しゃべるっきずむ! ハラスメントでも“対話の基本”は同じはず| 前川裕奈さん×武田砂鉄さん(1)
容姿で人を判断したり、揶揄したりする「ルッキズム(外見至上主義)」。言葉の認知が進む一方で、まだまだ理解されていないルッキズムについて、おしゃべりしてみよう!自身もルッキズムに苦しめられた経験を持ち、Yoga Journal Onlineで「ルッキズムひとり語り」を執筆する前川裕奈さんとゲストが語り合う連載が「しゃべるっきずむ!」です。
第15回は、ライター・ラジオパーソナリティとして活躍する武田砂鉄さんをゲストに迎え、ルッキズムについて考えていきます。ルッキズムに声を上げるのは女性が多いのはなぜ? アイドルに「ビジュ最高」と言うのはルッキズム? などなど気になる話題が盛りだくさんの3本立てです。
男性は「ルッキズム」が気にならないのだろうか
前川:砂鉄さんは、日本のジェンダーギャップをご自身の視点で切り取った『マチズモを削り取れ』などのご著書を始めとしたさまざまな場面で、フェミニズムの発信をされてきています。ただ、以前「男性がフェミニズムについて考えただけで注目されるのは……」と書かれていたこともありましたね。
武田:『マチズモを削り取れ』の出版後、インタビューなどで「よくぞ言ってくれました」と褒められたり、「なぜ男性なのにフェミニズムについて書いたんですか」などと聞かれたりすることに違和感がありました。男性がジェンダーの問題について発信すると、あたかも女性に許可を取ったり寄り添ったりしていると思われがちですが、僕からすれば、男性優位社会について書くことは、むしろ目の前、もしくは自分の中にあるものを書くことだったんです。だから別に特別なことではなかったし、特別視されるのが不思議ではありました。

前川:でも、やっぱり男女の二項対立になりがちな話題で、男性側から声を上げてくれる人がいるのは、「みんな」の問題に変えていくことになっていいなと思います。その上で、疑問なのが、どうして目の前で起きていることなのに発信する男性が増えないのかなって。ルッキズムに関しても疑問を持ったり声を上げたりする人の割合は女性のほうが多く、この連載のゲストも男性を探すのが難しかったんです。本来は男女関係なく影響があるものなので、どうすれば男性も含めて話していける社会になるのか、お話ししてみたいと思っていました。
武田:男性は別にそれを深刻に考えなくても、朝起きてから夜寝るまでひとまずよろしくやってられる、というところはあると思うんですよね。もちろん男性もルッキズムに晒されることはありますが、そこまで生活に及んでこないというか、生活が崩れるレベルまで侵入してこない。前川さんが経験されたような、拒食や過食といったところまで影響が出てくるのは、男性でもゼロではないんだろうけど少ないですよね。
前川:この社会で女性の価値がビジュアルと強く結びついているからこそ、女性たちの人生に影響を与えやすい、ということなんですね、きっと。
武田:そうですね。やっぱりそこに男女差はあるんだろうなとは思いますよね。
前川:男性も無関係ではないのになあ……。
好戦的であれば、話し合わずに済んでしまう
武田:ルッキズムやフェミニズムについての問題で、その問題を起こしているのが男性に多いという話をすると、なぜか「自分たちのことを悪く言うな」みたいなことになってしまいますよね。例えば、「駅でぶつかってくる男の人がいて……」みたいな話をしているのに、「いや、女の人でもぶつかる人はいるよ」という風に。こっちは、ぶつかってくる男の人の話をしているだけで、別にあなたのことを言ってるわけじゃないんだけど……みたいな。
前川:男性全員が主語になってしまうこと、確かにありますね。ルッキズムの文脈でも、例えば「クラスでランキングをつけられて嫌だった」という話をするだけで、「でも女子だって男性をスペックで見ているじゃないか」みたいな返答になる。それは両方とも実際に起きているけれど、別々のこと。言い合っていてもルッキズムはなくならないし、結局は「男VS女」の二項対立になって解決しないですよね。
武田:そういう風にしておけば、“変わらなくて済む”というのが、意識的・無意識的に関わらずあるんじゃないですかね。対立状態にしておくと、男が勝ちます。基本的な社会の仕組みからして男性のほうが権力を持っていることが多いので、好戦的でいれば、だいたいは現状維持できてしまうんですよ。
前川:なるほど。
武田:話し合いをすると、いろいろ妥協や変化を考えなくちゃいけないし、なかなか結論も出せないからめんどくさい。だったら、“そういうこと”にしておこう、と現状維持しておきたい。そういうことが、今の社会は本当に多いですよね。
前川:今の自分の生活でそこまで困っていないのであれば、あえて変えていく必要はないですもんね。
武田:そうですね。
対話の基本を、なぜか豪快に怠ろうとする人たち
武田:テレビ業界などを見ていても、ルッキズムだけでなく全てのハラスメントにおいて「本当はまだあの感じでいきたいよ」という意識が残っているのを感じます。「最近はまずいらしい」と思っているけど、それは別に問題自体を考えているわけじゃない。世間で問題とされるのが嫌だから、取扱説明書をちょうだいよっていうくらいで、あんまり真剣に考えてないと思うんです。
前川:本質を捉えていないから、本当には改善しないという……。

