顔の“基準”はいつの間に作り上げられているのか|前川裕奈さん×山口真美さん【前編】

顔の“基準”はいつの間に作り上げられているのか|前川裕奈さん×山口真美さん【前編】
しゃべるっきずむ!

容姿で人を判断したり、揶揄したりする「ルッキズム(外見至上主義)」。言葉の認知が進む一方で、まだまだ理解されていないルッキズムについて、おしゃべりしてみよう!自身もルッキズムに苦しめられた経験を持ち、Yoga Journal Onlineで「ルッキズムひとり語り+α」を執筆する前川裕奈さんとゲストが語り合う連載が「しゃべるっきずむ!」です。

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第23回は、赤ちゃんが認識する「顔」について研究する発達心理学者、中央大学文学部教授の山口真美さんにお越しいただきました。「幼少期の出会いや体験をもとに、私たちの顔の基準が作られていく」という山口さんの研究から、その基準がルッキズムにつながる可能性や回避の方法を考えます。

思春期の「他人の目」が気になる瞬間

前川:「私たちは周りの環境に影響されて、それぞれの美の基準が幼少期から作られていく」という山口さんのお考え、まさに私も経験があります。海外で育ち、小学校5年生で日本の小学校に戻ってきたときに、周りと違う体型や服装などを揶揄するあだ名がついたんです。それで「私は他の子と違うんだ」と一気に引っ込み思案になってしまって……。

山口:帰国のタイミングが小学校5年生だったというのも、ポイントだと思います。5年生ってすごく微妙な年齢で、男の子は容姿の話が相手を傷つけるとはまったく思っていない一方で、女の子は少しずつ気になり始めるという差があります。まだ配慮を考えない子が、気にし始めた子に無自覚で話すことが刺さってしまう場面はあるだろうと、お話を聞きながら思いました。

前川:たしかに、10歳⁨⁩頃から「自分はこうしたい」「あの子はこうしている」という自他の認識が強くなってくる気がします。だからこそ、そのときに何気なくかけられた言葉というのは良くも悪くも長く残っていくのかなと思います。私自身も、その後はどんなに良好な環境にいても、自分の体型に自信を持つことはできなくて……あの時に言われたことが、その後の自分の思考も形成していった実感はあります。

山口:私もちょうどそのくらいの年齢での経験が記憶に残っています。もともと小学校では男の子のような格好をしていて心地よかったんですが、中学生になって制服を着た途端、まったく違う「か弱い女の子」という見られ方になったのがショックでした。「自分がどう見られたいか」を学習し始めたタイミングは影響が大きいですよね。

前川:小学生くらいだとメイクや髪の色などで自分を表現できる子は少ないので、服装や体型の話が多くなりがちなのかなと思います。そこで周りと違うと指摘されやすかったり……。

山口:「目立つものが気になる」という性質自体は、私たちが赤ちゃんの頃から持っているものです。ただ、赤ちゃんにとっては、新しいものから学習していく過程で“周りがどうか”は全然関係ないんです。だんだん成長するにつれ、「周りはこうだよね」と自覚していくことがわかっています。さらに中高生になってくると「どっちが正しい、悪い」という価値観が出てくるんですね。本当は「自分の考えがすべてではないよね」と学習してほしいけれど、なかなかそういう学習の機会がないのかなと思います。

「すべてではないよね」という多様な価値観をつくるには?

——「自分の持っている基準がすべてではない」と学習するには、どうしたらいいんでしょうか?

山口:やっぱり環境を多様化させていくことですよね。似たような価値観の中だけで成長すると、どうしても学習が偏ってしまって「みんな同じが普通で、それがいいんだ」と、窮屈な世界に入ってしまいます。できれば、成長過程でいろいろな世界を見てもらえるといいと思います。

前川:私自身、自分の持っていた価値観の偏りに気づいたのは、駐在でスリランカに行ったのが大きなきっかけの一つです。日本にいるときに気にしていた体型や容姿についてのノイズから、物理的に離れて新しい価値観に触れることで、客観視できたんだと思います。

