【インタビュー】女性に月経の選択肢を!台湾吸水ショーツ「ムーンパンツ」ユアンさんに聞く開発秘話
吸水ショーツの誕生は「ライフスタイルの提案」
ユアン・イーさん:消費者とのコミュニケーションも難しいですね。ここ台湾で吸水ショーツは新ジャンルの商品。例えるなら、スマホが普及し始めた頃、ガラケーユーザーの中には「電話もできるし、顔文字付きのメールも送れる。なんでスマホに切り替えなくちゃいけないの?」と主張する方も多かったはず。でも、今ではほとんどの方がスマホユーザーですよね。もしもスマホが主流の今、ガラケー機能の携帯を使うことになったら、きっと不便に感じるはず。ムーンパンツもそれと同じく、台湾の生理用品業界において全く新たな挑戦だったわけです。なので最初の頃は、みなさんにすんなりと受け入れてもらうのは難しいと思っていました。使用感を想像してもらうのが難しいので、ユーザーとコミュニケーションを取る上でかなり苦戦しました。
わたしたちのムーンパンツはライフスタイルを提案するという側面も兼ねています。商品を通して新しい月経体験を提供するんです。一度でも履いたことがあれば、ムーンパンツの軽くて薄くて快適、そして安心できるという特徴を理解してもらいやすい。でもそうでない場合は、商品のメリットをいくら商品をアピールしても広告上の文言にしかならない。そこで「ユーザーの生の声」として履いた感想をシェアしてもらうことにしました。
例えば、インフルエンサーさんに試してもらい、正直な感想をシェアしてもらう。「ムーンパンツを使ってから、あんなにたくさん使っていたナプキンを減らせて快適になった。」「もともとタンポンを何本も使ってたけど、いまは1、2本で月経期間を乗り切れるようになった。」など。まだ履いたことがない方にも、自分が使った時の様子をイメージしてもらいやすくなります。
ーームーンパンツを誕生させるのは新たな挑戦だったんですね!
リアル&ネットで「口コミ」で広まる
ーーユアン・イーさんがナプキン以外の生理用品を初めて知ったきっかけは何でしたか?
ユアン・イーさん:保健の先生から、タンポンを使えば水に入っても大丈夫と教わりました。そのため当時は、タンポン=水泳選手が月経中に使う生理用品と認識していました。水泳選手ではないわたしにとってはそこまで縁のないものだと思っていましたね。周りの友人を見ていても、当時は生理用品について知る術があまり多くはなかったみたい。
そして、わたしがタンポンを使い始めた頃にはPTT(台湾のインターネット掲示板。他のユーザーと討論ができる。)が流行り始めました。そこでタンポンなどの生理用品も話題に上っていたようです。だから友人たちはインターネットを通してその存在を認識したケースが多かったです。こういった背景に後押しされて、同世代の間で多くの人がタンポンを使い始めたんだと思います。
その後わたしはタンポンだけでなく月経カップも使うようになりました。とても便利だったので、周りの友人たちにも使った感想を広めていきました。何時もタンポンを持ち歩き、友人とカフェに行ったとき、タンポンを見せて「これ使ったことある?よかったら見てみて。」というように!
つまりわたしは、新しい生理用品を周囲に伝える側の人間になったんです。他の国の様子はわかりませんが、台湾で新しい月経商品を使い始める人の多くは、わたしのように身近な人に「これ使ったことある?」と聞くことが少なくないようです。早くから使っている人々の熱量が拡散されることでますます多くの人に広まっていくんですね。
なので、吸水ショーツを多くの人に受け入れてもらうためには、インターネットと口コミが重要な役割を果たしていると考えています。現在ではインターネット上で、多くの人が生理用品について自身の体験をシェアし、オープンに意見を交換できます。そして先行ユーザーは、以前のわたしのように周囲の友人に使い心地をシェアしてくれることもある。中には、友人に一緒にムーンパンツのお店に行こうと誘われて、結局自分も購入したという話も聞きます。身近な人の使用体験は比較的信頼がおけるので互いにシェアすることで輪が広がっていきやすいですよね。
見えない部分に高品質なこだわりを
ユアン・イーさん:他ブランドと競争をする上で、どうしたらムーンパンツを選んでもらえるのか。これが現在直面している課題。商品数が増えた今、わたしたちのムーンパンツはより一層品質の良さを求められます。
ーー近頃では日本メーカーの吸水ショーツも増えていますよね。メーカーさんから小規模なブランドまで。
