「昔はできないということが許せなかった」50代の一田憲子さんが今思う、年齢を重ねてよかったこと

 「昔はできないということが許せなかった」50代の一田憲子さんが今思う、年齢を重ねてよかったこと
Naoki Kanuka(2iD)
磯沙緒里
磯沙緒里
2023-05-01

心と体が大きく変化することから「第二の思春期」とも言われている”更年期”。年齢とともに生じる変化の波に乗りながら生き生きと歩みを進める女性たちにお話しいただくインタビュー企画です。編集者の一田憲子さんへのインタビュー後編をお届けします。

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自分から動くことの大切さ

ーー更年期世代が働き続けていくために心がけたほうがいいことはありますか?

一田さん:歳を重ねていって何が不安って、自分が必要とされなくなることじゃないかと思います。仕事が段々と減っていったらどうしようと考えるのは、フリーランスだけじゃないはず。会社員でも優秀な人が上がってくるわけだしね。私は、仕事のオファーが来なくなったらどうしようかと不安に感じて、「外の音、内の香」というサイトを立ち上げたんです。人からオファーが来るのを待つばかりではなく、自ら舞台に上がることができる場を作ろうと考えました。

どうやってマネタイズするかは全くわからないまま、とにかく立ち上げました。マネタイズする方法がわかってから立ち上げようとすると、いつまでたっても立ち上げられないと思ったんですよね。だったらもう始めてみるしかないと思って。結果的には、サイトを見てくださった出版社から書籍化のお話をいただいたり、新たな依頼がきたりしています。あと、最近では「私を見つけて」プロジェクトっていう、お金をいただいてその方のために書くという広告コンテンツも始めて、ちょっとずつマネタイズしています。

あのサイトを始めたことで私の文章を読んでくれる人がめちゃくちゃ増えました。だから、仕事の不安を感じたら、とにかく自分から動いてみることは大切だと思います。私はいつもは慎重な方ですが、サイトに関しては見切り発車してみたんです。怖がりで不安がりなのですが、だからこそ動こうと思うんですよね。

相反する感情を同時に抱えながら進んでいく

ーーサイトの中で、今年の目標について「左右の手に違うものを握りながら進めるようになること」とお話しされていたのが印象的です。悲しみや不安に捉われ過ぎず、相反する感情を同時に持ちながら日常生活を送りたいけれど、負の感情に引っ張られがちな人は多いと思います。そんな時、一田さんはどうしていますか?

一田さん:私もまだまだ悲しみや不安に捉われがちです。この目標を書いたのは、去年入院した経験があったからです。入院して、この先どうなるかわからないけど、幸せになることを諦めるわけにはいかないと思ったんですよね。きっと、誰でもそれほどまでに追い詰められたら諦めないと思うんです。人っていつだって生きていかなければいけないから。

 

ーー入院中にはどんなことを考えていましたか?

一田さん:もしも検査結果が悪かったらどうしようとずっと考えていました。やっぱり不安感がすごくて。

ーーそこまでの不安感ってなかなかないですよね。その中でどのようにしてご自身を保っていましたか?

一田さん:前を向くことは難しくて、仕方ないよなと思うしかなかったという感じです。悲しいこともありながらも、それでも仕方ないと思う。両方の感情を抱えながら過ごしていました。

あとは、歳を重ねていくと、「大変なことを乗り越えたら大丈夫になる」っていう経験をしてきているじゃないですか。若い頃は、悲しいことがあったらもう全部おしまいだと思っていたんだけど、1度でも立ち上がった経験があれば、これを通り過ぎたら大丈夫だと思えるんですよね。

あと、落ち込んでいる最中に、「実は私、落ち込んでいるふりをしているだけなんじゃないか。大丈夫って思うのが怖いのかもしれない。」なんてことを考えて自分を客観視してみる。感情の表と裏が理解できるようになると、「こんなに落ち込んでいるけど、1週間経ったらきっと大丈夫になるから、今は悲しみに暮れておこう」と考えられるようになる。不安な時って、大丈夫だと思ったのにダメだったときの落差が怖いんです。また落ちるのは怖いから、あとはもう登るだけだと思っている方が気が楽なんです。だから、何をするわけではなく、ただ両方の感情を抱えて過ごしていました。

ーー確かに、20代の頃には負の感情に引っ張られていました。こういう時に客観視できる自分がいると、年齢を重ねてよかったと思えますね。

一田さん:そうですね。諦められるようになるんですよね。

理想ではなく自分なりのやり方を

ーー一田さんが年齢を重ねてよかったと感じることは他にもありますか?

