“真面目な人ほど危ない”誰でもなる可能性がある「産後うつ」産婦人科医に聞く、症状と対処法、受診のタイミング

“真面目な人ほど危ない”誰でもなる可能性がある「産後うつ」産婦人科医に聞く、症状と対処法、受診のタイミング

産婦人科医の高橋怜奈さんに、産後うつについてお話を伺いました。産後うつは女性の10〜15%に起こる症状で、気分の落ち込みなどが2週間以上続くものです。出産後のホルモンバランスの急激な変化が大きく影響しており、睡眠不足や環境的な要因も重なって発症すると考えられています。誰でもなる可能性があるため、症状が続く場合は我慢せず、産婦人科や精神科、地域の保健師さんなどに相談することが大切です。

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「産後うつ」とはどんなもの?

——産後うつの定義について教えていただけますか。

産後うつは、産後に気分が沈み、日常の生活でそれまで楽しいと思えていたことが楽しいと思えなくなったり、物事に対する興味がなくなったりする症状が2週間を超えて持続し、生活や育児に支障をきたす状態です。女性の10〜15%に起こると言われています。

——「マタニティブルー(マタニティブルーズ)」とは違うのでしょうか。

マタニティブルーズは、出産後2〜3日ごろに始まり、1〜2週間で自然に軽快することが多い一過性の気分変動です。産後うつとは持続期間や重篤度が異なります。

マタニティブルーだと思っていたけれど症状が長引く場合は産後うつを疑う必要があります。症状が続く場合は、はやめに市区町村の保健センターに相談したり、ご出産した病院などへの受診をお勧めします。

——産後うつの期間の目安はあるのでしょうか。

産後3か月以内に発症することが多いですが、明確に「いつまでが産後」という定義はないのが現状です。半年から1年ほど症状が続く場合もあります。早期に発見し治療をするのがとても大切です。

——出産後、少し経ってからつらさを感じる方もいらっしゃると思うのですが、たとえば出産から6か月経っていても、産後うつに当てはまると考えられるのでしょうか?

明らかに他の精神疾患や病気ではないと診断され、出産から1年以内であれば、産後うつと診断することはあります。

ただし、1年以上経っている場合は、産後うつというよりも、他の精神疾患やうつ病を考える必要があるかもしれません。

育児に伴う睡眠不足などがきっかけになりつつも、出産から1年以上経っていると、産後とは呼ばないものの、うつ症状として診断されることもあります。

産後うつ
photo by Adobe Stock

産後うつの症状と発症の仕組み

——産後うつではどのような症状が見られるのでしょうか。

睡眠不足や食欲減退、気分の落ち込みといった症状があります。

症状が重いと、「消えてしまいたい」「死にたい」と思うこともあります。

——産後のホルモンバランス変化は影響しているのでしょうか。

大いに関係していると思います。妊娠中は女性ホルモンがしっかり分泌されていますが、出産し、子宮の中の妊娠成分が全部排出されると、女性ホルモンが一気に下がります。

髪の毛が抜けやすくなるのも、このホルモンの影響による症状の一つです。

ホルモンの影響が心にも体にも大きく作用しますが、加えて睡眠不足や家族の協力が得られないといったことが加わることで、より悪化しやすくなると考えられます。

なお、家族の協力が十分得られていて、傍から見ると環境的に困難がなさそうに見える方でも、産後うつになることがあります。産後うつの原因はまだわかっていない部分もありますね。

——出産前に精神疾患(メンタル不調)になったことがない人でも、産後うつになる可能性はあるのでしょうか。

誰でもなる可能性があると思います。

やはりホルモンの影響は大きいですし、心の状態が安定している方でも、睡眠不足によってダメージを受けてしまうことはあります。

家庭の協力が得られない、睡眠不足といったものはリスク因子ではありますが、誰でもなる可能性があるのが現実です。

——ホルモン変化の影響が大きいとすると、産後うつの予防は難しいのでしょうか。

完全な予防は難しいと言えますが、周囲のサポート受け睡眠を確保する、育児分担をするなどが予防にもなります。

また、がんばりすぎない、自分の異変に気づいたり、周囲の人と話せる環境を作るのも大事ですね。元々精神疾患がある人はリスク因子の一つなので、かかりつけの先生と妊娠中からしっかり相談することが大切です。

