「女性の嗜み」の豊かさ、その根源にあるものを冨田屋さんで聞く【連載|京都で見つけた幸せの秘密】


女性の人生の中で心身が大きく変化する”更年期”…何でも、日本女性がもっとも落ち込みやすいのは49歳だという統計もあるとか。でも、わたしは、50歳前後の複雑なはずの時期、自分の年齢をまったく気にせず、元気に過ごしてしまいました。むしろ京都に移住する前の40代半ばのほうがつらかった気がします。うまく切り抜けられたのは、京都に住んだおかげだったのかもしれない…と50代に入って数年経った今、すごく思うのです。この連載では、そんなわたしが40代、京都で見つけた「幸せの秘密」を探っていきたいと思います。
「京都の一人前」として認められるには、「英会話、茶道、着付け」というホスピタリティの3点セットが当たり前だというお話をしてきましたが、東京で忙しく働いていた頃の30代のわたしは、頭でっかちにジェンダーフリーを考えるところがありました。そのため、英会話はともかく、茶道や着付けには憧れつつも、「女性の嗜み」として押し付けられると、反発を感じてもいたのです。でも、京都では素敵な女性がたくさんいて、「あんなふうになりたい」と素直に思える。「女性の嗜み」は、自分を豊かにしてくれるのだというようにとらえ方が変わったのです。
そんななかで気になっていたのが京都・西陣の「西陣くらしの美術館・冨田屋」さんの「きものマナースクール」。外国人や旅行者向けのお食事や日本文化体験のイメージがあったのですが、こちらは日本人向け。昔なら、暮らしのなかで、祖母や母親に教えてもらったような風呂敷や帛紗の使い方、きものを着たときの所作などを12回(希望者は24回)で教えてくださるそうです。

「女性らしさとは経験からあふれる知性だと思います」
「女性として大切な嗜みとは? 」というわたしの問いに答えてくださったのは、冨田屋代表の田中峰子さん。
「女性の美しさとは見た目だけのものではない。いろんな学びから自分の考えが生まれてきて、そのなかから生きた美しさが生まれるんですよ。日本文化体験のマナースクールを始めたのもそのため。お茶、きもの、お花、お能鑑賞など、さまざまな体験をするなかで、自分に何が向いているか、何が楽しいか、見つけ出してほしくて。京都にいらしても、自分磨きのための旅をしていただけたら素敵だなと思っています。生きるというのは自分を磨いていくことだと思いますから」
そのとき大切にされているのが学ぶ空間です。
「ビルのなかで教えてもらうより、町屋のような環境が整うなかでの経験のほうが静けさのなかに感じるものがあって、心が整ってくると思うんですよ。先生の言われたとおりにやることもなくて、こう構えたほうが美しく見えるなとか、自分で感じていける。そうした力が体験で育っていくんです」
田中さんが何より大切にされているのは、〝暮らし〟。
「わたしたちが伝えているのは、暮らしのなかで継承されてきたもの。学者先生が研究したようなものではないの。そして、昔の日本人の暮らしにはね、どこのうちにも、家族の安全を思う〝願いと祈りと感謝〟があったのよ」
この言葉を聞いたとき、この連載でわたしが考えてきたことが頭のなかで、一本の線となって、大げさでなく、雷鳴が光るような感動がありました。

京都の街に今も残る四季の行事やお祭り、そこに賭ける京都人の心意気は感じてきたつもりだったけれど、でも、街のあり方とは本来、家庭のあり方と相似形だったのだと。ひとつひとつの家庭で、眼の前にいる家族はもちろん、ご先祖さまや子孫まで含めて、安全を願い、祈りを捧げ、無事に過ごせたことに感謝する、そうした愛があってこその京都だし、昔の日本の暮らしだったのだなと腑に落ちたのでした。
「日本人のホスピタリティ、優しく、思いやりがあるという気質は、こういう暮らしがあってこそなのよ。疫病を退散させ、邪気を祓ってね。そうした精神を大切に次の世代に伝えていきたいの」
田中さんの言葉をきちんと受け取ることができたのも、この空間で過ごしたあとだったからかもしれません。障子越しの優しい光、開け放った窓から入るしんとした11月の空気、ぎしっぎしっと鳴る板間の廊下、子どもたちが隠れんぼをしていそうな、蔵の重い扉……冨田屋さんでの田中さんとの出会いは、それらがまさに体験として、わたしのなかに落ちていった、心で感じる時間でもありました。
「西陣くらしの美術館・冨田屋」https://tondaya.co.jp/wadokai/
→【記事の続き】ホスピタリティの秘密をさらに知りたくて、煎茶道のレッスンへ【連載|京都で見つけた幸せの秘密】、はこちらから。
文/Saya
東京生まれ。1994年、早稲田大学卒業後、編集プロダクションや出版社勤務を経て、30代初めに独立。2008年、20代で出会った占星術を活かし、『エル・デジタル』で星占いの連載をスタート。現在は、京都を拠点に執筆と畑、お茶ときものの日々。セラピューティックエナジーキネシオロジー、蘭のフラワーエッセンスのプラクティショナーとしても活動中。著書に『わたしの風に乗る目覚めのレッスン〜風の時代のレジリエンス』(説話社)他。
ホームページ sayanote.com
Instagram @sayastrology
写真/野口さとこ
北海道小樽市生まれ。大学在学中にフジフォトサロン新人賞部門賞を受賞し、個展・グループ展をはじめ、出版、広告撮影などに携わる。ライフワークのひとつである“日本文化・土着における色彩” をテーマとした「地蔵が見た夢」の発表と出版を機に、アートフォトして注目され、ART KYOTOやTOKYO PHOTOなどアートフェアでも公開される。活動拠点である京都を中心にキラク写真教室を主宰。京都芸術大学非常勤講師。
ホームページ satokonoguchi.com
Instagram @satoko.nog
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