ユアン・イーさん:かなり増えましたね。高品質で高価格な商品から、どうやって製造しているんだろう?と思うほど低価格のものまで。中には、本当はムーンパンツを試したくても、価格の問題で先に手軽な値段の商品を試すこともあるわけです。でも、もし買った後に不便だなと思ってしまったら、吸水ショーツ自体に対する不信感が生まれてしまうかもしれない。そのような状況下で、多少お値段は張るけれど品質にこだわったムーンパンツをどのように手に取って貰えるのか。これが現在の日本のマーケットにおける課題です。
---大手衣料品メーカーも続々と吸水ショーツを発売していますよね。
ユアン・イーさん:はい。大手メーカーの場合は大量生産できるので、コストも低く抑えられるのがメリット。以前、某メーカーのサンプル品に、水をかけて洗って乾かすのを繰り返して吸水状態を計測する実験を実施しました。すると、防水層(液体が滲み出るのを防ぐ薄い層。素材によって品質に差が出る)に小さな穴がいくつか表れたんです。洗濯の衝撃で破れたのかどうかは定かではありませんが。ここで言いたいのは、ムーンパンツの防水膜は特殊な加工を施しているので洗濯中に破れにくいこと。ですが、消費者にとってこういった目に見えない部分への工夫は見えにくく、他メーカーとの競争上、非常に不利です。
ーーームーンパンツの吸水部分は他のブランドと比べて特に薄いですよね。以前フェムテックブランドのポップアップでムーンパンツを販売したことがあるのですが、手に取っていただいたお客様は「こんなに薄いの?」と驚かれていました。
ユアン・イーさん:その反応は、お客様にとって「心配」それとも「嬉しい」どちらだったのでしょうか?
ーーー「嬉しい」という反応だと思います。吸水ショーツに限らず、月経中はショーツがムレて悩んでいる方が多いので。個人的にも技術が進んでいることに驚きました。
各国で特許!『シームレス技術』で漏れにくさUP
ユアン・イーさん:外国メーカーの吸水ショーツを研究して浮かび上がった改善点にも目を向けました。縫い目の線が露出していることがあったので。ムーンパンツ開発時はそういった部分をより良くすることにも力を注ぎました。こうして完成したムーンパンツの独自技術「シームレス技術(縫わずに布を巻き込む製造方法)」は、横漏れを防ぐ効果が高いのが特徴。販売にあたり特許も申請しました。わたしたちは元々縫製工場ではないので独自技術として登録することによって技術の漏洩を防ぎ、自分たちの商品を守る必要があったんです。本来は、日用品であるショーツのためにこんなにたくさんの特許を申請することはなかなかありません。現在、この「シームレス技術」は日本、台湾、中国、EUですでに特許申請済み、アメリカで申請中です。
取材・翻訳協力: 王靖雯 (Jing-wen Wang) 翻訳:竹田歩未
ユアン・イー(陳苑伊)さん プロフィール
"女の子にもっと快適な月経を過ごしてもらい、これからの人生を楽しみにしてほしい "というミッションを基に、月経に情熱を燃やす2人の女性が2017年に設立した「Good Moon Mood」の創業者。 ユアン・イーさんは、共同創業者のフィオナ(史文妃)と共に、台湾のタンポンコミュニティについて70,000文字を超えるリサーチを実施し、月経カップのオンライン購入を合法化するキャンペーンを立ち上げました。また、フルムーンガール(月経カップ)のデザインにも従事。日本のグッドデザイン賞とドイツのiFデザイン賞を受賞しています。
「月亮褲®(ムーンパンツ)」とは?
2018年、台湾で初めて血液を吸収するショーツ「月亮褲®(ムーンパンツ)」を発売。一般的なショーツと生理用品を融合させ、軽くて快適、洗濯して再利用できるのが特徴です。 台湾の女の子たちに月経に対する新しい視点を提供し、彼女たちが「Good Moon Mood」に過ごせることを願っています。現在、ムーンパンツは日本と台湾合わせて18万枚以上を販売。台湾の女性たちのため、月経体験の向上を図っています。
生理用品だけでなく、月経教育の普及にも尽力。2019年には、アメリカで開催された「Society of Menstrual Cycle Research(月経周期研究会)」に参加。台湾の生理用品の発展について世界各国からの参加者とディスカッションを繰り広げました。その他にも、毎年「GoMoond® Period Party~ ピリオド パーティー~」を開催し、月経を身近に話せる場を設けるべく奮闘を続けています。
AUTHOR
竹田歩未
ライター/中国語翻訳。大学在学中に場所や時間に縛られない働き方に興味を持つ。卒業後の2022年〜ライターとして活動しながら念願の台湾留学を実現。Instagram「フェムテクラブ|フェムテック・フェムケアグッズ」を運営。SNS:Ayumi Takeda @ayumin_tkd フェムテクラブ @femteclub
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