台湾女性の健康指数は世界1位、その背景にある“産後ケアと食養生”を日本に伝えたい【インタビュー】

台湾女性の健康指数は世界1位、その背景にある“産後ケアと食養生”を日本に伝えたい【インタビュー】
photo by Jo Moriyama
竹田歩未
竹田歩未
2025-12-06

きっかけは、ひとつの違和感…。「こうあってほしい未来」を思い描き、自ら動き出した女性たちがいます。環境、ウェルビーイング、ジェンダー、働き方——社会に横たわる課題に向き合いながら、自身の視点で商品やサービスを生み出す彼女たちの物語。 連載「HER STORY(ハー・ストーリー)」では、そんな女性ファウンダーの声に耳を傾け、今を変え、未来をつくるためのリアルな挑戦を追いかけます。

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台湾で一般的に行われている伝統的な産後ケア「坐月子(ズオユエズ)」。出産後の女性が、身体をじっくりと回復させるこの習慣は、中医学の理論と深く結びついています。そんな坐月子の素晴らしさに感銘を受け、現在は薬膳をベースとした台湾式の産後ケアを日本へ届けるべく活動している多田真紀子さん。日本での販売に必要な手続きを進めながら、女性の健康を底上げしたいという想いで奮闘する彼女にお話を伺いました。

自分自身の辛い体験から「女性の健康」をライフワークに

ーーー現在、台湾の産後ケア薬膳を日本に輸入する事業に携わられている多田さん。もともと女性の健康の課題を解決するサービスで起業したいという想いがあったのでしょうか?

多田さん:以前から「女性の健康」をライフワークにしたいという想いがありました。実は自分自身、過去に女性特有の身体の不調に悩まされていたんです。前職では女性の健康に特化した医療機器の会社で働いていました。ですが、会社の外で行動を起こす勇気はありませんでした。元々会社員としての生活が長いと、起業すること自体になかなか踏み切れなかった。そんな時に、台湾人の夫が仕事の関係で台湾に渡ることになり、家族全員で台湾へ移住することになりまして。ある意味逃れられない環境の変化があったからこそ思い切って挑戦できたのだと思います。

台湾女性の健康ランキングが1位の理由とは?  

多田さん:前職の会社で「世界の女性の健康指数」の調査結果を発表する、という仕事に携わったときに、台湾女性の健康指数が世界で1位*だったんです。しかも、調査開始以来、4年連続で最も高いスコアなんです。細かく見てみると、自分の身体に痛みがないこと、不定愁訴(なんとなく体調が悪い状態)がなく健康に過ごせること、そしてメンタルヘルス(感情の健康)の項目でも毎年高スコアが出ている。それだけ断然トップなのは台湾だけだったので、もしかしてこの結果には産後ケアや中医学が関係しているのでは?と予想していました。

その後、自分でいろいろと調べていくうちに予想が確信に変わってきた。実は台湾に移住する際も、自分の中にこのテーマを実地調査したいという想いがありました。そして今、この仕事を通して、中医学の食養生で女性がライフステージを通じて身体をしっかりケアする大切さを日本に伝えていきたいと思っています。自分自身が婦人科系の不調に悩んできた過去があるからこそ、使命感を持って取り組んでいます。

*Hologic Global Women`s Health Index/ Year1 ~ Year4 Report

台湾移住をきっかけに産後ケア薬膳を日本に普及

ーーー台湾に移住した後、どのようなきっかけから「台湾式の産後ケアを日本に伝えたい」と思うようになったのですか?

多田さん:台湾をベースに自分が何をやっていけるだろうかと考えた時に、台湾式の産後ケアを受けて学んだことを多くの人に伝えたいと思い、月子餐(ユエズツァン)と呼ばれる産後ケア薬膳を日本に輸入する事業に取り組むことにしました。調査段階でさまざまな会社に接触しているうちに、台湾で中医学の体質調整ケアをベースとした薬膳食品・飲料を取り扱う紫金堂(しきんどう)の海外担当者とのご縁があり、本社でプレゼンをさせていただけることに。夫に手伝ってもらいながらカタコトの中国語で挑戦しました。結果、社長に好意的な反応を示していただいて、なんと実際に紫金堂の日本総代理として、日本への輸入計画を進めることになったんです。 

ーーーとても不思議なご縁ですね。

多田さん:本当に貴重な機会を頂けたと思っています。プレゼンでは日本女性の産後の不調をテーマに扱いました。準備として座談会を開いてアンケートやヒアリングを行い、出産後の女性の生の声を集めました。

ーーー具体的にはどのような体験談がありましたか?

