森の香りを通して「自然のリズムに還る」。ワイルドアロマブランドnoi創業者がブランドに込める思い

 森の香りを通して「自然のリズムに還る」。ワイルドアロマブランドnoi創業者がブランドに込める思い
写真提供: noi

「昨日は、夜遅くまで仕事をしていた」そんな方はどれくらいいらっしゃるでしょうか。富士山麓の森で採れる植物を使ったワイルドアロマブランド「noi」を展開する田中麻喜子さんも東京で働いていた頃は、忙しい毎日を過ごしていたと言います。一方で、富士吉田に移住して3年になる現在の彼女は、自然のリズムに還ることを意識しながら暮らしています。田中さんが、富士山の森で日々感じていること、そして「noi」というブランドにかける思いを伺いました。

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自然の怖さ、人間の弱さを感じることができる生活が心地よい

– 田中さんは、3年前に東京から富士吉田に移住され、2年前に富士山の森に自生する植物を使って、アロマブランド「noi」を立ち上げられましたよね。まず、noiを立ち上げるきっかけとなった、移住の経緯について教えて下さい。

田中さん:最初は東京と富士吉田の二拠点生活から始めました。最初に富士吉田に来るようになったのは、友人を訪ねるためです。友人というのが、この地域でハーブの栽培をされているハーブ農園「HARBSTAND(ハーブスタンド)」のご夫妻でした。私は前職で飲食の仕事に携わっていたのですが、そこで知り合い、仲良くなりました。何度かお2人を訪ねて富士吉田に来るようになり、そこで富士山の森を案内してもらう機会があったんです。それですっかり、富士山の自然に夢中になってしまいました。

– ここ最近、二拠点生活を始められる方はとても多いですよね。田中さんは富士吉田に行く前から、都会と地方を行き来する生活には興味があったんですか?

田中さん:はい。興味がありました。それで、実際に探していたんです。いくつか別の場所も見ましたが、最終的に富士吉田に決めました。この地域の自然に惹かれたというのもありますし、東京へのアクセスの良さも決め手の一つになりました。

– 完全移住をされたのは、どうしてでしょう?

田中さん:富士吉田から出たくないと思うようになったんです。正直な話、二拠点生活をはじめた当初は「まず、富士吉田に住んでみよう」という軽い気持ちでした。けれど、思った以上にここでの生活が心地よかったんです。

– どういったところに心地よさを感じますか?

田中さん:自然が近いというところですね。しかも壮大で本当に美しいんです。また、季節感を間近で感じられるのも魅力的だと思っています。東京にいた頃の私は、桜や金木犀、紅葉といった分かりやすいところでしか季節の移ろいを感じることができませんでしたが、森の中では、1週間毎に季節が変わっていく姿を見ることができます。また、その自然が、怖いんです。富士山自体が、壮大で怖くて美しい。都会にいるとそういった自然に対する畏敬の念は、なかなか味わうことができないと思っています。ここにいると、自分がとても弱い存在であるということを日々感じることができます。それは、本来自然な感覚で、そう感じられることがとてもありがたいと思っているんです。

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– 「怖い」や「弱い」といった言葉には、ネガティブなイメージを持つことがあると思うのですが、その言葉をポジティブに捉えられているんですね。

田中さん:そうかもしれないですね。もしかしたら、強くいなくちゃいけないと感じている方が多いかもしれません。私も東京にいた時は、そう思っていたような気がします。実際それを求められる場面も多いですし。けれど、森の中にいると、怖いと素直に感じることが自然で、人間本来が持つ弱さを認めることができます。それは、人間本来の資質だと思うんです。自然をコントロールすることなんて、到底無理です。「今日は雨が降ってほしくない」と思っても天候をコントロールすることなんてできませんし、「寒いのが嫌だ」と思っても、季節を早めることも遅らせることもできません。私は、富士吉田に移住してからは、天候を見ながら行動するようになりました。そういった天候や季節に従うという暮らし方は、おそらく一次産業が産業として一番多かった時代には、とても自然なことだったのではないでしょうか。農家や漁師や、狩猟の方々など。けれど、都会に暮らしていている上、仕事自体が変化している中で、自然と触れ合うことが少なくなってしまうと、自然が怖い、自分が弱いといった感覚が得られなくなってしまうと思うんです。そういった感覚を持つことが正解だと思っているわけではないのですが、私はそういうことを感じられることに喜びや、新たな視点を得られると思っています。そういった私が森で感じることや、森のストーリーを皆さんに伝えたいと思って、「noi」を立ち上げました。

– 東京で働いていた頃とnoiを立ち上げて運営する今とでは、仕事に違いはありますか?

