SNSや飲み会の日常のなかで、正解のないルッキズムを考え続ける|前川裕奈さん×清田隆之さん(2)
容姿で人を判断したり、揶揄したりする「ルッキズム(外見至上主義)」。言葉の認知が進む一方で、まだまだ理解されていないルッキズムについて、おしゃべりしてみよう!自身もルッキズムに苦しめられた経験を持ち、Yoga Journal Onlineで「ルッキズムひとり語り」を執筆する前川裕奈さんとゲストが語り合う連載が「しゃべるっきずむ!」です。
第14回目は、文筆家で「桃山商事」代表の清田隆之さんをゲストにお迎えしました。恋愛相談から広がって世の中のジェンダー問題や男らしさについて考え続ける清田さんと、改めてルッキズムについておしゃべりしました。2本目は、飲み会やSNSで見かけるルッキズム発言を前にしたときの揺らぎを考えるお話です。
「ルッキズムなくそうぜ」と手をつなげない理由
前川:前回の記事で清田さんが「ルッキズムに囚われていません」というのをなんだか“嘘くさい”と感じると言っていたのは、まさに多くの人が感じているだろうなと思います。というのも、ルッキズムについて発信していると「とはいえ、あなたも減量してる時期あるじゃん」という人が一定数いるんですよね。趣味であるマラソンの大会前は良い結果を出すため絞ることもあるし、練習をすれば勝手に痩せることもあります。私は、あくまでも“自分のため”に痩せるのはルッキズムではないというスタンスなんですが……。
清田:インターネットの世界は、とにかく「矛盾をついてやろう」みたいな人が多いですもんね……。「ルッキズムやめようと言うなら、まずはお前が見た目のこだわり全部捨てろ」みたいな。
前川:そう、「二度と化粧すんなよ」みたいな(笑)

清田:多くの人がルッキズムに晒されて傷ついているはずで、「見た目でジャッジされる社会なんて、なくそうぜ!」と手をつなげそうな感じなのに……。
前川:いろいろ要因はあると思いますが、やっぱりルッキズムをしている側はそれを“楽しんでいる”という側面があるのかな。クラスでランキングをつけたり、飲み会の席でいじったりするのは、それを面白いと思う人が一定数いる以上はなくならない気がします。ちなみに、清田さんは飲み会などで露骨なルッキズム発言に出くわしたとき、どうされてますか?
飲み会でのルッキズム、止められますか?
清田:飲み会のルッキズム発言……嫌な場面ですよね。もっとも、自分にも同様の発言をしてしまった過去があるので、「何を偉そうに」「お前だってさんざんしてたじゃねえか」というブーメランが突き刺さってくる部分は正直あります。うーん、どうだろう。例えば誰かが誰かに直接ルッキズム発言をぶつけているような場面だったら、なんらかの介入はすべきだと思っていますが、その場に直接の被害者になる人はいなくて、抽象的なルッキズムの話で盛り上がっているような状況が一番悩むかもしれない。
前川:その場に被害者がいなくても「容姿の話をしてOK」という空気を作ってしまうとわかっていつつ、止められるかと言えば難しいですね。
清田:その話題に乗らず、全身で「うわー」って感じを醸し出すことはできると思うんです。でも、いくら否定的な空気を出しても、「清田はそっち系の人だもんな」みたいにキャラで処理されてしまうことも正直あります。ルッキズムの芽はできるだけ摘んでいきたいと思う一方、どこまでできているか自信ない部分もあって……。

前川:本当は「こういうのってダメなんだ」と気付くやりとりができればいいんですが、そこまで深い話をするのってかなりハードルが高い気がします。いくつか瞬時に切り返せるフレーズを持っておくといいのかもしれません。
清田:それで言うと、例えば韓国の『私たちにはことばが必要だ フェミニストは黙らない(イ・ミンギョン著)』という本には、場面ごとの実践的な切り返し方法が紹介されていますよね。自分のなかにもそういう方法論はいくつかあって、例えば自分より立場が上の人に対して「○○さんってそういうこと言わなきゃ最高にかっこいい先輩なのに、残念だな〜」みたいな、“残念がる”という手法は結構使えます(笑)。
前川:それはいいかも!相手との関係性や自分のキャラクターによって、自分なりの返し方を見つけられるといいですね。
清田:ただ……単に「傍観者にならないために言ってるだけじゃないか」「俺は言ったよという自己満足ではないか」みたいな葛藤も正直あって。もちろんそういう気持ちだとしても、言うべきことは言ったほうがいいわけですが、自意識過剰になりすぎて何も言えなくなったりすることも多々あります。
前川:ああ……。
清田:目の前の問題に対峙していくことが大事である一方で、ルッキズムは大きな構造の問題でもあるので、場当たり的なモグラ叩きみたいになってしまわないのかな……という思いもあって、そこも難しい問題だなって感じます。
前川:自分の周りが生きやすく整っても、ふと外を見た時には状況は変わっていないことがありますよね。本当に構造が変わらない限りは。
私たちはなぜ、見た目の話をしてしまうんだろう
——おふたりにもう少し抽象的な「なぜ、私たちはルッキズム的な発言をしてしまうんだろう」ということについても聞いてみたいなと思っていました。
清田:確かに、何で言っちゃうんでしょうね。
前川:ごはんを食べておいしい、みたいな感覚で刷り込まれちゃってるのかなと思います。日本では、ほとんどの人が親からも友人からも見た目について言われながら育ちますよね。当たり前になりすぎて、違和感を持つことすらできない。

