包茎って何?なぜ男性は恥ずかしがっているの?赤ちゃんもむいたほうがいい?泌尿器科医に聞いた

 包茎って何?なぜ男性は恥ずかしがっているの?赤ちゃんもむいたほうがいい?泌尿器科医に聞いた
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「むく?むかない?」問題や、男の子の身体のこと、乳幼児期のおちんちんケアなど、男の子を育てる保護者はわからないことがたくさんあると思います。その悩みの解消の助けとなってくれる本が、2児の母親で泌尿器科医の岡田百合香さんが書いた『泌尿器科医ママが伝えたい おちんちんの教科書 0才からの正しいお手入れと性の話』(誠文堂新光社)です。後編では、性教育の夫婦間ギャップを埋めるためのヒントや、包茎に関する「恥」の価値観について聞きました。

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夫との性教育への意識のギャップを埋めるには?

——父親の無関心問題に触れていましたが、性教育における夫婦間ギャップの悩みはよく聞きます。男の子の体のことは、なおさら父親に当事者意識を持ってほしいですが、ギャップを埋めるコツなどはありますか。

関心のない父親に対し、最初から母親と同じレベルになってもらおうとするのは非常に難しいです。女性の方が性暴力や性差別の被害者になることが多いので、人生における性教育の身近さや切実さに男女間でギャップが生まれる傾向があると考えています。

性教育に限らず、自分が関心のないことや、必要性を感じていないことに時間やエネルギーを割いてもらうのは至難の業。まずは子どもに伝えたい内容を夫にも同じレベルから伝えるところから始めるのはいかがでしょうか。

わが家は、子ども向けの性教育絵本(プライベートゾーンやジェンダー、同意の話など)がたくさん置いてあるのですが、夫に読み聞かせしてもらう方法が割と成功したような気がしています。

ちなみに本書は大人向けですが、お母さんが買って夫婦で読んだとか、祖母世代の方から「男児の出産祝いの定番にしたい」とのコメントをいただきました。白岩玄さんとの対談も好評で、父親目線で性教育について語る言葉にはなかなか出会えないので、ご参考にしていただけたら嬉しいです。

——父親も子育ての当事者なので、教えなければいけないことにモヤモヤするという声を聞くこともあります。

いきなり指導者側になることを期待するのは、パートナーが最初から性教育に関心が高いとかでなければ、非現実的だと思うんです。モチベーションが低い人を先生レベルにしようとするのはお互いに負担なので、最初は生徒として、入口に立ってもらうという考え方をしたら、私は気が楽になりました。

最近良い変化が見られたこともありました。子どもからすると、きっと男性器は体の前に飛び出していておもしろい臓器なんですよね。夫が一歳の娘をお風呂に入れるとき、娘が興味をもって夫の性器を触ろうとするそうです。そうしたら先日、「こういうときって性教育的にはどうやって声をかけるのがいいかな」と夫が言い出しまして。自分も子どもにプライベートゾーンを伝える側だという意識が芽生えてきたのかなと感じました。

——性教育の本以外にもおすすめの方法はありますか。

一緒にでかけることが多い夫婦であれば、性教育系の講演会や映画を見に行くのもよいですね。あとは妻に言われてもやらないけれども、パパ友に言われると関心を持つという男性も多いと聞きます。パパサークルの中には、性教育に関心を持っている父親も少なからずいるんです。

先日、NPO法人ファザーリング・ジャパンの方が私の講演会に来て下さり、少しお話しました。父親の中でも「娘の生理とどう向き合ったらいいか悩む」「何歳までお風呂に一緒に入っていいのか」といった話題について話すことがよくあるとか。自分ごととして知りたがっているお父さんたちは多いという話を聞きました。

子育ての第一責任者が母親という認識が社会全体にも強く残っていることもあり、家にいると「ママがやるだろう」と思いがち。でも男性だけで集まると、自分よりも主体的に関わっている男性を意識して、「自分の仕事」化できるかもしれません。

わが家では料理は夫が担当することが多いのですが、そのきっかけは「パパのための離乳食講座」に参加したことです。父親だけで離乳食を作ったり食事に関する勉強をしたことで「パパがやることなんだ」という意識が芽生えたみたいです。それ以来、料理はすごく主体的にやるようになったので、父親コミュニティに入るのは効果的な気がします。

「恥」の意識を変えるためには性教育を

——包茎を恥ずかしいと思っている男性と、気にしていない女性のギャップが大きいことが印象的でした。私が女性として生きてきた中では、そもそも包茎が何か知らない女性も少なくない気がします。

おっしゃる通りで、「包茎とは何か」を知らない女性は多いです。講座で包茎についてクイズを出したり、質問をしたりしても、多くの女性(保護者)は包茎についての知識がほとんどありません。

