「性教育が恥ずかしいのはなぜ?」『おうち性教育はじめます』著者が語る、性教育が大人にも必要な理由
人気を集めている性教育コミックエッセイ『おうち性教育はじめます』(KADOKAWA)。「性教育の発信をしている人=性にオープンで恥ずかしさを感じていない」というイメージを持っている人もいると思いますが、著者の一人であるフクチマミさんは今でも恥ずかしさを感じる話題もあるとのこと。でもその感覚も大事にしているそうです。「性教育をしなければならないとは思っているものの抵抗感がある」という人に読んでいただきたいインタビューです。
性教育を伝える方法は「言葉」だけではない
——そもそもフクチさんはどういうきっかけで性教育に関心を持たれたのでしょうか。
中3と小6の娘がいるのですが、長女が5歳の頃、ふと性教育のことが頭に浮かんだのですが、教える以前に私自身も性のことをわかっていなくて漠然とした不安を抱いていました。
でも徐々に「性のことを学びたい」という気持ちが大きくなって、最初はNPO主催の性教育の勉強会にドキドキしながら参加したんです。その内容がとても面白かったのと同時に、性教育で行われる性の話は、今まで私がイメージしていたものとは違うことにも気づきました。
性教育は子どもに必要なことだとも思って、勢いで絵本を買ったものの、数年間本棚に眠ったままで……。「やらなきゃいけない」というプレッシャーも感じながら過ごしていました。
長女が小1のときにPTAの委員だったので「性教育の講演会をやりませんか?」と学校に提案したのですが「誕生学ならできるけれども、性交を扱うのはダメです」と言われてしまったんです。
その後は長女が小4の頃に、身体つきや、親への態度の変化を感じて、保護者同士で「そろそろ性教育が必要なのかな」という話が出てきて。そこで周囲の保護者に声をかけて有志で助産師さんを招いて勉強会を開きました。
まず、大人の抵抗感を減らして知識を身につけることが必要だと思ったので、お酒ありで大人だけの勉強会を開いた後、子どもに教えるための勉強会を開催しました。その勉強会の様子を日経DUALが取材してくれて、その記事をKADOKAWAの担当編集さんが読んでくださったことがきっかけで本を作ることになったという経緯です。
——第一弾は24万部(2023年4月時点)と大ヒットですよね。第二弾の『おうち性教育はじめます 思春期と家族編』もスムーズに制作の話が進んだのでしょうか。
第一弾が販売から3日目で出版社から重版の連絡が入って、とても驚きました。担当編集さんから「読んでいただいた方からもご好評いただいていますし、思春期のことも知りたいという声もありますので、思春期編も考えていきませんか?」とお話をいただき、第二弾の制作が始まりました。
でも決まってからの方が伝え方に悩んだんです。最初は、思春期は小さい子どもと違って言葉で伝えることはできるし、理解力もアップしているからそんなに難しくないだろうと思っていました。ところが、そのタイミングで長女が思春期ど真ん中の年齢に入って、コミュニケーションの難しさを感じるようになって。「思春期の子に性について伝えるのは実はすごく難しいことなんだ」と行き詰まりました。
性教育の専門家でもう一人の著者の村瀬幸浩先生は「思春期の子が自分から親に生殖にまつわることを聞いてくることはまずないから、親の方からも伝えようとしない方が一般的」とおっしゃっていました。第一弾では「子どもにどう伝えるか」と例文を描いたことが好評だったので、思春期編も例文を載せることをイメージしていたんです。でも親から伝えない方が健全となると、どうしたらいいんだろう?と悩んでしまったんですよね。
その後、村瀬先生から「家庭内での親の姿や言動を見て子どもは学ぶから、思春期の子は教えるより育むことを大切にしたいね」というお話を聴きました。言葉を教え込むのではなく、親が性について学んだ上で、振る舞いで子どもに示すこともできる。言葉以外で伝える方法があることを理解できてから、描き始められました。
自分のできる範囲で伝える努力をすればいい
——「思春期編」ではセックスのことについても取り上げていました。一番と言ってもいいくらい話しにくいことだと思うのですが、フクチさん自身はどう感じましたか。
セックスに関する直接的な話は今でも恥ずかしいと感じます。でもこの本で伝えたいのはセックスの時の関係性の話であって、例えばセックスには①子どもを作るため(生殖の性)、②共に楽しく生きるため(快楽・共生の性)、③支配するため(支配の性)の3種類があることを描きました。
