「人生変わった」IgA血管炎発症を機に美容師・中山日菜乃さんが自ら拓く仕事の「当たり前」
東京表参道のヴィーガンヘアサロン「Whyte」のスタイリスト中山日菜乃さん、24歳。2023年7月、突然の全身不調発症で救急搬送され、診断されたのは「IgA血管炎」。約3週間の入院治療を経て、今も副作用と向き合いながらサロンワークに従事しています。デジタルネイティブ時代の休み方を考えるインタビュー企画 #私たちの自由な選択 。サロンでの仕事やSNSを使う日々に復帰した日菜乃さんの心境に迫りました。
ーーこの夏、インスタグラムで突然の休養の報告にびっくりしました。日菜乃さんの投稿で「IgA血管炎」という病名に初めてふれたので、これをきっかけに調べました。退院から1か月経って、やっと冷静に振り返れている頃と思いますが、発病当初、どんな症状が出て、どんな心境だったのか、改めて教えてもらえますか。
日菜乃さん:まず、足に紫斑(紫色に見える皮膚内の出血)が急に出始めて、なんだこれはとびっくりしました。でもそのまま仕事に行かざるを得なくて。次に、筋肉の炎症で歩けなくなってしまい、とうとう救急車で運ばれました。搬送されたのが土曜日だったのを覚えています。既に先々の予約も入っていたサロンワークを急遽お休みすることになり、インスタで報告したのですが、それから約3週間入院していました。「IgA血管炎」(※) は子どもの発病率が高いんですが、子どもと大人では症状が違い、人によって症状が異なります。私の場合、関節痛やむくみもすごく、とにかく痛くて、辛かった。初めは脚の症状だけでしたが、腸がやられて「腸炎」にもなっていることが判明しました。
※参考:IgA血管炎は主に小型の血管を侵す血管炎である。小児に最も多く生じる。一般的な症状としては,触知可能な紫斑,関節痛,消化管の症候,糸球体腎炎などがある。 通常,小児では自然治癒し,成人では慢性化する。<MSDマニュアル プロフェッショナル版 >
ーー絶対安静に加え、1週間ほども断食による治療が必要になったと伺い、入院初期は本当に辛そうでした。「血管炎」という病名と、食べられない状態にすることの関連が、SNSからは直感的に見いだせなかったのですが。
日菜乃さん:そうですよね。とにかく、お腹も痛くて痛くて。このままご飯を食べ続けると、腸に穴が開くと言われて、禁食が始まりました。禁食期間、空腹感を紛らわしながら時間を過ごすのも辛かったですが、医師からは、このままだと悪化して「腸炎」だけでなく「腎炎」にもなって難病指定になってしまうと言われ、本格的に治療を開始しました。
職場やスマホから離れて行き着いた 「サロンワークを自分に合わせる」働き方シフト
ーー入院中、これからの仕事については、どんなことを考えていたんですか。
日菜乃さん:入院中は、症状が酷く、ひたすら病気のことばかり考えていましたが、症状が少し落ち着いてきた時に、先生や看護師さんと、今後も美容師という仕事が出来るのか、どうしていけばいいのかなど相談させてもらう機会がありました。
入院中から今のサロン(whyte)のスタッフが優しい連絡をくれるなど、病気に理解があったので「美容師やめなくてはいけないのかな」という不安はなかったです。
その中で、続けていけるという確信が持てました。
ーーサロンの皆さんのサポート体制や復帰後もプレッシャーにならない環境があって良かったですね。発病する前と後で、ご自身の働く意識はどう変わりましたか。
日菜乃さん:これまでは自分よりお客様が優先で、自分の無理をおして対応するのが当たり前。でも今は「あ、これ以上いったらやばいな」という感覚がわかるようになって、自分の心や体調との向き合い方が変わりましたね。もちろん今も変わらず接客業なので同じなのですが。今までは食事とる時間もない、トイレに行く時間もない、朝の8時から夜まで座らない生活が当たり前、という感じで自分を二の次にしていました。
ーーお客様側の私も、美容師さんにお世話になる度に、どこか察することができるものです。でも、それがサロンワークの「当たり前」になってしまうことには、やるせなさを感じます。病後のお休みの取り方はどうなりましたか。
サロンワークのタイムスケジュールもあって、前はやむを得ず「1日1食」しかとっていないこともあったんです。それが今は「治療のために食事をとっている」という意識に、自分の体のために変えました。
あとは体の面で、これは個人的な部分なのですが、まだ治療が続いていて、病気の症状よりも薬の副作用が辛いんです。例えば1日2~3時間しか眠れず、仕事に行くこともあります。以前より心が不安定になる日も増え、正直、今も辛いですが、自分だけが向き合える心と体の現実とも向き合いながら、仕事を続ける感じになりました。
もちろん、サロンワーク自体はとてもやりがいがあり、喜びを感じる毎日です!
