少年院で助産師が性教育|性的同意・デートDV・避妊・性感染症予防「一人で悩まないで」

 少年院で助産師が性教育|性的同意・デートDV・避妊・性感染症予防「一人で悩まないで」
加古川学園での性教育講演の様子(株式会社ネクイノより)

生理不順・避妊・性感染症・パートナーとの関係等……性に関することは気軽に相談しにくいですよね。株式会社ネクイノは、大阪市の心斎橋より徒歩3分の場所にある、婦人科クリニック「さくま診療所」と連携したユース向けの相談施設「スマルナステーション」を運営しています。若者がいきなり婦人科へ行くことのハードルが高いため、相談施設としてクッション的な役割を担っています。日頃から出張講演なども実施しており、2023年6月には兵庫県にある少年院である加古川学園で性教育講演を行いました。なぜ少年院で性教育講演が必要なのか、若者の反響から見えたことなど、講演を担当した助産師の神保ゆうこさんにお話を伺いました。

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少年院を出たあとに相談できる場所を

——加古川学園での性教育講演実施の経緯をお伺いします。

加古川学園の法務教官から性教育講演の依頼をいただいたことがきっかけです。少年院で自分とゆっくり向き合う時間が持てても社会に出た後で周りに頼れる大人がいなかった結果、再犯して戻ってくる少年も少なくない実態があり「外に出た後も相談できる場所があることを伝えたい」とお話をいただきました。

——性のことに限らず、相談できる人と繋がることが難しいのでしょうか。

そうですね。事前の打ち合わせでは、彼らが厳しい環境の中で性に限らず適切な情報をくれる大人に繋がれない様々な背景があることを伺いました。問題行動だけを見たら、その人個人の責任に見えるかもしれませんが、そこに至るまでにあらゆる経緯があって、彼らは“正しい”行動を学べなかった。それは彼らに原因があるのではなく、社会の問題だと思っています。

少年院での性教育講演は初めてだったのですが、話を聞いた少年たちがここを出たあとも、信頼できる大人に頼ってもいいんだ、スマルナステーションのように性のことに限らず気軽に相談できる場所があるんだと感じてもらえればと思ってお話ししました。

——講演ではどのようなお話をされたのでしょうか。

「性教育」と聞くと、身体の仕組みや生殖や性感染症などをイメージする人が多いと思います。ですが、事前にヒアリングをする中で「相手との関わり方を学ぶ機会がない」という課題を感じたため、性に関する知識だけでなく、コミュニケーションの中での相手への思いやりなど、包括的な内容で構成しました。

一番大事にしたのは「自分を取り戻す作業」です。「自分で自分のことを大事にしていい」ということを知ってもらえたらという思いから、コミュニケーション部分のお話を多めにしました。「相手を傷つけないため」という何かの対策的なアプローチだけではなく、バウンダリー(境界線)など相手との距離の取り方、対等な関係性、デートDVや性的同意といった話を踏まえての妊娠の仕組み、避妊の必要性、性感染症予防を自分と相手を守るために大事なこととしてお話をしました。

加古川学園での性教育講演の様子(株式会社ネクイノより)
加古川学園での性教育講演の様子(株式会社ネクイノより)

性教育講演を受けて、「男らしさの呪縛」に気づいた

——生徒たちの反響はいかがでしたか。

当日は対面とリモートと両方の受講生がいたのですが、対面では講義の後にコンドームの付け方を学ぶコンドームワークもおこなって、合計1時間ほどお話しました。始まる前は「暇そうにするのでは」と思っていたのですが、熱心に聞いてくれ、講義後に何度も質問してくれたり、後日長文の感想をよせてくれた少年もたくさんいました。

「今まで自分の周りにいた人たちから今日のような話を聞いたことがなかった」「主従関係がある方が恋愛は上手くいくと思っていたけれども誤解だった」といった感想をいただきました。

——特に印象に残っている感想はありますか。

デートDVの話では、「何度も同じ人に中絶させてしまったことがあって、すごく反省している。性的な暴力だったと気づいた」といった、自分が相手を傷つけていたことに気づいた感想があった一方で、「パートナーから行動の制限などをされたことがあって、自分も精神的なデートDVを受けていたことに気づいた」など、自分も被害を受けていたことに気づいたと書いてくれた少年も多かったです。男性側も相手に嫌われないために我慢をしているのですよね。それは女性がデートDVを受けたときに感じていることと変わらないと感じました。

「今まで危ない方法で避妊していた。自分は今日学んだから、昔付き合ってた仲間にも教えてあげたい」「10代の子どもに必要な話だから、絶対に受けたほうがいい」と性教育の重要性を感じ取ってくれた少年もいました。

少年院に入るまでにSNS漬けになっているので、キラキラしたものばかり見ていて、自分に自信を持てなくなっていた少年も多かったです。女性だと美容やダイエットの文脈で可視化されやすいですが、男性も同じようにジェンダー規範を内面化しているのだと私自身も気づかされました。

