「東京にいた時は、ずっと消費者だった」移住から"暮らしを選び、つくる" 前村夫妻インタビュー前編
<日常に埋もれた感覚を掬い上げる>をキーワードに、さまざまな領域で活動される方へのインタビュー企画。大人になると、いつのまにか「当たり前」として意識の水面下に沈んだ感覚たちを、一旦立ち止まり、ゆっくりと手のひらで掬い上げる試みです。第5回目は、長野県御代田町に移住された前村達也さん・詩織さんを訪ねました。
2020年に、東京から長野県御代田町に移住した前村さんファミリー。浅間山のふもとで、現在は家族5人と共に、5世帯が集い暮らしています。共同で購入した土地を切り開くところから家を建てるまで、仲間と共につくっているそうです。自分たちで暮らしを選び、つくるとは?その実際の様子について伺います。
ーーまずは、移住のきっかけについて教えてください
詩織さん:わたしたちはもともと、「東京ではないどこかに住みたい」という願いがありました。夫婦ともに東京出身でないこともあり、そこでずっと暮らしていくというイメージがわかなかったんです。その思いは、第一子が生まれてより強くなりました。ですが、会社員として働き、子育てして…と日々の生活に追われていて。
そんな中、2017年の夏に3ヶ月間*サバティカル(使途に制限がない長期休暇のこと)で当時家族4人、ヨーロッパ6カ国に行きました。フランス、スイス、イタリア、ドイツ、フィンランド、オランダとまわり、いろいろな場所でクリエイティブに自分たちの暮らしをつくっている姿に触れて。それにすごくインスピレーションを受け、帰国後からいざ本腰を入れて、土地を探し始めたのがきっかけです。
クリエイティブに自分たちの暮らしをつくる
ーー具体的にどのような暮らしを体験したのでしょうか?
詩織さん:現地で出会った彼らは、本当にゼロから暮らしをつくっていました。住む場所も、暮らし方も、家族の関係性も。自分たちが主体的に選択し、実践しているように見えました。
特に、フランスでの2つのファームステイの体験は印象的でした。私たちは、2週間ほど農家に滞在し、食事と宿を提供してもらうかわりに、1日5,6時間ほど働くというシステムを利用していました。
1つ目の滞在先は、スコットランドから移住してきたイギリス人の家族です。彼らは古い家を買い取り、自分たちでゲストハウスをつくろうとしていました。200年前の動物小屋のような建物をDIYしていたところで、私たちはその壁を塗るお手伝いなどをしました。
お庭では野菜やにわとりを育てながら、お父さんはリモートワークで地球の裏側の人たちとも人事関係の仕事をしていて。当時はまだコロナの前のことですが、すでにそういう暮らしをしていました。
次の滞在先は、20代のフランス人で、2人の子どもがいる家族でした。インドに行った経験もあるヒッピーな彼らは、無農薬で育てた野菜をマルシェで売り、暮らしていました。またこちらのお父さんは、生計を立てるためにお肉屋さんに出稼ぎにも行っていました。
この時期、わたしたちと同じように滞在していた家族が、女性同士のパートナーの子連れであったり、ほかの国ではまた別のパートナーシップのかたちを見たり。
ヨーロッパでは、自分の人生に対して眩しいぐらいに主体的な人たちに出会ったなと思います。住む場所や生き方、誰と一緒に人生の時間を過ごしたいのかを含めて、自分たちが選択し、暮らしをつくる。そんな姿がすごくクリエイティブに見えました。
ーー 一緒に住むことで、彼らの暮らしを間近で体感しますよね。
詩織さん:そうですね。一緒に料理をして、みんなで食べて。子どもたちも一緒に遊んで。
東京では、自分たちが思う”クリエイティブな暮らしをつくる”という余地があまりにもなかったように思います。それは空間的というスペースにおいても、また時間的なスペースという余白においても。
忙しさから目の前のことでいっぱいいっぱいで、気軽に友人を家に招くことも難しい状況でした。ですが、ヨーロッパに行っている間には、どこも簡単に私たち家族を迎え入れてくれたんです。
そういうことができるようになりたかったし、そこで見た要素が、いまの暮らしの中にはたくさんあるように思います。
東京にいた時は、ずっと消費者だった
ーー移住したことで、家族の関係性に変化はありましたか?
詩織さん:まずはじめに、家族で一緒に過ごす時間が長くなりました。現在は夫婦ともにフリーランスとして、リモートワークができるようになったこともあります。
ですが週末の場合でも、東京にいた時は家族での過ごし方に選択肢があまりなかったように思います。たとえばどこかに出掛けて、お金を使って何かを見たり、買ったり、食べたりして楽しみ…そしてお家に帰ってくる。
達也さん:気づくと消費しかなかったんですよね。
詩織さん:そう、東京にいた時は、ずっと消費者だったんです。
達也さん:今日の午前中は、子どもを含めて15人ぐらいが集まり、田んぼで稲刈りの準備をしてきました。そこではみんなと楽しい時間を過ごしましたが、何も消費はしていないんですよね。
詩織さん:どちらかと言うと、つくることで楽しむ。
ーー田んぼ仕事をみんなでして…それはむしろ消費ではなく生産ですね。
達也さん:東京では、子どもを遊ばせる場所にもお金を払っていましたから。
詩織さん:それがこの辺りでは、お金を使わなくても、ただ散歩するだけで満たされます。季節によって咲いてる花もちがうし、それを子どもたちと発見するのも楽しい。だから、家族との時間の過ごし方も、御代田に来てからは変わりました。
ーー御代田という土地にはどのように出会ったのですか?
詩織さん:これまでに多摩川や鎌倉などの物件を見に行ったこともありましたが、どこも決め手がなくて。
達也さん:東京の郊外や、都会の延長でちょっと場所があるぐらいだと、かえって自分たちの暮らしがつくりづらいかもしれないという気持ちもありました。
詩織さん:御代田には、仲の良い友人のご両親が住んでいて。それをきっかけに訪れるようになり、この地域が気に入りました。その後わりとすぐに土地が見つかって…でも友人家族と2世帯で分けるにも大きかったので、あと3家族を集めてみようと。
ーーいま同じ土地に住んでいる5家族は、もともと知り合いだったんですか?
詩織さん:わたしは2家族しか知りませんでした。みんな夫の仕事の知り合いではありましたが、私は会ったこともない、初めての方もいらっしゃいました。ですが、その点においてまったく不安はなかったです。
達也さん:2人ともヨーロッパで見た、”コミュニティのあり方”みたいなものがなんとなくイメージできていたように思います。だから他の家族とはちがった理想を持っていたかもしれません。
AUTHOR
大河内千晶
1988年愛知県名古屋市生まれ。大学ではコンテンポラリーダンスを専攻。都内でファッションブランド、デザイン関連の展覧会を行う文化施設にておよそ10年勤務。のちに約1年デンマークに留学・滞在。帰国後は、子どもとアートに関わることを軸に活動中。
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