「おちんちんもおしっこも汚くない!」2児の母親である泌尿器科に聞く【男児の身体の変化とケア方法】

 「おちんちんもおしっこも汚くない!」2児の母親である泌尿器科に聞く【男児の身体の変化とケア方法】
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「男の子の身体のことはよく知らない」——そう思うお母さんは多いと思います。教えてもらう機会がないに等しかったのですから、仕方ないですよね。とはいえ、男の子が生まれたら直面する問題。悩んでいる人も少なくないと思います。2児の母親で泌尿器科医である岡田百合香さんが書いた本『泌尿器科医ママが伝えたい おちんちんの教科書 0才からの正しいお手入れと性の話』(誠文堂新光社)では、「むく?むかない?」問題から、乳幼児期に多い性器トラブル、トイレトレーニングなど、保護者が知りたい情報が詰まっています。岡田先生に話を伺いました。

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男の子の身体について学ぶ機会がないまま親になる

——もともと泌尿器科医として男の子の性器のしくみやケアの基本を伝える「おちんちん講座」を開催していたとのことですが、参加者の方からの反響は大きかったのでしょうか。

そうですね、予想外に大きな反響がありました。講座を開催することになったのは私が産後にお世話になった助産師さんに声をかけていただいたことがきっかけでした。

「助産院を利用する男の子のお母さんたちから、男児の性器ケアについてよく相談を受けるんだよね」と言われたのですが、医学部の授業や病院の研修でも「幼い男の子に特別な性器のケアが必要」というような話は聞いていなかったので、「みんな何に困っているんだろう?」とピンときていませんでした。

最初は手探り状態で始めたのですが、実際に講座でお悩みを聞いているうちに、「これはものすごく重要な問題だ」と感じるようになりました。多くの女性は男性器について正確な知識や情報を得る機会はほとんどないまま大人になります。それなのに男の子を産んだ途端正しいケアや判断を求められます。不安やプレッシャーを感じて当然ですよね。性知識を学ぶ機会の少なさや、子育ての責任が母親に大きく偏っている社会の問題がかかわっていると気付きました。

講座で1時間程度、男性器の基礎知識やケアの方法、知っておきたい病気などをお伝えしたところ、「目から鱗が落ちまくりでした!知れてよかったです」「帰ったら夫にも教えたいです」など大変喜んでもらい、男の子の性器ケアの情報が必要とされていることを痛感しました。

——岡田先生は男性器について、実際に子育てしてみてからわかったことや、ギャップはありましたか。

医学の勉強では、治療の必要性や病院へ行くべきかなど、あくまで「病気かどうか、正常か異常か」を習います。でも実際に育児をしてみると、悩むポイントは病気かどうかの軸だけでなく、この子にとって良いことなのか悪いことなのか、教科書には載っていないことが気になるというのを実感しました。

むく・むかない問題も、本書では「乳幼児期に無理にむく必要はない」と書いていますが、このテーマについて研究し発信する医師はそれほど多くなく、医学書でもほとんど言及されていません。一方、インターネットで調べると「むくべき」「むくべきではない」のどちらの情報も出てきます。ママ友との雑談や育児相談の場でも、離乳食やスキンケアなどの悩みと比べると相談のハードルが高く、多くの母親が不安になる気持ちがとてもよく理解できるようになりました。

ギャップという点では、泌尿器科は圧倒的に男性医師が多いので、包皮をむく・むかないという議論でも子育ての視点が抜け落ちていると感じていました。

ただでさえ大変で忙しい育児の中で、「むく」というタスクを追加することは保護者にとって大きな負担になります。しかもむき方を習っているわけでもなく、いきなりデリケートな我が子の包皮をむくのってハードルが高いですし、困ったときの相談先もわからない。そんなふうに育児の現場が置いてけぼりにされた状態で今まで議論されてきた領域だからこそ、「専門知識+育児の現場」を合わせた視点での私のお話が、多くの母親のニーズにマッチしたのかなと思っています。

包皮
イラスト/こしいみほ 『泌尿器科医ママが伝えたい おちんちんの教科書』(誠文堂新光社)より

「汚い」ってどういう意味の「汚い」?

