「予定外の妊娠」経験を持つ助産師が、今10代に伝えたい「性教育」の話【インタビュー】

 『10代のための性の世界の歩き方』(時事通信社、漫画:イゴカオリ作)より
『10代のための性の世界の歩き方』(時事通信社、漫画:イゴカオリ作)より

思春期になると性に関することに興味を持つ傾向にありますが、大人にはなかなか聞きにくいものです。とはいえ、知らなければ健康に影響が出ることもあります。学校にて性教育講演を行っている助産師の櫻井裕子さんが、身体の仕組みやケア、セックスや避妊、妊娠など、10代の子どもの疑問に寄り添って書いた本が『10代のための性の世界の歩き方』(時事通信社、漫画:イゴカオリ作)です。子どもの疑問に寄り添った漫画だけでなく、大人向けのコラムもあり、親も子も学べる本です。著者の櫻井さんに、性教育で大切にしていることや、日本の性教育への思いについて話を聞きました。

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「失敗」しても人生の終わりではない

——貴著では21歳のときに予定外の妊娠をしたというご自身の「失敗」について書かれています。どんな思いがあったのでしょうか。

「正解」や「正論」しか語らない大人の話を子どもは聞きたくないのではと思いました。私が子どもの頃だったら、きっとお説教がくると構えてしまうなって。隠したくなるけれど失敗しない人はいない。だからこそ失敗経験を語ることが重要だと思いました。

最初の妊娠をしたときは「人生詰んだ」と思いました。学生で妊娠した時点では最低評価でしょう。実際そうでした。でも数年後に看護師の資格を取ったら評価が爆上がりするもので。失敗しない方がいいけれども、失敗しても人生の終わりとは考えてほしくないことを、自分のエピソードを通じて伝えたいです。

妊娠
『10代のための性の世界の歩き方』(時事通信社、漫画:イゴカオリ作)より

——失敗を打ち明けてくれている大人には相談しやすいと思います。

大学生や専門学校生への性教育講演ですと、自身も妊娠や中絶を経験している学生もいるので、講演後に「打ち明けやすくなった」と声をかけてもらうこともあります。

私には子どもが4人いて、1人がアカデミーハラスメントで看護の専門学校を中退していて。それでも看護師になりたくて、転学して1年遅れで卒業しました。そのときに「理由は違うけれども、私も1年ダブってて、今は最強の話のネタになっているから、いつかこの体験もネタにできるよ」と励ますことができました。失敗経験が活きた瞬間です。

——誰でも「失敗」してしまうことはあるものの、中高生くらいでお子さんが妊娠したとか、パートナーを妊娠させてしまったとか聞いたら動揺すると思います。どう受け止めればいいでしょうか。

「まさか」ですよね。そりゃ動揺しますよね。親御さんが動揺したり責め立てるような言葉を使ったりするのは、お子さんのことを大切に思う気持ちからだと思います。

実は私も親として我が子の「妊娠不安」に対峙した経験があります。生理用品が減ってないことに気づいたんです。付き合っている人がいるのも知っていたので、「もしかして妊娠の可能性ある?」と聞きました。そしたら娘は「実は生理がこなくて心配だった」と打ち明けてくれました。

「もしかして」と思いながら聞いたものの、すごく動揺して、100回くらい深呼吸をしましたね。でもやることは決まっているので、「まず妊娠検査をして、もし陽性だったら病院に行こう」と声をかけて、私が妊娠検査薬を買ってきて一緒に検査しました。

結果は陰性だったのですが、時期的に陽性がまだ出ないだけかもしれないので、「1週間後にもう一度検査して、陰性だったら改めて喜ぼう」と言って。1週間後の検査も陰性なのを確認し、二人で抱き合って号泣でした。

心構えがあって、下準備もしていて、日頃性教育をしている立場なのにこんなに動揺したくらいですので、冷静に淡々と対応するのは無理だと思いました。

子どもが打ち明けてくれたときに、思った以上に厳しい言葉が出てきて傷つけてしまうこともあるかもしれません。あとから「あのときは受け止めきれなくてごめんね」と謝る事が大切だと思います。

※お子さんのエピソードはお子さんに掲載許可をいただいています。

「予期せぬ妊娠」に対して不寛容な社会

——女性が一人で産んで遺棄してしまう事件がたびたび報道されます。女性を責める声が依然として少なくないですが、社会はこういう事件をどう受け止めたほうがいいと思いますか。

別のメディアでインタビューしていただいたときに「21歳の看護学生が予定外の妊娠」という見出しだけに反応され「21歳ならどうすれば子どもができるか知っているはずなのに無責任」「自分も看護学生だったけれども、国家試験に合格することで精一杯で恋愛どころじゃなかった」など攻撃的なコメントが集まったことがありました。

私自身はそういったことを言われ慣れているのですが、コメントを読みながら根本的なところはずっと変わってないなと思いまして。100%の避妊方法なんてないのに、まして日本で最もよく使われている男性用コンドームは、破れたり外れたりで失敗してしまうこともあるんですよね。「自分の知っている常識から外れた振る舞いをした」という認定をすると、「叩いてもいい対象」というジャッジをされると感じました。

