週の半分東京 / 勝浦。二拠点生活で実現する「小さく生きる」とは？ #暮らしの選択肢

今回お話を伺った二拠点生活者は、東京と勝浦で生活する伊勢達麻さん。都内で広告企画会社を営む伊勢さんは、週の半分程度は東京で広告の仕事。残りの半分は勝浦で畑と庭仕事に追われながら、セルフリノベーションにも挑戦されています。都会と田舎で暮らす中で、伊勢さんが感じることはどんなことなのでしょうか。伊勢さんの二拠点生活に迫ります。

田舎暮らしはやることがいっぱい

– 現在は、週の半々を東京と勝浦で過ごすというルーティンを送られているわけですが、東京では広告のお仕事をされて、勝浦では基本的には仕事はされずという感じですか？

伊勢さん: 勝浦にも仕事を持って帰ることが最近は多いので、昼間は広告の仕事をしています。また、広告の仕事以外にも勝浦では、農業みたいな仕事が待っているんですよ。気分的には兼業農家ですね。半農半X（※）という言葉は最近よく言いますけど、あのような感じです。朝夕は、農業の仕事をしています。なので、実は勝浦の生活は、結構バタバタしています。

※半農半X: 生活に必要な食料を自給しながら、残りの時間を自分の好きなことや得意なことで社会に貢献する生き方、暮らし方のこと

– 東京と田舎で二拠点で暮らすというと、イメージ的にはオン・オフがあるのかなという。例えば、東京では忙しく働いて、勝浦ではのんびりしている、というような。

伊勢さん: 私もそういうイメージを持っていました。ただ、正直な話、今は勝浦の方が緊張感がありますね。知らないことがどんどん起きてくるので、それに対応していく緊張感があります。もちろん、まだはじまったばかりだから、というのはあると思うのですが。なので、東京に帰ってきたときの方が、夜はぐっすり眠れます（笑）

– 慣れている場所は安心感がありますもんね。

伊勢さん: 楽しくないわけでは全然ないんですよ。ただ、今はまだ戦場のような状態なので。例えば、夜もネズミが突然引っ越しをしてきて、寝室の屋根裏をバタバタと歩き回るようなことがあったり、大雨が降ったら裏の崖が崩れたり。慣れないことがどんどん起こるので、そういうものに挑みにいっている感じです。

– 今はまだ勝浦での生活がはじまったばかりだからというのはありますが、物理的に自然の近い場所で暮らしたからといって、すぐにリラックスできるわけではないということですかね。

伊勢さん: もちろん気分が良い時もあります。畑仕事に集中してすっきりするというのは、東京の生活では味わえない感覚だと思いますね。一方で、「何時までにこれを終わらせないと」みたいなことはありますけどね。

–時間も限られていますもんね。東京と勝浦の生活を切り替えるコツは何かありますか？

伊勢さん: 勝浦では、強制的に切り替わっていますね。行ったらやらなきゃいけないことが山積みなので。バタバタと行って、バタバタと帰ってくるという状態になっています。どちらかというと勝浦の仕事を東京に引きずっているかもしれないですね。例えば小さいことなのですが、梅の実がすごくなったんですよ。それをどうやって処理しようか、とか（笑）加工するのか、保存するのか、友人に送るなら誰と誰、みたいなことを考えたり。ただ、私としては、切り替えみたいなところは、そこまで望んでいないというか。あまり深く考えてはいなかったんです。

 

– 二拠点生活をされる前のイメージと異なることや、思ってもみないハプニングもこれまでに起こっていますが、ここまでハードになるとは思っていましたか？

伊勢さん: ハードさで言ったら、まだ想像してたハードさには達していないかもしれないですね。今のところは乗り越えられているので、面白がってできています。

– 最初におっしゃっていたように、自分の好きなものに埋もれて生活したいという軸があるからというのもあるかもしれませんね。

伊勢さん: そうですね。それに、これから東京で暮らしていくことにあまり期待が持てないというのもありますね。今は仕事もおかげさまでありますけど、年を重ねていって年金だけで暮らせていけることは正直なところ考えづらいですし、今東京のマンションは借りてますけど、正直家賃だって高いじゃないですか。だから今後の自分の拠点や将来的な働き方、生活みたいなことを今のうちから作れてるという、自分の安心材料を増やして、生活を整えているという感じです。大変ですが、楽しいし、充実感はあるかもしれないですね。毎週勝浦に帰る日が楽しみです。

– 帰る日が楽しみって、いいですよね。楽しみがあると頑張れる気がします。

伊勢さん: そうですね。緊張感はありますが、「帰ってきた」と思えるので。もしかしたら、勝浦の方がもう家の気持ちなのかもしれないです。

「小さく生きる」

– 勝浦で生活をはじめてから、東京に対しての価値観や見方などで何か変化はありますか？

伊勢さん: 変化というよりも、もともとあった価値観をより実感するようになったと思っています。東京には、人もたくさん集まるし、物もなんでも揃っています。けれど、私の欲しいものはここにはないということをより実感するようになりました。

