ヨガはどのようにして小児がん患者を助けるか

 ヨガはどのようにして小児がん患者を助けるか
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サン・ディエゴにあるラディー・チルドレンズ病院で行われているボランティアによるヨガプログラムは、小児がんの子供たちの生活の質を向上させている。

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エメー・デルーナは病院のベッドでヨガのプラクティスを行っている。
エメー・デルーナは病院のベッドでヨガのプラクティスを行っている。写真:クリスティーナ・ドハティ

ブルー・サファイア色のソファ・ベッド。合成樹脂素材のクローゼット。動く度にうるさいティーワゴン。ジェイミー・ジャオはこの病院の一室で、息子であるサヴィオ–マカニ・ジャオが急性骨髄性白血病のために24時間体制の治療を受けた8ヶ月間のことを決して忘れません。しかし今日、彼は寛解して手に負えないほど元気な2歳半となり、赤いプラスチック製のレッド・フライヤーのカートに乗って、以前自分が暮らしたサン・ディエゴのラディー・チルドレンズ病院内のベッドルームを訪れました。「息子は下の階で遊びに夢中だったのでカートに無理やり乗せてきました」とジャオはため息交じりに私たちに述べました。サヴィオのエネルギーは有り余って、タービンに燃料補給できるのでは、と思うほどです。馴染みの看護師たちは彼のフサフサにしっかりと生えた艶のある黒髪を見てびっくりしています。つい昨年まで彼がフルタイムで化学療法を受けていたなど誰も想像がつかないことでしょう。

退院後5ヶ月が経ち、ジャオは夫と4人の子供たち(サヴィオは最年少)と共に家での生活を再開しています。彼女は見た目には疲れていますが、心の方は元気です。左肩の上のひどく凝っている部位を指差しながら「体にはストレスを抱えています」と彼女は肩をすくめます。

サヴィオがかつて過ごした病院の一室には、ボランティアで働くヨガティーチャーのリズ・フォッチの存在もありました。ブルネットヘアの彼女はいつも笑顔が印象的で、病院にずっと籠っているジャオを毎週のように訪れて緊張とストレスを解す手助けをしてくれました。「肩が良くなっているわ!」フォッチが勇気付けるとジャオは頷きます。「ヨガは肩や背中の痛みを和らげるのに役立ちました」と彼女は述べます。そして声を少し低くして述べます。「悪いことがあった日、ヨガは頭の中からそれを消し去ってくれました」

子供の学校やスポーツ練習への送り迎え、そして元気なサヴィオを家で追いかけ回していると自宅に戻って以来、定期的にヨガの練習をする時間を持てなかったと言います。

ジェイミーとサヴィ
かつて彼らが過ごしたサン・ディエゴにあるラディー・チルドレンズ病院を訪れた母ジェイミーと息子のサヴィオ–マカニ ジャオ 写真:クリスティーナ・ドハティ

ラディー・チルドレンズ病院で行われているがん患者とその家族向けのヨガプログラムは、ショーン・オシェイ財団(Sean O’Shea Foundation)によるボランティア活動で支えられています。ショーン・オシェイ財団は、非営利団体であり、若者たちがヨガやマインドフルネス、ポジティブな指導方法を通じ、自信をもてるように活動を行なっています。同財団はグロリア・オショイが2006年に自動車事故で死亡した息子であり、子供向けヨガティーチャーであったショーンを称えるために設立しました。彼は32歳でした。ショーン・オシェイ財団は2008年からサンディエゴの子供たちそして10代の若者たち向けのプログラムを行なってきましたが、2011年にラディー・チルドレンズ病院と提携し、がん治療を受けている子供たちとその家族のために研究に基づいたヨガのもたらす効果を活用してきました。フォッチのようなボランティアのヨガティーチャーの多くはヘルスケアの専門家であり、がんからの回復のためのヨガを専門とし、週3回ほど病院のオンコロジーを訪問し、患者やその家族、また親しい訪問者のために各部屋をまわって個人セッションを行います。セッションはだいたい30分程度で、ベッドの上で行うプラーナーヤーマや瞑想からボランティアが持参するカラフルなマットの上で行うアーサナまでを行います。