田中さん:正直、私たちはスタートアップなので、忙しさで言うと東京並みの忙しさです。毎日、分刻みで予定が入っています。けれど、マインドはかなり違うと感じます。それは、先程の話にもつながりますが、コントロールできないことがあるということを知ってるからだと思います。東京にいた頃は、時間や自分もコントロールしないといけないと思っていました。だから夜遅くまで仕事をしているということも珍しくありませんでした。今は、季節感によって動いたり、夜は働かないということも自然にできるようになりました。

– 夜働かないというのは、大きいですよね。

田中さん:そうですね。それは、noiが掲げている「自然のリズムに還る」というミッションにもつながることなんです。人は本来、日の出とともに目覚め、日暮れとともに休むのが自然のリズムです。まずは自分たちで、自然のリズムに還ることを体現しないといけないと思っていいているので、それを意識できているのはすごく嬉しいです。おかげで、体調面も精神面もすごく整っています。東京にいた頃は、心身ともにクタクタになることも少なくありませんでしたが、休息の時間をとることを意識するだけで、こうも違うのだということを身を持って体験しています。

森のことを伝えたい

– noiというブランド名の由来を教えて下さい。

田中さん:noiは、イタリア語で「私たち(we)」という意味を持ちます。イタリア語を選んだのは、学生時代にイタリアに留学をしたからです。「私たち」という名にした理由は、2つあります。1つ目は、noiというブランドをみんなで育てていきたいと思っていて、「私たち」を増やしていきたいから。現在は、私とパートナーの2人でnoiをやっていますが、一緒に仲間になってくれるチームメンバーを探しているところです。また、いろんな分野や異なった専門性のある方々でも同じ思想を共有できる人たちと、手を取り合って、noiというブランドを育てていきたいと思っています。2つ目は、森の中に入ると、全てがつながっていて、「私たち」という感覚をものすごく感じられるということです。日常生活では、無意識のうちに「私」と「あなた」で切り分けることが多いと思います。一方で、森に入ると植物は根本的には助け合って生きているということがよく分かるんです。例えば植物同士が土の中で栄養をシェアしていたり、動物が植物から栄養をもらったり、動物が植物の子孫繁栄を助けていたり。つまり、森一帯が「私たち」になってるんです。私は、今世の中で色々な争い事が起こったり、負の連鎖が起こっている原因の多くは、分断していくという思想なのではないかと思っています。例えば、ジェンダーを切り分けたり、国籍で切り分けるといったような。そういった切り分ける感覚がなくなれば、平和な世界の社会になるのではないかと思います。

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– 素敵ですね。お二人とも、お仕事でアロマに関わるのは初めてだったんですよね。

田中さん:はい。初めてでした。もともと、東京で働いている頃からアロマは好きだったので、アロマオイルを買ったり、アロマテラピーの勉強をしてはいたんです。けれど、まさか自分がアロマブランドを立ち上げるなんて考えてもいませんでした。

– 完全移住されてから、すぐにnoiを立ち上げようと思ったんですか?

田中さん:いいえ、最初は起業すること自体、考えていませんでした。けれど、本格的にこちらに住みはじめてから、森に入る機会も増えていって、その度に森の奥深さに感銘を受けて、それで、だんだんと森に関わる仕事がしたいと思うようになりました。最初は、民泊事業なども考えたのですが、最終的にアロマをやろうと決めました。

– アロマブランドにしようという決め手は何だったのでしょうか?

