ステロイドのこと、病気への誤解…正義を振りかざして私達を傷つけないでほしい|連載"生きる"を綴る

 ステロイドのこと、病気への誤解…正義を振りかざして私達を傷つけないでほしい|連載"生きる"を綴る
Naoki Kanuka(2iD)
宮井典子
宮井典子
2023-12-06

ピラティスインストラクターの宮井典子さんは、全身性エリテマトーデス(SLE)患者としてメディアで啓蒙発信しながら、心地よい暮らしと働き方を模索しています。そんな宮井さんによるエッセイ連載『"生きる"を綴る』です。

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「私は健康である」と言える人は世の中にどれくらいいるのだろう。

かく言うここ数年の私も『健康』というキーワードにはとても敏感であることには間違いありません。

免疫調整剤や免疫抑制剤、自己注射、毎朝、毎晩、月一回服用する薬の他に自己注射。

これを薬漬けと揶揄する人もいるけど、どれも生き続けていくために必要なものです。

みなさんもご存じの通り、長期間ステロイドを服用することによる弊害は数知れず、それに加えてゆらぎ世代真っ只中。

年齢からしてもステロイドの影響を考えると、ここはなるべく早く長期服用から離脱したいと考えるのが当然のこと。

主治医と相談し、体調を最優先に考えながら今に至るまで減薬してきました。

有難いことに減薬は順調に進んできたのですが、5mgを切った秋辺りから体がなかなか慣れず、適応しない日が度々ありました。

数字で表すとたった1mgなのに、その1mgが難しい。たった1mgを減らすことがこれほどまでにツラいのか…と思ったほどです。

「ステロイドを減らせるものなら1日でも早く、今すぐ減らしたい」と思う一方で「減らすことで体がこんなにしんどいのなら、いっそこのままでもいいのかも」という膨らむ矛盾に悩んだりもしました。やるせないツラさは当事者にしかわからないでしょう。

そんな中、たびたび見かけるステロイドは悪という刃物のような言葉。

実際「飲まない方がいいよ」とか「早く止められるといいね」など、一切悪気はなく、むしろ体を心配して助言してくださる方もいらっしゃいましたが、私が罹患している全身性エリテマトーデス(SLE)の治療にはステロイドが欠かせません。

変わりゆく自分であって自分じゃない姿を見るたびに「飲む必要がなければ今すぐやめてしまいたい」と、何度も何度も思ったことです。

副作用がとれだけの影響を及ぼすかは当事者なら嫌というほど理解しています。だからこそ何気ない言葉に傷つき、胸を痛めるのです。

これまでだって「本当にステロイドを減らせる日がくるのだろうか?」「減らして再燃することはないのだろうか?」と不安に駆られた日をたくさん過ごしてきて今に至ります。

それでも今を生きていくためには続けていくしかないのです。

これは全身性エリテマトーデス(SLE)に限った話ではなく、ステロイドを服用する当事者は様々な不都合さやツラさや痛みを抱え、そして日々悩み、葛藤しながら生きているはずです。

だからこそ日頃、病気とは程遠いところにいると思っている人に知ってほしい。届いてほしい。

ここで冒頭の問い「『私は健康である』と言える人は世の中にどれくらいいるのだろう」に戻るのですが、おそらくこの「健康である」には認識の違いがあって「病気じゃないから、わたしは健康だ」と思われているかもしれません。

ですが、世界保健機関(World Health Organization:WHO)では健康についての定義がきちんと示され、世界中で広く使われています。

「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます」

多くの人は「病気だから健康ではない」と考えがちですが、決してそうじゃない。

病気だからといって何かが足りないわけでも、劣ってるわけでも、価値がないわけでもないのです。必要以上に悲観しなくていいんです。

社会がもつ一般的な病気のイメージは、不摂生・怠け者・暴飲暴食・自己管理が出来てないといったような事実と異なるものも多いように思います。

病気によっては理由や原因が解明されていないものがある一方で、時代によって解明されてきたこともたくさんあり、時代と共に情報は変化してきています。

未だに必ず遺伝するものと断定したり、倦怠感をはじめとする病気による副作用や薬による副作用を理解せず怠け者と言ったり、ステロイドによる体重の増加を罵ったりするのは偏見と誤解そのものです。

命に関わるセンシティブな問題だからこそ、正義を振りかざして私達を傷つけないでほしいと心から願うのです。

 

世の中にある

#偏見と誤解をなくそう

 

そして、あなたの身近なところにもいるかもしれない

#難病患者の取り巻く環境を

#みんなで考えよう

 

そんな言葉を広めたいです。

 

いつ誰が病気になるかわかりません。当事者になることだってあるかもしれない。もしかしたら、支える家族になるかもしれない。

だからこそ他人事ではなく、一人一人が想像して、その先を考えることが大切なのです。

自分の周りの人に知ってもらうことでお互い過ごしやすくなったり、働きやすくなったり、人間関係が円滑にまわったりするかもしれません。

その「かもしれない」に私達はわずかな希望を持って生きています。

多様な社会は、ひとりひとりの思いやりが育むもので、私達の意識が未来へと繋がります。

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AUTHOR

宮井典子

宮井典子

SLE Activistとして活動。37歳のときに膠原病予備軍と診断される。38歳で結婚し、39歳で妊娠、出産。産後4カ月で仕事復帰し、ピラティスのインストラクターとして精力的に活動。46歳のときにSLE、シェーグレン症候群を発症。現在は、誰もが生きやすい社会を目指してSNSを中心に当事者の声を発信。



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