ようやく元気に動けるようになった今の私だからこそ言えること。「自分で選ぶこと」はなぜ大事なのか

ようやく元気に動けるようになった今の私だからこそ言えること。「自分で選ぶこと」はなぜ大事なのか
Naoki Kanuka(2id)
宮井典子
宮井典子
2025-09-30

ピラティスインストラクターの宮井典子さんは、全身性エリテマトーデス(SLE)患者としてメディアで啓蒙発信しながら、心地よい暮らしと働き方を模索しています。そんな宮井さんによるエッセイ連載『"生きる"を綴る』です。

広告

決して「意識高い人間」を目指しているわけではありません。

ただ、せっかくここまで元気になれたのだから、ようやく動ける体を取り戻せたのだから、せめて自分の意思で選べるものくらいは、からだに良いものを選びたいと思っています。

若い頃は、仕事が忙しくても、たとえ睡眠が足りなくても、なんとかなったのが正直なところ。多少の無理がきく年齢。だから、「からだのために」とか「からだに良いもの」を選ぶという発想は、ほとんど持ち合わせていなかったように思います。

食べるものも、運動も、気分や手軽さを優先していました。それで体調を崩すことはあっても、深刻に考えることは少なかったのです。

歳を重ね、経験を通して「健康」とは、与えられるものではなく、自らの意思で日々選択していく積み重ねでしかないのだと実感するのです。

持病と付き合い、手術やリハビリを経て、ようやく元気に動けるようになった今だからこそ、意識しているのは“自分の意思で選ぶ”ということ。

寝たきりの生活をしていた頃、選択肢は驚くほど少なくなりました。

何を食べたいかよりも「何が食べられるか」。今日、何をするのかを考えるよりも「今日は何ができるのか」。

股関節の痛みが悪化したときは、どこに行きたいかよりも「どこまで歩けるのか」を考えることが精一杯でした。

日常のひとつひとつが「選ぶ」ことより「できることを探す」ことで、私は選択することさえもできませんでした。選ぶことを諦めるしかなかったのです。

だからこそ今は、動けることが当たり前ではないと知ったうえで、動ける体があること、歩けることや動けることに感謝をし、自分で選べることの有り難さや尊さをひしひしと感じています。

たとえば、食べ物ひとつを取っても、食材を手に取り、色や香り、季節感を楽しみながら、「今日の体に必要なものは何か」と問いかける時間は、以前の私にはありませんでした。

何よりも「手軽さ」や「気分」だけで決めていたことが、今では「これを食べたら体は喜ぶかな?」と一呼吸置いて考えるようになったことは、歳を重ねて労わることを覚えたからかもしれません。

運動も同様です。人それぞれ性格も思考も環境も背負っているものも違います。

だからこそ“今の自分に合うかどうか”を基準にし、自分に必要なのかを問いながら、自らの意思で選ぶことが大切。完璧でなくてもいい。

小さな日々の積み重ねが「体のために良いことをしている」という自分自身への自信になり、それが毎日の励みにつながっています。

たとえば、今日は少し足を伸ばして散歩に出てみよう、昨日より歩く距離を一歩増やしてみよう、といった小さな積み重ねが、確実に未来の自分を作っていきます。

私はSLE(全身性エリテマトーデス)の当事者です。

SLEは病状も症状も多岐にわたり、治療経過は人によって大きく異なります。

活動期か寛解期か、どんな薬を使っているかによっても注意点は変わります。

一般的にはステロイドを5mgまで減らすとムーンフェイスやバッファロー肩は落ち着くとされますが、症状が残る人もいれば、最初から出にくい人もいます。

私は頭頂部の薄毛や脱毛に悩まされましたが、うらやましいことにまったく髪の悩みがない人もいますし、季節やお天気、日によって倦怠感や疲労感を感じる人もいれば、さほど影響を受けない人もいます。

これほどまでに個人差が大きいがゆえに、運動や食事も「良いものだから万能」と一括りにはできません。

やみくもに始めるのではなく、始める時期や内容を誤れば、かえって体に負担を与えてしまうこともあります。

だからこそ大切なのは、自分に合ったものを見極める“選ぶ力”です。

生き方のすべてを変える必要はありません。

散らかった部屋の隅を少し片づけるように、日々の選択をほんの少しずつ変えていく。

それだけで未来は少しずつ形を変えていきます。

今、私が考える「健康」とは、ただ病気がない状態を指すのではありません。

身体のために、自分で選んだことが自分を心地よくしてくれる。

その実感を日々持てること。

それが今考える私にとっての“健康観”です。

この体で生きていくために。

そしてこれからも歩き続けるために。

せっかく元気に動けるようになった今だからこそ、せめて自分の意思で選べるものくらいは、からだに良いものを選んでいきたい。

その積み重ねが、未来の自分を作っていくのだと思います。

10年後、20年後の自分が、どんな体で、どんな表情で、どんな暮らしを送っているのか。その姿を想像するだけで、今日も小さな選択を積み重ねる力が湧いてきます。

歩き続けること、食べること、選ぶこと。

そのひとつひとつが、未来の自分への投資になるのだと感じています。

広告

RELATED関連記事