がん治療の副作用を緩和?米国注目の「乳がんサバイバーのためのヨガ」
乳がんと闘う女性たちのために、ヨガは治療の副作用を和らげ、自分は完全で何も失っていないと思える力を与えてくれる。この記事ではがんサバイバー兼ヨガインストラクター、デブラ・カンパーニャ氏の経験や医学博士の見解をもとに、ヨガががんに与える影響と具体的なポーズを解説する。
がん治療にヨガがもたらすもの
悪いことが起こる前触れは、一人でいるときにやってくることがある。マンモグラフィー検査の数日後、携帯電話のディスプレイに医者の番号が表示された。まず感じるのは恐れだ。一瞬で恐怖にのみ込まれ、訳がわからなくなる。やがて、恐れる対象が何度も聞いたあの名前の持ち主だと気づく。乳がんだ。多くの女性が克服しているし、できなかった女性たちもいる。見つかった胸のしこりががんと確定されたら、心身が削られるような治療に何カ月も立ち向かわなければならない。食欲も活力も髪も失い、魂を宿している自分の体も安全と思えなくなるかもしれない。そんなときにヨガを始めるなんて無茶な話かもしれない。
だがコネチカット州ハートフォードで病院長をしていたデブラ・カンパーニャは、まさにそれを実行した。2000年のバレンタインデーに、彼女は医師から、1週間前に見つかった左胸のしこりはがんだと告げられた。腫瘍は大きく進行が速かったため、西洋医学の中でも最も強烈な治療プランが必要だった。化学療法と放射線療法と外科手術だ(残念ながら、カンパーニャは自動車事故で2010年に他界した)。
当時50歳だったカンパーニャは、週に5回ジムで鍛えていた。もう通えなくなると思ったとき、「クンダリーニヨガの、プライベートレッスンのチラシを見つけたの。すぐに申し込んだわ」。彼女はヨガの経験はなかったが、治療の間も続けられるようなトレーニングを探していたからだ。それから1年、彼女は週1回のペースでヨガを練習することができた。
カンパーニャは化学療法の前に2回の手術を受けた。1回目の手術では腫瘍と転移があるリンパ節を切除し、2回目は最初の手術で取りきれなかったがん細胞を取り除いた。そして4月の初めには8回の化学療法に耐え抜き、放射線治療も30回受けた。それと並行して、CTやPET検査、生体検査、ほかにも数えきれないほどの検査や治療相談、投薬治療と闘った。「とにかく怖かった」とカンパーニャは語った。「自分が生き残れるかまったくわからなかった」
8年後、カンパーニャはがんを克服した。彼女は「奇跡のドクターチーム」のおかげで回復できたと医師たちに感謝する一方で、ヨガも治癒に欠かせない要素だったと信じていた。
「ヨガが治療に大きな効果を果たしたのは確かよ。呼吸のおかげで私はいつも自分らしくいられたし、恐怖やパニックを抑えることができた。PET検査の機械の中で1時間もじっと横たわっていると、恐ろしい考えばかりが湧いてくるの。そこで私は呼吸に集中したのよ。あれほど効果を感じたことはなかったわ」
乳がんの症状による恐怖や痛みや不安の中で、前に進むためにヨガを始める女性が増えている。口コミでその効果を聞いた人もいれば、医師から練習をすすめられた人もいる。これらの女性たちと、ヨガの効果を調べている研究者たちは、この古代の教えが癒しや慰めだけでなく、自分は完全であるという感覚を再びもたらすことに気づいている。
「ヨガとがん治療を平行するメリット」医学的見解は
「乳がん治療と並行してヨガを行うと、副作用が軽減されるという研究結果があります」と言うのはティモシー・マッコール医学博士だ。『ヨガジャーナル』誌の医学編集者で、『Yoga as Medicine』(邦題『メディカルヨガ』)と『SavingMy Neck』の著者である。
