「働き盛りの落とし穴は更年期症状だった」村井理子さんが語る更年期の対処法とは
心と体が大きく変化する”更年期”。年齢とともに生じる変化の波に乗りながら生き生きと歩みを進める女性たちにお話しいただくインタビュー企画「OVER50-降っても晴れても機嫌よく」。第5弾は、翻訳家・エッセイストの村井理子さんにお話を伺いました。前・後編に分けてお届けします。
翻訳家・エッセイストとしてご活躍の村井理子さん。翻訳家としてはノンフィクションの名作を翻訳し、エッセイストとしては家族やご自身について率直に語り、深刻な話題もユーモアを交えて、するすると読ませてくれます。著書『更年期障害だと思ってたら重病だった話』では、更年期に体験した病気のことを語られ、今まさに更年期症状と向き合っている村井さんに、更年期を生きる今についてお話を伺いました。
働き盛りの落とし穴は更年期症状だった
ーー村井さんは翻訳者・エッセイストとしてご活躍されながら、私生活では高校生の双子のお子さんがいらっしゃり、家事を担いながら介護もされているんですよね。とにかくお忙しいイメージがあります。どのように時間のやりくりをされているんですか?
村井理子さん(以下、村井さん):私、細かく動くタイプというか、3分とかを無駄にしないタイプなんですよ。カップヌードルができるまで3分待ってる間ってけっこう長いじゃないですか。そこで何か一つ二つできるんですよね。だから3分くらい時間があると、前倒ししてやってしまうことが多いです。
ーー隙間時間も無駄にしないんですね。
村井さん:そうですね。もうゲーム感覚で詰め込んでいます。ちょっと時間が空いたら何かしらやっておくんですよ。仕事は完全に9時から17時までと決めていて、よほど急ぎの原稿がない限りは夜まではやらないです。特に翻訳は、9時から17時までやったらもう終わる頃にはヨレヨレ。だから、9時から17時以外の時間に他のことをやっている感じです。
ーーあまりにもご多忙で、いったいいつ寝ていらっしゃるのか不思議に思っていました。
村井さん:めちゃくちゃ寝ていますよ。介護はそこまで時間が遅くはならないんです。今はデイサービスに行ってくれているので、わたしがするのは病院の送迎ぐらい。だから、今はむしろ介護の資金を稼ぐことの方が大事なんですよ。お金を稼ぐことで、物事が上手に動くことを実感してます。自分ができないところはサービスに任せる。割り切ることで私はすごく楽になりましたね。
ーー介護って、関係性が近いので全てやろうとするとストレスになりそうです。
村井さん:そうですね。それっていろんなことにも言えるんですよ。例えばお掃除も、私は自分で何か必死になってやるよりは、がんばって稼ぐからプロにお願いしたいっていうタイプなんですよ。
ーー今は稼ぐ時期なんですね。
村井さん:そうです。40代50代ってめちゃくちゃ働ける時期なんですよね。自分の中の積み上げられてきた知識が、ドーンと分厚くなってきて、ピークに差し掛かる時期なんですよね。だから、今は稼ぐ時期。ただ、落とし穴があって、更年期症状が出たんですよね。
ーー働き盛りの落とし穴は更年期症状だったんですね。
村井さん:私が想像していた更年期と実際の更年期との間にはちょっと開きがあって、私は体の症状というよりもメンタルに現れて。メンタルが落ちてしまったんです。私はメンタルが落ちると文章が書けないんですよね。メンタルが落ちて、頭の中は空っぽといっていいほどになって、いよいよ文章が書けないってなったときに、これはまずいと思ったんです。
かかりつけ医に相談して驚くほど改善された更年期症状
ーーメンタルが落ちると集中力も失われ、お仕事に影響がありそうです。
村井さん:そうなんですよ。しかも、更年期と子どもの思春期と重なったものだからもう大変。子どもに腹が立ってるのか、やたらに腹を立てているのかも自分でもよくわからなくなって。自分の中に強烈な怒りや不幸な気分があって、消えたいぐらいまでは思うんですよ。
それで、「これはまずい、何か違うぞ。ただの落ち込みではないな」と思って、不眠症で通っているメンタルクリニックの先生に話したんです。「先生最近すごい落ち込むときがある」とか色々話してみたら、「君の場合、年齢的に更年期症状も考えた方がいいんじゃないかな」って言われたんです。またこの先生がおじいちゃん先生なんですよ。年下の男性の先生とかに言われるより、おじいちゃん先生に言われることで「そうですよね」って素直に受け入れられたんです。それで、先生が何種類か薬を処方してくれて飲み始めました。それが2ヶ月くらい前で、てきめんに効いたんですよね。気分の落ち込みが治って。「これがホルモンかー!」と驚きました。早く薬を飲めばよかったと思いましたね。