武田:やっぱりメディアの影響力ってまだまだ大きいと思うんですよね。僕は昔からテレビを見るのが好きだったんですけど、かつて男性MCがアイドルをいじる描写の歌番組が多くて。例えば、ひとりに「かわいいね」と繰り返し言った後に、別の年上のメンバーを冷遇するような場面、ありましたよね。ああいうのを大量に浴びていたら、当然学校や職場などの日常にも移行していきます。
前川:最近、昔の某歌番組の切り抜き動画がSNSで流れてきて、そこでもやっぱりアイドルに対して「うわっ太ったな〜!」みたいないじりをしていたんです。ただ、その投稿に「今じゃありえない。当時は大丈夫だったの?」みたいなコメントがついていたのは、希望があるなと思いました。
武田:確かに、以前に比べれば濃度は薄まってきたかもしれません。ただ、隙あらばあの感じに戻りたいと思っている人が、業界にはたくさんいるんだろうなと、さまざまな番組を見ていて感じますね。
前川:ハラスメントの本質を咀嚼できていない人は「おもしろかったのに、今は何を言ってもNGで、エンタメが取り上げられてしまった」と思うでしょうね。私も飲み会などで「裕奈がいるときは、発言気をつけないと怒られる!(笑)」と言われるんですけど、それは「なぜその発言が怒られるのか」を理解していないからだと思うんです。「気にしすぎて天気の話しかもうできないご時世」なんて言葉もよく聞きますが、そう言っている時点で考えようとしてないじゃん!って思っちゃうんですよ。
武田:「相手との関係性を考えながら話をする」って対話の基本だと思うんですけど、ハラスメントの文脈になった途端に、なぜか豪快に怠ろうとしますよね。しかも「あの人とは天気の話しかできないよ〜」と言われてしまうと、対話を拒んでいるのはこちら側のように見える。こっちが圧倒的に不利になるんです。
「面倒臭いもの」にすれば、考えなくて済む
前川:最近は、「ブス」など明らかな容姿ディスはNGだと周知されていますけど、「美人は得だね」「かわいい子がいると場が華やぐ」などの、いわゆる“褒め言葉”と思っているものもルッキズムになる場合がある。そう話すと「もう何も言えないじゃん〜」と対話を放棄されてしまいますね。
武田:褒め言葉でもなんでも、相手との関係性やシチュエーションによって変わってくるんですけどね。実際、みんなそれを都度考えながら、家庭や職場でコミュニケーションを取っているはず。それがハラスメントのことになると急に「マニュアルを……」みたいになる。
前川:“わかりやすさ”を求めている人はいますね。ルッキズムの話をしているときも「これはいいの?」「こういう場合は?」と、わかりやすい答えを求められることが多いです。でも、それは砂鉄さんがおっしゃるように、相手との関係性や状況によるので……。
武田:考えずに済むためには、考えている人たちのことを「面倒臭いやつら」ってことにするのが一番早いんですよね。面倒臭いものだってことにすれば、考えなくていいわけで、それはルッキズムやフェミニズムについての問題においては顕著にそうなっているんじゃないかなと思いますよね。
前川:本当にそうですね……。
*次回、アイドルや芸能人のSNSに残る「ビジュ最高!」のコメントをルッキズムの文脈で考えます。2本目「アイドルがルッキズムに晒されるのは“しょうがない”のか」は、こちらから。
Profile

武田砂鉄さん
1982年、東京都生まれ。出版社勤務を経て、2014年からフリーライターに。著書に『紋切型社会』(朝日出版社、2015年)、『コンプレックス文化論』(文藝春秋、2017年)、『わかりやすさの罪』(小社、2020年)、『偉い人ほどすぐ逃げる』(文藝春秋、2021年)、『マチズモを削り取れ』(集英社、2021年)、『べつに怒ってない』(筑摩書房、2022年)、『今日拾った言葉たち』(暮しの手帖社、2022年)、『父ではありませんが 第三者として考える』(集英社、2023年)、『なんかいやな感じ』(講談社、2023年)、『テレビ磁石』(光文社、2024年)など多数。新聞への寄稿や、週刊誌、文芸誌、ファッション誌など幅広いメディアで連載を多数執筆するほか、ラジオ番組のパーソナリティとしても活躍している。
前川裕奈さん
慶應義塾大学法学部卒。民間企業に勤務後、早稲田大学大学院にて国際関係学の修士号を取得。独立行政法人JICAでの仕事を通してスリランカに出会う。後に外務省の専門調査員としてスリランカに駐在。2019年8月にセルフラブをテーマとした、フィットネスウェアブランド「kelluna.」を起業し代表に就任。ブランドを通して、日本のルッキズム問題を発信。現在は、日本とスリランカを行き来しながらkelluna.を運営するほか、「ジェンダー」「ルッキズム」などについて企業や学校などで講演を行う。著書に『そのカワイイは誰のため?ルッキズムをやっつけたくてスリランカで起業した話』(イカロス出版)。yoga jouranal onlineコラム「ルッキズムひとり語り」。
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