「医師たちは化学療法を中止したり、がんに効かない程度まで薬の量を減らすことがよくあります。患者たちが副作用に耐えられないからです。ヨガはあらゆる副作用を軽減します」がん患者にとって、活力を取り戻すのは特に大事なことだ。がんと治療による副作用で最も多いのは疲労だからだ。「ヨガは疲労に対して大きな効果を発揮します」とマッコールは説明する。2008年にデューク大学の研究者が発表した研究によると、軽度のポーズと瞑想と呼吸に特化した8週間のヨガプログラムを実施した結果、転移性の重度の乳がんを患う女性たちの疲労や痛みが大幅に軽減されたという。他の研究においても、ヨガが治療に伴う吐き気やうつ症状、不安感を和らげることがわかっている。
乳がん患者には特に効果を発揮
ヨガはほかの種類のがんを患う人にも効果をもたらす。だが特に乳がんの患者たちに人気があるようだ。その理由は、乳がん患者たちは患者団体として、ほかのがん患者たちよりも積極的に研究や支援グループを擁護し、研究者たちの研究資金確保を促しているためだろう。彼らが研究結果でヨガの効果を示せば、医師たちもさらに推奨するようになる。また、乳がん患者は、たとえば卵巣がんや肺がんの患者たちよりも早い段階でがんが見つかることが多いため、まだ体力もあるし、全体的に健康な状態にある。つまり、ステージ1の乳がん患者は、ほかのがんの患者たちよりも強度の高い練習ができるのだ。
とはいえ、乳がん患者が実践できるヨガは、通常のアーサナ練習とは異なる。軽度に変えたアーサナを、瞑想やプラーナヤーマ(調息法)と一緒に行う方法がいちばんいいだろう。がん患者向けにつくられたヨガクラスを見つけられればラッキーだが、ヨガセラピーを専門とするティーチャーに習ってもいいだろう。いずれにしても、患者が快適に自分のペースで練習できることがいちばん重要だ。
「生徒たちには、自分の状態を観察するようにと常に話しています」とジジャーニ・チャップマンは言う。チャップマンは、カリフォルニア大学統合医療オッシャー・センターで看護師、マッサージセラピスト、ヨガティーチャーを務めている(彼女も2017年に自動車事故で他界)。彼女は本記事でも紹介しているアサナシークエンスをつくり、30年以上にわたってがん患者向けのクラスを教えている。「心地よい練習であるべきです。クラスの後は疲れではなく、エネルギーに満ちてリラックスした感覚がないといけません」。チャップマンが師事したインテグラル・ヨーガの創立者スワミ・サッチダーナンダは、平安と内なる完全に至る道はたくさんあると説いていた。「ある人にとっては、その道は肉体を調えるハタヨガかもしれないし、ほかの人たちにとっては瞑想かもしれない」。チャップマンは、癒しを促すために、心身に働きかけるさまざまな方法を患者たちに紹介している。
がん患者向けのヨガクラスの多くは、チャップマンのシークエンスを行い、快適に練習できるように通常よりも厚みのあるクッションの利いたマットを使用している。標準的な90分のクラスでは、最初の10分間は生徒たちが互いに自分の状態を伝え合う。それからチャップマンが「観察のプラクティス」と呼ぶ練習に移る。これは各自が体の感覚を観察しながら意識を内面に向けるボディスキャンのような瞑想だ。次に約30分間アーサナ練習を行う。病状に関わらず全員が参加できるように、ほとんどのポーズは椅子に座って行われる。最後は呼吸や短い瞑想を行いながら、深いリラクセーションのための時間をとる。
神聖な自己のために
「がん患者のグループは、同じ思いを持つ者同士のインテンショナル・コミュニティになり、互いに支え合っています」と、チャップマンは言う。「がん患者たちは『標本』にされてしまうからです。体の一部を失うと西洋医学では人間ではないものとして扱われるので、本来の自己を取り戻す必要があります」
