産後は“身体を立て直す最大のチャンス”。台湾の産後ケア「坐月子(ズオユエズ)」に学ぶ女性の身体の整え方
きっかけは、ひとつの違和感…。「こうあってほしい未来」を思い描き、自ら動き出した女性たちがいます。環境、ウェルビーイング、ジェンダー、働き方——社会に横たわる課題に向き合いながら、自身の視点で商品やサービスを生み出す彼女たちの物語。 連載「HER STORY(ハー・ストーリー)」では、そんな女性ファウンダーの声に耳を傾け、今を変え、未来をつくるためのリアルな挑戦を追いかけます。
台湾で一般的に行われている伝統的な産後ケア「坐月子(ズオユエズ)」。出産後の女性が、身体をじっくりと回復させるこの習慣は、中医学の理論と深く結びついています。そんな坐月子の実体験をきっかけに、現在は薬膳をベースとした台湾式の産後ケアを日本に伝える活動に取り組む多田真紀子さんに、台湾在住ライターがお話を伺いました。
産後ママをとことん労わる坐月子(ズオユエズ)とは
ーーー台湾を含む中華圏で行われている、伝統的な産後ケアの習慣「坐月子(ズオユエズ)」とはどのようなものですか?
多田さん:一言でいうと、産後ママの心身が徹底的に労わられる期間。赤ちゃんの授乳や食事など最低限のこと以外は自分の身体のケアを優先して、とにかく寝て休み、栄養のある食事を食べ、出産で消耗した体力と気力を回復させることに専念します。
ーーーどのくらいの期間で行われるのでしょうか?
多田さん:一般的に30~40日間行われ、さらにしっかり身体を整えたい人は40~60日間ほどの回復期間をとることもあります。わたしの場合は出産日から数えて30日間ほど行いました。近年、日本でも産後ケアという概念が少しずつ浸透してきていますし、自治体によっては産後ケアの利用に補助や助成が提供されるケースも増えてきていますよ。
赤ちゃんと同じくらい母親のケアを優先
ーーー日本と台湾の産後ケアとでは何が違うのでしょうか?
多田さん:まず、日本と台湾では産後ケアに対する認識が異なります。台湾では出産後に家族や外部サービスの助けを借りて24時間体制の産後ケアを受けることは当たり前で、決して珍しいことではありません。もちろん日本でも24時間体制のサービスはありますが、そこまでお金と時間をかけて産後ケアを受ける人はまだまだ少数ですし、利用するにしても短期宿泊またはデイユースのパターンが多いのではないでしょうか。
ーーー台湾の産後ケアは、どのような特徴があるのでしょうか?
多田さん:日本の産後ケアとの一番大きな違いは「食事」です。台湾式の産後ケアの背景には、中医学に基づく「食養生」や「薬膳」の考え方があります。出産後は悪露(おろ)の排出を促し、出産で失われたエネルギーや血を補いながら身体のバランスを整え、その後に栄養豊富な食事で段階的に体力を回復させていきます。中華圏では、正しい産後ケアにより、産後の不調を防ぐだけでなく、更年期まで至る将来的な健康の基礎を作ることができると考えられています。
日本の場合は、産褥期と呼ばれる産後1ヶ月間に休息を取り、母乳となる分まで多めに栄養を摂取するということは教えられますが、出産を経て弱った女性の身体にはどんな栄養が必要か、そして将来の健康までもを見据えた身体づくりについてはそこまで浸透していません。
こういった経緯から、わたしは日本に産後ケアを広める上で特に食養生・薬膳の大切さを伝えたいと考えています。日本では、出産後の不調を「当然のこと」と見過ごしてしまいがちな面もありますが、ちゃんとケアすれば違う未来が待っていることを伝えていきたいです。
一生のうち身体を整えられる3つのチャンス
ーーーなぜ、食養生で身体を整える必要があるのでしょうか?
