“褒める”のもルッキズム?相手を傷つけない褒め方とは。 前川裕奈さん×アルテイシアさん(2)

 “褒める”のもルッキズム?相手を傷つけない褒め方とは。 前川裕奈さん×アルテイシアさん(2)

容姿で人を判断したり、揶揄したりする「ルッキズム(外見至上主義)」。言葉の認知が進む一方で、まだまだ理解されていない概念でもあります。「ルッキズムってなんなの?」「これもルッキズム?」など、まずはいろいろしゃべってみよう!自身もルッキズムに苦しめられた経験を持ち、Yoga Journal Onlineで「ルッキズムひとり語り」などを発信する前川裕奈さんとゲストが語り合う連載「しゃべるっきずむ!」がスタート。第一回は、フェミニズムについて多数著書を出版されている作家のアルテイシアさんとおしゃべりしました。

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「褒め」も呪いになるという罠

ーー前回、「軽い気持ちで言った言葉が呪いになる」という話を伺いました。そういった呪いを相手にかけないために、どういったコミュニケーションを取っていくべきなのか、おふたりにお聞きしたいです。

アルテイシア(以下、アル):外見をいじったり貶したりするのはNGというのは、じょじょに浸透してきましたよね。その上で、実は「褒める」のもルッキズムにつながることがあります。以前、スウェーデンの友人から「スウェーデンでは、人の見た目については褒め言葉でも口に出すのはマナー違反として浸透している」と聞きました。その友人は高校で教えてるんですが、日本からの留学生が「ナントカちゃん美人!スタイルいい!」と連発するのを聞いて、スウェーデンの生徒たちはドン引きしてるそうです。

前川裕奈(以下、前川):褒められた部分が相手にとって嬉しいとは限らないですよね。例えば、胸が大きくて悩んでいる子が「巨乳でいいよね」なんて言われたら、悪気はないとわかっていても傷つくわけです。あと「美人だからいいな」みたいなのも、本人の努力を無視して傷つける言葉になる可能性があります。

アル:「美人は得だよな」とか言われて、実力や努力を正当に評価されない場合もありますよね。私自身の反省として、昔は友達の赤ちゃんに対して「イケメン!」「美人!」と言っちゃってたんですよね。 本当に褒めたい気持ちで言っていたものの、赤ちゃんの時から見た目をジャッジする言葉はよくないなと思ってやめました。今は「天使!」とか「マーベラス!」とか言ってます。

前川:マーベラス、いいですね(笑)。外見を褒められることで「社会の求める美」に当てはめなければという気持ちも生まれますよね。例えば、私が過激なダイエットをしていた頃は「痩せたね!」と褒めてもらえることが快感でした。そして、それと同時に「痩せていれば認めてもらえる。だからもう太ってはいけないんだ」という意識を強めたのを覚えてます。

アル:助産師で性教育YouTuberとして活躍するシオリーヌちゃんも、摂食障害だった過去を振り返って「痩せたね、可愛いねという褒め言葉がプレッシャーになった」と書いてます。よかれと思った褒め言葉が、より体型や見た目への呪いになってしまうこともあるんですよね。

前川:すごくよくわかります。

アル:私が中年になって楽になったのは、痩せようが太ろうが別にちやほやされないところ(笑)。私の見た目に対して、周りが無関心になったことで、自分も容姿に囚われなくなりました。若い時は見た目ばかり注目されて、周りからもああだこうだとジャッジされる。そういう社会で生きていたら容姿コンプレックスにもなるよね、と思います。

前川:私も人を褒める時は「脚が細くなった」「輪郭がシュッとした」みたいな具体例をあまり出さないようにしています。英語で言う”You have positive vibes!” みたいな言葉がいいなと思ってて、「今日すごく素敵だね」と伝えたり。受け手が100%嬉しいと思えるような言葉遣いを心がけています。

kelluna.代表・前川裕奈さん

日本に染み付く“卑下文化”にも気づいてほしい

前川:あと、日本の「褒め文化」で気になっているのは“卑下”なんです。相手を褒めた時に「いやいや、クマやばすぎ」「マジ太ったから」みたいな返答があったりして、女性同士は特に、卑下し合うのがマナーみたいになっている気がします。そういう空気のなかで「今日の私かわいい」とは言いいにくいですから。

アル:自虐って海外ではドン引きされるんですよね。裕奈さんの本にも、アメリカで「(痩せていても)君はセクシーじゃない」と言われた描写がありましたけど、欧米だと堂々と自信を持つことがいいとされている。だから「私ブスだから」なんて言うと、真顔で「やめたほうがいいよ」と言われると聞きます。

前川:そうですね。

アル:日本社会では自信満々な女性は「女のくせに生意気」と叩かれるので、「いやいや私なんて全然ダメです」みたいな自虐癖が染み付いているんですよね。ジェンダーギャップ指数125位のヘルジャパンでは、本当に女性たちがインポスター症候群(自分の能力や実績を認められない状態)に陥っていると感じます。

前川:ルッキズムやセルフラブを発信している私ですら、意識していないと褒められた時に「いや全然」とか言っちゃいそうになります。日頃から卑下や自虐の文化が当たり前の人たちは、褒められて「ありがとう」と返すのも難しいと思います。

まずは大人たちから変えていく

前川:卑下文化で言うと、私は親や周りの大人が謙遜するのもやめたほうがいいと思ってます。誰かからの褒め言葉に対して親が「いやいや、この子そんなことないから」みたいに返すシーンを日本ではよく目にします。実際に、私の友人は親のそういった返答に傷ついて、親との接し方に悩んでいました。