本記事のモデルとして登場しているロビン・ホールは、サンフランシスコ在住の56歳のヨガティーチャーだ。彼女がチャップマンのマッサージセラピーを受けに来た時、彼女の上半身の皮膚は乳がんのための放射線治療で焼けただれていた。「モンスターのような気分だったわ」と彼女は思い起こす。彼女にとってチャップマンのクラスは、思い切り泣くことができて、安全で、ほかの人たちと経験を分かち合える場所になった。「そこでの最大の学びは、私たちの中身は変わらない、ということだったわ」と彼女は言う。「胸を1つや2つ失っても、腕が頭の上まで上がらなくても、私たちの神聖な本質は変わらないのよ」
ヨガがもたらす満ち足りた感覚は、クラスでほかの生徒たちと一緒に練習しなくても得ることができる。一人で何週間もベッドに横たわっていたセントルイスのレイラ・サダトにとって、ヨガは命綱となった。2006年に乳がんの宣告を受けた時、彼女は妊娠19週目に入っていた。医師からは、ステージ3のER陽性乳がんであり、妊娠中のホルモンによって急速に進行していると告げられた。サダトはそれまで10年以上ヨガを練習していて、パラヨガ創立者のロッド・ストライカーのもとでティーチャートレーニングも数回受けていた。だががん宣告を受けた後、彼女はまったく新しい形でヨガを経験することになった。
「ヨガは身体的なアーサナだけじゃないとわかっていたわ。でも以前のように動けなくなって初めて、心の底から感謝したの」。幸いサダトは安定期に入っていたので、化学療法を受けることができた。だが(おそらく化学療法が原因で)7月に陣痛が起き始めたため、出産予定まで絶対安静を余儀なくされた。「ちょっとした散歩すら行けなかったのよ。左側を下にしてひたすら横たわっているしかないの。呼吸法のおかげでなんとか正気を保っていたわ」
その年の9月、彼女は帝王切開で健康な女の子エミリーを産んだ。そして化学療法を再開するまでの1週間は娘に母乳を与えた。2006年の12月、サダトは乳腺を切除した。そして手術後、まだ十分に動けないうちから、彼女は体力回復のためにアーサナ練習を始めた。病気の間もその後もずっと、サダトはあるイメージから力を得ていた。それはがんの宣告直後に受けたリストラティブヨガのクラス中に心に浮かんだ光景だった。
「その時はヨガニードラ(眠りのヨガ)をやっていたの。するとこんな美しい映像が見えてきたのよ。私はどこかの庭にいてプールに落ち、浄化されて、治った状態でプールからあがるの。そのとき、私は絶対に大丈夫と確信できたわ」内なる平安を強く感じる方法を知っていると、癒す力が高まるのだとマッコールは言う。
「ヨガは免疫システムを強化することが立証されています。おそらくコルチゾール値が下がるためでしょう」。ホルモンであるコルチゾールは、私たちがストレスを感じると分泌される。また長期にわたって過剰に分泌されると免疫機能を低下させる、とマッコールは説明する。
「がんを治すのは自分の仕事だと躍起になって24時間監視していると、常にストレスホルモンが分泌されてしまい、結果として回復を妨げてしまいます」。ほとんどのがん治療は免疫システムを低下させるため、特にがん患者はできるだけ免疫力を強く保つ必要がある。これはがん治療だけでなく、ほかの病気予防にも言える。
認められたヨガの有効性
ジジャーニ・チャップマンがヨガをがん患者たちに教え始めると、その練習効果は次第に医学界でも認められるようになった。「たくさんの小規模な病院で、がん患者向けのヨガクラスが行われるようになったわ。今ではどんどん増えているの」
たとえばアイダホ州ボイシにあるセントルークス地域医療センターでは、18年にわたってがん患者にヨガの機会を提供している。きっかけは、1998年に看護師でヨガティーチャーのデブラ・マルニックが始めた従業員向けのクラスだった。「プログラムに参加したうちのひとりが腫瘍科の看護師で、がんサバイバーだったの」とマルニックは言う。「体があんなに楽になったのは初めてだったそうよ。そこで彼女は、患者たちも参加できないかと考えたの」