<インスタグラムより>
「SNSも仕事の一部」という時代の20代。 しんどくなった時、しんどいと言う勇気を
ーーデジタル社会ならではの生きづらさは、お互いに共通していると思います。私は同世代や下の世代で「休み下手」な子もいると思っているのですが、こういう経験をした日菜乃さんだからこそできる、アドバイスやメッセージをいただけないでしょうか。
日菜乃さん:私、入院で「人生変わった」と思ってるんです。職業柄、SNSを使いこなす生活がベースで「やらなきゃ」という思いは、正直、今もあるとは思います。でも入院中、特に初期、持て余した時間でずっと本を読んでいたりして、ある程度スマホから離れたことで「今までは常にSNSにへばりついていたな」と思い直すきかっけになりました。自分は情報に左右されやすいタイプを自覚しているので、やっぱりそんなふうに(スマホやSNSに)へばりついた状態だと「誰かがこうしているから、自分もこうしなくちゃ」と知らず知らず思い込まされているのではないかと思います。
「igA血管炎」の発病は、お医者さんからは原因不明と言われましたが、自分ではそれまでのストレスや疲れが溜まった結果も要因だったと思っているんですよね。実は発症前も体調が悪かったこともあったんですが、やっぱり休めなくて。病気になったことを経て、自分の意志で「こうしたい」と思ったり正直に言えるようになり、周りに流されなくなる感覚をつかんだような気がします。しんどい時はその時、しんどいと言えないとダメだなと思いましたし、実際今は言えるようになりました。自分の体と向き合うことと、その時々で、周りに助けを求めること。これが大事じゃないかなと思います。
取材後記
日菜乃さんが自ら変えた働き方・休み方、今も向き合い続ける体調との付き合い方。身近で接する同業の方や家族も、SNSでつながる隣人に親身に迫ることは難しい、プライベートな課題です。そのリアルに迫り、伝えることで、サロンで働く同業者の方も食事や睡眠、休養の取り方を見つめ直す一助となればと考えました。
一緒に働く人や家族に自分の行動で働き方・休み方の見本を示していくことは、筆者も今まさに実践中です。
中山日菜乃さんプロフィール
1999年生まれ。日本美容専門学校卒業。2019年より東京・原宿のヴィーガンヘアサロン「whyte」で勤務し、2021年スタイリストデビュー。オーガニックのパーマ剤などを使ったパーマスタイルを得意とするヘアデザイナー。Instagram: @whyte_hinano
*新規予約はサロンのWEBサイト、または日菜乃さんのインスタグラムDMから。
AUTHOR
腰塚安菜
慶應義塾大学法学部政治学科卒業。学生時代から一般社団法人 ソーシャルプロダクツ普及推進協会で「ソーシャルプロダクツ・アワード」審査員を6年間務めた。 2016年よりSDGs、ESD、教育、文化多様性などをテーマにメディアに寄稿。2018年に気候変動に関する国際会議COP24を現地取材。 2021年以降はアフターコロナの健康や働き方、生活をテーマとした執筆に転向。次の海外取材復活を夢に、地域文化や韓国語・フランス語を学習中。コロナ後から少しずつ始めたヨガ歴は約3年。
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