「二拠点生活は身体的、精神的なオン・オフが感じられる」山口祐加さんインタビュー #暮らしの選択肢

「二拠点生活は身体的、精神的なオン・オフが感じられる」山口祐加さんインタビュー #暮らしの選択肢
写真提供=山口祐加

近年、テレワークの普及やライフスタイルの多様化により、都市と地方の二拠点で生活する人々が増加傾向にあるということをご存知でしょうか。国土交通省の調査によれば、二地域居住等を実践する人は約6.7%に達し、約701万人と推計されているんだとか。また、複数拠点生活を行っている人は全体の5.1%に上るとの報告も。自らの価値観に基づき「暮らしを選ぶ」二拠点生活者たちから、その魅力や課題、リアルな日常を深掘り。理想と現実の狭間で見えてくる「暮らしの選択肢」の今を伝えます。

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今回お話を伺った二拠点生活者は、自炊する人を増やすために「自炊料理家®️」という肩書きで活動している、山口祐加さん。2025年5月より、夫と一緒に東京と岡山での二拠点生活をスタート。友達と会ったり、行きたい展覧会に行ったり、外食の選択肢も豊富な東京での生活。一方で、岡山での生活は、180度異なります。どのように?山口さんの二拠点生活に迫ります。

岡山に決めたのは「なんかいい感じだった」から

– 山口さんが、二拠点生活をはじめられた経緯についてお話してください。

山口さん: 去年1年間、世界中の「日常のごはん」の取材をするために、12カ国をまわっていたのですが、日本を出る前に、以前から住んでいた茅ヶ崎の自宅は引き払っていたんです。東京で料理教室をしているので東京に住めば便利だとは思うのですが、私も夫も実家が東京なので、「3つ目の家は東京にはいらないよね」という話になりました。加えて、近い将来、子どもを授かりたいと考えているのも、二拠点生活を決めた大きな理由です。

– それは、東京で子育てをすることは望んでいないということでしょうか。

山口さん: そうですね。東京ではやりたいこともたくさんあるし、それができる場所だと思います。そのため、私たちが親になったとしても、親である私たちがやりたいこと、したいことといった「親の欲求」も満たせてしまうので、そうなると子育てと親のやりたいこととの間で悩んでしまうような気がして。選択肢がたくさんあるからこそ、際限なくなってしまうような気がしています。選択肢が限られてもいいので、もっと自然が近く、のんびりした場所で子どもを育てたいと思ったのです。

– 山口さんは東京ご出身で、これまでバリバリ仕事もされてきたと思うのですが、東京にいた頃は、本当にやりたいことでいっぱいでしたか?

山口さん: 実は私、そんなにバリバリ働いていた方ではないんです。大学を卒業してから3年間は会社員をしていましたが、その3年間も料理家として独立したあとも、自分の生活第一で働いてたので、仕事で忙しすぎて自炊できなくてみたいなことはありませんでしたね。でも本当にやりたいことはたくさんあるし、それが実現できる環境で。20代を東京で過ごせたことはよかったです。友達もたくさん増えましたし、すごくいい経験でした。ただし30代、40代を過ごしていく場所として、特に子育てをする場所として東京は、私にはフィットしないなっていう感覚ですね。

– 岡山以外に、どのような候補地があったのでしょうか?

山口さん: 長野県の松本市や諏訪、甲府などを考えていました。あの辺りは、移住者が多く、すでに友人もいたので。それか、西の方で迷っていました。個人的には西の方、例えば大阪、兵庫、京都、奈良などは同じ関西圏といっても個性が違うので、旅行するのも楽しいと思うんです。和歌山だったりも、関東地方から行くのは遠いですが、西日本に拠点を置けば、数時間で行けてしまいます。

– 西の中でも、岡山に決められたのはどうしてですか?