そして、実は男性も包茎の定義や、医学的に問題がある状態か否か、よくわかっていない人も少なくないのです。全く問題ない状態なのに、医療者ではない男性の知人に「それは異常だ」「病院に行った方がいい」と言われて不安になり、受診される方もいます。

——男性側の意識で印象的なことはありますか。

女性の目を意識しているように見えて、男性の閉じたコミュニティ内でのマウンティングに利用されている面も大きいというのが私の印象です。基本的なことを学ぶ機会がないまま、美容広告やバラエティ番組など、誤った情報に触れて、恥の感覚を植えつけられていると思います。

男性たちも「大人になればわかる」「そのうちわかる」という感じで、性や性器に関する知識を教わる機会がないまま大人になります。男性が自分の身体をケアの視点で興味を持つことが“男らしくない”といったバイアスもあるかもしれません。それもあってずっとループのように維持されているのが「恥」の価値観ですよね。

お母さんでも包茎について「どのような状態なのか」「何が問題なのか」に関する知識がほとんどないにもかかわらず、男性に植えつけられている恥の感覚だけは共有されていて、「包茎だと恥ずかしいって聞きました」「いじめられるらしいですね」とおっしゃる方もいました。

女性は、男性が思うような価値観を持っていなかったとしても、それを表明するのは困難です。「私は包茎とか気にならないよ」という発言は、性体験があることを表明することにも繋がり、「性経験が少ない方が女性は魅力的」という価値観のある社会においては、ハードルとなってしまいます。

——恥の意識をなくすためにどのようなことが必要だと思いますか。

一つは「メディアリテラシーを高めること」が挙げられます。問題の根っこは男性に限ったものではなく、女性にも共通するものかもしれません。例えば、「男性は胸が大きい女性が好き」「足が細い女性が好き」と思い込み、不必要な手術や無茶なダイエットをするようなこともありますよね。「異性に嫌われる」という脅し文句は、コンプレックス産業の常套句です。

メディアで「優」とされているもの(巨根、露茎、巨乳、細い脚、美白)や、「恥」とされているもの(肥満、ムダ毛、薄毛、包茎、小さな胸、シミ、シワ)は、誰かが商業的な目的のために作った価値観ではないか。また、人にコンプレックスを植え付けて、お金を搾取することで、誰かが得をするようなシステムに組み込まれようとしているのではないか。そのように考えられれば、「恥」を植え付けられ、コンプレックス産業に取り込まれるリスクを低減できます。

既存の「恥」の価値観を子ども世代に引き継がないことも重要です。そのためにはやはり性教育が鍵ですね。性別問わず、性器の仕組みやケア、また悩んだ時の信頼できる相談先、情報収集手段、コンプレックス産業との向き合い方など、年齢に応じて家庭+学校+αで教育していくのが理想だと思います。

——既に恥の意識を持ってしまっている大人は変わることができるでしょうか。

父親の立場になってから、「自分は若い頃にこういう価値観によって傷ついたり、他人を傷つけたりしたけれども、子どもに伝えるにあたってこれでいいのかな」と立ち止まっている人もいます。

長年自分が信じてきた価値観を変えることは誰にとっても難しいものです。特に、その価値観により「利益」「得」を手にしてきた人は変える必要を感じないでしょう。

そんな中でも、親になるタイミングは一つのチャンスだと思います。「子どもが理不尽に傷つけられたり、生きづらさを感じるような社会にはしたくない」という思いがあれば、知識をアップデートし、既存の「恥」の価値観を変えていくことができると信じています。

『泌尿器科医ママが伝えたい おちんちんの教科書: 0才からの正しいお手入れと性の話』(誠文堂新光社)の書影
『泌尿器科医ママが伝えたい おちんちんの教科書 0才からの正しいお手入れと性の話』(誠文堂新光社)
表紙
「“おちんちん”と書かれた本を手に取るのは勇気がいる…」「部屋に置いておくのもちょっと…」というケースを想定して、カバーを外せばガラリと雰囲気が変わる仕様に。
イラスト/はるな檸檬 『泌尿器科医ママが伝えたい おちんちんの教科書』(誠文堂新光社)より

【プロフィール】
岡田百合香(おかだ・ゆりか)

愛知県在住。1990年岐阜県生まれ。2014年岐阜大学医学部卒業。愛知県内の総合病院泌尿器科に勤務する傍ら、助産院や子育て支援センターで乳幼児の保護者を対象にした「おちんちん講座」や「トイレトレーニング講座」、思春期の学生向けの性に関する授業などを行っている。WEBサイト「たまひよ」では「ママ泌尿器科医のお母さんのためのおちんちん講座」を連載中。5才男児と1才女児の母。
 

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雪代すみれ

雪代すみれ

フリーライター。企画・取材・執筆をしています。関心のあるジャンルは、ジェンダー/フェミニズム/女性のキャリアなど。趣味はヘルシオホットクックでの自炊。



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