そういう構造の社会で生きていると、産める状況ではないときに妊娠してしまったときに、「常識外の行動をした」という目線を向けられるなら相談できないですよね。特に身近な人から非難されるのがわかってたら相談できないでしょう。不寛容な世の中の先に事件が起きていると思います。

意図せぬ妊娠は誰にでも起こり得ます。そうなったときに寄り添う誰かがいたら、孤立出産は防げるんじゃないかと思います。

——「セックスしなければいい」など極端な意見もありますが、どのようにお考えでしょうか。

確かにセックスをしなければ妊娠の可能性はありませんが、「妊娠を100%喜べないならセックスしてはいけない」とするなら、女性がセックスできるのは、人生でほんの数回しかないですよね。

それは学生で経済的に自立してないとかだけでなく、経済力があって、結婚もしてて、安定してても、つわりが重くて妊娠初期から急に働けなくなったり、妊娠、出産によってキャリアが中断されたり、子どもが生まれた後も大きく生活が変わるわけですから100%妊娠万歳なタイミングなんて人生でそうそうありません。

そもそもセックスは生殖のためだけではなくて「快楽」の意味もあります。「快楽」という言葉からいやらしさを感じるかもしれませんが、触れ合うことの心地良さは大事なことですし、コミュニケーションの材料にもなるんですよね。妊娠したくないならセックスしなければいいという意見は大切な営みを全て否定しているように感じます。

こういった事件が起きないよう、全ての人が当事者意識を持ってほしいです。妊娠でなくとも、自分が「失敗」する可能性はありますし。いきなり全てに寛容にはなれなくても、少しずつ意識してみたら、若者たちが相談しやすい世の中にできるのではと思います。

——どうしても「生理がある」「妊娠する」などで男女の意識が違うと思うのですが、妊娠しない側の想像力を育むために子どもにどう教えていますか。

男子に月経を想像するちょっとしたワークをやっています。

「男性器と肛門の間に隙間があって、そこから絶え間なく粘っこい血液が出てくる。お腹が痛いしやけに眠くて、頭も痛い。ちょっと気持ちが悪いときもある。めっちゃイライラするのに、隣に余計な一言をかけてくる奴がいる。そんな症状が約5日間続く。体調が悪いのに体育座りをさせられたら……まじ勘弁ってならない?」

子どもたちには目をつぶってもらって、想像するための条件を話していくと、だんだん眉間に皺が寄っていくんですよね。

——解説ではなく、自分ごとと捉えて想像できるよう促すのですね。

この「妄想ワーク」は好評です。ほかにもヘテロカップルのデートシーンを想像してもらって、パートナーの女の子が生理2日目だったらどのデートプランを選ぶかという問いで、4つほど候補を提示するのですが、テーマパークを選ぶ男子もいて。「彼女の気分が上がるだろう」と、親切心で選んでいるんですよね。

「絶え間なく下っ腹や腰が痛くて血が出続けて、おしっこみたいに意識的に止めることはできないんだよ」って話をすると、考え直して「テーマパークはないわ」って答えが出てきます。

妊娠についても想像で妊娠してみるとか、Netflixで配信された『ヒヤマケンタロウの妊娠』について語るとかで、具体的に考えることは可能だと思います。

この方法で中高生は考え方が変わるのですが、大学生以上になると響かない事が多いと感じています。だから中学生の時点で、妊娠も出産も育児も伝える必要があると思っています。

——性教育において、日本のどういうところを変えたいですか。

日本の性教育は世界から大きく遅れていると言われています。熱心に取り組んでいるところでも「知ってる大人が教えてあげる」という教え込み型が多いと感じます。私自身もそうしてしまっていて反省ばかりなのですが、性に関することは唯一無二の正解があって、誰かがそれを教えるというものではなく、正解はいくつもあって、置かれた状況やタイミングによって違うと思っています。

なので語り合いながら学び合うこと、「今はこうする」という選択ができる力を持つこと、そのためにはまず、仲間と対話することが大切だと思うんです。授業の時間では足りないと言われてしまいそうですが、授業以外でも語り合いができて、そこから学び取っていくような時間が持てたらと思います。本書がその「対話」のきっかけになれたら嬉しいです。

『10代のための性の世界の歩き方』(時事通信社、漫画:イゴカオリ作)の表紙
『10代のための性の世界の歩き方』(時事通信社、漫画:イゴカオリ作)

【プロフィール】
櫻井裕子(さくらい・ゆうこ)

助産師/さくらい助産院開業。自身の妊娠・出産を機に助産師を目指す。大学病院産科や産婦人科医院などでキャリアを積み、現在、地域母子保健事業、看護専門学校非常勤講師を務めると共に、小中高大学生&保護者に性に関する講演を年間100回以上行っている。また、思春期の子どもたちからの対面、電話、DM相談も多数受けている。

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雪代すみれ

雪代すみれ

フリーライター。企画・取材・執筆をしています。関心のあるジャンルは、ジェンダー/フェミニズム/女性のキャリアなど。趣味はヘルシオホットクックでの自炊。



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