彼女とマルニックはプログラムを開発した。「プログラムが正式に認められたのは、私が看護師だったからよ」とマルニックは説明する。「みんなが私を知っていたから」。マルニックはヨガになじみのない内科医たちにもヨガを紹介した。「がん専門医委員会が導入を検討していたので、リストラティブヨガのクラスを開催したわ。それで決まりよ」ボイシの電気通信会社でマネージャーを務めるスー・ロビンソンは、2007年に乳がんの宣告を受けると、すぐにセントルークスのクラスに通い始めた。「こんなの初めてよ。シンプルなようで、ものすごい効果があるの」と彼女は語る。「今この瞬間すべてのものとのつながりが感じられるの。その効果が何日も続くのよ」
ヨガティーチャー不足
それでも、最近がん宣告を受けた女性たちにヨガが標準的治療の一環として提供されることはまだ少ない。米国国立がん研究所のOffice of Cancer Survivorship の前ディレクター、ジュリア・ローランドは、その理由のひとつとして、がん患者に教えるためのトレーニングを受けたヨガティーチャー不足を挙げている。
チャップマンはその状況を変えようと尽力した。毎年彼女は、「がんと感染疾患のためのヨガセラピー」と呼ばれる1週間のティーチャートレーニングプログラムをヴァージニア州サッチダーナンダアシュラムで開催した。またデザイナーのダナ・キャラン主宰のアーバン・ゼン・イニシアティブはインテグレイティブ・ヨガセラピストを育成し、がん患者向けのヨガ、瞑想、ヒーリングタッチ、アロマセラピーをニューヨークのベス・イスラエル・メディカルセンターで提供している。アーバン・ゼンのセラピストトレーニングは、2019年はカリフォルニア州ウェストウッドとサンタモニカのUCLAメディカルホスピタルでも開催される。
ヨガを実践する患者が増えるほど、患者たちはヨガから得た恩恵を医師に伝えるべきだとローランドは言う。「患者が医師に『ヨガをやってみて最高だった。こんなふうに助けられた』と話したことで、ヨガプログラムが承認される例が多いからです」デブラ・カンパーニャもそれに同意した。彼女自身も、ヨガが乳がんと闘う女性たちに大きな力をもたらすことを実感していた。ジムの代わりに向かったクンダリーニヨガクラスが、彼女の人生を変える旅の始まりとなった。「ポーズだけでなく興味深い学びを得たわ。すべてのものに対する見方ががらりと変わったの」
カンパーニャがヨガを始めたとき、彼女は常に駆り立てられている感じだった。だがヨガに助けられながら厳しい治療に耐えるうちに、手放したり受け取ることが楽にできるようになった。「落ち着きが出て、恐れなくなったの。より受容的になれたわ」仕事に復帰したカンパーニャは、ヨガで学んだことを病院のスタッフたちにシェアするようになった。そして2003年には、ストックブリッジのクリパルヨガセンターでティーチャートレーニングを受ける決意をした。
「あの日のことを覚えているわ。霧の中、クリパルセンターで紅茶を片手に湖を眺めながら、こう思ったの。人生を大きく変えていこうって」とカンパーニャは言った。「その時を境に、私は会社員生活を送りながらヨガを教え始めるのではなく、もっと根本から変えようと思ったの。自分のすべてをヨガに捧げようって」
カンパーニャはヨガセラピストとして、自分のほとんどの時間をさまざまな病や症状に苦しむ人たちのために費やしながら、女性のがん患者向けのクラスと、慢性痛を抱える人向けのクラスを教えていた。病気は恐怖に包まれてやってくるが、その中には美しい発見もある、という気づきを生徒たちと一緒に日々感じている、と彼女は語った。