山口:私もいろいろな国に行くのが好きで、日本から離れると気が楽になる感覚があります。日本にいるときの「ねばならない」という暗黙の強制から、一時的に離れているということなんだろうと思いますね。

前川:一方で、私は発信の中で「必ずしも海外に行く必要はない」ともお伝えしています。私の通っていた中学・高校には帰国子女が多かったのですが、約半分は日本から出たことのない子たちでした。彼女たちは海外に住んだり留学したりした経験がなくても、視野が広くてマインドも柔軟。聞くと、やはり学生時代に周りの帰国子女から刺激や影響を受けたと言う子も多くて。誰もが海外に出られる状況ではないと思うので、国内であっても「どんな環境で過ごすのか」が大事だと伝えてます。

山口:たしかに、特に思春期では間接的な経験というのは、とても大きいですよね。友達や周りの人たちの経験から異文化を知ることは重要だと思います。振り返ると、私自身もよく留学生と一緒に過ごしていましたね。そこから間接的に、自分の気質も変わっていくのかもしれません。

子どもは身近な大人から、そのまま全部吸収する

前川:あと、周りの大人の発言や行動が子どもたちのマインドを形成していることが多いと思うので、子どもたちに直接訴えかけるだけでなく、親や先生をしている世代への伝え方も考えていきたいですね。

山口:たしかに、赤ちゃんや子どもは本当に優秀な学習者なので、見せられたままを全部吸収して学習していきますね。中高生になれば友達などの影響もありますが、やはり初期学習は親や身近な大人自身、そして大人から与えられた絵本やテレビなどのメディアからの影響がとても強いことがわかっています。

前川:そうですよね。

山口:それぞれの家庭の価値観が表れる保育園や幼稚園の影響もありますよね。あとは世代を超えて、祖父母の発言からの学習もありますし、何もバイアスをかけずに育てる、というのはなかなか難しいと思いますけれども。

前川:だからこそ、親世代、祖父母世代など幅広く呼びかけていく必要があるんだろうなと思いました。一定数の親だけが「多様な美しさがある」と言ったところで、全体数がアップデートしていなければ、子どもたちはそちらに引っ張られるでしょうから。

山口:そうですね。20年近く赤ちゃんを対象に研究をしていると、社会の変化を感じることもあります。10年前の実験では、生後半年の赤ちゃんが男女の顔を見たときに、男性の顔の区別が早かったんですね。その理由は、専業主婦や保育士さんなど、赤ちゃんの周りには圧倒的に女性のほうが多かったからだろう、と。男性も育児に参加する時間が増えた現代社会で同じ実験をしたら、少しは結果が変わるように思います。

後半につづきます。

Profile

山口真美さん

お茶の水女子大学大学院修了後、ATR 人間情報通信研究所・福島大学を経て、中央大学文学部心理学研究室教授。博士(人文科学)。日本赤ちゃん学会理事長、日本顔学会理事。専門は実験心理学で、長年乳児を対象とした実験心理学を運営している。学術変革領域(A)「顔身体デザイン」の代表として、文化人類学、哲学、心理学を横断しながら新しい身体のあり方を探っている。著書は『自分の顔が好きですか』『こころと身体の心理学』(いずれも岩波書店)、『ままならぬ顔・もどかしい身体』(東京大学出版会)、『美人はそれほど得しない?ルッキズムの科学』(早川書房)など多数。

前川裕奈さん

慶應義塾大学法学部卒。民間企業に勤務後、早稲田大学大学院にて国際関係学の修士号を取得。独立行政法人JICAでの仕事を通してスリランカに出会う。後に外務省の専門調査員としてスリランカに駐在。2019年8月にセルフラブをテーマとした、フィットネスウェアブランド「kelluna.」を起業し代表に就任。ブランドを通して、日本のルッキズム問題を発信。現在は、日本とスリランカを行き来しながらkelluna.を運営するほか、「ジェンダー」「ルッキズム」などについて企業や学校などで講演を行う。著書に『そのカワイイは誰のため?ルッキズムをやっつけたくてスリランカで起業した話』(イカロス出版)。yoga jouranal onlineコラム「ルッキズムひとり語り」。

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