「美しいものが好き」なのは本能?| 前川裕奈さん×山口真美さん【後編】

「美しいものが好き」なのは本能?| 前川裕奈さん×山口真美さん【後編】
しゃべるっきずむ!

容姿で人を判断したり、揶揄したりする「ルッキズム(外見至上主義)」。言葉の認知が進む一方で、まだまだ理解されていないルッキズムについて、おしゃべりしてみよう!自身もルッキズムに苦しめられた経験を持ち、Yoga Journal Onlineで「ルッキズムひとり語り+α」を執筆する前川裕奈さんとゲストが語り合う連載が「しゃべるっきずむ!」です。

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第23回は、赤ちゃんが認識する「顔」について研究する発達心理学者、中央大学文学部教授の山口真美さんにお越しいただきました。「幼少期の出会いや体験をもとに、私たちの顔の基準が作られていく」という山口さんの研究から、その基準がルッキズムにつながる可能性や回避の方法を考えます。

「区別」と「差別」はどう違う?

——山口さんはご著書『美人はそれほど得しない? ルッキズムの科学(ハヤカワ新書)』の中で、「人間の本性として区別というものはあるが、差別とは違う」と書かれています。ルッキズムに関しても「美しいものが好きなのは本能である」という発言が聞かれることもあるので、ぜひその点についてお話しいただけたらと思います。

山口:「差別/区別」の違いって、私の解釈だと、「区別」は客観的なデータを元にした人間性の入らないものですが、「差別」はそこに人の価値観が入っているもののような気がしているんです。

前川:つまり、事実を元にしたファクトベースのものが「区別」で、主観に基づいているのが「差別」という感じということですよね。

山口:そうですね。例えば、身体的な男女の区別や、年齢の上下などは区別だと考えています。でも「こういう人が女らしい」など、人の主観で分けているのが差別という感じ。価値観は成長と共に肥大していくので、徐々に区別より差別が大きくなっていくイメージです。

前川:一番トリッキーなのが、その主観を「事実」だと捉えてしまうことですよね。例えば、「美人はこういう顔」というのは本当はその人の主観なんだけれど、それが正解、つまりファクトだと思い込んでしまうから「差別じゃなくて区別だよ」と思ったりするとか。

山口:本人はそれをファクトだと思っているんだけれど、他の視点からみると本人の考えや価値観でしかない、ということですね。

前川:偏った主観があまりにもマジョリティになってしまうと混同しやすいですよね。「だって、こういう顔が美人ってみんな言ってるし」と、ファクトのように思ってしまうことはありそうだと思いました。

山口:そのときに、「でも、科学的な根拠がないよね」ということを覚えておきたいですね。情報の出どころや真偽をしっかり見極めながら話を進めないと、どうしても噛み合わなくなってきてしまいます。「差別は主観的なもの」と自覚することで、話し合いに進むきっかけになるといいなと思います。

本能を大切にしながら、主観であると自覚する

前川:個人的には、今の主観の話と「美人が好きなのは本能」というトピックも似ているなと思います。本能は誰しもが持ち合わせていて、美しいと思うものを好きなのは別にいいんです。私も自分の定義の中での「美人」は男女問わず、見ていたいです(笑)。ただ、どういう人を美女、美男子などと思うのかは人によって違う、まさに主観ですよね。

本能や主観を持つことはいいけれど、自分が美しいと思う人を「なんでわからないの?」と、ファクトのように扱って押し付けることはダメだよっていうこと。自分の好みをしっかりと「これはファクトではなく、主観である」と自覚することが大切だと思います。

山口:その通りですよね。本能としての好き・嫌いは私たち人間が生きていくために必要なものです。主観も、私たちが生まれてから見てきた、ものすごい量の経験が積み重なってできた大切なものです。一生懸命作り上げた主観には「どっちが正しいか」なんてないはずなので、お互いの主観が違ってもおもしろがれるくらいの余裕があるといいのかもしれないですね。

前川:私はアニメが好きなのですが、好きなキャラの話をしているとやっぱり主観は人それぞれだなって思うんです。人気のあるキャラだけでなく、マイナーなキャラにも絶対にファンはいる。どのキャラにも必ず推してる人はこの世にいる、というか。

山口:そうそう。

前川:アニメやキャラだとお互いが違うものを好きなことが受け入れられているのに、それが現実の話になるとできなくなっちゃう。お互いの主観や好みを尊重して「私はこれが美人だと思うけど、あなたが思う美人はこれなんだ。それでいいよね〜」っていうことが根付いていると、もっと柔らかい世界になるのかなと思います。「えー、この子はナシっしょ」などを言葉にするなんて論外なのに、時折いるんですよね〜。

