私たちは傷ついてきた。外見について話すときに思い出したいこと|前川裕奈さん×清田隆之さん(3)
容姿で人を判断したり、揶揄したりする「ルッキズム(外見至上主義)」。言葉の認知が進む一方で、まだまだ理解されていないルッキズムについて、おしゃべりしてみよう!自身もルッキズムに苦しめられた経験を持ち、Yoga Journal Onlineで「ルッキズムひとり語り」を執筆する前川裕奈さんとゲストが語り合う連載が「しゃべるっきずむ!」です。
第14回目は、文筆家で「桃山商事」代表の清田隆之さんをゲストにお迎えしました。恋愛相談から広がって世の中のジェンダー問題や男らしさについて考え続ける清田さんと、改めてルッキズムについておしゃべりしました。3本目は、ルッキズム対策をルール化するのではなく、もっともっと根本を考えていくお話です。
大谷翔平に野球を教えるくらい、恥ずかしいこと
——前々回、前回と対談を聞きながら、おふたりとも元はルッキズムの呪いにかかっていたところから、今はこうやって発信する側になっているんだと感じました。今、ルッキズムが当たり前になっている人たちが、どうすれば改めて「これっていいんだっけ?」と思えるようになるのか、伺ってみたいです。
清田:まだまだバキバキに囚われてると思うし、「自分はアップデートした側ですよ」みたいなスタンスは絶対に取れないわけですが……ただ思うのは、外見の問題って本人が一番よく知っているし、その人その人の積み重ねてきた時間があるわけですよね。だから、「それを外野がわかるわけがない」という大前提を持つことが大事ではないかと考えていて。
前川:というと?
清田:例えば、桃山商事の女性メンバーであるワッコさんは身長が177センチあって、「背が高い」と言われ続ける日々を送ってきている。思春期からそういう目線にさらされ続けてきて、驚かれるにしろ褒められるにしろ、正直うんざりしている部分があるはずなんです。
前川:まさにポッドキャストでもその話されていましたよね。たしかにコンプレックスを気にして生きてきた当人が、一番そのことについて考えてきていますね。
清田:そういう歴史の積み重ねがある中で、ぽっと出の外野が口出すことが、どれだけ愚かな行為なのか……。そんなの、例えば大谷翔平に野球のアドバイスをするようなもんですよ。外見にまつわるジャッジやアドバイスがいかに恥ずかしいことであるかを、我々は常に意識しておかないとすぐに忘れてしまう。

前川:本当にそうですよね。いまだに私の体型についていろいろ言ってくる人がいますけど、まずは「そのカワ」を読んで私の痛みや気づきを追体験してから言って、とは思います。
清田:ですよね。幼少期に体型をバカにされるようなあだ名をつけられるなど、外見にまつわる傷やコンプレックスを抱えながら、前川さんは自己形成をしてきた。他人が思いつくことなんて前川さん本人がとうの昔に考えているはずで……人の外見に対して口を出すことがいかに愚かかを理解すべきですよね。
さまざまな形で、傷を負ってきた人たちがいる
前川:たしかに、これまで「しゃべるっきずむ!」を通して本当に多様な方々とお話ししてきて、ルッキズムと無縁という人はいなかったんです。それぞれ傷ついてきた歴史みたいなものがあったように思います。
清田:ルッキズムの傷って、きっと直接的に言われる経験だけじゃないですよね。例えば外見的に褒められやすい友達がいたとして、その人の隣で“ないもの”として扱われて傷つく……みたいなことだってあるでしょうし。
前川:ああ、そういう経験で「自分はかわいくないんだ」と傷つくことはあると思います。
清田:かく言う自分も男子校時代は外見にしか興味を持てないマンだったため、相手によって明らかに態度が変わっていたらしいんですよ。というのも大学生のとき、男友達に「お前は好みの女子にしか興味を示さないな」「それはマジでやばいぞ」って叱られたことがありまして……。「男子校出身だからわかんないかもしれないけど、女子にもいろんな人間がいて、話すとその人のいろんな一面が見えてくる。お前は今、見た目でしか判断していなくて、それはとてもやばいことだぞ」って。
前川:言ってくれる友達、すごいですね。
清田:それはすごくハッとする経験で、めっちゃ恥ずかしかったのを覚えています。だから、当時の自分を知っていて、もしもこの記事を読んでくれている人がいたとしたら、「どの口が……」って感じるかもしれない。それは恥ずかしい過去として刻んでおかなきゃいけないなって思います。
前川:そこで誰かを傷つけてしまったという過去を。けど、清田さんはそういう経験でハッとさせられながら少しずつ考えを変えていったわけですね。

