【インタビュー】台湾で診療する日本人中医師、小泉文乃さんに聞く「春の過ごし方」のポイント


長い冬が終わりを迎え、新しい春の始まり。新年度がスタートし生活スタイルが変わる時期で、心身にも不調が現れやすい季節です。今回は、台湾の中医学クリニックで日本人中医師として活躍されている小泉文乃さんにインタビュー。なぜ台湾で中医師として働くことになったのかこれまでの彼女の歩みを伺うとともに、医学の観点から春に起きやすい身体と心の不調の原因や対処法について教えていただきました。
なぜ台湾で中医師をすることに?
ーーー現在台湾で中医師をされている小泉さん。どのような経緯で台湾で働くことになったのでしょうか?
もともと、薬学部時代に生薬学研究室に所属し、漢方薬の薬理解析を行っていました。その後薬学の博士号を取得してポスドク研究員となり、ちょうど次の任務先を探していたタイミングでたまたま大学時代の恩師から薬科大学で講師をする機会を頂いたのですが、そのプログラムは台湾の大学と姉妹校提携及び共同研究を行うことが条件ということで、台湾に派遣されることに。そうして台湾で生活してみると、生活や風習の中に中医学的な思想が感じられてますます興味を持つようになりました。
薬科大学での担当講義は漢方(漢の時代の医学が日本で発達したもの)の基礎理論でした。中医学(中国伝統医学)に関しても多少は勉強していたものの臨床経験はなく、教科書の範囲でしか教えられないことをもどかしく感じました。それならいっそのこと、現地の中医学部で一から学ぼうと一念発起し、日本の大学教員を辞めて台湾の中医学部に入学。卒業後は台湾の国家試験に合格し、現在は台北と基隆にある中医学クリニックで診療しています。
ーーー台湾での生活で、どのような時に中医学的な思想が感じられたのでしょうか?
薬膳フードやドリンクがスーパーで売られているなど、台湾では生活の中に中医学に基づいた習慣が広く行き渡っています。あとは、女性は年齢に関わらず冷たいものを食べない方がいいという意識が日本に比べて徹底されているように思います。他にも、出産直後の女性が産後ケアセンターで1カ月ほど療養する習慣(坐月子)があります。そこで提供される食事は中医学の薬膳に近いもので、出産でダメージを受けた身体を労わるものになっているんです。
SNSで中医学について発信をする理由
ーーー小泉さんはInstagramで中医学の知識を発信をされていますが、その理由を教えてください。
台湾で日本人中医師がいることを多くの人に知ってもらいたい、というのが大きいです。私の一番の武器は日本人であること、そして日本語で診療が受けられること。日本人が海外で病院にかかる際に言葉が通じるという点で安心して来てもらえると考えています。
台湾の中医師業界は競争が激しい上、日本人会の会誌やフリーペーパーに広告を出す予算はないのでSNSを使うことにしました。当初の目的は宣伝でしたが、SNSで発信することで結果的に自分の学び直しになり、診療中の説明もまとまりのあるものになったと感じています。
中医学クリニックはいつ行けばいい?日本人からよくある相談
ーーー日本人にとって中医学というと西洋医学に比べて馴染みが薄いですが、日本の方から小泉さんに中医学に関する質問が来ることはありますか?
はい、実際にそういった日本人の方からDM等で問い合わせが来ることもありますよ。わたしが診療している病院には、台湾在住の日本人の患者さんや、日本から旅行で台湾を訪れた際に現地の中医学を体験してみたいということでいらっしゃった方が多いです。中医学クリニックで診療を受けたことがない方は、そこがどのような身体の不調を相談できる場所なのかイメージが湧きにくかったり、もしくは逆にイメージが膨らみすぎて何でも治療できる印象を持っていたりするかもしれません。
ーーーそうなんですね。中医学クリニックでは具体的にどのような治療が可能なんですか?
診療内容は多岐に渡ります。クリニックとして力を入れているのは不妊症治療ですが、最近の患者さんだと、一般的な風邪や、腰痛、おなかの調子が悪い、眠れないだとか、あとは生理不順や更年期障害など、日常的な身体の不調を訴える方もいます。コロナウイルス感染症の後遺症に悩んでいる方も相談にいらっしゃいます。他には西洋医学の病院に罹る場合と同じく特定の病気の治療目的でいらっしゃる場合もありますね。
台湾で駐在員をされている日本人の患者さんは、長時間のデスクワークやストレス過多で慢性的に首や肩が凝っている方も多いです。お子さんだとアトピーやアレルギー症状、慢性鼻炎の相談にいらっしゃることもあります。
その他、明らかに外科的な治療が必要な場合は対応できませんが、手術後に怪我の回復を促す薬を出したり針治療を施したりすることは可能。軽度の骨折であれば、常にギブスで固定していると筋肉が委縮してくるので取り外しできる状態にしておき、骨折した部分の周りに針治療をして循環を促進して回復をスムーズにする治療ができます。鎮痛作用のある薬や筋肉を育てる作用がある薬を処方することもありますね。
日本で中医学というとハードルが高いイメージですが、台湾では風邪や便秘で中医に来る人もいるほど身近な存在。もっと気楽に選択肢に入れられればと思っています。

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