性教育は、境界線の尊重?自己肯定感が育つ?『おうち性教育はじめます』作者が語る、性教育を学ぶ意味

 性教育は、境界線の尊重?自己肯定感が育つ?『おうち性教育はじめます』作者が語る、性教育を学ぶ意味
『おうち性教育はじめます 思春期と家族編』(KADOKAWA)より

「ニュースなどで話題の性教育、子どもにも私から教えた方がいいのかな?」「でもそもそも親も学んでいない。何から教えたらいい?」——そんな悩みに寄り添ってくれる『おうち性教育はじめます』(KADOKAWA)。2023年4月現在、3~10歳の子どもに教える「防犯・SEX・命の伝え方」が中心となっている第一弾が24万部、思春期編の第二弾が2万部(電子書籍を除く)と大ヒット中の性教育コミックエッセイです。著者の一人で、2人のお子さんの母親でもあるフクチマミさんは最初は「生理」とネット検索することにも抵抗があったとのこと。詳しくお話を伺いました。

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性教育によって過去の傷つきを受け入れられた

——今の大人は性教育を学ぶ機会がないまま大人になった人がほとんどだと思います。フクチさん自身は性教育への抵抗はありましたか。

最初は性への抵抗感がとても強くて、性教育に関心を持ち始めた頃はネットで「生理」と検索もできないくらいで。性教育の本を描いている今では信じられないですが、履歴に「生理」と残ってしまうことが怖かったんです。第一弾を描く際には、もう一人の著者で、性教育の専門家である村瀬幸浩先生が淡々と話す単語にもよくギョッとしてました(笑)。

性教育
『おうち性教育はじめます 思春期と家族編』(KADOKAWA)より

——性に対する恥ずかしさは何が理由だと思いますか。

子どもの頃から周りの大人やメディアの「性」の扱い方が、触れてはいけないとか、恥ずかしいものとか、タブー視させるものが多かったことだと思います。
印象に残っているのが思春期の頃、素朴に疑問に思ったことを聞いたら、親戚の大人に「そういうことが気になる年頃なんだ」と、ニヤニヤされたことです。そんなつもりはなかったのに「いやらしい質問をした」と扱われたのがすごくショックで、「これは恥ずかしいことなんだ」と思ったことをよく覚えています。実家では生理の話も気軽にできる感じではありませんでしたし、ずっと性の話をしないまま大人になりました。

——中学生と小学生のお子さんがいらっしゃるとのことですが、今はいかがでしょうか。

生理のことを家庭内で話せるようになったのは最近です。母として娘に伝えたり、自分の本を読ませたり。娘たちは助産師さんから性教育の話を聴く機会もあって、ほとんど抵抗感がないようで、父親の前でも日常会話としてナプキンの話もします。子どもの頃から性をいやらしいもの・けがらわしいもののように扱わない環境を整えることは大事だとは思います。

最初は私の方がドキドキしていたのですが、だんだんと慣れて、家庭内で健康のこととして話せるようになりました。「生理」と検索することすらできなかった私が漫画を描いたり、子どもと性の話をしたりもできているので、大人になってからでも変われることは身をもって感じています。

——夫婦間での性教育への意識のギャップに悩む女性の声をよく聞きますが、フクチさんは夫さんとも性教育の話をされるのでしょうか。

夫は元々私の産後に生理用ナプキンを買いに行ってくれるなど、性に関することが全く話せないという感じではなかったのですが、最初から性教育に積極的というわけでもなく、徐々に慣れていきました。

最初は私の方から頑張って性教育の話をしたり、性教育講座に夫を連れて行ったりもしましたね。当初は夫との温度差も感じていましたが、少しずつ性教育の重要性やジェンダーの話も性教育に含まれることなども吸収していったようでした。

——フクチさん自身は性教育を学んでどのようなことを得ましたか。

過去の傷が癒されました。子どもの頃から一方的に性的な対象として扱われたり、痴漢被害に遭ったり、20代の頃も飲み会で「お前なんか全然好みじゃねーよ」と親しくない人から突然言われたり、私はシンプルなものなどカッコいい感じの服やものが好きなのですが、それに対して「女性らしくない」といった評価がされたり……そういったことに傷ついていたのに、傷ついている自分を恥ずかしいと思って「傷つく自分が悪い」と傷ついていないフリをしてきました。