ステージ4の神経芽細胞腫と戦う10歳の娘

ラディーで2年間、ステージ4の神経芽細胞腫と戦う10歳の娘、ジュリア・デイヴィッドソンの母親、ジェシカ・デイヴィッドソンは「ヨガインストラクターが部屋に入ってくると、心が少しウキウキします」と言います。そして今日、ジュリアは、外科による腫瘍摘出と6回に及ぶ最新の化学療法とそれに続く免疫療法を受けながら、ヨガとダンス(80〜90年代の音楽を色々聴きながら)を思い切り楽しみつつ、早い回復を見せて寛解に向かっています。

彼女は今も定期的にダンスし、ヨガの練習を続けており、私に「ヨガは本当に心を落ち着かせてくれて、人間の体にとって良いと思うし、私はお勧めします」と述べました。化学療法や放射線治療のようなその他のがん治療は非常に不安定で、子供の成長を遅らせることがあります。抜け毛以外の最も一般的な副作用には、吐き気と嘔吐、呼吸困難、神経損傷(神経障害)、そして免疫システムの低下が含まれます。

過去20年間に及ぶ膨大な研究結果から、ヨガにはがん患者の症状やストレスを軽減し、気分や全般的な生活の質を改善する能力があることが認められていますが、メリーランド大学付属統合医療センター(the University of Maryland School of Medicine’s Center for Integrative Medicine)のヨガ療法のディレクターであり、理学療法士でもあるケリー・べツェルは、ラディーで行われているような各患者それぞれにカスタマイズされたプラクティスは実生活において最も効果が高いと述べています。

しかしヘルスリサーチの現場では、ヨガの絶対的な可能性を標準化された臨床試験で証明することはほぼ不可能です。「がんの旅は皆それぞれ異なり、ニーズや症状もさまざまです」と彼女は述べます。「どのタイプのヨガが適しているかということは理解すると良いでしょう。しかしながら、このポーズ、このエクササイズ、と決められた内容の通り、きっちり従って行わなければいけないということはなく、そうしたからといって効果を最大限に引き出すというわけではありません」小児科におけるリサーチというのは極めて難しいものですが、2019年に行われた化学療法を受けている小児科外来患者に対するヨガの影響を調べたフィジビリティスタディ(実現可能かどうかを事前に調査し、検証すること)によると、2つの最新の予備研究の結果、個別のヨガプログラムを受けることにより、がん治療を受けている思春期の子供たちの生活の質を改善したことを示しています。最終的に、その研究著者たちはさらなる調査を求めました。「これまでヨガによるトリートメント効果のエビデンスの多くは乳がんの臨床試験から来ています」とべツェルは言います。

ジュリア・フクハラは、2013年にラディーで看護師およびボランティアのヨガインストラクターとして働き、データ収集を行いました。「成人にも子供にもいかに統合医療が重要かを示す研究はいくつかありますが、実際に最前線に立ってみると気が遠くなります」と彼女は言います。ヨガをすると子供たちの眠りの質は上がり、不安感も軽減します。そして多くの場合、鎮痛剤や吐き気止めを必要としませんでした。ヨガの訪問をする際、フクハラと他の病棟の講師たちは、患者の状態、勧められているヨガのエクササイズ内容、そして結果、日付を記した詳細なノートを携帯していました。「すでにノートに情報が書かれているので、後は痛みや不安感、QOL(生活の質)などの情報とともデータを数値化してみましょうということになりました」と彼女は言います。

続いて、32名の子供たちとその家族にヨガセッションを6か月間体験してもらい、その前後を調査しました。結果は今後数ヶ月以内に公表される予定です。フクハラはヨガがもたらすポジティブな変化を報告できることを楽しみにしています。

神経芽細胞腫から寛解する間、ヨガプラクティスを続けた10歳のジュリア・デイヴィッドソン 写真:クリスティーナ・ドハティ
神経芽細胞腫から寛解する間、ヨガプラクティスを続けた10歳のジュリア・デイヴィッドソン 写真:クリスティーナ・ドハティ

一般的な化学療法薬は神経系を弱めることが知られています、とフクハラは言います。彼女がラディーで出会った子供たちの副作用は、しばしば呼吸困難、バランス感覚、集中すること - そして最終的に神経障害と指とつま先のしびれとして現れました。小児がんの看護師であるジェニー・スパイズと共著した彼女の研究によると、フクハラはヴィラバドラーサナ (戦士のポーズ)やヴルクシャーサナ(木のポーズ)のような刺激的なパワーポーズが患者を刺激すると発見しました。それは摂取している薬の副作用に対して抵抗力を生み出すかのようでした。「まるで神経系を強化しているかのようでした」と彼女は述べます。