– 勝浦で生活をするようになって、色々削ぎ落とされていっているのでしょうか？

伊勢さん: 実は、自分に必要なものだけ選んでいきたいという思いは、昔からありましたね。やはり、やれることはすごく限られてるんで。大体いつもそうなんですけど、「あれもこれも」とならないんですよ。例えば音楽を聴くのも30代でやめました。それまでは、音楽を聞かないのは、恥ずかしいと思ってたんですよね。若い頃は今の音楽を知らないと、という価値観になぜか追いかけられていました。今も聴くには聴きますけど、そのために時間を使うことはしなくてもいいやと思うようになって。着る服についても同様ですね。流行ってるものを着ないと、というような感覚はなくなりました。もちろん小綺麗にはしたいですけど、そこまで服にエネルギーを費やすことはないですね。たくさんのものに力を注ごうとすると、面白いところまでたどり着けない感じがするんです。時間も限られているので。なので、好きなことだけなるべく絞るっていうのは昔からそうでしたね。それがよりクリアになってきたので、自分に不必要なものは早めにやめちゃえば、好きなことをもっとたくさんできると思うんです。

– 広く浅くではなく、狭く深くという感じですかね。

伊勢さん: そうですね。私のインスタのプロフィール欄に「小さく生きる」というのがモットーだということを書いているんですけど、まさにそれですね。植物だけでも手に負えないのに、服とか音楽のことまでやってられないなって。全部は無理だなと思うので、自分の興味のあることだけを選んでいきたいと思っています。もしかしたら、キャパがないのかもしれません（笑）中には、アクティブにたくさんのことに触れて生きている方もいらっしゃって、それはそれでいいなと思うんですけど、自分にはそういうのはフィットしないなと思っています。小さなことで、お腹いっぱいになってしまう。

– 二拠点生活をはじめてよかったと思うことはありますか？

伊勢さん: 自然の中で過ごす時間が増えたことは、よかったと思ってます。家の周りをただ歩いてるだけで、野生の色々な植物に出会えるのはすごく楽しいです。道端に、ヨメナ（野生の菊）があったり、キイチゴがあったり。畑にも桑の木があるのですが、それにマルベリー（桑の実）がなって収穫できたり。いつも同じ場所で鳴いている小鳥がいて、それがホウジロだって分かったり。楽しい宝探しのようなことが家の周りでどんどん起きていくんですね。見たことのない面白い草がいっぱい生えているので気になったら、とにかく調べるんですよ。小さいことなんですが、小さな発見が本当にたくさんあるので飽きることがないですね。きっと、勝浦に来なかったら、出会うことがなかったかもしれないので、そういうことに出会うたびに、本当に良かったなと思います。

 

– 東京での生活を続けられているからこそ、より実感するのかもしませんね。セルフリノベーションが落ち着いたら、勝浦に拠点を絞るということは、今も考えられていますか？

伊勢さん: そのペースもいろいろ考えてもいいのかなとは思っています。仕事も東京にあるので。例えば、東京のマンションをもう少し小さい所に越したり。あとは東京ではホテル暮らしとかでもいいのかな、と。家賃や光熱費のことを考えたら、ホテルの方が節約できますし。もともと、リモートで仕事ができてるので、勝浦に住んでてもそんなに困らないんですが。ただ、会社や取引先の方々への配慮もあるので（笑）「ちゃんと東京にも来ますよ〜」という意思表示はあった方がいいかと思っています。

– 最初に二拠点生活をはじめる際に、社員の方々からどんな反応がありましたか？

伊勢さん: 私が遠くに住むとか、二拠点で暮らすみたいなことに、ネガティブな反応というのはありませんでした。今、弊社は19年目になるんですけど、立ち上げた当時は事務所を持たないという形で、結構当時としては新しく働き方を取り入れていたんですね。自由なところに住んでいいよね、というのは、もともと会社のムードとしてあったんです。各自が責任を果たせば、管理もしないし、管理もされない中で働ける自由に働けるっていうのがうちの会社の良さでもあったので。

– 温かい感じで、いいですね。

伊勢さん: そうですね。恵まれてますね。社員にも梅ジャムを配りました。田舎のおじいちゃんみたいになりつつあります（笑）

– アットホームな感じが素敵です。最後に、今後の展望について教えて下さい。

伊勢さん: 自分の属する地域がもう一つ増えたわけなので、それを活かした活動が将来的にはできたらと思っています。もともと弊社が力を入れていることの中に、例えば地域の産業のブランディングの仕事があるんです。それこそ勝浦やその周辺でブランド開発したり、地域の活動に参加したりしたいなというのは考えています。うちの会社でできるようなことで関わるのか、もしくは何かしら小さい事業を起こすのか、将来的にではありますが、面白い仕事が作れたらいいなと。おこがましく聞こえてしまうかもしれませんが、房総や勝浦にわずかでも貢献できたらいいな、と思っています。

〈プロフィール〉 伊勢達麻

株式会社Crown Clown 代表取締役 副社長 プランナー

https://www.crown-clown.co.jp/