——本書では「おしっこもおちんちんも汚くなんかない!」と書かれています。性別関係なく、性器付近は小さい頃に「汚いから触っちゃダメ」と言われたことのある人も少なくないでしょうし、私自身は男性器に対して、性暴力とつながったイメージから「汚い」という印象があることに気づきました。子どもに呪いをかけないようにしたほうがいいと思うものの、染み付いてしまったイメージはどう変えていけばいいのでしょうか。

まず「汚い」という言葉を再定義してみるのはどうでしょうか。汚いという言葉には以下の2つの意味があると思います。

A:「細菌やウイルスが付着し、健康を害する」という危険で実害を伴う「汚い」

B:「なんとなくさわりたくない感じ」という感覚的な「汚い」

Aのように、実際におちんちんの先端や尿は感染症を媒介するような危険な場所だと感じている方には、そうではないことを説明します。健康な人の尿や精液は無菌なので、唾液や血液の方がずっと汚いということをお伝えすると、「知らなかった~!」と驚かれる方は多いです。

子育て中ですと、オムツ交換中におしっこがついたり、トイレを失敗しちゃったりすることもあると思うのですが、おしっこが汚いと思っていると、子どもの排泄ケアが結構ストレスになってしまうと思うんですね。確かに大人になると、膀胱炎など、おしっこにばい菌がついている方もいるので、全員が無菌とは言えないのですが、少なくとも健康な子どものおしっこには、ばい菌はいません。だから子どものおしっこは、Aの意味で汚くないということを知っておくだけでも、子どものお世話のストレスが軽減される方もいらっしゃるのではないかと思います。

Bは難しいですよね。男性器が男性の「性」の象徴として扱われる場合、男性の暴力性や加害性と結びついてしまう面は確かにあるでしょう。「汚い」という言葉やイメージの背景、原体験や考え方は人それぞれです。「なんか汚いよね」と話すと、なんとなく「そうだよね」で話が終わってしまうことが多いと思うのですが、なぜ汚いと思うかを掘り下げていくと、見えるものも変わってくるのかなと思います。

Bの意味では簡単にイメージを変えられない人もいるとは思うのですが、自分が汚いと思っていても、それを子どもに植え付けるのは問題です。子どもは親から「汚いでしょ」って言われたら、受け入れるしかなくなっちゃうので。子どもには性器に対して「汚い」「触ってはいけない」という言葉がけをしないよう、注意していく必要がありますね。

——子どものおちんちんに関して、何か気になることがある場合、泌尿器科に行けばいいのでしょうか。

性器や排尿に関するお悩みも、最初はかかりつけの小児科でかまいません。中高生くらいで、小児科の対象から外れる年齢の場合は、街のクリニックの泌尿器科へ行ってください。

ただし、最初から泌尿器科を受診してもらいたいのは「精巣(たまたま)の痛み」と「嵌頓(かんとん)包茎」です。これらは専門的な処置が必要となってきます。

特に精巣の痛みは緊急度が高いことが多いので、開業医に見てもらってから総合病院の紹介を受けるのだと時間がもったいないです。精巣の痛みの場合は、最初から手術のできる総合病院へ行くことをおすすめします。

ただ、総合病院でも泌尿器科は常勤の医師がいない場合もあるので、自宅から一番近くて、泌尿器科の手術に対応できる病院を、念のため事前に把握しておいた方がいいと思います。発症から受診までいかに迅速に対応できるかが鍵となるため、ぜひ最寄りの泌尿器科(手術もできるような施設)は把握しておきましょう。

『泌尿器科医ママが伝えたい おちんちんの教科書』(誠文堂新光社)の書影
『泌尿器科医ママが伝えたい おちんちんの教科書 0才からの正しいお手入れと性の話』(誠文堂新光社)


【プロフィール】
岡田百合香(おかだ・ゆりか)

愛知県在住。1990年岐阜県生まれ。2014年岐阜大学医学部卒業。愛知県内の総合病院泌尿器科に勤務する傍ら、助産院や子育て支援センターで乳幼児の保護者を対象にした「おちんちん講座」や「トイレトレーニング講座」、思春期の学生向けの性に関する授業などを行っている。WEBサイト「たまひよ」では「ママ泌尿器科医のお母さんのためのおちんちん講座」を連載中。5才男児と1才女児の母。
 

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雪代すみれ

雪代すみれ

フリーライター。企画・取材・執筆をしています。関心のあるジャンルは、ジェンダー/フェミニズム/女性のキャリアなど。趣味はヘルシオホットクックでの自炊。



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