ご先祖さま探しで見つけた、京都・瑞泉寺との浅からぬご縁(4)呼ばれた理由は「秀次イヤー」のため

 ご先祖さま探しで見つけた、京都・瑞泉寺との浅からぬご縁(4)呼ばれた理由は「秀次イヤー」のため
Saya
Saya
2024-07-06

女性の人生の中で心身が大きく変化する”更年期”…何でも、日本女性がもっとも落ち込みやすいのは49歳だという統計もあるとか。でも、わたしは、50歳前後の複雑なはずの時期、自分の年齢をまったく気にせず、元気に過ごしてしまいました。むしろ京都に移住する前の40代半ばのほうがつらかった気がします。うまく切り抜けられたのは、京都に住んだおかげだったのかもしれない…と50代に入って数年経った今、すごく思うのです。この連載では、そんなわたしが40代、京都で見つけた「幸せの秘密」を探っていきたいと思います。

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(1)〜(3)では瑞泉寺との浅からぬご縁について、お話ししてきました。ご住職の中川龍学さんはイラストレーターでもあり、作家の万城目学 さんの『プリンセス・オブ・トヨトミ』の『週刊文春』の連載時には挿絵も描いていらしたという経歴のもち主。さすがお坊さんだけあって、突然、現れたわたしのあやしげな話にもていねいに耳を傾けてくださいました。そして、口をひらいたご住職は、これもまた驚いたことには、

「わたしには特段、霊的能力はないのですが、秀次の縁の方たちは、時にあなたのように、お姫さまが夢枕に立ったとか、やむにやまれぬ思いでおいでになる方がいます。実は、2024年は、秀次事件の430回忌に当たり、夏には京都国立博物館でミニ展を予定しています。そこで展示する寺宝を修復するために、春先にはクラウドファンディングもしますし、5月には落語家の柳家さん喬さんにお願いし、『雨月物語』の『仏法僧』の落語。6月には永観堂でご覧になった『安田登とノボルーザ』のメンバーで、『殺生塚』の創作能。ふたつの芸能の奉納もしていただきます。どちらも、秀次事件をモチーフにしたものです」

と言うではありませんか。決して見逃してはいけない、記念すべき「秀次イヤー」を霊界のねねさまがわざわざお知らせしてくださったのでしょうか。

野口さとこ

年明けからスケジュール帳に書き込んでいたおかげで、5月にはさん喬さんの落語、6月には「安田登とノボルーザ」の創作能を無事、堪能することができました。さん喬さんがすばらしかったのは、高野山で秀次とその側近たちの霊が酒盛りをするというおどろおどろしい怪談をとても楽しげに語ってくださったこと。「本当にそうだったら、どんなにいいだろう」とねねさまのような気持ちになり、思わず涙ぐんでしまいました。

「安田登とノボルーザ」の創作能に至っては、34人の殺された姫君たちひとりひとりをお人形に見立て、阿弥陀さまに運ばれていくという慰霊の儀式のような、かつて見たことがないものでした。慰霊だけで、ほとんど1時間がかり。それだけの人を斬る。しかも、若くてたおやかな、美しい女人たちを斬るという悲劇の重さを体感するかのようでした。とは言え、傍ではご住職の念仏も響いて、大地そのものを浄化するようなエネルギーに満ち満ちていました。

そう、奉納があったのは、瑞泉寺の本堂。安土桃山の時代には河原であって、姫君たちがまさにそこで殺され、穴に放り込まれていた。長らく塚にされていたという場所です。そんな悲しい場所が落語やお能を鑑賞した人たちの笑いや涙で清められ、姫君たちが阿弥陀さまとともに成仏される。そんな趣向のすばらしさに、いつしかわたしも泣き笑いのような顔になってしまっていました。

野口さとこ

仏教系の大学に進みながらも、祖父や父のように、このお寺を守っていく力が自分にあるのだろうかと悩み、若いときはマスコミの仕事をしていたというご住職。でも、その念仏には愛がこもっていましたし、非常にパワフルでした。

「秀次事件は、時の権力者の暴走を誰も止められなかったがゆえの悲劇です。世界中で似たようなことが起こっている今、秀次事件をわたしたちが思い出し、後世に語り継がなくてはいけない理由は、そこにあると思います」

というご住職の言葉が心に染みました。永観堂の浄土宗西山禅林寺派というのは、庶民のための仏教の流派だそうです。その精神を汲む瑞泉寺は、生きていくなかで傷ついた女性性のために祈り、癒しをしてくれるお寺であり、パワースポットだとわたしは思っています。実は、今回も瑞泉寺を訪れた直後に書籍の出版が決まったのです(しかも、以前、秀次事件の浄化をしてくださった大槻文彦さんのパートナー、大槻麻衣子さんとの共著です)。

さて、読者のみなさんには夏の夜の怪談のような、わたしの語りにお付き合いくださいまして、ありがとうございました。この夏、京都を訪れる予定のある方は、ぜひ京都国立博物館の展示や瑞泉寺にも足を運んでみてくださいね。お能の奉納時は、姫君たちの魂のようにブルーの紫陽花が光のなかで輝いて、怖いことはちっともありませんでした。そこにあるのは、傷ついたあまりに強がってしまうような、自分のなかのもっともやわらかい部分にも光を当ててくださるような、とても優しいエネルギー。権力者のためでも成功者のためでもない、犠牲になった罪もなき人たちのために祈ってくれるお寺だと思います。

 

「豊臣秀次公430回忌 豊臣秀次と瑞泉寺」展
・会期 2024年6月18日(火)〜8月4日(日) 
・時間 9:30〜17:00(受付終了16:30)※金曜日は〜20:00(受付終了19:30)
・休館日 月曜日(祝日の場合は翌日)
・場所.  京都国立博物館 平成知新館
瑞泉寺ウェブサイト

文/Saya

東京生まれ。1994年、早稲田大学卒業後、編集プロダクションや出版社勤務を経て、30代初めに独立。2008年、20代で出会った占星術を活かし、『エル・デジタル』で星占いの連載をスタート。現在は、京都を拠点に執筆と畑、お茶ときものの日々。セラピューティックエナジーキネシオロジー、蘭のフラワーエッセンスのプラクティショナーとしても活動中。著書に『占星術ブックガイド〜アストロロジャーとの対話集〜』(説話社)他。
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写真/野口さとこ

北海道小樽市生まれ。大学在学中にフジフォトサロン新人賞部門賞を受賞し、個展・グループ展をはじめ、出版、広告撮影などに携わる。ライフワークのひとつである“日本文化・土着における色彩” をテーマとした「地蔵が見た夢」の発表と出版を機に、アートフォトして注目され、ART KYOTOやTOKYO PHOTOなどアートフェアでも公開される。活動拠点である京都を中心にキラク写真教室を主宰。京都芸術大学非常勤講師。
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アストロロジー・ライター。東京出身、京都在住。早稲田大学卒業後、ライフスタイルの編集者を経て、アストロロジー・ライターに。「エル・デジタル」、「LEEweb」の星占いも好評。現在は、京都で夫と二人で暮らし、星を読み、畑を耕す傍ら、茶道のお稽古と着物遊びにいそしむ日々。新刊、『占星術ブックガイド〜星の道の歩き方、アストロロジャーとの対話集〜』(5500円/説話社)が好評発売中。



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