清田:先日、SNSでたまたま「顔整い」という言葉を見かけたんですね。その文脈では「顔だけたまたま整ってるけど中身が空っぽのやつ」というニュアンスで使われていたのですが、その言葉にそこはかとない怨念を感じ……ルッキズムの根深さを改めて痛感しました。
前川:みんな、このルッキズムだらけの世界で傷ついてきたからこそ、他人を攻撃してしまうのかもしれないですね。
人の外見について話すって、すごく繊細なこと
清田:そう考えると、ルッキズムは想像力の問題でもあるかもですね。あだ名をつけられたり、透明化されたり、いろいろな場面でつけられてきた傷に対する想像力を常に持つというか。なんだろう、触れてはならない領域に踏み込むことの恐怖やリスクがあるということは、常に意識しておいた方がいい気がします。
前川:その恐怖を持っておかないと、自分が恥をかいたり、人を傷つける可能性がありますね。
清田:傷つけるし、失言しちゃうし、逆に褒めるという文脈でも出ちゃったりする。褒めてるつもりでルッキズム発言をするのも本当に怖いことですし……。
前川:そうですね。「目が大きいね」「色が白いね」などの褒め言葉でのルッキズムは、悪気がない方が多いですから。
清田:それを「とりあえず外見のことは言わないほうがいい」とルール化して禁じるのももちろん大事だとは思うんですが、みんながめちゃめちゃセンシティブな一面を持ってるかもしれない、そういう部分に対する想像力は常に忘れないでおこう……という意識がより大事なのかなって。だから「怖くてコミュニケーションできない」みたいに言いますけど、それでいいんだよっていう。
前川:「天気の話しかできないじゃん」ってよく言われます(笑)。
清田:ちゃんと信頼関係が築けて、どうしても外見にまつわる話をせざるを得ない場面になったときに、恐る恐るセンシティブに話してみる……くらいの感じがちょうどいいのかもしれない。話すことがないなら、まずは天気の話をしながら関係を深めていくべし、とは思います。
前川:本当にそうですよね。大親友や信頼できるパートナーであれば、「今日可愛いね」とか積極的に褒めてもいい。何かの目標に向けて減量している、という背景や努力を知っているのであれば「痩せたね」とも言える場面だってある。一概に外見の話を払拭するというよりは、関係性や文脈を大事にしながら自分で考えることが大事ですね。清田さんがおっしゃるように、外見の話はそれぞれの傷があるセンシティブな話なんだと理解されていくのはすごく大切だと思いました。

「嫌だったよね」と話せる場が増えるといい
前川:私は、人がルッキズムに対して当事者意識を持つターニングポイントとしては、自分自身や大切な人が傷ついたり恥をかいたりすることだと思います。そのくらいのインパクトがないと、今の日本では麻痺して気付けないんじゃないかなと。清田さんがお友達から「やばいよ」と言われたように、嫌だけど傷ついたり叱られたりしながら「なんで怒られたんだろう、なんで傷つけちゃったんだろう」と立ち止まることは大事なんじゃないかと思うんですね。
清田:そうですね。
前川:そこで初めて「ルッキズム」というものを知ったり、本気で考え始めたりできる気がします。そう思うと、前回の記事で話した「飲み会でルッキズムに出会ったとき」に、できる限り相手に伝えることは、自分の証明だとしてもやっていきたいなと改めて思いました。
清田:メディアも含めた世の中で「これがいい/悪い」という価値基準があまりにできすぎていて、そういう基準にみんな傷つけられてきているわけですよね。そういう傷つきが反転してしまうと、攻撃的な気持ちにつながっていくこともあるのかもしれない。例えばビジュアル的に恵まれた人に対し、傷つけられてきた人間は、多少やり返す権利があるぐらいの感覚が「顔整い」という言葉の裏にあったような気がします。
前川:そうですよね。
清田:そこには苦しめられてるという事実も確かにあって、単純に「やめろよ」と言えばいいわけじゃないような……。だから、そういう見た目で苦しんだことをね、もっと語り合えるといいのかな。「みんな嫌だったよね」と話ができる場が増えるといいんだろうなと思いました。
前川:本当にそうだと思います。「しゃべるっきずむ!」も、そういう動きの一助を担えれば嬉しいです。清田さんとのお話は改めてルッキズムを考える良い機会でした。これからも、「難しい」と頭を抱えながらも考え続けましょう!ありがとうございました!
清田隆之さん
文筆業、桃山商事代表。早稲田大学第一文学部卒業。ジェンダー、恋愛、人間関係、カルチャーなどをテーマに様々な媒体で執筆。朝日新聞beの人生相談「悩みのるつぼ」では回答者を務める。著書に『よかれと思ってやったのに』『さよなら、俺たち』『自慢話でも武勇伝でもない「一般男性」の話から見えた生きづらさと男らしさのこと』『おしゃべりから始める私たちのジェンダー入門』『戻れないけど、生きるのだ 男らしさのゆくえ』など。女子美術大学非常勤講師。Podcast番組「桃山商事」も定期配信中。
前川裕奈さん
慶應義塾大学法学部卒。民間企業に勤務後、早稲田大学大学院にて国際関係学の修士号を取得。独立行政法人JICAでの仕事を通してスリランカに出会う。後に外務省の専門調査員としてスリランカに駐在。2019年8月にセルフラブをテーマとした、フィットネスウェアブランド「kelluna.」を起業し代表に就任。ブランドを通して、日本のルッキズム問題を発信。現在は、日本とスリランカを行き来しながらkelluna.を運営するほか、「ジェンダー」「ルッキズム」などについて企業や学校などで講演を行う。著書に『そのカワイイは誰のため?ルッキズムをやっつけたくてスリランカで起業した話』(イカロス出版)。yoga jouranal onlineコラム「ルッキズムひとり語り」。
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