「間違った思い込みを残さないために」ヴァネッサさんが語る、子どもへの性教育の必要性


生理用品を選ぶ、それはわたしの身体に主権を取り戻すことーーー。そんな信念を基に台湾で”生理のパイオニア”と呼ばれ、20年以上に渡って正しい性の知識を発信し多様な生理用品を世に送り出してきたヴァネッサさんにインタビュー。最初は大人の女性向けに始めたという活動も、今では子どもたちも対象に含んでいるのだそう。令和の時代でもまだまだタブー視されがちな”性”という課題にユーモアと誠実さで立ち向かう彼女のアイデアに迫りました。
子どものうちから正しい知識に触れる重要性
ーーー2022年には月経ディスクを発売されていますが、次は何に取り組む予定でしょうか?
ヴァネッサさん: 今のところ、月経ディスクの開発を最後に新たな製品の開発を一旦ストップしています。ただし教育活動に関しては変わらず力を入れています。なぜなら、2022年に月経ディスクを発売した後も、正しい知識が十分に知れ渡っていないことに気づいたからです。
現在は、まだ初経が来ていない子どもたちに向けて教育を進めています。 私たちが制作した教育教材も、すべて子ども向けに作られています。
ーーーなぜ生理教育のターゲットが子どもたちなのでしょうか?
ヴァネッサさん:昔から応援してくださっているお客様が今では母親となり、その子どもたちは初経の時期に差し掛かっているからです。そして目的は、子どもたちへの教育を通じて、私がアメリカ留学中に体験した母親が使っている商品を子どもが自然に受け入れる流れを作ること。
ーーー世代を超えて多様な生理用品の選択肢を提供していくんですね。
ヴァネッサさん:その通りです。子どもがいくら興味を持っても、親に適切な知識がなければ不十分ですからね。

子ども向けの立体絵本で性教育
ーーー子ども向けの性教育は具体的にどのように行っているんですか?
ヴァネッサさん:2024年に立体絵本スタイルの教育書を制作しました。主人公である卵子が女性の身体の中を探検するストーリーで、排卵や妊娠の仕組みなどを知ることができます。全体を通して可愛らしいイラストで構成し、立体仕掛けも多数。
本の中では流産の確率についても触れています。台湾では「妊娠3ヶ月以内に妊娠したことを周りに言うと流産してしまう」という迷信があります。しかし実際は、妊娠が確認された後でも6分の1の確率で自然流産が起こると言われています。多くの人は、流産についての正しい知識が不足しているんです。本の中では、6つの子宮のイラストが描かれていて、そのうち1つの子宮では流産が起こることを視覚的に説明しています。このような教育は、家庭の中で流産を経験した子どもが「お母さんのせいで流産した」と誤解しないためにも役立ちます。
ーーー流産についての知識は私も初めて知りました。生理用品についても紹介されているんですか?
ヴァネッサさん:もちろんです。将来的に多様な選択肢があることを知ってもらえるよう、最後のページに生理用品のイラストを載せたカードを添付しています。 このような教育を通じて、生理用品をタブーではなく明るくポップな雰囲気で伝えたいと願っています。
そしてこの絵本で最も重要なのは、子どもたちに「自分がどこから生まれてきたのか」を説明する最後のページ。卵子が卵巣から卵管へ進んで、精子と出会い、子宮の中で成長し、最後には腟を通って外へ出てきたこと。それから、すべての子どもは必ず誰かの子宮の中で育てられこの世に生まれてくることも伝えられます。産まれた後に別の人間が育てるにしても、これには変わりありません。
ーーーこの絵本の中には大人向けのページもあるんですか?
ヴァネッサさん:最後のページに、先生や保護者向けの解説を用意しました。子どもがこの本だけで全てを理解するのは難しい場合、大人が事前に学んで子どもに説明できるように。今後、日本の出版社とも提携して日本語バージョンを作りたいと思っています。

生理用品の活動は、私の青春
ーーーヴァネッサさんにとって、生理に関する活動を続けてきた日々はどのようなものでしたか?
ヴァネッサさん:私は20年間ずっと生理用品の販売や教育に捧げてきました。まさに私の青春と呼べます。それでも、まだまだ台湾でやるべきことがたくさんあると感じています。例えば、初期の頃は大人の女性向けに生理教育をしていましたが、現在は女の子だけでなく男の子も含めた子どもたちの性教育にまで活動を広げています。それに今、国連でも包括的性教育(Comprehensive Sexuality Education)を推進していて、児童の頃から性教育を始めようと言われていて、それがスタンダードになりつつあるんです。
この活動を続けてきて何よりも嬉しいのは、製品を長く愛用してくださっているお客様たちが、私たちが企業として得た利益をどんな用途に活かしているのかをしっかり理解してくれてサポートし続けてくれていること。本当に感謝しています。


プロフィール:ヴァネッサ(凡妮莎)さん
2004年から約20年にわたり生理用品に関する知識を女性たちに広める。台湾で初めて月経カップ「月釀杯(フルムーンガール)」及び月経ディスク「月釀碟片(フルムーンディスク)」のクラウドファンディングを行った発起人。台湾の女性たちが抱える問題は、市場に新しい生理用品が出ているかどうかではなく「自分に選択権がある」という意識が根本的に欠けている点だと考え、現在も精力的に性教育活動を行っている。愛称は「台湾生理のパイオニア」。

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