しゃべるっきずむ!「誰のためか」を見極める私なりの判断軸とは|前川裕奈さん×瀧波ユカリさん(3)

 しゃべるっきずむ!「誰のためか」を見極める私なりの判断軸とは|前川裕奈さん×瀧波ユカリさん(3)
しゃべるっきずむ!

容姿で人を判断したり、揶揄したりする「ルッキズム(外見至上主義)」。言葉の認知が進む一方で、まだまだ理解されていない概念でもあります。「ルッキズムってなんなの?」「これもルッキズム?」など、まずはいろいろしゃべってみよう!自身もルッキズムに苦しめられた経験を持ち、Yoga Journal Onlineでも「ルッキズムひとり語り」を執筆する前川裕奈さんとゲストが語り合う連載が「しゃべるっきずむ!」です。第五回は、漫画家の瀧波ユカリさんとおしゃべりしました。

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「自分のため」と「誰かに思わされている」の境界線

前川:男性同士が力を誇示し合うホモソーシャルの弊害として、女性たちが「かわいくならなきゃ」と思い込まされている構造がある、というお話がありました。ここからは、そのルッキズムを内面化した女の子たちに向けて商売が成り立ってしまっている、という話を詳しく伺いたいな、と。

瀧波:例えば「ぱっちり二重」が流行り続けているのは、やっぱり二重手術やアイプチメイクが売れるからだと思うんです。一重ブームが来てもお金が取れないですし。痩せているほうがいいというのも、この世に溢れているダイエットグッズやサプリ、エステなどの売上につながります。

正直、男性はそこまで女性の美醜を気にしてないと思うんですよ。というか、あんまり見ていないと思う。ブスだデブだとジャッジしたいだけなので、一重だろうが二重だろうがどっちでもいいんじゃないかな。だから、きっかけはホモソーシャル的な価値観かもしれないけれど、そこで女性たちのなかに生まれた「かわいくならなきゃ」に、企業がつけ込んで悪化させているんですよね。

前川:たしかに意外と男性は、美容整形しているかメイクを変えたか、太ったか痩せたかみたいなことも、気付かない人が多いですよね。女の子同士の方が敏感に反応したり、気にしたりしているイメージがあります。

瀧波:最近は男のためじゃなくて、自分のために綺麗になろうとしている、という人も増えてきました。その考え方はすごくいいんだけど、 その「私のため」の方向性が、商業からの声を全部聞いていませんか、というのは気になります。

瀧波ユカリ

前川:本当にそうですね。私自身もマラソンをやっているのでレース前は一時的に減量することがあるんです。マラソン自体が楽しいと思う趣味だし、レースで良いタイムが出せたら、より自分を好きになれるのもわかっているから走りやすくするために減量する。ときどき「ルッキズムの発信をしているくせに、結局ダイエットしてて抜け出せてないんじゃない?」とかSNSでコメントが来るんですけど、私のなかでは全然違う意味合いなんですよね。

瀧波:わかります。私も「体力をつける」「入らなくなった服が入るようになる」という二大目標を掲げた上で減量をしています。そうすると、食事を減らしすぎると体力がつかないし、食べてばかりいるといつまでも服が入らない。結果的に健康的な食事や運動になっていくんですよね。

前川:やっぱり何を目的にしているかが大事ですよね。メイクやダイエットなどのアウトプットが結果的に同じになることも多いので、自分のなかにある「何のため」をしっかり持っていないといけないですよね。おっしゃるとおり、「綺麗になりたい」のも、本当に自分のためなのか、商業に煽られたからなのか、わからなくなる人もいるんじゃないでしょうか。

瀧波:これは完全に自分のためで商業主義に染まってはいない、と明確に分けるラインはないんですよね。だから、みんな悩んでしまう。どうしてもそこに線を引くんだったら、私の場合は、いくらお金をかけるかを考えます。

大金をつぎ込んだら「搾取されてる」?

前川:へえ!それは自分の判断で決めた金額の範囲内であれば、「自分のため」だと認識するということですか?それをオーバーしていたら、商業主義に煽られたということ?

瀧波:例えば、美容に関してはいくらまでと自分で決めて、それ以上は出さない。金額自体は自分で稼いだお金で100万と決めたなら、100万円でもいいと思います。額の大きさというより、自分で決めた・自分が許容できる金額で収まっているか、というのが大事かな。

前川:なんでこんなに食いついているかと言うと、ゲームの課金がやばいからなんですけど(笑)。ルッキズムとは違いますが、自分で金額は決めてるつもりだけれども搾取されることの境界線ってどこなんだろう、と……。

瀧波ユカリ 前川裕奈

瀧波:ビジネス自体が悪いことではないですよね。ビジネスによって人はお金を得られて生活できるという、社会になくてはならない仕組みなんだけど、それで身を持ち崩すことが良くない。そして、誰かの身を持ち崩してまで搾取してやろうと考える人たちも、残念ながらいっぱいいるわけです。若い子が絶対に払えないような金額のエステや整形の契約をさせたり、ホストとかもそうですよね。

前川:整形代を稼ぐために援助交際やパパ活などで心身をすり減らすのは、まさにそうですよね。さっきの境界線の話になると思うんですけど、例えば高校生が「整形すれば自分がもっと生きやすくなる。だから自分のためにやってるんだ」という場合はどうですか?

