聖と俗の狭間に立ち、地域を守るお地蔵さま【連載|京都で見つけた幸せの秘密vol.16】

 聖と俗の狭間に立ち、地域を守るお地蔵さま【連載|京都で見つけた幸せの秘密vol.16】
写真/野口さとこ
Saya
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2024-11-16

女性の人生の中で心身が大きく変化する”更年期”…何でも、日本女性がもっとも落ち込みやすいのは49歳だという統計もあるとか。でも、わたしは、50歳前後の複雑なはずの時期、自分の年齢をまったく気にせず、元気に過ごしてしまいました。むしろ京都に移住する前の40代半ばのほうがつらかった気がします。うまく切り抜けられたのは、京都に住んだおかげだったのかもしれない…と50代に入って数年経った今、すごく思うのです。この連載では、そんなわたしが40代、京都で見つけた「幸せの秘密」を探っていきたいと思います。

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この連載のパートナー、写真家の野口さとこさんがライフワークとして取り組まれているのがお地蔵さまのアートワーク。地域のお地蔵さまをめぐる撮影ツアーを企画されたり、夏には京都・亀岡でお地蔵さまをテーマに二人展をされたり。その様子が京都新聞で紹介されるなど反響も大きいそうで、生半可ではない〝お地蔵さま愛〟を感じます。それは作品にも表れていて、何ともぬくもりを感じるのです。展示にお邪魔したときには、野口さんの活動を知ったマニアの方がわざわざ福井からおいでになって、お地蔵さまについて熱く語られている方の様子も目の当たりに。お地蔵さまの魅力について、一度、じっくりお話を聞いてみたいなと思っていました。

「お地蔵さまって、地蔵菩薩とされているのですが、ほかの仏さまよりも庶民に寄り添っているものなんです。芸術作品というわけではないし、鑑賞するものでもない。そこがまず惹かれる点ですね」と野口さん。

野口さとこ

民俗学のフィールドワークのような楽しみもあるそうです。

「お地蔵さまは、村と村の間、辻と辻の間に立って、疫病など邪悪なものを入れないように守ってくれていることが多いのですが、京都でのありかたと東京のありかたと。ちょっとずつ役割が違うんですよね。京都では〝地蔵盆〟と言われる町内のお祭りが残っているんですね。地域の人たちだけが愛でてきたもので、人間関係が希薄になっているなかで、お地蔵さまが地域の人を結びつけてきた面があります。わたしが知るかぎり、東京ではお地蔵さまのために町内の人が集まることはないんですけど、旧街道の道標とかお寺のなかとかに残っている。ほかのエリアに目を向けても、苗字のあるお地蔵さまがいたり、遠くからお地蔵さまのご利益を求めて来る人もいたり、お地蔵さまが社会的な存在になっている。そこがすごくおもしろい」

最近、追い求めているのは化粧地蔵。

「お化粧をされたり、服を着せてもらったりしているお地蔵さまがいるんですね。近所のおばあちゃんがセーターを着せたり、自分の孫みたいに可愛がったりしている。地域ごとの違いもおもしろいですし、仏さまなのに、マスコットのような存在のゆるさ、人間との距離の近さも、聖と俗の狭間にいると言うか。そんなところも好きですね」

野口さとこ

お地蔵さまが野口さんにくれたものは何でしょうか。

「もともと好きになると、長く付き合うタイプですし、コレクション欲もあって。物はあまり買わないけれど、お地蔵さまの写真が増えていくだけで嬉しい。それに、〝お地蔵さま好き〟ってあまり多くないから、出会ったときにそれだけで仲よくなれるんですよね。お地蔵さまは、便利な現代社会では言わば、忘れられた、消えゆく存在でもあるかもしれませんが、ひっそりと見守ってくれている。そんな彼らを撮影したり、魅力を語り合ったりすることで、お地蔵さまたちを元気にしてあげられるような、そんな感じもあるんです」

野口さんに写真を撮っていただくと、どんな物でも人でも魅力をもち始める。そう、道端の石ころひとつでも。時には見えないもの、精霊たちの気配まで映っている。ご一緒していると、そんな気持ちになるし、どの写真にもじんわりした愛を感じるのですが、お地蔵さまのまなざしともどこか似ているのかもしれません。都会の片隅に。田舎の集落の辻に。何も求めることなく、そっとたたずんでいるお地蔵さまこそ、実は、わたしたち現代人の孤独を癒してくれる存在なのかもしれませんね。

文/Saya

東京生まれ。1994年、早稲田大学卒業後、編集プロダクションや出版社勤務を経て、30代初めに独立。2008年、20代で出会った占星術を活かし、『エル・デジタル』で星占いの連載をスタート。現在は、京都を拠点に執筆と畑、お茶ときものの日々。セラピューティックエナジーキネシオロジー、蘭のフラワーエッセンスのプラクティショナーとしても活動中。著書に『占星術ブックガイド〜アストロロジャーとの対話集〜』(説話社)他。
ホームページ sayanote.com
Instagram     @sayastrology

写真/野口さとこ

北海道小樽市生まれ。大学在学中にフジフォトサロン新人賞部門賞を受賞し、個展・グループ展をはじめ、出版、広告撮影などに携わる。ライフワークのひとつである“日本文化・土着における色彩” をテーマとした「地蔵が見た夢」の発表と出版を機に、アートフォトして注目され、ART KYOTOやTOKYO PHOTOなどアートフェアでも公開される。活動拠点である京都を中心にキラク写真教室を主宰。京都芸術大学非常勤講師。
ホームページ satokonoguchi.com
Instagram  @satoko.nog

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アストロロジー・ライター。東京出身、京都在住。早稲田大学卒業後、ライフスタイルの編集者を経て、アストロロジー・ライターに。「エル・デジタル」、「LEEweb」の星占いも好評。現在は、京都で夫と二人で暮らし、星を読み、畑を耕す傍ら、茶道のお稽古と着物遊びにいそしむ日々。新刊、『占星術ブックガイド〜星の道の歩き方、アストロロジャーとの対話集〜』(5500円/説話社)が好評発売中。



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