ーーそんなにも変化があるとは驚きです。
村井さん:もちろん1日で世界が変わったわけではないですが、じわじわと「あれ、なんか良くなってきたな」っていう感じです。2ヶ月くらい飲み続けてみて、今はかなり調子がいいです。
ーーそれは今更年期の不調に悩む方にとって希望となりますね。病院に行くハードルが高いという声もありますが、行ったほうがいいですね。
村井さん:そうそう。今翻訳している本にも書いてあるんですけど、女性って、痛みや苦しみを我慢するようにインプットされているんですよね。更年期だったら「更年期はみんなあるわよ」って言われるし、生理痛もピルの気持ち悪さもみんなそうだって言われるじゃないですか。だから更年期だからって病院に行こうとかホルモン剤を飲もうって、なかなか思えないんですよね。でも行ったほうがいいですよ。毎月の薬代だって、そんなにかからないですよ。なんだか肌荒れも治りましたよ。
ーーホルモンバランスが乱れている時って肌荒れもするからメンタルにもさらにダメージを受けますよね。
村井さん:急激にホルモンが出なくなるって、わけのわからない恐ろしさがあるんですよ。体調がとても悪くなるんです。でも、それが薬によって徐々に浮いてくるのがよくわかって、私は今ではすっかり更年期障害も乗り切れる気がしています。
ーーそれは本当によかったです。ちなみに、メンタル症状以外にも身体的な症状はありますか?
村井さん:だるさですね。朝から何もがんばれないくらいだるいんです。そんなことは今までなかったのに、体が重くて動かないから、今日は寝ていようかと思うくらい。眠いようなだるいような、とにかく身体が重いんです。
悩んで我慢するくらいならかかりつけ医に相談するという選択
ーー更年期症状が出ている中で思春期のお子さんと向き合う生活はいかがですか?お子さんの年齢が上がると共に親の手は離れて楽になるのでしょうか?
村井さん:それは違うんですよ。嬉しいこともいっぱい増えるんですけど、思春期の男子ふたりとやっていくのは大変です。もちろん同じくらい楽しいこともあるし、17歳にもなるとむこうから離れていくんですけどね。親というのは立ち去られる側ですから、密着した子育ての期間は意外と短いんですよね。ただ、おそらく死ぬまで子育ては終わらない。年齢と共にいろんな問題が出てくるので、今はまた違う大変さがあります。特にこの1年は非常に大変だったのですが、そんな時に更年期症状が出たわけです。大変な状況だったからこそ、医療に頼ろうとすぐに思えたのだと思います。
ーーお子さんのことでも大変な状況だと、不調を抱えている場合じゃないと思いそうです。
村井さん:「このままいくとまずい、この状況でこの不安感を抱えて過ごすのはちょっと無理だ」と思いました。それで先生に相談したら更年期の症状だと言われた時、意外なほどすんなり受け入れられたんですよね。
ーー通院の大切さを改めて感じます。更年期症状の相談は婦人科にも行かれていますか?
村井さん:メンタルクリニックだけです。メンタルクリニックでも薬を処方してくれたのでよかったです。婦人科に行くのってちょっと面倒くさいっていうのはありますよね。
ーー婦人科は検査もしんどいですよね。
村井さん:もちろん子宮頸がん検査などはやらないといけないんですけど、あの検査は慣れませんね。出産を経験してもね。女の人としては、大腸がん検診くらいの重みがありますよね。
ーー精神的なダメージとしてはそれくらいありますね。だから更年期症状を感じても婦人科に行くのを我慢してしまう人もいるんですよね。
村井さん:絶対に行ったほうがいいことは確かなんですけどね。
ーー症状を我慢せずに、婦人科に抵抗があればまずはかかりつけの病院で相談してみるのもいいかもしれませんね。
村井さん:そうそう、いいと思います。先生によってはそれなら婦人科に行きましょうとおっしゃるかもしれないですけど、悩んで我慢するくらいならまず相談しやすい先生に話してみたらいいですね。
*後編に続きます
AUTHOR
磯沙緒里
ヨガインストラクター。幼少期よりバレエやマラソンに親しみ、体を使うことに関心を寄せる。学生時代にヨガに出合い、会社員生活のかたわら、国内外でさまざまなヨガを学び、本格的にその世界へと導かれてインストラクターに。現在は、スタイルに捉われずにヨガを楽しんでもらえるよう、様々なシチュエーチョンやオンラインでのレッスンも行う。雑誌やウェブなどのヨガコンテンツ監修のほか、大規模ヨガイベントプロデュースも手がける。
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