スパイズはラディーの統合医療プログラムの創設者であり、ヨガのイニシアチブのコーディネーターです。彼女の暖かな色の赤毛は彼女の内面を映し出すかのようです。彼女は骨髄生検や患者の最初のステップを目の当たりにしてきています。(彼女はサヴィオが部屋を飛び回っている様子を見て心を打たれました)

スパイズによると、彼女が最も驚いたのは、ジャオのように、絶え間ない心配事そして病院職員の頻繁な訪問によって眠れない夜が続く両親にヨガのセッションが絶大な効果を及ぼしたことです。「私たちはがんの診断によって患者やその家族の人生をひっくり返します」と彼女は述べます。「ヨガの素晴らしい点は、それがたった10分であっても、リラックスとコントロールの感覚を与えるということです」

ボランティアのヨガティーチャー

ピン・チャオは、小柄でか弱く見えますが、だまされてはいけません。彼女の柔らかで少し疲れた顔にあるシワ、艶やかな黒髪のショートヘア、それらは彼女の忍耐力の証です。中国系移民の彼女は、最近、乳がんの治療を終えたばかりでショーン・オシェイ財団のです。

ヨガの中でも特にサマブリッティ・プラーナヤーマは呼吸し、息を止めて4つ数える技術のことを示しますが、彼女自身が化学療法と放射線治療を受けていた際、疲れと吐き気を軽くしてくれました。彼女は、ヨガプラクティスから得た強さとがんを克服した元患者たちによるサポートがきっかけとなり、ラディーでボランティアを始めました。

エメー・デルーナは治療を続けながら、乳がんを克服したピン・チャオと一緒にヨガプラクティスをしています
エメー・デルーナは治療を続けながら、乳がんを克服したピン・チャオと一緒にヨガプラクティスをしています

研究によると、プラーナヤーマのような簡単なヨガエクササイズは免疫システムを刺激することができます。そしてチャオは小児がん病棟を中心にセッションを開始しました。

17歳のエメー・デルーナは病院のベッド脇にある小さな椅子に腰掛けています。4週間前、彼女はお母さんと一緒にショッピングモールへとプロムドレスを買いに行った際、会計待ちのところで気を失いました。彼女の担当小児科医は貧血を疑ったが、血液検査の結果、白血病であることが明らかとなりました。エメーが化学療法を外来で受けるため、彼女と両親はほぼ毎日、家から1時間半のドライブをします。今日、彼女は病院のガウンとグレーの毛糸帽を見にまとい、チャオのガイドに従って目を閉じ、微笑みながら瞑想し、ストレッチをしています。このように彼女たちは約3週間一緒に練習しています。

「最初に彼女からやりたいか尋ねられた時は頑固にノーと言いました。でも3回目にはずっと気分が良くなってチャレンジしたいなっていう気分になったのです」とデルーナは笑います。彼女はチャオの醸し出すリラックスムードも好きだし、彼女たちのセッションをこう名付けました。「化学療法と針と全ての嫌なものからの楽しい小さな逃避行」と。やがて彼女はヨガの時間が楽しみになりました。ヨガはリラックスできるし、ストレッチすると気分が良いし、少し前までは全く相入れなかったチャオと一緒にいるのが今ではとても楽しみになったのです。チャオはこう述べます。「私は特別な立場にいます。部屋に足を踏み入れると、子供たちがそこにいます。彼らは痛みを抱え、治療による不快感や恐れを経験しているのです。そして彼らの両親もまた同じ思いを抱えています。でも私は言えるんです。ほらここに私がいるからって。私も同じ経験をしたのよって。私も彼らが抱える肉体的、精神的困難を全て経験し、そしてヨガを始めたんです。ヨガは助けてくれます。私はまだ元気に生きていますからあなたも大丈夫よってね」

教えてくれたのは…リンゼイ・タッカーさん
リンゼイ・タッカーは、米ヨガジャーナルのシニア・エディターであり、ジャーナリストとしても活躍している。

ヨガジャーナルアメリカ版/「How Yoga Is Helping Kids with Cancer

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Translated by Hanae Yamaguchi



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エメー・デルーナは治療を続けながら、乳がんを克服したピン・チャオと一緒にヨガプラクティスをしています