山口:そうですね。きっとみんな、自分の好みを言って否定されたり違いが目立ってしまうのが怖いんじゃないかなと思います。もしかすると、ルッキズムをしてしまう人たちは、自分が本当は好きなことが言えずにいる人なのかもしれないと、お話ししながら感じました。

もしもルッキズムのマニュアルを作るなら

——ルッキズムの話をしていると、「容姿に関することはすべて言ってはいけない」と解釈する人もいますよね。お話を聞いていて、自分の好みや主観だと認識した上で話をしていくのは、またルッキズムとは違うものなのだと感じました。

山口:ルッキズムについて話す上で「しゃべっちゃいけない」「言っちゃいけない」となるのが一番よくないと思いますね。口を閉ざすことによって多様性が隠されてしまい、結局はなんとなく「みんなが言っているから」がファクトになっていってしまうから。みんなが好きなものを自信を持って言える社会にしていくことは大事だと思います。

前川:異なる意見なども同じですよね。起業したスリランカでは、お互いに第二言語である英語でやりとりする上でダイレクトに言わないと伝わらないんですね。だから、自分をしっかり表現してぶつかり合うことはどのジャンルであっても大切であることをすごく学んだ気がします。

山口:大事ですよね。

前川:だけど、今でもどうやって異なる意見を伝えていくのか、迷いながら発信をしていますね。

山口:特に日本では、意見の言い方って難しいですよね。自分がぶつかって行ったところで相手が返してくれるかわからないし、暖簾に腕押しのような場面も少なくない気がします。どうしたらスッキリと言い合いができるようになるのかは、課題の一つかもしれませんね。

前川:まさにルッキズムについて話すと「あれもこれも相手が傷つくから言っちゃダメ、と言われると会話がしづらい」と言われるんですけど、ルッキズムって「何も言っちゃダメ」というシャットアウトでもなく、「なんでも言っていいよ」という雑なものでもない。単純にルール化できないんです。

山口:そうですよね。ルッキズムの問題って実は昔からあって、それぞれコミュニケーションで処理してきたところがあると思うんです。ただ、インターネットなどが出てきて、傷つける対象が膨大になってきたために問題が大きくなってきたんじゃないかと。

前川:たしかに。

山口:面倒くさいなと思う人たちからすれば「どこまで言っていいのか、じゃあルールを教えて」と簡単に学習したくなると思うのですが、正直、一体何が相手を傷つけて、何が傷つけないのかは学習してみないとわからないですよね。相手や場面によって受け取り方も全然違いますから。マニュアル化するのではなく、間違ってしまったら「ごめんなさい、間違っているところを教えて」「こういうところが嫌だから気をつけてね」という話し合いの余裕がほしいですよね。

前川:まさに。親友が「ナイトブラなどで育乳している」と話してくれたなら「胸が大きくなったね」と言っても問題ありませんが、親しくない人に「胸が大きくて羨ましい」と言われるのはセクハラやルッキズムになります。マニュアルを作るのであれば「ちゃんと会話をしてください」ということですかね。

山口:あとは「相手にも歴史があることを考えてみましょう」ということでしょうか。自分と同じように、相手にもそれまでの人生や歴史があって、本来は「20代だったらこう」「女性だったらこう」と紋切り型に対処することはできないはずです。相手が積み重ねてきたものを知り、個人としての好き嫌いや困り事を知ろうとする気遣い。これだけで、会話が違ってくると思います。

Profile

山口真美さん

お茶の水女子大学大学院修了後、ATR 人間情報通信研究所・福島大学を経て、中央大学文学部心理学研究室教授。博士(人文科学)。日本赤ちゃん学会理事長、日本顔学会理事。専門は実験心理学で、長年乳児を対象とした実験心理学を運営している。学術変革領域(A)「顔身体デザイン」の代表として、文化人類学、哲学、心理学を横断しながら新しい身体のあり方を探っている。著書は『自分の顔が好きですか』『こころと身体の心理学』(いずれも岩波書店)、『ままならぬ顔・もどかしい身体』(東京大学出版会)、『美人はそれほど得しない?ルッキズムの科学』(早川書房)など多数。

前川裕奈さん

慶應義塾大学法学部卒。民間企業に勤務後、早稲田大学大学院にて国際関係学の修士号を取得。独立行政法人JICAでの仕事を通してスリランカに出会う。後に外務省の専門調査員としてスリランカに駐在。2019年8月にセルフラブをテーマとした、フィットネスウェアブランド「kelluna.」を起業し代表に就任。ブランドを通して、日本のルッキズム問題を発信。現在は、日本とスリランカを行き来しながらkelluna.を運営するほか、「ジェンダー」「ルッキズム」などについて企業や学校などで講演を行う。著書に『そのカワイイは誰のため?ルッキズムをやっつけたくてスリランカで起業した話』(イカロス出版)。yoga jouranal onlineコラム「ルッキズムひとり語り」。

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