「イケメン」や「美女」たちが容姿に悩むのは贅沢なの?〈ルッキズムひとり語り#5〉

 「イケメン」や「美女」たちが容姿に悩むのは贅沢なの?〈ルッキズムひとり語り#5〉
前川裕奈
前川裕奈
2024-02-23

SNSや雑誌、WEB、TV、街の広告には「カワイイ」が溢れている。けど、その誰かが決めた「カワイイ」だけが本当に正義なの? セルフラブの大切さを発信する社会起業家・著者の前川裕奈さんがオタク視点で綴る、ルッキズムでモヤっている人へのラブレター。

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 「美女は生きるの楽そうで良いなぁ」「イケメンは悩み少ないっしょ!」

さぁ、正直に思い出してみよう!こう思ったこと、誰しも一度くらいはあるんじゃないかな?

「美女は生きるの楽」「イケメンは悩み少ない」…これ、本当にそうだろうか。

以前に比べて、「多様性」なんて言葉が良くも悪くも流行語のように謳われ、「ルッキズム」についても日本でも少〜しずつ(亀スピード)話題になるようになってきた。しかし、この手の話をする際、従来の社会基準において容姿でマイナスの評価をされがちだった人たちだけが主語になることが多いように感じる。けれど、ルッキズムをやっつけるためには、もっと包括的に考えないと。

今回紹介する漫画の1つ、『ブスなんて言わないで(以下「ブス言わ」)の主人公は、「ブス」と言われ、学生時代いじめられていた女性である。もちろん、彼女のような人たちが生きやすいと感じる社会を作っていくことは大切だ(そもそも、題名の通りだけど「ブス」なんて言うべきじゃない)。

だけど!!この漫画の良いところは、一般的には「悩みがなさそう」とされる人の苦しみもリアルに描かれていることだ。作中では、チヤホヤされてきた「美女」や、モテそうな「イケメン」にも当然葛藤があることを丁寧に教えてくれる。実際、私たちが生きる現実世界だって、そうではないだろうか。

本当に「美女」や「イケメン」に傷はないのだろうか(そもそも、美女やイケメンの定義ってなんやねんって感じではあるが..)。先日、常に爆モテしている男友達が「俺って中身のない人間なのかなぁ(ぴえん)」と、珍しくしょんぼりしていたもんだから、話を聞いてみた。ちなみに彼のモテっぷりは凄まじく、取り巻きの女性たちを整列させたら軍隊でも作れるんじゃないかとずっと思っている。しかし、彼はモテてることに対して、「容姿を褒められてばかりで、俺はもっと自分の努力や性格でモテれたら嬉しいけど、会話をしようともしない子だっている」と。なるほど、外見重視軍隊だったのか。「ブス言わ」でも、「イケメンなのに身長が残念」と身長をイジられ、体型をコンプレックスに思っているイケメンも出てくる。一般的にモテるとされるイケメンだからといって、「容姿の悩みがない」なんてあまりにも安直すぎるのかもしれない。これらを「贅沢な悩みだ」と流してしまうのも、なんか違う。そういえば、別のイケメン友達は「筋肉のない男は男じゃない!」という風潮が痩せ型の自分にとってはしんどい、なんて言ってたな。

会社の飲み会で「美女がいると飲み会は盛り上がるな」と言われ、仕事の能力の方を評価してくれよ、と思いながらも我慢するしかない女友達も沢山いる (私は、空気をぶち壊すことが特技なので、こういう場に遭遇した際は秒速お説教モードなのだが、それができない人がほとんどだもんね)。目鼻立ち淡麗な女友達は、「圧がある」と言われ続けてきたことがコンプレックスで、逆に「抜けてる」ぽい喋り方をわざとしていると言っていた。私も圧のあるタイプの顔面なので、怖いと思われることが逆に怖くて、一時期わざと好きでもないブリッブリッな服を着ることでビジュアルの強弱を緩和させていた時代もあった(黒歴史)。そもそも、「美女」といわれる子たちだって、容姿に全く悩みのないケースなんて少ない。なのに、「美女」が起業すれば「パパ活したのか」「美人だもんね、援助とかすぐ受けれそう」なんて言われることもあったりするよね。あん?

この世には、人の数だけ容姿の違いがある。だからこそ、どんな立場であれ、一歩想像力を働かせて発言をするべきだ。悩む権利も、悩まなくて良い権利も、誰にだってある。とはいえ、容姿に関する会話ってなかなかしづらいのもわかる。内容によっては「嫌味か?」なんて思われるのも懸念してしまうかもしれない。だからこそ、その擬似体験がしやすいのが、漫画・アニメ・小説・映画などの創作コンテンツでもある。「ああ、こういうことだったのか」なんて思えるきっかけ作りにもなったりする。今回紹介する2つ目の漫画(アニメ)は、『スキップとローファー』(以下「スキロー」)。

「スキロー」は、ルッキズム問題をテーマとしている作品ではない。石川県の過疎地で育った主人公が、高校から上京して、様々な壁にぶつかりあいながらも、素敵な仲間が増えていく青春学園もの。何もルッキズム要素なんてないじゃん、と思うかもしれないが、彼女が同級生たちと打ち解けていく過程から学べることはかなりある。登場人物たちの繊細な部分の心情が丁寧かつ機敏に描かれている。例えば、主人公の同級生が、容姿が目立つせいでいざこざに巻き込まれたり、悪気ない嫌味を言われ続けたり、つらい目にあった過去があることで人との距離感について悩んでいたり。その子にとっては容姿の褒め言葉が、呪いの言葉になってしまうのだ。いつの間にか容姿について悩んでいることが彼女にとって「普通」の状態になっていたけれど、物語を通してその鎧が脱げていく描写は、画面越しに「よかったねぇぇ!」と叫びたくなった(本当に少し叫んだ)。

容姿は十人十色だからこそ、それに関して「理解しきれない」ことはきっと沢山ある。だからこそ、発言する際には一歩先まで「想像」する必要がある。人との会話、漫画や本を通して、新しい考え方を知ることが、想像力の鍛錬になる。このコラムもその1つの入り口になれば嬉しいな。完全に理解できなくても聞く、知る、想像する、それだけで精神的な「歩み寄り」になって、生きやすいハッピーな世界に少しずつ繋がっていくはず。

今回紹介した「ブスいわ」「スキロー」
今回紹介した漫画作品
『ブスなんて言わないで』著:とあるアラ子
『スキップとローファー』著:高松美咲

 

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前川裕奈

前川裕奈

慶應義塾大学法学部卒。民間企業に勤務後、早稲田大学大学院にて国際関係学の修士号を取得。 独立行政法人JICAでの仕事を通してスリランカに出会う。後に外務省の専門調査員としてスリランカに駐在。2019年8月にフィットネスウェアブランド「kelluna.」を起業し代表に就任。現在は、日本とスリランカを行き来しながらkelluna.を運営するほか、様々な社会課題について企業や学校などで講演を行う。趣味は漫画・アニメ・声優の朗読劇鑑賞。著書に『そのカワイイは誰のため? ルッキズムをやっつけたくてスリランカで起業した話』(イカロス出版)。



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