治療中でも練習できる6つのポーズ
このシークエンスは、乳がん治療中のすべての患者のリンパ排出を促すためにつくられている。現在、化学療法や放射線治療を受けている人、リンパ浮腫のある人、腋窩リンパ節郭清(かくせい)をした人、一部もしくは完全に乳腺切除をした人も実践できる内容となっている。
練習の前に
練習を始める前に、主治医やチームに相談しよう。これらのポーズを自分の治療プランに取り入れることについて必ず了承を得てほしい。術後の体を痛めずにこのシークエンスの効果を得るには、どのストレッチでも可動域のぎりぎりまでやらずに、各動作に細心の注意を向ける必要がある。少しでも疲れや痛みを感じたら、筋肉を回復させるために休息をとること。
各練習のはじめには、目的を明確にしよう。たとえば、世界平和や苦しみからの解放、あるいは個人的なゴールを設定してもいい。呼吸とともに動きながら、湧き起こってくるものを観察しよう。呼吸はたっぷりと深く行いながらもリラックスする。長く圴一に息を吐いて、腹筋を背骨に近づける。この腹筋の動きによって、リンパ液が重力に逆らって胸のほうに上がりやすくなる。練習後に肩や首、背中に緊張を感じたら、それはやりすぎのサインだ。次の練習ではもっとゆったりと動くこと。練習を終えるときは、人生で関わっている誰かや、自分自身の我慢強さと不屈の努力に対して感謝をしよう。
リンパ節とは
乳がんを患うと、体中にリンパ液を巡らせるリンパ系(リンパ管やリンパ節)の正常な機能がさまざまな治療によって妨げられる。リンパ節は正常な免疫システムには欠かせない。感染を防御する白血球が集まっていて、がん細胞のような異物の侵入を防ぐからだ。放射線治療は健康なリンパ節やリンパ管にも損傷を与えてしまう。またリンパ節は、がん細胞や腫瘍に冒されていないかを見るために生検で一部を切り取られたり、切除されたりする。リンパ節の切除は、感染症やリンパ浮腫(リンパ液が間質組織に溜まり、浮腫を起こす)のリスクを生じさせる。ただ幸いなことに、リンパシステムでは残りのリンパ節を代用として使うことができる。
リンパ液は鎖骨の裏側で血液に合流する。左胸上部には胴部、両脚、左腕、頭と胸部の左側からのリンパ液が集まる。一方、右胸上部には頭と胸部の右側および右腕からのリンパ液が流れ込む。筋肉はリンパ管に沿って絶えずリンパ液を流すポンプの役割をしている。両腕を胸の高さかそれより高く上げて筋肉を収縮させると、受動的かつ能動的にリンパ液を排出できて回復を促すことができる。つまり腕を上げると重力によってリンパ液が腕から胸に流れ、さらに筋肉の動きによってリンパ液をリンパシステムに沿って押し出せるのだ。
1 ヒップウォーク(お尻歩き)
両脚を前に伸ばした状態で床の上に座る。息を吸って背骨から頭のてっぺんまで長く伸ばし、骨盤をやや前傾させる。背中は真っすぐに。片方のお尻を交互に前に出して、マットの前の縁まで移動したら、後ろに向かって同様にお尻で歩く。これを数分間、あるいは心地よさを感じるかぎり繰り返す。深い呼吸を行いながら、息を吐くときは腹筋を引き締めるようにする。
応用:このヒップウォークは椅子に座ったままでもベッドの中でもできる。両腕を床と平行になるように前に伸ばし、ヒップウォークをしながら腕だけで踊ったり泳いだりフラダンスのように動かしてみよう。
効果:骨盤周囲や腹部の筋肉を活性化する。内臓へのマッサージ効果、リンパ排出を促す。
2 水鳥のポーズ
椅子に座って両腕を前に伸ばし、床と平行の高さか、やや高くする。肘を直角に曲げる。ポーズの間は、前腕を床から直角に立てて腕同士を平行に保ち、手が肘の真上にあるように保つ。腕と肘を、肩の高さか、肩より高く上げたまま動かすことで、リンパ液が重力によって腕から胸に流れやすくなる。
