ホスピタリティの秘密をさらに知りたくて、煎茶道のレッスンへ【連載|京都で見つけた幸せの秘密】


女性の人生の中で心身が大きく変化する”更年期”…何でも、日本女性がもっとも落ち込みやすいのは49歳だという統計もあるとか。でも、わたしは、50歳前後の複雑なはずの時期、自分の年齢をまったく気にせず、元気に過ごしてしまいました。むしろ京都に移住する前の40代半ばのほうがつらかった気がします。うまく切り抜けられたのは、京都に住んだおかげだったのかもしれない…と50代に入って数年経った今、すごく思うのです。この連載では、そんなわたしが40代、京都で見つけた「幸せの秘密」を探っていきたいと思います。
「英会話、茶道、着付け」という「京都の一人前、当たり前」の裏にあるのは、〝暮らし〟であり、〝願いと祈りと感謝〟という精神にある。それが連載タイトルの「幸せの秘密」にもつながるのかもしれないという気づきが訪れるなか、次に向かったのは、煎茶道・東阿部流の体験ができる「雅翠庵」。北野天満宮近く、自然光の降り注ぐ町屋の一室に、大垣翠敬先生をお尋ねしました。
「お抹茶のほうの茶道もまだまだなのに、煎茶道まで? 」と思う向きもいるはずですが、最近、個人セッションにいらしたお客さまにお抹茶をふるまうことがあるのですが、とても喜んでいただけるのですね。より気軽な印象のある「煎茶」や「玉露」も、おいしく入れられるようになりたいという思いがあり、「茶の湯」とは違うお茶についても、興味が出てきていたのです。そんな興味本位の訪問ではありましたが、この日は海外からのゲストをおもてなしするためにお家元がおいでになっていて、煎茶道の魅力について、お話を伺うことができました。
「そもそも、煎茶道は、江戸時代、文人墨客が中国古代の文人たちに憧れて、絵を描いたり、詩を読んだりしつつ、お茶をいただいたことに始まります。俗を嫌うと言うのでしょうか。仙人になりたい。時空を超えた、文人の世界に入りたいと憧れたんですよ。自分の心のためにやっていたし、自分と同じ心をもった人をもてなすためにやっていたんですね」
と東阿部流五世の土居雪松お家元。

大垣先生は、こう話されます。
「わたしは自由人なせいか、煎茶道の懐の広さにも惹かれました。煎茶道の大寄せのお茶会では違う流派でも集まって、めいめいが自分の流派の作法でいただいても大丈夫なんです。東阿部流では玉露を淹れる点前が多いんですけど、お点前どおりにやると、本当においしいお茶が入るんですよ。同じ茶葉を使っても、人によって味や風味が違って、不思議なんです。一煎目は玉露、二煎目の代わりにお酒というお点前もあって、酒席ではおつまみが出て、燗酒(ルビかんざけ)をいただいてね」
おふたりが口を揃えるのは、「煎茶道は自由」ということ。基本の所作やお点前以外、細かなルールがないそうです。
「掛け軸も、〝茶の湯〟では拝見と言うでしょう。でも、煎茶道では〝鑑賞〟なんですよ。恭しく敬うものという雰囲気ではないことの表れですね」
とお家元。

「ホストとゲストが対等ということでしょうか」とお尋ねすると、「対等。うん、そうかもしれないな。誰が上でも下でもない、自由なもてなしなんですよ」というお答え。わたし自身は、裏千家のお稽古場にお邪魔しているので、お家元を敬い、信じて尽くす先生の姿勢も素敵だなと思うところなのですが、煎茶道の「自由」にも新しい魅力を感じました。実際にお点前を体験させていただくと、なんだか楽しい! 煎茶道は、江戸時代に始まり、明治・大正期に爆発的に広がったと言います。武家の世から、平民の世になったときに、気軽な煎茶道が流行ったのはわかる気がしますよね。
このように掘れば掘るほど、おもしろい京都のホスピタリティマインド。上を目指し、コツコツ登っていくような〝茶の湯〟の世界とはまた違う、フラットで自由な煎茶道の世界。日本語学校にも力を入れ、海外交流のプラットフォームを作ろうとする英会話スクール。伝統の箱にとどまらず、〝暮らし〟という体験を届けようとする町屋さん。今回、取材させていただいたみなさんが一様に、「体験、自由、多様性の大切さ」を語られていたのも印象的でした。星占いの書き手としては、始まったばかりのみずがめ座冥王星の時代の空気ともシンクロしている気がしています。「京都の当たり前」を取材に行ったつもりが、みなさん、何年も前から、「当たり前を超えていこう」と常にやってきて今があることも、なんだか京都らしい。古いものを大切にしながらも、常に変えていくことで生き残ってきた街の知恵というものがこの街で活動する人たちの心に息づいているのを肌で感じたことでした。
煎茶道教室・東阿部流 http://www.higashiaberyu.or.jp/
大垣翠敬先生 https://peraichi.com/landing_pages/view/suikei/
文/Saya
東京生まれ。1994年、早稲田大学卒業後、編集プロダクションや出版社勤務を経て、30代初めに独立。2008年、20代で出会った占星術を活かし、『エル・デジタル』で星占いの連載をスタート。現在は、京都を拠点に執筆と畑、お茶ときものの日々。セラピューティックエナジーキネシオロジー、蘭のフラワーエッセンスのプラクティショナーとしても活動中。著書に『わたしの風に乗る目覚めのレッスン〜風の時代のレジリエンス』(説話社)他。
ホームページ sayanote.com
Instagram @sayastrology
写真/野口さとこ
北海道小樽市生まれ。大学在学中にフジフォトサロン新人賞部門賞を受賞し、個展・グループ展をはじめ、出版、広告撮影などに携わる。ライフワークのひとつである“日本文化・土着における色彩” をテーマとした「地蔵が見た夢」の発表と出版を機に、アートフォトして注目され、ART KYOTOやTOKYO PHOTOなどアートフェアでも公開される。活動拠点である京都を中心にキラク写真教室を主宰。京都芸術大学非常勤講師。
ホームページ satokonoguchi.com
Instagram @satoko.nog
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