21歳からレコードと音楽会社で奔走。蔦屋書店音楽フロアを支えた鈴木さんに学ぶ食べること生きること

ーー数年前、代官山 蔦屋書店3号館2階で勤務していた頃に鈴木さんをお見かけし、声をかけました。まずはそれまでのご勤務経験を聞かせてください。

鈴木修二郎さん（以下、鈴木さん）：進学校上がりで、10代は漠然と「レコードか車の修理がやりたいな」と思っていました。しかし高校を卒業後、新卒ですぐに就いた仕事は埼玉でのプロパンガスの配達業で、すぐ退職願を出しました。

21歳の時、新聞の求人欄でレコード会社(株)ディスクユニオンの仕事を見つけ、入社しました。最初にクラシックを1年担当した後、ジャズを担当して。ちょうど外資系の音楽会社のタワーレコードやHMVが流行りだした時で、20年間ほど在籍していました。

40歳の時に、ヘッドハントで声がかかってヴァージン・レコード(英ヴァージン・グループ)に行きました。1991年か92年ですね。それから単身赴任したり、各地を転々とした生活が始まりました。

ちょっと振り返ると、ヴァージンは丸井と合弁でヴァージンメガストアーズジャパン（以降、VM社）に。その10年後くらいに、バブルが弾けそうになった時、カルチュア・コンビニエンス・クラブ（以降CCC）が、VM社の株式を取得することになりました。

だいぶ端折りましたが、2005年にCCCが（ヴァージンの）親会社になったので、私がああして蔦屋書店にいたんですよ。自分の意志というより、M＆Aがあってね。

ーー本当に音楽を中心に本業に奔走されてきたのだなと思いました。社会の変遷や企業情報まで知らないと若い世代にはなかなか難しいかも知れないですね。私も初めて聞いた情報ばかりでした。

鈴木さん：ヴァージン・レコードのあとは、59歳ぐらいまで音楽・映像ソフトを販売する「すみや」で店長を務めていましたね。その時、2010年だったんですが、2011年の代官山 蔦屋書店オープンの話があって「定年になったらうち（蔦屋書店）に来ないか」と言われました。

代官山の前にも1件か2件、お店をやって、店長業は静岡が最後の勤務地になりました。

ーーそうして、私があの場所で出会うことができたんですね。代官山 蔦屋書店のコンセプトである『大人のための文化の牙城』というムードを映し出す音楽の有識者という印象を受けました。

鈴木さん：居心地良さそうに見えて、中身は「商売の頭」だったんです。
例えばね、フロアにかかっているBGMが自分でかけたものじゃないと、お客さんに「今、何がかかっているんですか」と聞かれても、すぐに答えられなくて。そういう時は「仕事頭」で、音楽が好きな素の自分ではなかったんでしょうね。

ーー私から見てですが、一途に音楽がお好きで、音楽業界に奔走してきた長い道のりがあったからこそ「音楽フロアの修さん」になれたのではないでしょうか。

鈴木さん：そうなのかな。繰り返す勤務、勤務の毎日を送っていたら、ふと「休日にレコード探しをする人生もいいな」とぼんやり思っていました。そうしたら、62歳の時。人間ドックで食道がんが見つかりました。ステージ３でした。お酒が原因でした。だけど、そこで「悲しいな」とは思わなかった。酒を減らそうと思った時点で「これで健康にいい食生活を楽しめる」と前向きでした。

勤務条件は変わりましたが、入院して戻ってきても、しばらくあの代官山 蔦屋書店3号館2階の音楽フロアで働いていましたよ。