京都でアトリエを借りるということ4)場を整える力のおかげで人の集まる場になった・ダイモンナオさん


女性の人生の中で心身が大きく変化する”更年期”…何でも、日本女性がもっとも落ち込みやすいのは49歳だという統計もあるとか。でも、わたしは、50歳前後の複雑なはずの時期、自分の年齢をまったく気にせず、元気に過ごしてしまいました。むしろ京都に移住する前の40代半ばのほうがつらかった気がします。うまく切り抜けられたのは、京都に住んだおかげだったのかもしれない…と50代に入って数年経った今、すごく思うのです。この連載では、そんなわたしが40代、京都で見つけた「幸せの秘密」を探っていきたいと思います。
最後は、アトリエを借りたいと思っているうちに、人の集まる場づくりにつながっていったというダイモンナオさんです。実は、ダイモンさんも、友成響子さんや写真家の野口さとこさんのフリーランス人脈のおひとり。イラストレーターですが、西陣で「草と本」という1日1組限定の宿を運営されています。
「娘が小さいうちは、リビングで遊んでいても、気配が感じられる位置に仕事コーナーがあって、娘も〝寂しくなくていい〟と言っていたんです。でも、思春期になると、〝プライベートがない〟って。間取りは同じでも、家族は同じじゃない。成長するんですよね」
娘さんが東京で進学し、家を巣立っていくなかで、ダイモンさんも、「草と本」をスタートさせることになります。

「自宅だととくに週末は、家族がいて気が散るから、別のところが欲しいと思い始めて。ここは、友人がやっていた外国人向けのゲストハウス。彼がやっていた頃から、友人を宿泊させたり、友人がイベントをやるときに町屋を借りたりしていました。それが急にゲストハウスを閉めて、沖縄に行くと。おんぼろの町屋を、時間をかけて直してきたのを知っているので、大家さんに返してしまうのももったいないし、〝わたし借りようかな〟と」
当初、2室あったゲストルームのうち、1室だけ残し、もう1室は、アトリエとして自分用に。4年経って、宿泊業のコツも自分なりにつかめてきたところだそうです。
「引き継いだのは2019年の12月。翌月にコロナ禍が始まったのですが、英語も不安だし、助成金も出たし、助走期間としてはゆるゆると手探りできて、むしろよかったのかなと思っています」
1階は、ゲストの朝食スペースにもなりますが、日中は、お菓子を作る方が週1でカフェをひらいたり、ボディワークの方が施術をしたりと、同世代の女性たちに支持される空間に。
「よく〝イラストの仕事以外に、ゲストハウス運営やイベント開催なんて大変ですね〟と言われるんですが、イベントはやりたいという人にやってもらっているので、わたしは場を整えているだけなんですよ。今後は、お泊まりいただいた方にイベントもやってもらうとか、1階をレンタルスペースとして貸し出すとか、より自由にやっていければ」

ナオさんはこともなげにおっしゃいますが、「草と本」で撮影をしていると、ナオさんの「場を整える」力の強さをひしひしと感じます。広い空間のあちこちに、昔から集めてきたという椅子やソファがあり、訪れる者は、自分がもっともくつろげる場所を自分で決められる。それでいて、どこから見ても、ナオさんの自作やグリーンなどが飾られた、フォーカルポイント(視線が集まる場所)がある。イラストレーターとしての審美眼が空間づくりにも活かされているのですね。でも、押し付けるようなところがなく優しいのは、ナオさんの作品とも共通するもの。誰もがホッと肩の力を抜けるような、そんな不思議な魅力にあふれているのです。
そして、アーティストでありつつも、ナオさんは人との間に壁を作らない、とても親しみやすい方。元気がないなと思う人がいれば、近寄って、おしゃべりで温めてあげるようなタイプです。それは、実は、洋館の響子さんも同じ。「家政婦は見た!」かのように、洋館のすべてを知っているのではないかと思うほど、そこにいるひとりひとりが寂しくないように、気を配る方なのです。そんなふうに、人気者のふたりだから、ひとりになるアトリエという空間が必要で、それによって、また新しい人とも知り合い、仕事も活性化するというポジティブな好循環にある気がしたことでした。
文/Saya
東京生まれ。1994年、早稲田大学卒業後、編集プロダクションや出版社勤務を経て、30代初めに独立。2008年、20代で出会った占星術を活かし、『エル・デジタル』で星占いの連載をスタート。現在は、京都を拠点に執筆と畑、お茶ときものの日々。セラピューティックエナジーキネシオロジー、蘭のフラワーエッセンスのプラクティショナーとしても活動中。著書に『わたしの風に乗る目覚めのレッスン〜風の時代のレジリエンス』(説話社)他。
ホームページ sayanote.com
Instagram @sayastrology
写真/野口さとこ
北海道小樽市生まれ。大学在学中にフジフォトサロン新人賞部門賞を受賞し、個展・グループ展をはじめ、出版、広告撮影などに携わる。ライフワークのひとつである“日本文化・土着における色彩” をテーマとした「地蔵が見た夢」の発表と出版を機に、アートフォトして注目され、ART KYOTOやTOKYO PHOTOなどアートフェアでも公開される。活動拠点である京都を中心にキラク写真教室を主宰。京都芸術大学非常勤講師。
ホームページ satokonoguchi.com
Instagram @satoko.nog
- SHARE:
- X(旧twitter)
- LINE
- noteで書く