「父の認知症から学んだ幸せの秘密」(1)移住の大きなデメリットは両親と離れることだと痛感

「父の認知症から学んだ幸せの秘密」(1)移住の大きなデメリットは両親と離れることだと痛感
写真/野口さとこ
Saya
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2025-07-15

親の老いに向き合うというのは、ある日突然はじまるものです。わたしの場合、それは父の“夜間の徘徊”というかたちでやってきました。これまでは京都での暮らしや移住生活のことを書いていましたが、その裏では東京にいる父の認知症が進行し、家族で介護体制をどう整えるかに奔走していました。介護というと、大変そう、重たそう…そんなイメージがあるかもしれません。でも、わたしにとっては、家族とのつながりを見つめ直し、人の優しさに心動かされることが増えた、そんな時間でもありました。 この連載では、認知症介護の体験を通して、わたしが出会った「幸せの秘密」を、少しずつ綴っていきたいと思います。

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この春までは1年間、京都に移住してから学んだことを徒然に綴ってきました。でも、実は、その裏で東京の父の認知症が進行し、介護体制づくりに奔走していました。

好きな土地に住み、畑をしたり茶道や着付けを習ったり、アトリエを借りたり。京都暮らしで得たものは計り知れないですが、移住の大きなデメリットは、年々、老いていく両親と離れてしまうこと。近居なら簡単にできる手助けも、距離があるとままならないことも多く、また認知症介護についても、いざ当事者になると知らないことばかり。大きなプロジェクトの立ち上げをまかされたリーダーよろしく、ものすごい熱量が必要で、この1年を思い返すと、仕事以外の記憶が曖昧なほどです。

わたしは東京郊外の出身で、三姉妹の長女。車で20分ほどの近居に次女。電車で30分ほどの距離に三女が暮らしているので、両親の入院時などは、これまで、ふたりが対応してくれていました。それで、わたしは年に一度、両親と一緒に旅行をするくらいで親孝行は済んでおり、京都移住もできていたわけなのですが、彼女たちは子どもがいるので、親の介護もとなるとダブルケアに陥る。次女などは更年期まっさかりで、体調もあまりよくない。遠距離ではあっても、子どものいないわたしが率先して動かざるを得ない場面も増えていきました。

また、現在は、星占いの連載執筆をメインにはしていますが、もとはライフスタイル分野の編集者であり、ライターをしていましたから、自分ごとの切実さをもって動いてはいても、取材のような目線も生まれる。ジャーナリストではないので、介護の諸問題に鋭く切り込むとはいかないですが、親の介護に直面したとき、どんな考え方をしていけばいいのか、どんなふうに介護体制を作っていけばいいのか。情報があふれているようでも、書かれていないことも多い。あるいは、情報はあっても、知識がないと、たどり着けないこともある。自分の経験を書くことで、他の方たちの役に立つこともあるかもしれないと思うようになりました。あらかじめ知っておくことで、心の準備ができる場合もあります。

野口さとこ

介護と言うと、暗いイメージですが、年々、頑なになっていた父が子どものような愛らしさをもって、こちらの訪れを楽しみにしてくれたりすると、心温まるものもあるのですよね。福祉の方たちとの関わりにしても、天使のような方も多いので、自分の未熟さを彼らの態度や仕事ぶりから教えていただく機会もあります。

もっとも大きいのは、両親は次男次女で、どちらの祖父も早くに亡くなっていたため、わたしたち家族には人が老いていくプロセスを間近に見るという経験が欠けていました。たった1年でも、「こんなふうに、人は老いていくのか」と気づきや学びを得ることが多くて、人生観そのものが変容していくようでもありました。実は、何度も追い詰められたように感じたことはあるのですが、きれいごとではなく、人生が豊かになったように感じることもたくさんありました。

「父の認知症から学んだ幸せの秘密」、どうぞお付き合いくださいね。

→【記事の続き】「父の認知症から学んだ幸せの秘密」(2)東京の父が突然の夜間の徘徊! どうすればいいの?こちらから。

文/Saya

東京生まれ。1994年、早稲田大学卒業後、編集プロダクションや出版社勤務を経て、30代初めに独立。2008年、20代で出会った占星術を活かし、『エル・デジタル』で星占いの連載をスタート。現在は、京都を拠点に執筆と畑、お茶ときものの日々。セラピューティックエナジーキネシオロジー、蘭のフラワーエッセンスのプラクティショナーとしても活動中。著書に『わたしの風に乗る目覚めのレッスン〜風の時代のレジリエンス』(説話社)他。
ホームページ sayanote.com
Instagram     @sayastrology

写真/野口さとこ

北海道小樽市生まれ。大学在学中にフジフォトサロン新人賞部門賞を受賞し、個展・グループ展をはじめ、出版、広告撮影などに携わる。ライフワークのひとつである“日本文化・土着における色彩” をテーマとした「地蔵が見た夢」の発表と出版を機に、アートフォトして注目され、ART KYOTOやTOKYO PHOTOなどアートフェアでも公開される。活動拠点である京都を中心にキラク写真教室を主宰。京都芸術大学非常勤講師。
ホームページ satokonoguchi.com
Instagram  @satoko.nog

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