瀧波:前提として「整形しないと生きやすくない」と思わされている社会が問題だとは思いつつ……。

本気で容姿を変えたいなら、止めない

瀧波:顔や体型って、高校生くらいだとこれからいくらでも変わるんですよね。30代とかだったら「本当に変えたい」と実感をともなっているけれど、やっぱり高校生ではまだ判断できないんじゃないかと思ってしまいます。

前川:そうなんですよね、でも、彼女たちは「今」変えたいわけで、すごく難しい問題だと思います。私は整形に対して否定的な気持ちはなくて、自分の責任でおこなう自由があると思っています。一方で、その判断ができるほどの経験値を持たない若い子たちにも整形のハードルが下がりつつある現実があり、一体どうやって伝えればいいものかと……。

前川裕奈

瀧波:自分で稼いでしたいことをするのは、私もいいと思います。高校生が一般的なアルバイトで稼げる額では大手術はできないはずだし、整形代を稼ぐためにかかる時間の蓄積や学びを考えたら、それはもう本人の経験です。ただ、そこで援助交際やパパ活などが絡んでくるのであれば、それ自体がもう搾取ですよね。

前川:最近だと「PRしてくれるなら手術代は無料!」みたいな、お金がない子にも手が届きやすい手法があったりします。お金がかからないし、整形したいと言われたら、どう答えますか?

瀧波:私が子どもと整形の話をする時によく言うのが「整形は完全に人任せだよ」ということです。上手な先生を選べばいいと思うかもしれないけれど、やっぱり最後は他人に委ねるしかないわけで。特に「美」は、ものすごく複雑です。だから、自分自身がその「美」を理解するために、まずは美術予備校に行ってくれと。

瀧波ユカリ

前川:そこまでするのは、たしかにものすごいコミットメントですね。

瀧波:そうですよ。整形の場合は、絵と違って動くし、経年変化していく人間の顔でやるわけですから。自分で信頼できる医者を選び、このようにしてくださいって伝えるためには、美意識を磨く必要があると伝えています。2年間美術予備校行って、それから整形するって言うんだったら、私は何も言わない。整形しなくても、美意識は残りますし。彫刻をやったほうがいい。

前川:たしかに、デッサンより立体をやったほうがいいですね(笑)。まだ経験が浅くて、自分自身のことをこれから理解していく若い子たちのところに、ルッキズムが上から降り注ぐ構造を本当に止めたいです。

瀧波:社会のどういう構造が私たちに影響を与えてるのか。それを考える癖をつけていくことですね。そうやって搾取されない社会を作っていきたいと私も思います。

前川:私も自分の体験とともに、そういった広い視野の発信をしていきたいと思います。今回は、ありがとうございました!

瀧波ゆかり 前川裕奈

Profile

瀧波ユカリさん

1980年札幌市に生まれ、釧路市で育つ。日本大学芸術学部写真学科を卒業後、2004年に4コマ漫画『臨死!!江古田ちゃん』でデビュー。以降、漫画とエッセイを中心に幅広い創作活動を展開している。現在は『私たちは無痛恋愛がしたい』をウェブ漫画マガジン「&Sofa」(講談社)にて連載中。

前川裕奈さん

慶應義塾大学法学部卒。民間企業に勤務後、早稲田大学大学院にて国際関係学の修士号を取得。 独立行政法人JICAでの仕事を通してスリランカに出会う。後に外務省の専門調査員としてスリランカに駐在。2019年8月にセルフラブをテーマとした、フィットネスウェアブランド「kelluna.」を起業し代表に就任。ブランドを通して、日本のルッキズム問題を発信。現在は、日本とスリランカを行き来しながらkelluna.を運営するほか、「ジェンダー」「ルッキズム」などについて企業や学校などで講演を行う。著書に『そのカワイイは誰のため? ルッキズムをやっつけたくてスリランカで起業した話』(イカロス出版)。yoga jouranal onlineコラム「ルッキズムひとり語り」。

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AUTHOR

ウィルソン麻菜

ウィルソン麻菜

「物の向こうにいる人」を伝えるライター。物の生まれた背景を伝えることが、使う人も作る人も幸せにすると信じて、作り手を中心に取材・執筆をおこなう。学生時代から国際協力に興味を持ち、サンフランシスコにて民俗学やセクシャルマイノリティについて学ぶなかで多様性について考えるようになる。現在は、アメリカ人の夫とともに2人の子どもを育てながら、「ルッキズム」「ジェンダー格差」を始めとした社会問題を次世代に残さないための発信にも取り組む。



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