田中さん:最近では、森林浴という言葉もよく聞くようになったと思いますが、私自身もこれまで森に入った時に、心身が整うという体験を何度もしてきました。その理由を調べたところ、香りが大きな役割を果たしているということが分かったんです。フィトンチッドという成分で、森林の香りと言われるものです。この成分が私たち人間の心身に作用するということが分かっています。私の体感にはなってしまうのですが、特に私たちの商品を作っている富士山の森の植物は生命力が強く、私が今まで使ってきたアロマにはない強い香りがあると感じました。香りの力強さを肌で感じたからこそ、これを世の中に広めていきたいと思ったんです。

– きっと香りで癒やされるということを体験したことがある方は多いですよね。

田中さん:そうですね。そもそも植物がなぜ強い香りを出すかというと、これは植物の生存戦略なのです。例えば、受粉するために花の香りで昆虫を呼び寄せたり、自分の種子を運んでもらうために実をつけ、鳥がそれを食べ、糞となって種子が土に還ることで、植物は自分が動けずとも遠くに子孫を残すことができます。その他にも、この香り成分には植物自身が身を守るための作用があります。例えば、何かしらの原因で枝が傷ついてしまった場合、フィトンチッドには抗菌作用もあるので、自衛することができるんです。このように、香りには植物それぞれが生きていくための役割があり、生命力そのものだと思うんです。趣味としてアロマを使っていた時は、人に対しての効能でしか見ていませんでした。商品になっていると、液体の先にある森のことはなかなか見えにくいと思うんですよね。そのため、noiでは香りを通して、森のストーリーを皆さんに共有し、お客様が森に一歩踏み入れられる架け橋ができたらと思っています。

写真提供: noi
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– noiの商品が生まれる森は、どういった森なのでしょうか?

田中さん:富士山の0合目にある森です。富士山の森は、国有林と私有林があるのですが、私たちは私有林で山主さんの許可をいただいて、一部の放置されてしまった森を活用させていただいています。今は木材に変わる安価なものが出てきてしまったり、輸入木材が増えています。そのため、日本の木材産業が衰退してしまい、放置されている森が増えています。一度人の手が入った森というのは、手を入れ続けないと荒廃してきてしまうんです。間伐などの必要な手入れが行われないと、立木が混み合い、日が差し込まなくなります。また、植物の成長や根の発達が邪魔されて弱くなってしまったり、風雪害が起こりやすくなります。私たちは、なるべくそういった放置された森に手を入れて森が豊かになるように剪定してます。枝葉を選び整えながら収穫し、蒸留して商品を作っています。全て手作業で行っています。

– 手作業にこだわっているのはどうしてでしょうか?

田中さん:手作業にこだわっている理由は2つあります。1つ目は、森を豊かにしていきたいからです。やはり、チェーンソーなどを使って切ってしまうと、樹木が再生できない状態になり、搾取となり、森が荒廃していきます。ですので、全てハサミを使って樹木の芯材を切らないように心がけています。2つ目は、私たちが森に行くことが楽しいから。森のことをもっと知りたいと思うし、先程お話した森のストーリーをお客さまに伝えることもできないと思うんです。

写真提供: noi
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– 毎回森に入る度に、変化はありますか?

田中さん:はい!色々ありますね。よく感じることは、私たちは、森の外のことを外界と呼んでいるのですが(笑)、森の中の季節は外界の3歩先くらいを進んでいるんです。例えば、外界ではまだ雪が降っていても、森の中では、雪が積もったその下に、芽が生えていて春が始まっていたりします。外界で感じる季節との時差があるというのは、とても面白いですね。

「自然のリズムに還る」ことを伝えたい

– noiの商品は、日本固有の香木クロモジを中心に扱われていますが、どういった植物なのでしょうか?

田中さん:クロモジは漢字で書くと、黒文字となります。黒い斑点のような枝を持つ植物です。日本の在来種で、その香りは「和製ローズウッド」とも言われるほど芳醇で甘くスパイシー、さらにエレガントな香りが特徴です。また、もともとは爪楊枝もクロモジで作られていました。江戸時代なんかには、歯ブラシとしても使われていたんだそうです。その理由は、クロモジは抗菌作用が強いから。クロモジは全国各地にありますが、富士山のクロモジは柑橘香がとても豊かと言われています。

写真提供: noi
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– 商品開発で大切にしていることはありますか?

田中さん:東京にいる友人や家族など、大切な人が喜ぶような商品を作りたいと思っています。私自身がそうだったのですごくよく分かるのですが、都会で頑張っている人は気を張っていたり、夜寝ることができないこともあって、そういった方々をサポートできる商品であればと思っています。実際、クロモジに含まれる芳香成分リナロールには安眠効果やリラックス効果も期待できると言われています。

– noiの商品はどういった層に支持されているという手応えがありますか?