多田さん:女性は一生のうちに3度、身体が生理的に大きく変化する過渡期があります。それは初潮後・産後・更年期。中医学にはこのタイミングを身体を立て直すチャンスと捉え、健康で元気な状態へ整えることを目指して、食養生などで意識的に身体をケアするという考え方があります。つまり、それぞれの節目でしっかり身体を整え、次のステージへ無理なく移行していくという考え方です。
女性の身体に起こる変化に必要なケア
産後ケア(坐月子)
出産は多量の出血とエネルギーの消耗を伴い、身体に大きな変化をもたらします。台湾をはじめとする中華圏には「坐月子」と呼ばれる産後の伝統的な習慣があり、この期間に身体を回復させることが重視されています。中医学では、この期間にきちんと養生を行うことで、出産前の健康を取り戻すだけでなくより健康的な体質に整えることができる、つまり産後ケアは「身体を整える最大のチャンス」とも考えられているのです。
月経ケア
身近な例では、毎月の月経も養生のチャンス。この時期は冷えや痛みなどさまざまな不調が起こりがちですが、この時期も「身体を整えるタイミング」です。月経前〜月経中はしっかりと新陳代謝を促し、月経後は食事や飲み物でエネルギーや栄養を補うことが大切。こうした積み重ねは、次の月経をスムーズにし、さらに妊娠期に向けた身体づくりにも繋がります。
流産ケア
流産の後に特別なケアが必要であることはあまり知られていないのではないでしょうか。実は、流産を経験した身体はダメージを受けていて、さらに精神的ストレスも加わって心身ともにデリケートな状態のため、身体を温め、消耗した気血を補うような食事を意識することが大切です。十分に休息し、適切に養生することで、次のステージへ向けて身体を整えやすくなるという考え方です。。
中医学で身体の不調を根本から整える
ーーー日本の感覚では、中医学というとあまり馴染みがないのですが...。
多田さん:そうですよね。わたしたちにとって馴染み深いのは西洋医学ですが、中医学は何千年にもわたって、人体で実践を積み重ねてきた長い歴史があり、経験則を重視します。中医学の視点が十分に浸透していない場合、たとえ生理痛がひどくて動けなかったり、経血量が多くて毎月つらい思いをしていても、「自分はそういう体質だから仕方がない」と考えて、鎮痛薬などでやり過ごす方が少なくありません。
ーーー確かに、元々そういう体質だからと諦める場合が多いですよね。
多田さん:中医学では、症状の背景となる原因を身体全体のバランスを見ながら整えていくケアの考え方があります。日本では「食養生」という考え方がまだ一般的ではありませんが、身体の不調は普段の食生活や生活習慣が原因になっていることも。例えば、身体を冷やしやすい食事というものがあります。朝食に温かいものを摂らずに、冷蔵庫から出したままの牛乳をシリアルにかけてそのまま食べたり、ヨーグルトにフルーツをかけたものだったり、こういった食生活が重なると、元々冷えやすい女性の身体で「冷え」の状態が慢性化してしまう可能性も。冷えが続くことで、血の巡りが悪くなったり(瘀血という)、気血が不足したりして、生理痛が重くなることもあります。中医学では、冷えは妊娠のしづらさの一因として捉える場合がありますが、台湾と比べて日本ではあまり知られていないように思います。
ーーー体質は生まれつきじゃなくて、習慣によって変わるんですね。
多田さん:はい。体質だから仕方ないと諦めるのではなく、食べるものや生活習慣を変えれば悪い状態を改善していける可能性があります。実はわたし自身、過去にはそういった飲食習慣を続けていた時期があり、それ故にPMSや生理痛も酷かったし妊娠するまでも大変だったんです。産後ケアをきっかけに中医学と出会って、身体に取り入れるものの大切さを身を持って実感しました。
プロフィール:多田真紀子さん
2011〜2022年、女性の健康医療機器メーカーの日本法人でマーケティング、広報を歴任。2023年より家族と共に台湾に移住し「台湾発 女性のためのいたわり薬膳 YUEZU」を日本に届ける活動を開始。産後ケアをベースに月経ケア、流産ケア、更年期ケアのサービスを提供する台湾の薬膳ブランド「紫金堂」の日本総代理として2025年1月より日本国内販売開始。
多田真紀子さんのInstagram
紫金堂(しきんどう)について
2004 年の創業以来、台湾の産後ケア文化「坐月子」における産後ケア薬膳(いわゆる月子餐)のリーディングカンパニーとして発展。中医学の体質調整ケアをベースに、産後ケア、流産ケア、月経期、更年期など、女性のライフステージに寄り添う薬膳食品、飲料を提供。台湾を中心に、これまで世界 31 の国と地域へ展開し、女性の健康を支える文化を台湾から世界へ広げています。
- SHARE:
- X(旧twitter)
- LINE
- noteで書く







