『呪術廻戦』の五条悟は"イケメン"の代名詞? | ルッキズムひとり語り Vol.3

 『呪術廻戦』の五条悟は"イケメン"の代名詞?   | ルッキズムひとり語り Vol.3
Yuna Maekawa
前川裕奈
前川裕奈
2023-12-19

SNSや雑誌、WEB、TV、街の広告には「カワイイ」が溢れている。けど、その誰かが決めた「カワイイ」だけが本当に正義なの? セルフラブの大切さを発信する社会起業家・著者の前川裕奈さんが綴る、ルッキズムでモヤっている人へのラブレター。

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「推し」という言葉が完全に市民権を得てきた昨今。私がオタク道を歩み出した中学生の頃は、こんな言葉は存在しなかったので「脳内彼氏」と呼んだりしていた(痛)。そして、20年以上経った今も、脳内彼氏、改め、推しは沢山いる(全員2次元)。

自分の推したちのことを、それぞれ世界一だと思っているし、もちろんビジュアルも好きだ。「打倒ルッキズムを発信しているくせに、結局ビジュアルが良いものが好きなのか?ダブルスタンダードだ!」なんて批判の声も聞こえてきそうだ。もちろん、好きなビジュアルはあるに決まっている。vol.1 でも書いたが、「好み」や「感性」をもつのは人間らしさなので、それらを払拭することが必ずしも反ルッキズムだと私は思っていない。これらの尊い感情を「他人に強要」したり、唯一の「正解」としてしまうことがルッキズムの助長になるのではないだろうか。

私は漫画の世界では、いわゆる主人公にいがちな「陽キャ」が個人的には結構苦手だ。暗くて、歪んだ癖のある気持ち悪めなキャラが大好物。こういうキャラは得てして「敵」サイドだったり、ビジュアルも闇堕ちしている感じ(たまらん)。

最近、呪術廻戦の痛ネイルをしてもらったので、今回は呪術廻戦で考えてみよう。

「闇堕ちビジュが好き」なんて言っている時点でお察しの通り、私は連載当初からずっと真人が大好き。アニメ編では現在大暴れ中。ちなみに友人は、伏黒甚爾が好きらしい。そして、なんといっても、五条悟は男女共に圧倒的人気を誇るキャラだ。もはや五条悟を「イケメンじゃない」という人など、この世にいないのではないだろうか。

もちろん「推し」をビジュアルだけで選んでいるとは思わない。ストーリー上の性格が好きだから、セリフに救われたから、共感できるから、など色々あるだろう。けれど、「推し」を決める上で「ビジュアル」はある程度の判断要素にもなる。そしてそこには、各々の容姿に対する「好み」が反映されている。それは決して悪いことではない。例えば、五条悟をイケメンに彩るのは、あのキラキラの目(アニメでは目に制作費がかなりかかっているらしい)、長い脚(8−9等身)、さらさらの髪(触ったことないけど)などだろうか。私は真人の狂気的な目、意外と逞しい二の腕、ロン毛が好きだ。こういう「ときめきの感情(きゅん)」は、私たちの生活を確実に豊かにしてくれるし、とても良いものだ。

ただし、その「好み」となる要素を他人に強要しだしたり、それを一般的な「正解」「美の在り方」とすることがルッキズムの助長になるのではないだろうか。これは漫画やアイドルなどの「推し」に限らず、現実世界でもそうだ。「こういう容姿の人が好みだ」「自分の理想像はこれだ」と好みや感性は必ず誰しもが持ち合わせている。好みや理想の容姿の人と付き合いたいという思いは悪ではない。けれど、その好みを誰かに押し付けたり、その要素を正解とすること、当てはまらない誰かに批判的な言葉をかけること、そういったことがルッキズムの助長になると思っている。

マッチョが好きだからといって「貧弱な男は、男じゃない」と安易に発言することは、誰かにとっての呪いにだってなりうる(呪術だけに)。華奢な女の子が好きだからといって「痩せたらカワイイのに」なんていうのも言語道断だ。好みや感性は尊いものだけれど、それは自分の中で自分のためだけに持っておけば良いんじゃないかな。社会的に「イケメン像(カワイイ像)はコレ!」みたいなのを作り出さずに、お互いがお互いの「良い」と思うものを、例え異なるものだとしても認め合える世界線で生きていたい。

私は真人が好きだけれど、親友が伏黒甚爾を好きなのもわかるし、もちろん五条悟のオタクたちが悟について語っているのを聞くのも楽しい。皆がそれぞれの異なる好みを認め合ってる空間って、心地よいものだ。これが現実世界にも適応していけたら、もっと生きやすいんじゃないかな。五条悟をイケメンと思うのはとても素敵なことだし、きっと多くの人がそう思っているだろう。彼、最強だしね!けれど、そんな最強な五条悟ですら、決してイケメンの「代名詞」にはなれない。

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前川裕奈

前川裕奈

慶應義塾大学法学部卒。民間企業に勤務後、早稲田大学大学院にて国際関係学の修士号を取得。 独立行政法人JICAでの仕事を通してスリランカに出会う。後に外務省の専門調査員としてスリランカに駐在。2019年8月にフィットネスウェアブランド「kelluna.」を起業し代表に就任。現在は、日本とスリランカを行き来しながらkelluna.を運営するほか、企業や学校などで講演を行う。著書に『そのカワイイは誰のため? ルッキズムをやっつけたくてスリランカで起業した話』(イカロス出版)。



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