また、自治体でも予防できるように、妊娠中や産後にアンケートを実施し、リスクが高い人にはより綿密に訪問を行うなど、社会全体で予防に取り組んでいると言えると思います。

こだわりすぎない、というのは大事だなと思っています。例えば母乳育児も、真面目な人ほど「母乳じゃないと母親として失格」と思い込んでしまい、母乳が出ないことでうつ状態になってしまう人がいます。

離乳食を手作りしなくちゃ、とか、家もきれいにしなくちゃ、とがんばりすぎるとパンクしてしまいます。いまの時代は割高ですが液体ミルクもあるしレトルトの離乳食もすぐ手に入ります。

しかもすごくおいしい。睡眠をけずってがんばりすぎるより、ある程度適当でもこの時代は生き延びられます。

理想の育児や産後生活を思い描いていても、実現できないこともあります。人と比べないことが大事だと思います。

男性の産後うつについて

——最近、「男性の産後うつ」という言葉を聞くようになりましたが、仕組みに違いはあるのでしょうか。

英語で産後うつが「postpartum depression」で、「paternal postpartum depression」といった言葉があり、訳すと「父親の産後うつ」になります。

男性が出産をしたわけではないので、ホルモンによる変化で影響が生じているのではなく、環境の変化や、今は男性も共に育児をするようになってきていますので、睡眠不足になったりといったことから、気分が落ち込む、集中力が続かないといったうつ症状が見られているものです。

昭和の時代と比べて父親が育児をするようになった分、こうした症状が起こりやすくなっているのかもしれません。

——職場の理解不足なども影響するのでしょうか。

あるかもしれません。早く帰ったり育休を取ったりすることで職場で衝突が起きると、心の状態に影響が出ることもあるでしょう。

——男性は産んでいないということで「産後」という言葉に違和感を抱く声もあります。

産んではいないという点では、たとえば密接に協力している実の両親や義両親が、産後の育児をきっかけにうつ症状になっても「産後うつ」とは呼ばないですよね。そう考えると、違和感を覚える方がいらっしゃるのもわかります。

ただ、繰り返しになりますが、男性が妻の産後に育児をする中で、うつ症状が出てくることはあります。症状そのものを否定しているわけではありません。

「育児うつ」など、何かしら分断を生まないような呼び方があったらいいですよね。

産後うつはどの科を受診すればいい?

——産後に「メンタルヘルスの調子が悪いかもしれない」と思ったとき、受診するのは、産婦人科と精神科のどちらがよいのでしょうか。

何か月かにもよると思います。おおよそ産後3か月以内でしたら、産婦人科でいいと思います。

ただ、通いやすさも重要です。例えば里帰り出産をしていたなど、出産した病院が遠くの病院で、出産時にかかった産婦人科をすぐに受診できなさそうでしたら、近くの精神科でも産婦人科でもいいと思います。

まずは受診することが大事なので、通いやすさだったり、かかりつけの先生がいたりといった点で選ぶなど、産婦人科でも精神科でもどちらでもいいと思います。

——最初に内科に行くという可能性もあるのでしょうか。

うつ症状が「食欲がない」「お腹が痛い」といった症状が出てくる場合もあるので、本人が産後うつだと気づかずに、内科を受診する可能性はあると思います。

——「産後うつかもしれない」と思っているのでしたら、婦人科か精神科が推奨されるということでしょうか。

婦人科も可能でしたら、妊婦健診をしていたり、お産を取り扱っているような「産科」もやっているところがいいと思います。

出産から2、3か月以内でしたら、出産した病院が行きやすいのであれば、まずそこで相談をされるといいでしょう。

わからなければ、地域の保健センターなどで聞いてみると、どこで受診すればいいか教えてくれたり、産後うつ症状に関してまずは地域の保健師さんや助産師さんに相談するのもいいと思います。

子育て支援センターにふらっと行って相談してみるのもいいと思います。


※後編に続きます。

【プロフィール】
高橋怜奈(たかはし・れな)

山王ウィメンズ&キッズクリニック大森院長
産婦人科専門医・指導医・女性ヘルスケア専門医・がん治療認定医・性スポーツドクター・教育認定講師・抗加齢医学会専門医・母体保護法指定医・医学博士。
双子育児。元プロボクサー。

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