アル:「うちの子なんて全然ダメよ」と否定された子どもはつらいですよね。

前川:そのような話をアメリカ人の友人に話したら、「もはや虐待」と真顔で言ってました。彼女の中では、公の場で子どもを褒めるのは親として当たり前だという認識があるんだと思います。日本の卑下文化を当たり前だと思って育った人は、自分の子どもにも同じ発言をしてしまうし、呪いが連鎖していくのがこわいなと思いました。

アル:そうですね。日本の家父長制のなかでは、子どもを親の所有物のように扱うことが普通になってますけど、子どもも1人の人間として尊重するべきですよね。「あなたと私は違う人」というバウンダリーを親子間でも大切にすべきです。コンプレックスって、社会や大人の責任だと思うんですよ。例えば、女友達は小学生の時に「肥満児クラブ」に入らされて、太ってる生徒だけ集められて体重を測って折れ線グラフを書かされたことが今でもトラウマになっているそうです。とんでもない人権侵害ですよね。

前川:ひどすぎる!

アル: 一方で、スウェーデン人の男性と話していると、妻や子どものことを褒めるんですよね。「本当に彼女は素晴らしい」とか「才能があるんだよ」とか。それを聞いた時、あまりにも自分の住んでる世界と違いすぎて、「ラピュタは本当にあったんだ……」みたいな気分になりました。

前川:その環境で育てられた子どもたちと、卑下されて育った子どもたちは、きっと全然見える世界が違うでしょうね。

アル:本当に。そういう社会では、子どもたちも摂食障害になりづらいんじゃないかなと思いますよね。もちろん10代の摂食障害はどこの国でも問題ですけど、そうならないように子どもを守ろう、という意識を感じます。

本来「褒める」は最強のビタミン剤

アル:やっぱり親や大人はちゃんと「あなたは素晴らしい」って子どもたちに伝えてほしいなと思いますね。ただでさえ生きづらい社会なんだから、周りの人が「褒め」を大事にして、ちょっとしたことでもどんどん褒めてほしいです。

前川:それがいいですね。褒め言葉は最強のビタミン剤だから、どんどん口にしてほしいと私も思います。それは「痩せたね」とかじゃなくて、もっと存在自体や努力を褒める言葉で。「大好きだよ」「ありがとう」などの前向きな言葉を積極的にかけることで、考え方も変わってくるのかなと思いますね。

アル:私は毒親育ちで、親には無視されたり貶されたりして育ってきたのですが、学校の女友達には恵まれていました。特に中高時代は、「文章が上手だね」「おもしろいね」と褒めてもらえるたびに、すごく嬉しかったのを覚えてます。そういうシスターフッド(女性同士の連帯)に支えられたことが、自分の根っこになっているなと感じます。

前川:わかります。私は、最終的には自分で自分を「最高」と言ってあげられることが大事だと思っているんですけど、そうなるまでの道のりで、やっぱり人からの褒め言葉は大切なエネルギーになると思います。

アル:『アルテイシアの大人の女子校』というコミュニティを主催するなかで、「褒め会」というのをやってるんですよ。お互いのいいところをどんどん言っていく会。そうすると「私、こんなにいいところあるんだ」と自己肯定感が上がるし、言ってる側もポジティブになっていくんです。この褒め会はいいなと思うので、みんなぜひやってほしいなと思います。

前川:めちゃくちゃいいですね!私も周りの人たちと「褒め会」やってみます!

作家・アルテイシアさん

*アルテイシアさんとの対談最終回である次回、もう少し大きな視点で問題を見つめてみます。3本目「「ルッキズム」を作っている犯人、私たちが戦う相手は誰なのか。」こちらから。

プロフィール

アルテイシアさん

1976年、神戸市生まれ。大学卒業後、広告会社に勤務。2005年に『59番目のプロポーズ』で作家デビュー。著書に『モヤる言葉、ヤバイ人から心を守る言葉の護身術』『自分も傷つきたくないけど、他人も傷つけたくないあなたへ』『ヘルジャパンを女が自由に楽しく生き延びる方法』『田嶋先生に人生救われた私がフェミニズムを語っていいですか?!』ほか多数。

前川裕奈

慶應義塾大学法学部卒。民間企業に勤務後、早稲田大学大学院にて国際関係学の修士号を取得。 独立行政法人JICAでの仕事を通してスリランカに出会う。後に外務省の専門調査員としてスリランカに駐在。2019年8月にセルフラブをテーマとした、フィットネスウェアブランド「kelluna.」を起業し代表に就任。ブランドを通して、日本のルッキズム問題を発信。現在は、日本とスリランカを行き来しながらkelluna.を運営するほか、「ジェンダー」「ルッキズム」などについて企業や学校などで講演を行う。著書に『そのカワイイは誰のため? ルッキズムをやっつけたくてスリランカで起業した話』(イカロス出版)。yoga jouranalコラム「ルッキズムひとり語り」。

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AUTHOR

ウィルソン麻菜

ウィルソン麻菜

「物の向こうにいる人」を伝えるライター。物の生まれた背景を伝えることが、使う人も作る人も幸せにすると信じて、作り手を中心に取材・執筆をおこなう。学生時代から国際協力に興味を持ち、サンフランシスコにて民俗学やセクシャルマイノリティについて学ぶなかで多様性について考えるようになる。現在は、アメリカ人の夫とともに2人の子どもを育てながら、「ルッキズム」「ジェンダー格差」を始めとした社会問題を次世代に残さないための発信にも取り組む。



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