山口さん: 私としては、「なんとなく」というのが一番しっくりくる理由です。引っ越し先っていうのは、合理的に選ぶものではないと思うので。例えば、夫の会社の都合で転勤があれば、ついていく選択肢を選ぶ気がします。一方で、私たち夫婦はフリーランスなので、住む場所は好きに選べる状況でした。いくつか候補地を巡った結果として、岡山がなんかいい感じだったんです。それに、先ほどもお話ししたように、関西、四国、九州にもアクセスがいいですし、気候も温暖で、自然災害が少ないことも魅力でした。

– 私も岡山には一度行ったことがあるので、よく分かります。美味しい食べ物もたくさんあるし、人も親切だし、地元の食材でもきっといいものがたくさんあるでしょうし。それに、そこまで不便でもないですよね。

山口さん: そうですね。新幹線も停まるので東京への行き来も不便はありません。規模感もちょうどよく、必要なお店は十分揃っていますし、映画館など娯楽施設ももちろんあります。何か欲しいものがあれば、広島に行くか、神戸に行くこともできますし、月一回は東京にも行ってるので、特に困ることもありません。

身体的、精神的なオン・オフ感を味わえることに満足 

– 2拠点生活をはじめる前は、どういった暮らしをイメージされていましたか?例えば、東京では仕事を中心にして、岡山ではゆっくり過ごすといったような、オンオフを切り替えるといった生活を送るなど。

山口さん: イメージというのは最初は特にありませんでした。けれど、実際そうなってるという感覚はあります。岡山の自宅は、中心街から少し離れた場所にあるため、出かけようとするとどうしても時間がかかってしまいます。そのため、一日中自宅にいるということが週に何度もあります。移動がない分、焦らないですし、ひたすら家で本読んだり、文章を書いたりみたいな感じで、のんびり過ごすことができていますね。

– 東京ではお仕事を中心にされているのでしょうか? 

山口さん:仕事は東京でも岡山でもどちらでもやっています。月に数回開催している対面の料理教室は東京で行っています。私の作る自炊料理は忙しい方向けのレシピを考案しているため、東京での需要が高いんです。ただ、今後は岡山でも料理教室を開催したいと思っているのと、オンラインの料理教室や執筆活動などは場所問わず、やっています。

– 東京では、お仕事をする以外にどういった過ごし方をされることが多いのですか?

山口さん: とにかくたくさんの人に会いますね。友達もたくさんいますし、仕事のクライアントさんも東京近郊にお住まいの方が多いですし、いつもどこかで行きたい展覧会があったり、外食も選択肢も豊富なので、ほとんど出かけています。毎回1週間程度滞在することが多いのですが、本当に一瞬で終わってしまいます。そのため、仕事云々というよりかは、東京と岡山では、身体的、精神的なオンオフ感がありますね。

– 東京と岡山でスピード感が違うということですね。お話を聞いていると、180度異なったライフスタイルを送っているようですが、そういった生活には満足されていますか?

山口さん: そうですね。東京と同じような生活をしても意味がないと思うので、今の生活にとても満足はしています。

– それぞれの場所に移動した際に、切り替えるコツなどはありますか?

山口さん: 場所が変わってしまうので、切り替えざるを得ないですね。東京では、スケジュールがびっしりなので、予定に沿って動きます。岡山では、友達もまだそこまでたくさんいないですし、お店も周りにないから出かけることもないですし。

– 岡山に戻ってきて、寂しくなることはありませんか? 

山口さん: 私は夫が一緒にいるというのは心強いのかなとは思います。一人で移住だった場合、その土地で仕事をしてるとかじゃない限り、慣れるまでに時間がかかったと思います。

**インタビュー後編へ続く。

 

〈プロフィール〉

写真: 中川正子
写真=中川正子

山口祐加(やまぐち・ゆか)

自炊料理家。1992年生まれ。東京都出身。出版社、食のPR会社を経て独立。7歳から料理に親しみ、料理の楽しさを広げるために料理初心者に向けた料理教室「自炊レッスン」や小学生向けの「オンライン子ども自炊レッスン」、レシピ・エッセイの執筆、ポッドキャスト番組「聞くだけでごはんができるラジオ」などは多岐にわたって活動中。著書に『自分のために料理を作る 自炊からはじまる「ケア」の話』(晶文社/紀伊國屋じんぶん大賞2024入賞)、『自炊の壁 料理の「めんどい」を乗り越える100の方法 』(ダイヤモンド社)など多数。

ID:yucca88(各SNS共通)

公式ホームページ https://yukayamaguchi-cook.com/

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