自己注射を始めて1年。できることとできないことの間で、私が今、考えていること #生きるを綴る
ピラティスインストラクターの宮井典子さんは、全身性エリテマトーデス(SLE)患者としてメディアで啓蒙発信しながら、心地よい暮らしと働き方を模索しています。そんな宮井さんによるエッセイ連載『"生きる"を綴る』です。
自己注射を始めて1年が経ちました。正確に言えば1年と2カ月。
すでに1年を超えているので、そろそろ慣れてもいい頃なのに、慣れたことと言えば手順や心意気だけ。痛みはどれだけ繰り返しても未だに慣れません。
やるたびに「あーーどうか、どうか1日も早く慣れますように」と心の中でお願いをしてひと呼吸して臨みます。
自己注射を筆頭に、再燃後、新しい治療方針と治療計画のもとに治療が始まり、段階を追って自己注射を開始したわけですが、痛みの我慢はあるにせよ病状は驚くほど安定しました。
プニョプニョしていた手指の第二関節のむくみや炎症は落ち着いて、みんなが当たり前にしているような握り拳を、ギューっと握りしめられるようになりました。
しばらく入らなかった指輪もすんなり入るようになったし、鈍い痛みに耐えながら履いていたシューズも悩まず好きなものが履けるようになりました。
手指の炎症と痛みがなくなったおかげで包丁が握れるし、ペンを持って字が書けるし、ペットボトルの蓋が好きなときに開けられる。
スーパーの薄いビニール袋ももたもたせず開けられる。
レジで小銭を掴めなくて焦るあの独特な空気感ともさようならだし、毎日、誰かに、何かしらお願いしなきゃいけなかった申し訳なさから解放されたという喜びは言葉で表す以上に嬉しいことです。
そういえばこんな生活は発病して以来?膠原病予備軍以来かもしれない。ということはかれこれ10年以上振り。
間違いなく、確実にQOL (生活の質)はあがりました。
当然、数値は良好。
病状はこれまでとは比べものにならないくらい安定し、QOLは上がって喜びに満ちているにもかかわらず一方で相変わらず体力が回復しないことにわたしはずっと、ずっと悩んでいます。
想像していたよりも体力が回復しないのです。
17年間ピラティスインストラクターとして日常的に体作りはしていたし、もともと体を動かすことは好き。さかのぼれば子どもの頃から何かしら運動をしていたので、体力は割とあると自負していたけれど、今のわたしには階段さえも登るのがやっと。一歩一歩踏みしめてようやく登れるという感じです。
先日、家族で行ったハイキングでもめちゃくちゃやる気があるのに足が上がらない。あと1歩が上がらなくて、立ち止まって泣いてしまうほど…こんなことすら今は出来なくて、悔しくて情けなかった。
体力がないということは色んなことに影響が出るもので、滅多にひかなかった風邪も頻繁にひくようになりました。
風邪を引いても回復が早ければ問題ないのですが、体力がないばかりに寝込むことなんてザラ。
そうすると再び筋肉、筋力が落ち負のスパイラルへと陥ってしまうのです。
1歩進むのはやっとなのに後退は一瞬。
いとも簡単に2歩も3歩も下がって、せっかく積み重ねてきた日々の努力があっという間にゼロに戻ってしまう現実にさすがのわたしも自信をなくしてしまいます。
そんなことを繰り返しながら療養生活2年目。
何も特別なことではなく、今の状態や状況は仕方がないことなんです。
振り返れば、再燃したであろう時期はほぼベッドで横で2カ月過ごしました。
この間、徐々に食事が取れなくなって、緊急入院の直前には水すら飲めない状態。
そこから入院し、最初の数日は車いすで移動、その後はリハビリ兼ねて歩くようになったもののコロナ禍で入院中の1カ月はほとんどベッド。
となると、入院前の期間を含む約3カ月は栄養が不足した身体で、しかも活動量がほぼない状態で過ごしていたわけですから、誰が見ても良い状態とは言えない。筋肉低下や筋萎縮が起きているのは明らかです。
人間の筋力は1週間の安静で10〜15%、1カ月程で50%まで落ちると言われていて、一説によると回復するにはその3倍以上の時間を要するとも言われています。
一度失ったところから回復するには時間が必要なのは仕方がないことですねよね。
だから諦めず、やっとここまでこれたんです。
いつか、絶対階段をスイスイ登れるところまで回復してみせる!!!
アクティブに動いていた頃のわたしを知ってる人は今の姿を見て、もしかしたら「気の毒ね。かわいそうね」と思うかもしれないけれど、今のわたししか知らない人はこの過程が励みになると応援してくれる。
情けない姿も何年か経った頃に「懐かしいね」と言えたら最高です。
応援してくれる人のためにも、家族のためにも、自分自身のためにも必ず復活したい。
昨年の【どうか知ってほしい、ステロイド筋症のこと。】でも書いた、わたしが掲げている人生のテーマ"自分の目で景色をみて、自分の手でごはんを食べて、自分の足で歩き続けること"。これを達成するために簡単な運動を届ける準備を始めていると書きました。
わたしと同じようにステロイド筋症に悩む低体力者を対象したQOL維持のためや社会復帰のための運動の提案。
筋肉をつけて体力を取り戻し、機能を回復させることでいかにQOLを下げず落とさず毎日をよりよく過ごすか。
これは今もなお考えてることです。
たとえば、万が一災害が起きたら、わたしは子どもを守れる体力があるのだろうか?自分自身で逃げ切ることが出来るだろうか?
子どもを守ること、自分で身を守ることが出来る最低限の体力を養っておかないと、いざというときに家族に迷惑が掛かるわけです。
せっかく病状が改善しQOLが上がったのに、体力がなくてQOLが下がるなんてつらい。
だから、わたしはこれからも生きてくために体力をつけていくのです。
治療をしながら人生100年時代を生きられるのか?わたしは人生100年時代のちょうど半分。
正直なところ、どれだけ生きられるかなんてわからない。そんな先のことは誰にもわからない。
ただ言えることは、先がわからないからこそ楽しみたいと思うのです。
AUTHOR
宮井典子
SLE Activistとして活動。37歳のときに膠原病予備軍と診断される。38歳で結婚し、39歳で妊娠、出産。産後4カ月で仕事復帰し、ピラティスのインストラクターとして精力的に活動。46歳のときにSLE、シェーグレン症候群を発症。現在は、誰もが生きやすい社会を目指してSNSを中心に当事者の声を発信。
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