運動指導者の私が病気の公表に葛藤していた理由|"多様な社会"に必要な"多様な働き方"を考える

 運動指導者の私が病気の公表に葛藤していた理由|"多様な社会"に必要な"多様な働き方"を考える
Naoki Kanuka(2iD)
宮井典子
宮井典子
2023-04-19

ピラティスインストラクターの宮井典子さんは、全身性エリテマトーデス(SLE)患者としてメディアで啓蒙発信しながら、心地よい暮らしと働き方を模索しています。そんな宮井さんによるエッセイ連載『"生きる"を綴る』、今回は自身の病気を公表するまでの葛藤と、今思うことについて。

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今でこそ全身性エリテマトーデス当事者として発信している私ですが、健康産業に携わるインストラクターとして、確定診断に至らない膠原病予備軍を含めて病気の公表には賛否ありました。

なぜならば、社会全体が予防医学に注力し、『運動を習慣化することで、病気を予防し健康を維持しましょう』という時代が当たり前になりつつあったからです。

今もなお、これでよかったのか正解はわかりません。ただ、わたしと同じように難病や指定難病と診断を受けた運動指導者の方からいただくメッセージを読むにつれて、これもわたしなりの社会貢献なのかもしれないと考えるようになりました。

様々な葛藤を抱えて、発信活動を続けていく上では正直なところ怖さもあります。

予防医学の時代、膠原病予備軍として活動した当時は未然に防げていたということで説得力があったのかもしれないですが、2つの指定難病を発症した後ではそうはいかない。

全身性エリテマトーデスそのものが一般的に知られている病気ではないことはもちろん、難病に対しての偏見や誤解、何よりわたしが恐れていたのは「あんなこと言ってたのに運動してても病気になるんだね」とインストラクターとしてのこれまでを全否定されるような気がして、怖くて怖くてたまりませんでした。

宮井典子

こちらはお仕事関係者の方々に報告を済ませた後、初めてSNSで心境を吐露したつぶやきです。

予想に反してたくさんの方から温かい言葉をかけてもらい、勇気づけられたことを覚えています。

運動指導者は現場に立たなければ意味がないと言われてきましたが、病状や治療によっては活動をセーブしなければいけない期間が出てくる場合もあります。

仕事を続けたくても続けられない人にとって、"現場に立たなければ意味がない"というのは、酷なはなしです。

ほかに選択肢がありません。

コロナ以降、柔軟な働き方と働く環境や場所の選択肢が増えましたが、体を資本とする職業ゆえ問題や課題もまだまだ多く、多様な社会とは程遠い現実が残されています。

たとえ新しい働き方が可能になったとしても、長期的な治療をしながら働く運動指導者の大半は働き方を変えなくてはいけないのが現状かもしれません。

ですが《多様な社会》には《多様な働き方》が存在するはずです。

誰だって平等に老いるわけです。いつ誰が病気になるかも、ある日突然ケガを負うかもわからない。

それならば、どんな職業の人にとっても働きやすい環境作りが必要だし、がん患者の社会支援や健康支援が必要であると同様に、わたし達のような目に見えない症状を抱え、治療をしながら生活し生きていく患者にも社会支援、健康支援が必要なのです。

これは当事者の想いだけではどうにもならないもの。医療からの観点と医師の介入のもと『難病患者と難病への理解と対策』が議論され、誰もが生きやすい社会、誰もが働きやすい社会になることを強く望んでいます。

「ヨガジャーナルオンライン」のようなヘルスコンシャスな媒体で『病気にまつわることを書くなんて』と思われる方もいるかもしれません。

でも、医療や福祉の分野で当事者が病気について発信するだけでは、これまでと何も変わらないのです。

病気があるとかないとかの垣根を越えて、今ある社会問題(産後うつ・引きこもり・虐待・ヤングケアラー等)のひとつとして、わたしたち難病患者が抱える問題や取り巻く環境をこの社会に生きるみんなで考えていき、生きやすい社会、働きやすい社会を作りたい。

わたし達は決して弱者じゃない。

そう、わたしはどこかで自分自身を弱者じゃないと言いつつも、どこかで弱者だと見られていることに不安や恐れを感じていたのかもしれません。

だから、もう一度断言します。

わたしは弱者じゃない。

自ら選択することでわたしらしい人生を切り開き、誰もが生きやすい社会を目指して、声をあげていきたいと思います。

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宮井典子

宮井典子

SLE Activistとして活動。37歳のときに膠原病予備軍と診断される。38歳で結婚し、39歳で妊娠、出産。産後4カ月で仕事復帰し、ピラティスのインストラクターとして精力的に活動。46歳のときにSLE、シェーグレン症候群を発症。現在は、誰もが生きやすい社会を目指してSNSを中心に当事者の声を発信。



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