スモールファーマーズカレッジで農的暮らしを学ぶ(3) 精神的、物質的にバランスの取れた人生とは

 スモールファーマーズカレッジで農的暮らしを学ぶ(3) 精神的、物質的にバランスの取れた人生とは
Saya
Saya
2024-05-23

女性の人生の中で心身が大きく変化する”更年期”…何でも、日本女性がもっとも落ち込みやすいのは49歳だという統計もあるとか。でも、わたしは、50歳前後の複雑なはずの時期、自分の年齢をまったく気にせず、元気に過ごしてしまいました。むしろ京都に移住する前の40代半ばのほうがつらかった気がします。うまく切り抜けられたのは、京都に住んだおかげだったのかもしれない…と50代に入って数年経った今、すごく思うのです。この連載では、そんなわたしが40代、京都で見つけた「幸せの秘密」を探っていきたいと思います。

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岩崎さんから伝わってくるのは、「学ぶのは楽しい」という思い。英語やテニスを学んだことで、留学したりコーチをしたり、世界が広がり、たくさんの人とつながれた。そんな成功体験をもっているからこそ、興味のあるものに出会ったとき、どんどん学びたくなる。自分が学びたいからこそ、学びたい人の気持ちもわかるし、それを教えることもできる。ビジネスアイデアも生まれる。そんな岩崎吉隆さんのあり方は、異邦人であるわたしから見ると、とても京都のこのあたりらしい。期せずして、「京都で学ぶことが幸せの秘密だ」というコンセプトのもと始まったこの連載の、ひとりめのゲストとして、ふさわしいインタビューになりました。

京都で出会うわたしの先生たちは、教えるだけでなく、自分自身もつねに新しいことを学んでいるものなのですが、久しぶりにお目にかかる岩崎さんも、ご多分に漏れずという感じで、新しい学びのステージに進まれていました。現在は、京都大学の大学院、「地球環境学堂」で博士課程後期に在籍し、中山間地域の持続的農業のあり方について研究されているそうです。畑4反、田2反で自給的農業に加え、ニンジンも栽培し、出荷もしているうえ、家族の夕ご飯づくりまで担当しているほどなのに、どこにそんな暇があるのでしょうか。

「通勤電車で揺られて、朝から晩までオフィスにいたら消耗してしまい、無理だったかもしれませんね。でも、自然のリズムで好きなことをして暮らしていると、そこまでは疲れないんです」

 「スモールファーマーズカレッジ」の理念は、「農を通して自然に沿った生き方をする人(スモールファーマー)を増やし、物質的にも精神的にもバランスの取れた豊かな社会の創造に寄与すること」。岩崎さんのライフスタイルは、その理念をそのまま実践されているようです。

「高収入や自由な時間を手にするいわゆる〝社会的成功〟を目指したこともありますが、結局、それで得られるものはあまりなく、空虚感のほうが大きかったんです。スクールでは誰かが成長し、変わる瞬間に立ち会える喜びがある。そんなふうに日々、自分の個性を活かして、目の前の誰かのために小さな貢献をする生き方のほうが楽しいし、自然の摂理に沿っているんじゃないかなと感じたんですね。その結果として、物質と精神のバランスの取れた生活が手に入るのではないかと。

起業を勧めているわけではないんですが、会社員であっても、個性を活かして自分が本当にやりたいことを仕事にしたら楽しいですよ、と伝えたい。僕にできることがあれば、応援したいですね」

物質と精神のバランスは、わたし自身も「幸せなライフスタイルとは何か」、取材を続けるなかで、30年来、ずっと考えてきたことなので、深い共感を覚えました。

ただ、同じようなことを感じてはいても、わたしはせいぜい文章で伝えるくらいなのですが、岩崎さんは、「社会起業家」としてのマインドがある。「みんなができる仕組み」を考えて、学校を作って教えるところまで踏み込んでいくのですね。

お話ししているうちに頭に浮かんだのは、熱心な法華経信者で、農学校の教師でもあった宮沢賢治。岩崎さんも、まるで宗教家のように全員の幸せを考え、実際にみんなの困りごとを解決する「仕組み」を考え出してしまう方なのです。お話ししていると、「こんな男の人がいるなんて、まだまだ日本も捨てたもんじゃないなあ」という思いが湧いてきます。高齢化が進む日本の農業には課題が山積みですが、岩崎さんなら、きっとおもしろい「解」を導き出してくれるのではないでしょうか。

「いつも3〜5年で古い形態は破壊し、新しいことを始めている」という岩崎さんが今後、何を学びたいと思うのか、またワクワクさせてくれる新しい学校を作るのか、とても楽しみにしています。

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文/Saya

東京生まれ。1994年、早稲田大学卒業後、編集プロダクションや出版社勤務を経て、30代初めに独立。2008年、20代で出会った占星術を活かし、『エル・デジタル』で星占いの連載をスタート。現在は、京都を拠点に執筆と畑、お茶ときものの日々。セラピューティックエナジーキネシオロジー、蘭のフラワーエッセンスのプラクティショナーとしても活動中。著書に『占星術ブックガイド〜アストロロジャーとの対話集〜』(説話社)他。

ホームページ sayanote.com
Instagram     @sayastrology

写真/野口さとこ

北海道小樽市生まれ。大学在学中にフジフォトサロン新人賞部門賞を受賞し、個展・グループ展をはじめ、出版、広告撮影などに携わる。ライフワークのひとつである“日本文化・土着における色彩” をテーマとした「地蔵が見た夢」の発表と出版を機に、アートフォトして注目され、ART KYOTOやTOKYO PHOTOなどアートフェアでも公開される。活動拠点である京都を中心にキラク写真教室を主宰。京都芸術大学非常勤講師。

ホームページ satokonoguchi.com
Instagram  @satoko.nog

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アストロロジー・ライター。東京出身、京都在住。早稲田大学卒業後、ライフスタイルの編集者を経て、アストロロジー・ライターに。「エル・デジタル」、「LEEweb」の星占いも好評。現在は、京都で夫と二人で暮らし、星を読み、畑を耕す傍ら、茶道のお稽古と着物遊びにいそしむ日々。新刊、『占星術ブックガイド〜星の道の歩き方、アストロロジャーとの対話集〜』(5500円/説話社)が好評発売中。



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