——今の10代の子も「男らしさ」の呪いの影響を受けているのですね。

「男だから奢らないといけないと思ってた」「か弱い女の人には優しくしないといけない」など、紳士的な考えではあるのですが、「男らしさ」に囚われていますよね。「男たるもの、大黒柱になって、奥さんと子どもを養えるようになりたいから、早く自立して結婚したい」といった話をしてくれる少年も何人かいて、ライフプランを考えてるのは立派だと思いますし、伝統的な家族観を持つことも悪いことではないのですが、「女性は弱いから守ってあげないといけない」という考えは、女性を対等に見られていないなど、少し危険な部分とも繋がっていると思います。一人ひとりとゆっくり話す時間までは持てなかったので、そこまで踏み込んだ話はできなかったのですが。

「自分がそうしたい」のではなくて、「男だからそうしなきゃいけない」と思っていた少年もいて、「そういう関わり方をしなくてもいいってわかって、ちょっと楽になった」という声もありました。

——若者に性のことを伝えるとき、どのようなことに気を付けていますか。

全員に向けて話すときに気を付けていることは、話す内容には必ずその当事者がいるということです。

また、相談者の年齢に囚われるのではなく、相手を一人の人として見るようにしています。「個」として向き合って、その人がまだ知らない選択肢を提示して、視野が広がって、その人自身で決断できるようになることが重要だと思っています。性教育の話はどうしても禁止・抑制の話になりがちですが、押しつけず、科学的な正しい知識をお伝えしながら「一緒に考えよう」というスタンスでいることも意識していますね。

とはいえ、知識を得たからすぐに行動変容できると思ってはいないです。大人だって知っていてもできないことはありますよね。なので「できなくても自己責任ではないよ」とも思っています。「失敗してもこういう方法がある」「相談できる場所がある、だから一人で悩まないで」と、もっと伝えていきたいです。

【プロフィール】
神保ゆうこ(じんぼ・ゆうこ)
神戸大学医学部保健学科卒業。卒業後は総合病院産婦人科病棟、クリニックでの勤務や行政での非常勤保健師の業務に従事しながら地域の助産活動と思春期保健に取り組む。2021年株式会社ネクイノに入社。現在は学校での性教育外部講師なども続けながら、スマルナステーションでLINE相談や対面相談で若者に向き合っている。

加古川学園での性教育講演の様子(株式会社ネクイノより)
加古川学園での性教育講演の様子(株式会社ネクイノより)

性は恥ずかしいものではなく、当たり前のこと

同社では「スマルナ公式」のTikTokも運用しており、2023年7月31日時点で3.6万人のフォロワーを集めており、わかりやすく性に関する発信を行っています。TikTok担当の助産師のAyaさんにもコメントをいただきました。

——若者への情報発信で意識をしていることはありますか。

誰もが簡単にアクセスできるSNSなので、誰が見ても傷つかない内容になるよう言葉を選んでいます。そしてTikTokは10代の方からもたくさんの質問や相談が寄せられる場でもあるので、誰が見ても分かりやすく、楽しく、かつ自分ごととして興味や関心を持って見てもらえるような動画になるよう意識しています。

性教育は「照れくさいものであり、恥ずかしいことだ」という風潮もまだ強くありますが、公式チャンネルでは「恥ずかしいことではなく、当たり前のことだよね」「これって大事なことだよね」という世界観を、フォロワーさんや視聴者さんと一緒に作っていくことも心がけています。

——どの動画の反響が大きかったですか。

生理や性感染症など色々な動画を投稿してきましたが、避妊に関する動画はどれも反響が大きかったです。中でもコンドームの装着方法を実演した際には、460万回以上再生され「いいね」やコメントを多数いただきました。

「この動画を何度も見て彼氏と一緒に練習してます」「TikTokを見ていて一番勉強になった」などのコメントはうれしかったです。

——視聴者さんにメッセージをお願いします。

スマルナは「ココロとカラダが健康で、ワタシらしい人生を選べる世の中を作る」というというmissionを掲げ、どんな場面においても日々自分らしく、そして自分自身を大切にできるような、サービスを提供していきたいと考えています。

近年、インターネット上では、多くの医療情報や性に関する情報を目にする機会が増えたと思います。ただその中には誤った情報があるのも事実です。だからこそ、わかりやすく正しい情報を伝えるということを、とても大切にしています。

これからも助産師として、一人でも多くの方が自分らしい人生を選べるよう、日常の中で医療情報に触れる機会を作り、たくさんの正しい情報や知識をわかりやすく、そして楽しく得られるよう発信していきたいです。お友達やご家族、パートナーなど、周りにいる方とも一緒に楽しんでもらえたらと思います!

■スマルナステーション公式HP
https://smaluna-station.com/

■スマルナ公式TikTok
https://www.tiktok.com/@smaluna

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AUTHOR

雪代すみれ

雪代すみれ

フリーライター。企画・取材・執筆をしています。関心のあるジャンルは、ジェンダー/フェミニズム/女性のキャリアなど。趣味はヘルシオホットクックでの自炊。



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