台湾の「生理は恥ずかしい」を変えた、タブーに挑んだヴァネッサさん20年間の軌跡【インタビュー】

 台湾の「生理は恥ずかしい」を変えた、タブーに挑んだヴァネッサさん20年間の軌跡【インタビュー】
photo by Ted Tainan
竹田歩未
竹田歩未
2025-05-25

生理用品を選ぶ、それはわたしの身体に主権を取り戻すことーーー。そんな信念を基に台湾で”生理のパイオニア”と呼ばれ、20年以上に渡って正しい性の知識を発信し多様な生理用品を世に送り出してきたヴァネッサさんにインタビュー。令和の時代でもまだまだタブー視されがちな”性”という課題にユーモアと誠実さで立ち向かう彼女のアイデアに迫りました。

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生理に関する活動のきっかけとなったアメリカでの体験

ーーーヴァネッサさんはどのようなきっかけで生理用品に興味を持ったのでしょうか?

ヴァネッサさん:2003年頃、アメリカに交換留学をしていた際に、現地人のほとんどが生理用タンポンを使っていることを知り、とても衝撃を受けました。台湾にもタンポンが無かったわけではないのですが、当時、台湾でタンポンを使うことは暗に性経験があるということを意味し、親から反対される行為だったんです。だからもし使うとしても親にバレないようにコソコソと使う必要があった。その上、婦人科医もタンポンは細菌感染が発生しやすいので使うべきではないという見方を示していました。

なので、アメリカのタンポン売り場で非常に多くのメーカーやデザイン、香りの商品を目にした時の衝撃は忘れられません。「私がこれまで習ってきたものと全く違う」と。この体験をきっかけに、タンポンや生理用品に関する研究を始めました。

ーーー台湾とアメリカでタンポンについての文化的背景が全く違ったんですね。

ヴァネッサさん:はい。その後アメリカ人のクラスメートに「性行為の経験がないのに、なぜ親がタンポンを与えてくれるの?」と訊いてみたんです。すると、彼女はこう答えたのです。「私の家にはタンポンしかないし、ママもタンポンを使っているから私も使っているだけ。」

なるほど。台湾では学校や家庭でタンポンについて触れられることがないから、友達同士でも話題にならない。そのため生理用品の選択肢が広まらないのだと気づきました。そこで私は、もし台湾に十分な教育と製品が揃っていて多くの人が使い始めれば、生理用品の選択肢が豊富な状態が当たり前になっていくはずだと確信したんです。

ーーー台湾に戻ってからはどのような活動をされていたんですか?

ヴァネッサさん:生理用品に関する記事をたくさん書き、正しい知識の発信を始めました。それに加えて、外国ブランドのタンポンの代理販売も行いました。

しかし、台湾でタンポンは医療機器として扱われ代理販売を行う場合も政府の規定をクリアする必要があると知り、販売をストップすることになったんです。大きな壁に直面しましたが、そこから約2~3年後の2010年には台湾で「凱娜」というブランドを立ち上げ、アプリケータータイプのタンポンを正式販売。のちに、2017年には月経カップ「月釀杯(フルムーンガール)」と布ナプキンを、2022年には月経ディスク「月釀碟片(フルムーンディスク)」を世に送り出しています。

同時に、生理に関する知識を広める教育活動も継続してきました。私にとって、生理教育と製品開発は表裏一体のものです。  

私は台湾でこれらの活動を20年間続けてきました。最初のブログ記事を書いたのが2004年、そこから20年の月日が経ちました。社会が良い方向へと進んでいるのを実感していますし、それこそが私にとってのやりがいです。

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「性平不小室」のガラスディスプレイには凱娜から発売された生理用品が多数並べられている。/photo by Takeda Ayumi

台湾は生理に対して保守的?

ーーー台湾では、今でも生理の話題に対して抵抗感があると感じますか?

ヴァネッサさん:多少はあると思います。ただ、昔と比べると今は格段に良くなりました。以前はタンポンを使うと膜が破れて処女ではなくなる、つまり性行為の経験があると思われていました。でも今では、性経験の有無に関係なく元々腟には穴があってそこにタンポンが入るという正しい知識が広まりました。膣口に膜は存在せず、実際には膣口を囲む薄いひだ*があるのですよ。日本ではどうですか?

ーーー日本では生理の話題に触れない人もまだまだ多いと思います。

ヴァネッサさん:女性同士でも話さないんですか?

ーーー女性同士では話すこともありますが、男性がいる場ではあまり話題に出さない人が多い印象です。

ヴァネッサさん:それは国ごとの文化の違いで興味深いですね。台湾では「月経」というワードを使わずに「あの日が来た」と少しオブラートに包んだ表現を使うことがあります。それに関しても、私たちは正しい言葉で呼称することを呼びかけています。

日本と台湾でどのような違いがあるかというと、例えば、経血が漏れて椅子に付着したとします。日本では、それは椅子が汚れたというアクシデントであるだけでなく、恥ずかしい出来事という意味を大きく含むと。でも、台湾では「ついてしまったら洗えばいい」と考える人が多いかな。生理の話題に若干の抵抗感が残るものの、少なくともその話題を出すことは問題ない風潮です。

今では、生理に関する対話が活発になり、友達同士で「私、夜寝るときによく経血が漏れるんだけど、何かいい方法ない?」と気軽に話せるといったようになりましたよね。生理に関するトピックが日常生活の一部になると、一人ひとりが自分に合ったケア方法を知ることにも繋がります

*国際的にはVaginal Coronaと呼ばれる。俗に言う処女膜のこと。

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板橋
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