田中さん:20代から60代くらいまでの幅広い層の女性のお客様が多い印象です。一方で、男性のご購入者さんも予想以上に多く、それはすごく嬉しいです。アロマというと女性的なイメージがどうしても強くなってしまうと思うのですが、私たちはこういった香りを取り入れた暮らし方に、ジェンダーは関係ないと考えているので、男女問わず手にとっていただけるのはとても喜ばしいことですね。

写真提供: noi
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– 分断しないというところにこだわりたいですもんね。おっしゃる通り、やはりアロマというと女性的なイメージがあります。男性からも支持を得ているポイントは何だと思いますか?

田中さん:デザインをシンプルにしているところは大きいのかと思います。誰でも持ちやすいデザインにはこだわりました。また、香りも甘すぎないというところも好感を持っていただいたのかもしれません。クロモジのアロマは、森林の香りで、男女問わず楽しんでいただけるものなのではないかと思っています。

– noiを立ち上げて良かったと思ったエピソードはありますか?

田中さん:お客様からお声をいただく度に、良かったと思うことは多々あります。中でも、印象的だったのが、アトピーに悩まれていたお子様のためにクロモジのアロマスプレーをご購入されたというお客様からいただいたレビューです。クロモジには、アトピーや皮膚の痒みを和らげるのにも効果が期待できるのですが、先程もお話した通り、私たちは森のことを伝えたくて商品開発を始めました。ですので、特にクロモジの効能というところを押し出してはいなかったんです。けれど、お客様から「noiのクロモジのアロマスプレーを使用したら、息子さんのアトピーが改善してきた」というご連絡をいただいて、とても驚きましたし、嬉しかったです。その他にも、「よく眠れるようになった」など、お礼のご連絡をいただきます。お客様の役に立てていたんだと思うと、noiを立ち上げて本当に良かったと思いますね。実は、最初はスプレーとハーブティーだけで商品展開していたのですが、そういったお客様のお声に励まされてスキンケア商品の開発も始めたんです。これからは、ホームケアの商品開発もしていこうと計画中です。

– いいですね!新しい商品開発以外に、今後の展開として予定されていることはありますか?

田中さん:実は、この春に富士吉田に実店舗を構えることになったんです。お店には製造所も併設させようと思っています。収穫した樹木をそこで蒸留したり、加工して商品を作って、その場で売るようにしたいと計画しています。ワークショップなども開催できればと思っています。

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– おめでとうございます。「私たち」の輪がさらに広がっていくんですね!楽しみにしています。最後に、noiが目指している世界について教えて下さい。

田中さん:最初にお話した通り、「自然のリズムに還る」ということをミッションに、皆さんに森のストーリーを伝えていきたいと思っています。私たち人間ももちろんそうですが、森や地球がもともと持っていたリズムに還っていくことが私たちの目指す世界です。ですから、noiでは人々が暮らしの中で自然のリズムに還るきっかけを作ることができたらと思っています。一方で、私もパートナーも長い間、東京で暮らし忙しい生活を送っていたので、都会で自然回帰をすることが難しいということもよく分かっています。ただでさえ忙しいのに、さらに新しいことを取り入れることはハードルが高いですよね。けれど、アロマスプレーなどは忙しい中でも一瞬で効果を感じることができます。香りは、五感の中で唯一、直接脳にシグナルを送ると言われているんです。それによって、ホルモンや自律神経に働きかけることも期待できます。忙しい中でも、ワンプッシュだけで気持ちがスッキリしたり、立ち止まる時間を持つことで、少しずつ自然のリズムに還っていくことできるのではないかと思っています。

【noi】

富士山麓のワイルドアロマブランド。

日本固有の香木クロモジを中心に、森に自生する樹木やハーブを採取し、富士山の森が織りなすピュアな香りを探求。ナチュラルで野生的な素材を生かし、植物の手積み、香りの抽出、ブレンドまで一つひとつハンドクラフトして香りのホーム&セルフケア商品を国内外で展開中。noiはあらゆる分野の垣根を超えて、森と人が互いに生かし合う関係性をつくることを目指しています。

noi Shop&Labo (2025年5月オープン予定)

〒403-0004 山梨県富士吉田市下吉田5-1-1

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