清田:そうですよね。
前川:ルッキズムについて考え続けている私ですら、気をつけないと出てしまうこともあるくらいなので、一般的にはもう息をするぐらいの感覚なんだろうなと思っています。
清田:「政治や宗教の話はタブー」と同じレベルで「外見の話はタブー」という感覚になれば違うのかもしれないですね。以前よりはそういう感覚が広まってるとは思うんですけど。
前川:少しずつ、変化は感じますね。ただ、その中で「外見の話はタブー」=「もう何も話せないじゃん」と息苦しさを感じる人も一定数いるのも事実。本来は「外見の話は一切するな」というわけではなく、相手との関係性や場面に応じて明確な答えがないからこそ、自分自身で「考え続ける」ことが大事ですよね。
清田:でも、なんだろう。なんとなく「本能」みたいに位置付けられちゃってるところもありますよね。「みんなおいしいもの食べたいでしょ」みたいな感じで、「みんな見た目が気になるし、見た目の話がしたくなるもの」という前提が強固に存在しているような気もして。
前川:前回、私たちが話した「好み」の話も近いものがありますよね。
そのうち「化粧しないやつは怠慢」になっていく
清田:例えばSNSの世界なんかでは、ルッキズムと資本主義が結びつき、より強固になっているような印象すらありますよね。例えば自分のタイムラインにもメイク動画がよく流れてきます。最近は「自分のためにやるもの」といった価値観が共有されるようになって、それ自体は本当にその通りだと思うんですけど、広告にも利用されてしまっている感じがします。「これからは自分で自分を愛するためにメイクしましょう」って、いろんな感情を煽って商品を買うように仕向けていくっていう……資本主義の恐ろしさを感じます。
前川:今は男性のメイクも一般的になりましたよね。以前、年上の男性が「メイクに憧れがあったけれど試供品を触ることすらタブーに感じてしまっていたから、今はその点では生きやすくなった」と話していました。そういうふうに生きやすくなった方がいる一方で、男性の新たな生きづらさも生まれてくるのかなと思っているんですよね。女性がずっと悩んできた化粧にまつわる問題が、今後は男性たちにも課されていく、みたいな。
清田:それはありそうですね。男性のメイク動画は自分もめっちゃ見ちゃうし、メンズコスメ・スキンケアの商品も増えています。今はまだ「男性が化粧してもいいよね」みたいなフェーズかもしれませんが、これがだんだんと「男性も化粧しないとね」になり、そのうち「化粧してないやつは怠慢」って、個人の努力や能力と結び付けられる流れになっていくような気も……。すでに若い世代はそうなっているのかもしれません。

前川:資本主義では市場を広げていかないと売上が伸びないですもんね。そのうち、小さな子どももメイクしましょう!みたいな世界になっていくんじゃないかと思うと怖いです。実際、キッズ脱毛なども低年齢化していますし。
清田:とは言え、自分のなかにも「汚いおじさんになるのが怖い」という思いがずっとあって、立派な中年世代となった今、その気持ちはさらに強くなっている部分も正直ある。実際にスキンケアグッズを買い集めるようになったのですが、その根底にあるのはルッキズムなのかな……とも思ったり。つくづく難しい問題ですよね。
前川:正直、私もこんなにルッキズムのことを言っているけど、「しわを増やしたくない」とか思います。これは資本社会に踊らされているだけなのかな……。ルッキズムには正解がなくていつも頭を悩ませていたんですが、清田さんも「難しい」と言ってくださると「やっぱり難しいよね」と少し安心します(笑)。考えれば考えるほど、わからなくなってくるのですが、ルッキズム談義、もう少しお付き合いください。
*次回、人の容姿やコンプレックスに“口を出す”のは、大谷翔平に野球を教えるのと同じ。3本目「『私たちはみんな傷ついてきた』。人の外見について話すときに思い出したいこと」は、こちらから。
清田隆之さん
文筆業、桃山商事代表。早稲田大学第一文学部卒業。ジェンダー、恋愛、人間関係、カルチャーなどをテーマに様々な媒体で執筆。朝日新聞beの人生相談「悩みのるつぼ」では回答者を務める。著書に『よかれと思ってやったのに』『さよなら、俺たち』『自慢話でも武勇伝でもない「一般男性」の話から見えた生きづらさと男らしさのこと』『おしゃべりから始める私たちのジェンダー入門』『戻れないけど、生きるのだ 男らしさのゆくえ』など。女子美術大学非常勤講師。Podcast番組「桃山商事」も定期配信中。
前川裕奈さん
慶應義塾大学法学部卒。民間企業に勤務後、早稲田大学大学院にて国際関係学の修士号を取得。独立行政法人JICAでの仕事を通してスリランカに出会う。後に外務省の専門調査員としてスリランカに駐在。2019年8月にセルフラブをテーマとした、フィットネスウェアブランド「kelluna.」を起業し代表に就任。ブランドを通して、日本のルッキズム問題を発信。現在は、日本とスリランカを行き来しながらkelluna.を運営するほか、「ジェンダー」「ルッキズム」などについて企業や学校などで講演を行う。著書に『そのカワイイは誰のため?ルッキズムをやっつけたくてスリランカで起業した話』(イカロス出版)。yoga jouranal onlineコラム「ルッキズムひとり語り」。
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