でも性教育を学んで、性加害を怖いと思ったり、言葉の暴力に傷ついたりするのは当然だと思いましたし、「女性らしさ」を押しつけてくる社会のメッセージに問題があるともわかって。性教育の中にあるジェンダーの話を学ぶことで、「私が悪いわけではない」「傷つく自分の感覚は当たり前のもの」と自己肯定感につながっていきました。

性教育で相手を尊重するコミュニケーションを

——『おうち性教育はじめます 思春期と家族編』では「バウンダリー(境界線)を築くこと」「同意をとること」などコミュニケーションに関するテーマが多いですよね。コミュニケーションに関することは知ってても、気を付けてても、望ましくない言動をとってしまうことがあると思うのですが、フクチさん自身は「知ってても失敗してしまった」といったご経験はありますか。

結構ありますね。私の世代は「バウンダリー」や「同意」という言葉自体、使われていなかったと思います。「バウンダリー」は、私は心理学を通じて初めて知ったことで、性教育にも含まれていることを知って、ぜひ描きたいと思ったテーマでした。

「バウンダリーを乗り越えてしまうときってどういうときだろう」と考えてみたのですが、自分が不安を感じていたり、承認欲求が強まっていたり、相手をコントロールしたいと思っていたりと、相手を一人の人間として見られなくなっているときなのではないかと感じています。

子どもに対しても、友人に対しても、そういう失敗をしてしまうことはあるので、「気を付けよう」と振り返ることは今でもありますね。

——『「NO」を伝え、受け入れる』ことも大事なことですよね。でも、「NO」や「反対意見」を伝えただけで、「善意でやってあげてるのに」と言われたり、不機嫌になったり、「空気を乱す“ヤバい人”」のように扱われたり……そんなことにモヤモヤしている人もいると思います。

日本は「NO」を言えない文化ですよね。でも「NO」を言えることはとても大事なことで、自分の中の違和感を無視しないことが自分を守ることにもなるんです。
「夫の言動に対して何か言うと、全人格を否定しているように捉えられてしまうから、何も言えない」という悩みを聞くことは珍しくありませんし、中には「夫に何か言うときには離婚を覚悟した上で伝える」という話も聞いたことがあります。

村瀬先生は「NO」は言うことも受け入れることも練習が必要だとおっしゃっていました。そして、NOを言う練習も受け入れる練習も家庭が練習の場になりますし、繰り返すことで「NO」を伝えることが相手の否定ではないことも理解できるようになってくるんですよね。

性教育も身体や生殖の仕組みを教えるだけのものではなくて、ベースとして重要なのが「NO」を言えることとか、バウンダリーとか、相手を尊重することだと思います。相手を尊重することを学んだ上で知識的な話が活きてくると思うので、性教育におけるコミュニケーションの側面って本当に大事だと思うんですよね。

第二弾の思春期編で描いた内容は、大人同士のコミュニケーションにも役立つと思うので、ぜひ手に取っていただけたら嬉しいです。

『おうち性教育はじめます 思春期と家族編』(KADOKAWA)の表紙
『おうち性教育はじめます 思春期と家族編』(KADOKAWA)

【プロフィール】
フクチマミ

漫画家・イラストレーター。日常生活で感じる難しいことをわかりやすく伝えるコミックエッセイを多数刊行している。著書に高橋基治氏と共著の『マンガでおさらい中学英語』(KADOKAWA)ほか、『マンガで読む 育児のお悩み解決BOOK』(主婦の友社)、『マンガで読む 子育てのお金まるっとBOOK』(新潮社)などがある。

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雪代すみれ

雪代すみれ

フリーライター。企画・取材・執筆をしています。関心のあるジャンルは、ジェンダー/フェミニズム/女性のキャリアなど。趣味はヘルシオホットクックでの自炊。



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『おうち性教育はじめます 思春期と家族編』(KADOKAWA)の表紙