京都、夏の風物詩「五山の送り火」に想うこと【連載|京都で見つけた幸せの秘密 vol.10】
女性の人生の中で心身が大きく変化する”更年期”…何でも、日本女性がもっとも落ち込みやすいのは49歳だという統計もあるとか。でも、わたしは、50歳前後の複雑なはずの時期、自分の年齢をまったく気にせず、元気に過ごしてしまいました。むしろ京都に移住する前の40代半ばのほうがつらかった気がします。うまく切り抜けられたのは、京都に住んだおかげだったのかもしれない…と50代に入って数年経った今、すごく思うのです。この連載では、そんなわたしが40代、京都で見つけた「幸せの秘密」を探っていきたいと思います。
6年前に越したマンションは築30年。隣に貸し農園があるという立地で決めてしまったので内装も古く、採光や風通しは最高でも、マンション自体はあまり気に入っているとは言えません。でも、唯一、アピールポイントがあるとすれば、「大文字」(東山如意ヶ嶽)が見えることかもしれません。
ご存じの方も多いとは思いますが、「大文字」は、毎年8月16日に行われる「五山の送り火」の五山のひとつ。「送り火」自体は、お盆の翌日に行われる仏教の風習で、たいまつの灯によって、死者の霊をあの世に送り届けるもの。「五山の送り火」では5つの山それぞれに文字をかたどったたいまつの炎が浮かび上がります。20時ちょうど、まず初めに点火されるのが「大文字」。左京区は、道路からも「大文字」のお山が見えるところは多いのですが、建物の高さ制限もあり、「五山の送り火」がきれいに見える建物は案外少ないのです。京都に来て1年目や2年目は、賀茂川べりで見ようとして、土砂降りの雨でずぶ濡れになったこともありました。
でも、今のマンションに越してからは、ベランダから遮るものなく眺められるので、毎年、「五山の送り火」によって夏の終わりを感じるという、個人的にもありがたい風物詩となっています。盆地である京都の暑さは格別ですが、「五山の送り火」が終わると、朝晩は涼しさを感じる日も出てくる。年齢もあるのかもしれませんが、「この1年、無事に生きられたなあ」という感謝の想いに浸ることも。
「五山の送り火」の様子は、7月の「祇園祭り」同様、KBS京都(京都にあるテレビ・ラジオの放送局)などで毎年、中継があるのですが、感心するのは、京都の人たちのお祭りや神ごとに対する熱心さです。「伝統を継承する」ことへの心意気、「自分たちの代でやるべきことはこれだ」という確信。これらは、東京出身のわたしにはとても新鮮。「五山の送り火」についても、「祇園祭り」の山鉾が町ごとに守られているように、山それぞれに保存会があって、たいまつを山の上までもって上がる方たちがいるわけですから、本当に頭が下がります。
「五山の送り火」も「祇園祭り」もパンデミック中は休止されたり、点灯数を少なくしたりの憂き目にも遭いましたが、時代の荒波を乗り越えて、また続けてくださっています。保存会ではお歳を召した方も多いなか、この暑さでは心配ではあるのですが、町や伝統を守り、引き継いでいくという気持ちを京都ではひしひしと感じます。そう、ユズリハの葉のように。
京都のみなさんの「受け継ぐ」という姿勢はとても真似はできないけれども、わたしたちも、有形無形のものを親やご先祖さまから受け取っているものです。そのなかで何を育て、何を残していきたいのか、考えてみるのもこの時期はいいのかもしれません。もちろん、受け取りたくないものはわたしたちの代で癒したり、手放したりしていくことですよね。
文/Saya
東京生まれ。1994年、早稲田大学卒業後、編集プロダクションや出版社勤務を経て、30代初めに独立。2008年、20代で出会った占星術を活かし、『エル・デジタル』で星占いの連載をスタート。現在は、京都を拠点に執筆と畑、お茶ときものの日々。セラピューティックエナジーキネシオロジー、蘭のフラワーエッセンスのプラクティショナーとしても活動中。著書に『占星術ブックガイド〜アストロロジャーとの対話集〜』(説話社)他。
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写真/野口さとこ
北海道小樽市生まれ。大学在学中にフジフォトサロン新人賞部門賞を受賞し、個展・グループ展をはじめ、出版、広告撮影などに携わる。ライフワークのひとつである“日本文化・土着における色彩” をテーマとした「地蔵が見た夢」の発表と出版を機に、アートフォトして注目され、ART KYOTOやTOKYO PHOTOなどアートフェアでも公開される。活動拠点である京都を中心にキラク写真教室を主宰。京都芸術大学非常勤講師。
ホームページ satokonoguchi.com
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AUTHOR
Saya
アストロロジー・ライター。東京出身、京都在住。早稲田大学卒業後、ライフスタイルの編集者を経て、アストロロジー・ライターに。「エル・デジタル」、「LEEweb」の星占いも好評。現在は、京都で夫と二人で暮らし、星を読み、畑を耕す傍ら、茶道のお稽古と着物遊びにいそしむ日々。新刊、『占星術ブックガイド〜星の道の歩き方、アストロロジャーとの対話集〜』(5500円/説話社)が好評発売中。
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