息を吐きながら両肘を胸の前で近づける。このとき、前腕同士を平行に保つように気をつけよう。肘の位置よりも両方の手が寄りすぎないように。肺いっぱいに息を吸って上方に胸を開き、両肘をできるだけ左右に広げる。このときも肘の真上に手があるように保つ。この動作を快適なかぎり繰り返す。はじめは小さな動作で数回繰り返すだけでいい。数週間かけて8 ~ 10回繰り返せるように練習しよう。必要であれば休息をとる。
応用:このポーズをベッドに横たわりながら、あるいは立って練習してもよい。
効果:上腹部と胸の筋肉を鍛え、リンパ節郭清後の治癒を促す。
3 おかしなティーポットのポーズ
肘かけのない椅子に座り、左手で左腰を支えた状態でポーズを始める。上半身をティーポットだと想像しながら吸う息で満たしていく。尾骨から頭頂まで真っすぐにし、背筋を長く伸ばす。右腕を右の耳横から上に伸ばし、指先を天井に向ける(あるいは右肘を曲げて手を後頭部に添える)。
息を吐いて、上半身の面を保ちながら左に傾ける。ここで、右手か肘からお茶を注いでいる様子を想像しよう。上半身を傾けるときは、胸を大きく開いて両肩が一直線上に並ぶようにし(ねじったり傾けない)、体側を長く保つ。息を吸って中央に戻り、逆サイドでも繰り返す。
応用:手を腰ではなく、椅子の座面にのせてもよい。
効果:内側と外側の肋間筋(肋骨の間の筋肉)を活性化し、深い自由な呼吸を助ける。体幹から上方に向かうリンパ液と、両腕に流れるリンパ液の流れを促進する。
4 ネコが喉を鳴らすポーズ
両足を床につけるか、クッションの支えを利用して椅子に浅く腰掛け、上半身を心地よく真っすぐに立てる。手のひらを膝にのせる。息を吐いて、尾骨を前方に引き込みながら骨盤と腰を丸める。さらに背骨も丸めてあごを胸に近づけ、手を膝にのせたまま両腕を伸ばす。息を吸って、尾骨を下の床に向けながら、手を膝から腿にすべらせる。
背骨を長く伸ばして軽く反らせ、胸を引き上げる。体を丸めるときに息を吐き、開いて伸ばすときに息を吸う。ネコが満足げに喉を鳴らすようにリラックスしてこの動作をやってみよう。楽にできる範囲で背骨の軸を前後に動かせばいい。椎骨一つひとつがどのぐらい動くかを探りながら、自分の感覚を観察しよう。
応用:厚めのマットの上に四つん這いになってポーズをやってみよう。こぶしや手首が肩の真下に、膝が腰の真下にくるように調整する。
効果:背骨の柔軟性を高め、腹部を強化する。
5 ねじ巻きのポーズ
椅子に座って背骨を伸ばし、頭頂を空に向かって引き上げる。足は床につけ、膝が足首の真上にくるように調整する。左手を後方におき、手のひらを座面につける。右腕を前に伸ばして床と平行の高さに保つ。
伸ばした手のひらを左に向け、手を見つめたまま、息を吐いて背骨の下から左にねじっていく。右腕が常に床と平行になるように保つ。ねじり切ったときに息を吐き切るようにしよう。
息を吸いながら、手の甲を進行方向に向けて右腕を中央に戻していき、さらに息を吸い続けながら、そのまま腕を右側に開いて伸ばす。呼吸に合わせて動作を繰り返し、少しでも疲れや筋肉の疲労を感じたら休息をとる。腕を替えて、快適なかぎり動作を繰り返す。
応用:手を肩にのせるか、指を組んで首や頭の後ろに添えた状態で左右にねじってもよい。ベッドや床の上に座って行ってもいいが、絶対に横たわらないこと(横たわった状態でのねじりは禁忌。ねじったときに下半身の体重が背骨にかかりストレスとなる。体には治療で既に負担がかかっているので、余計なストレスは避けたほうがよい)。
効果:重力によってリンパ液は胸の前面に流れて血液に入り、体の排出器官で浄化される。このポーズは血液循環とリンパ液の排出を促す。また神経系を静めてバランスを整え、心を落ち着かせる。
