?

mikiko:そうそう。オーストラリアに留学して、現地のフィットネスジムの手伝いなどをするなかで「いろいろな正解がある」ということを実感しました。体型はもちろん、髪の色やファッションまで本当にさまざまで、みんなが堂々としてて。体型に限らず、肌やボディラインを出してる人ってかっこいいなとか、自信って体型と関係ないんだなとか。自分よりもふくよかな人たちが、自信たっぷりに肌を出したりできることが衝撃で、改めてフィットネスにのめり込んでいきました。

裕奈:その気づき、私もまったく同じです。スリランカの伝統衣装のサリーは、お腹や腕が結構出るんですね。やっぱりさまざまな体型の人たちが自信を持って肌を出して、自撮りして、SNSに載せまくるのを見て、「自信こそ美しさだな」と思いました。自分よりふくよかな方もですが、逆にとても細い方も含め、みんなキラキラだった。自信を持った女性たちとの出会いが、お互いターニングポイントになっていたんですね。

mikiko:本当ですね。当時の私は、Lサイズしか入らない自分は大きすぎて醜いとまで思っていたんですけど、彼女たちを見て美しさはサイズじゃないと気付かされました。

裕奈:ですよね。私たちはふたりとも海外に行って初めて気付きがあったけれど、「海外に出なきゃ呪いは解けないのか?」と言うと、必ずしもそうじゃないとも思ってます。日本国内やインターネット上でもそういう出会いはできるはずだし、もっとそういう日本にしていくためにも活動をがんばりたいなと思います。

*次回、運動がつらいのはなぜだろう。2本目「私にとっての『いいフィットネス』とは」は、こちらから。

 

mikikoさん

ニュージーランド公認パーソナルトレーナー。栄養・睡眠・行動心理など、運動だけにとらわれない視点の指導が特徴。。2017年よりフィットネス先進国のニュージーランドへ移住。世界各国からレッスンの依頼が殺到する、予約半年待ちのトレーナーに。過去には流行りのダイエット情報を追いかけて失敗し、摂食障害、20歳にして失明の危機に直面。この経験を活かして、現在は多くのダイエット迷子に向けた発信に力を入れている。著書「ニュージーランド式 24時間やせる身体をつくる ベストセルフダイエット」(Gakken)をはじめ、「ヨガジャーナルオンライン」での記事執筆、TVメディア出演など、各方面で活躍中。

前川裕奈さん

慶應義塾大学法学部卒。民間企業に勤務後、早稲田大学大学院にて国際関係学の修士号を取得。独立行政法人JICAでの仕事を通してスリランカに出会う。後に外務省の専門調査員としてスリランカに駐在。2019年8月にセルフラブをテーマとした、フィットネスウェアブランド「kelluna.」を起業し代表に就任。ブランドを通して、日本のルッキズム問題を発信。現在は、日本とスリランカを行き来しながらkelluna.を運営するほか、「ジェンダー」「ルッキズム」などについて企業や学校などで講演を行う。著書に『そのカワイイは誰のため?ルッキズムをやっつけたくてスリランカで起業した話』(イカロス出版)。yoga jouranal onlineコラム「ルッキズムひとり語り」

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ウィルソン麻菜

ウィルソン麻菜

「物の向こうにいる人」を伝えるライター。物の生まれた背景を伝えることが、使う人も作る人も幸せにすると信じて、作り手を中心に取材・執筆をおこなう。学生時代から国際協力に興味を持ち、サンフランシスコにて民俗学やセクシャルマイノリティについて学ぶなかで多様性について考えるようになる。現在は、アメリカ人の夫とともに2人の子どもを育てながら、「ルッキズム」「ジェンダー格差」を始めとした社会問題を次世代に残さないための発信にも取り組む。



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