多田さん:ヒアリングをしてみて分かったのは、産後に身体の不調が治らないまま仕事に復帰しなければならず、その後も表には見えづらい不調を抱えながら人知れず苦しんでいる方が多くいらっしゃることです。そして、日本では産後ケアの重要性は決して社会的に浸透しているとは言い難い。産後の体調管理は身内だけで完結させるケースが多数派であるため、育休を取得して赤ちゃんの世話をしてくれるはずだったパパが仕事に行くことになってしまったり、実母や義母のサポートを得るのが難しかったり...結局ママ自身が家の中でも外でも無理して動き回ることになり、しっかりと休めないという状況に陥りがちです。

しかし、産後の期間に無理するのは非常に良くないこと。後に慢性的な不調に繋がることもあります。ある女性の場合、産後にしっかり休養を取れず、産後半年くらいから不調続きになったのだそう。ずっと風邪気味で咳が止まらない、身体の至る所が痛むなど、身体のあちこちに不調が現れたため、それぞれの症状を見てもらえる病院の科を受診したものの対処療法を受けられたのみで、その後も根本的に治らず病院巡りをしていた。そんなケースもあるんです。

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photo by Makiko Tada

産後ケア薬膳を通して日本の女性に伝えたいこと

ーーー多田さんは、日本で産後ケア薬膳を広めることを通して、日本の女性にどのようなメッセージを伝えていきたいですか?

多田さん:日本の女性に「自分の身体に心地よい選択肢を持つことや、無理をせずに自分を慈しむこと」を伝えたいと思っています。どんなライフステージであっても、我慢でしのぐのはもう終わり。そして、それを許容できる自分でいられること、許容できる社会になるといいなという願いを込めています。

わたし自身、日本で会社員として働いていた頃を振り返ると、当時は月経期間中であろうと、仕事や家事を常に一定レベルでこなさなければと思い込んでいて。もし全力を出し切れない日があったら、自分を責めてしまうことが多かった。でも実際は、日々同じパフォーマンスを維持するなんて不可能な話。ダメな時は休んでいいという生活スタイルで、できない日の自分を許しながら自分と上手く付き合っていくスタンスを身に着ける必要があると気づきました。そして、頑張れる時にはしっかり頑張る。人間は常に頑張れるわけじゃないという当たり前のことをやっと認識できたと感じています。

日本での販売ハードルを乗り越える困難

ーーー紫金堂の産後ケア薬膳は、これまで台湾から世界31カ国に向けて販売されてきたのにも関わらず、なぜ日本では販売されていなかったのでしょうか?

多田さん:日本国内で販売しようと試みたケースは過去にもあったようですが、本格的な展開には至っていませんでした。理由のひとつに、日本の食品基準、特にレトルトパウチ製品の輸入基準の厳しさがあるかもしれません。実際に手続きを進める中で痛感したのですが、工程の一つひとつが厳格で、クリアすべき項目も多い。工場の品質管理、加熱基準、時間、その他様々な部分で細かな調整が必要で、他の国では問題にならない点でも、日本ではより詳細な基準が求められることがあります。これは「日本の食品の安全性が非常に高い」という裏返しでもありますが、輸入する側としては大きなハードルだったのだと思います。そのため、日本で正式に販売するには相当の時間とコストが必要でしたが、準備を重ね、無事に2025年から日本での販売を開始することができました。

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photo by Makiko Tada 紫金堂の呉金德社長と

産後ケアにおすすめなのは?

ーーー多田さんが日本に向けて販売されている産後ケア薬膳の中で、初めて中医学式の食養生にチャレンジする方でも取り入れやすいものはどれでしょうか?

多田さん:赤なつめや龍眼(リュウガン)など10種の食材をじっくり煮込んだ「授乳マミー茶」が手軽でおすすめです。パウチタイプで保管しやすく、そのままでも温めてもおいしく飲めます。産後・授乳期の方はもちろん、月経の前後や発育期の女性にも安心して取り入れていただけます。

《ライターの感想》
甘さ控えめで、薬膳食品本来の風味をしっかり感じられます。独特の香りはありますが、苦味や強いクセはなく、とても飲みやすい味わいでした。お湯を少し加えるとやさしい風味になりさらに美味しくいただけました。

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photo by Takeda Ayumi(ライター撮影)「授乳マミー茶」80ml×10パック ¥5840(税込)

プロフィール:多田真紀子さん

2011〜2022年、女性の健康医療機器メーカーの日本法人でマーケティング、広報を歴任。2023年より家族と共に台湾に移住し、「台湾発 女性のためのいたわり薬膳 YUEZU」を日本に届ける活動を開始。産後ケアをベースに月経ケア、流産ケア、更年期ケアのサービスを提供する台湾の薬膳ブランド「紫金堂」の日本総代理として2025年1月より日本国内販売開始。

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photo by Jo Moriyama

多田真紀子さんのInstagram 

紫金堂(しきんどう)について

2004 年の創業以来、台湾の産後ケア文化「坐月子」における産後ケア薬膳(いわゆる月子餐)のリーディングカンパニーとして発展。中医学の体質調整ケアをベースに、産後ケア、流産ケア、月経期、更年期など、女性のライフステージに寄り添う薬膳食品、飲料を提供。台湾を中心に、これまで世界 31 の国と地域へ展開し、女性の健康を支える文化を台湾から世界へ広げています。

「紫金堂」の産後/流産/生理/更年期ケア等のための薬膳食品

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