6 鎮静のポーズ
クッション性のあるマットに仰向けになる。膝を直角に曲げられる高さの椅子にふくらはぎをのせる。両腕を体側から離して力を抜き、肘を柔らかい枕の上にのせてやや高くする。両手はお腹にのせる。快適であれば目を閉じるか、アイピローをのせる。息を吐きながら、腹筋を背骨に向かって引き入れる。この練習で生み出されたエネルギーが手のひらから体の中心に流れていくイメージをしよう。今生きているという奇跡を味わいながら、癒しのエネルギーが呼吸とともに体のすべての細胞、すべての筋肉、すべての組織、すべての臓器、すべてのシステムに行きわたり、体、心、精神、エネルギーが癒えていく様子を思い描く。自分の中心を感じて休息し、内なる生命を回復させよう。
効果:重力によってリンパ液は胸の前面に流れて血液に入り、体の排出器官で浄化される。このポーズは血液循環とリンパ液の排出を促す。また神経系を静めてバランスを整え、心を落ち着かせる。
治癒のためのヴィジュアライゼーション
化学療法や放射線治療、手術の前や検査結果を待っているときなど、治療や回復の最中は困難な状況が多いはずだ。誘導イメージ瞑想は、回復に意識を向けやすいように組み立てられている。この練習で視覚、聴覚、感覚に意識を向けながら、内なる深い平安とともに自分を癒そう。目を閉じて横たわり、以下のテキストを友人に読んでもらうといいだろう。この誘導瞑想によって自分自身で体のシステムの治癒を促そう。
快適な姿勢をつくる
ベッドやヨガマットの上など、楽に横たわれる場所で仰向けになろう。心地よくなるように、できるだけ多くの枕やボルスターで頭や首、前腕、膝を支える。両膝を曲げて腰をニュートラルポジションにし、ふくらはぎを椅子にのせてもよい。どこにもストレスがなく、背骨が真っすぐになっているかを確かめよう。
内なる世界へ
どこか美しい場所を想像してみよう。実際の場所でも空想でもいい。自分が安全で安らぎを感じられる場所だ。イマジネーションを使って癒しの場所をつくろう。心の目でその光景を思い描いてみよう。この場所は自分だけの特別な聖域だ。
聖域を観察する
まわりを見てみよう。そこに広がるのは見渡すかぎりの景色や山々、海、あるいは色や光だけがあふれている場所かもしれない。いま何が聞こえるだろうか。鳥のさえずり、波がくだける音、木々を抜けるそよ風。心が落ち着いて、体が癒される光景や音に浸ろう。触覚や嗅覚に訴えるものでもいい。安らげる感触や香りを思い出してみよう。それらのイメージに意識を向けて、治癒が促されていると感じよう。
休息する
五感を使って癒しの聖域を思い描いたら、そこでゆっくり休もう。回復に必要なものはすべて受け取っていると思いながら、呼吸を観察する。自分の中心とつながり、ゆったりと休息しよう。聖域から離れる準備ができたら、ゆっくりと呼吸と体に意識を戻し、今この瞬間を感じてみる。聖域にはいつでも戻れることを覚えておこう。
おかえりなさい
いつでもこの深い癒しの泉に戻ってエネルギーを補給しよう。自分癒しの聖域で休む時間をできるだけ見つけ、想像力を使って自分が望む結果を思い描こう。マーティ・ロスマン、ベラルース・ナパステック、ジーン・アクターバーグなど、数多くの才能あるプラクティショナーたちが誘導瞑想を録音している。これらを参考にしながら自分自身の誘導瞑想のシナリオをつくって録音し、それを使って瞑想してみよう。(ジジャーニ・チャップマン)
教えてくれたのは…キャサリン・グリフィン
キャサリン・グリフィンは『ヨガジャーナル』誌の前副編集長。ベイエリアでジャーナリスト、コミュニケーション戦略の専門家として活動している。
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