他にも10代の子どもの判断力や「セックス以外にも愛情表現がある」こと、「子どもの選択を尊重すること」など、コミュニケーションに重点を置いたので、抵抗感なく描けました。
ほかの性教育の本には、男性器が女性器の中に入っているイラストが載っているものもあるのですが、私は描くのがしんどかったので入れてないです。もちろん必要な情報ではあると思うのですが、私にはハードルが高かったので、他の本にお任せしようと思いまして。
——世間的には「性教育の発信をしている人=恥ずかしいと思ってない」というイメージがあると思うので、フクチさんからそういう声が聴けることでほっとする人もいると思います。
私も「生理」と検索できなかった頃に比べたら、今こうやって漫画を描いているのは信じられないくらいなのですが、それでも抵抗感のある話はあります。「性教育の話をするなら恥ずかしいと思ってはいけない」というイメージを持っている人もいるかもしれませんが、私はそこで嘘はつきたくないなって。
第一弾から、手に取ってくれた人がいかに途中で本を閉じないかを意識して、描き方はもちろん、単語1つについても、「“セックス”より“性交”の方が抵抗感が少ないのでは」「“セックス”もカタカナより“SEX”と“sex”どちらの方が恥ずかしくないか」とかそういうレベルでの調節をしました。
ずっと「恥ずかしいもの」とされてきたのですから、性教育の必要性はわかっていても抵抗感のある方はいらっしゃると思うんです。だからこそ、性に関するテーマに抵抗感のある人が置いてけぼりにされた感じがしないように、という思いを込めて描いています。
——セックス・生殖のことを子どもに説明したときに「お母さんもしたの?」と聞かれることが怖いという声はよく聞きます。
第一弾では答え方の例を示して、村瀬先生からは「動揺を見せずに『当たり前』と開き直って話すことが大事」「言葉は慣れが大きいから練習が大事」というお話がありました。
でも性の話は心の深いところとつながっているデリケートな話ですよね。「自分が抵抗感を覚える部分は言わなくてもいい」という大前提を親が知っていることで、一歩踏み出せるのではないかと思います。
直接説明することのハードルが高いのでしたら、あらかじめ信頼できると思う本を見つけておいて、何か聞かれたときに「ここに書いてあるから読んでみて」と渡す方法もありますし、自分のできる範囲で伝える努力をすればいいと思っています。
最低限、親が恥ずかしさを誤魔化すために「そんなこと聞くんじゃないの!」「いやらしい子だね」など、責めるような態度を取らなければいいのではないでしょうか。元々親世代が「性=恥ずかしい」と植えつけられてきたので、そういう態度を取ってしまうと思うのですが、タブー感を子どもに連鎖させないようにはしたいと思います。
——「性教育の重要性」が世間で知られるようになったものの、まだ抵抗感のある人は少なくないと思います。そんな保護者の方へ、同じ保護者の立場であるフクチさんからメッセージをいただけますか。
「子どもに教えなきゃ」という視点から性教育に興味を持つ保護者の方は多いと思うのですが、まずは親が自分自身のために性教育の本を手に取って学んでほしいです。
多かれ少なかれ生きづらさは誰もが抱えているものだと思っているのですが、性教育は生きづらさを軽くする手伝いをしてくれる、生きていくための道しるべになるものだと思います。
性教育を学ぶことによって、「子どもの頃あんな風に違和感を覚えたのは間違ってなかったんだ」とか「私が『家事をしなくちゃ』と思っていたのは、社会的な性役割の刷り込みの積み重ねだったんだ」とか、モヤモヤしていたことが言語化されると思います。
「バウンダリー(境界線)」や「同意」など、何歳から学んでも人間関係を良好にするものだと思いますし、大人が読んでも今後生きていく上での考え方の軸になっていくと思うので、まずは自分のために読んでみることをご提案したいです!
【プロフィール】
フクチマミ
漫画家・イラストレーター。日常生活で感じる難しいことをわかりやすく伝えるコミックエッセイを多数刊行している。著書に高橋基治氏と共著の『マンガでおさらい中学英語』(KADOKAWA)ほか、『マンガで読む 育児のお悩み解決BOOK』(主婦の友社)、『マンガで読む 子育てのお金まるっとBOOK』(新潮社)などがある。
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