一田さん:若い頃は、「理想の自分」がいました。例えば、「部屋を隅々まで綺麗にする自分じゃないといけない」と思っていました。取材に行くとすごく素敵な人に会うんですよね。あの人みたいになりたいと思って家に帰って真似してみるんだけど、全然続かない。それでやっぱり私はダメなんだって落ち込む。そんなことをずっと繰り返してきたんです。

でももう、素敵なあの人のようにはなれないんだってわかってくるんですよね。だったら私なりのやり方を見つけようと考えられるようになる。舐めるように完璧に掃除しなくてもいいから、とりあえず掃除機を持って家中を走るくらいの感覚で大雑把に掃除して、今日掃除機が届かなかったところがあっても明日やればいいかと思う。

掃除に関しても色々な方法を試しては挫折してきたので、自分のことがわかるようになるんですよね。水拭きだけだったら続けられるけど、その後に掃除機もかけると面倒になってきちゃうとか。だから、今日は掃除機、明日は水拭き、みたいな感じでできることを続けていく。

理想の私じゃなくてもいいし、私には私の方法があると思えるようになったのは年齢を重ねてよかったことですね。理想を追い求めなくても、自分ができることを足し算していけばいいんだと思えるようになりました。 

一田のりこ
Photo by Naoki Kanuka

 

ーー一田さんはいつも自分なりのやり方を模索しては暮らしを心地よく整えている印象があります。

一田さん:掃除も片付けも、今でも全然できていないこともあるんですよ。片付けも、何回も挫折してきていますしね。ソファに洗濯物が溜まっていることもしょっちゅう。笑

ーーこんなにも整ったご自宅にお住まいの一田さんでもそうなんですね。片付けが苦手なので、なんだか安心します。

一田さん:そうそう、だから、できないことがあったってしょうがないって思えるといいですよね。若い頃はできないということが許せない時がありましたけど、できなくてもいいかと思うようになる。 

ーーできなくてもいいかと思えると、無駄に足掻くことはしなくなりますか?

一田さん:足掻きは何歳になってもあると思います。その足掻きがないと、新しく生まれ変わることはできないですしね。ただ、足掻きながらも自分を知っているから、自分ができることをわかっている。そして、この足掻きは何かを学ぶためなんだと考えられるっていうのは歳を重ねたからこそかもしれないです。

両親が年老いてきて心配で、去年めちゃめちゃ足掻いたんです。でも、段々受け入れられるようになってきています。老いるってどういうことなのか、見せてもらっているんだと思うんですよね。

コツコツと書き続ける

ーー今後したいことはありますか?

一田さん:今の自宅には17年くらい住んでいます。だから引越しをしたいとは思っています。もうちょっと田舎に行ってもいいなと想像しています。自然に囲まれた暮らしもいいなと思いつつも、都内での仕事もあるし、どうやったら実現するのかはまだわからない状態です。海より山のほうがいいかなとは思っています。夫と山の方に遊びに行くこともあるので。二拠点生活にもちょっと興味がありますが、東京に家を残しながらというのはなかなか難しいかもしれませんね。まだ想像している段階です。 

ーーお仕事面ではしたいことはありますか?

仕事は先のことはわからないので、コツコツとその日発見したことを書き続けていければいいと思っています。今は幸いなことにお仕事の依頼をいただいていますが、それっていつかは途絶えるものだと思います。その時にどうなるか想像するとちょっと不安にもなるけれど、そうなってもサイトで何かしら書いているでしょうね。本を出す時も編集者と一緒に考えていくので、仕事に関しては大きな目標は決めないんです。ただ、自分のサイトで次はこんなコンテンツを立ち上げようとか、こんなライター塾をやろうとか、そういうことは考えています。

ライター塾を始めて

ーーライター塾は卒業生がたくさんいらっしゃるんですよね。ライター塾を始めたきっかけはありますか?

1冊丸ごと引き受ける仕事があったら、若い頃は全部自分で取材に行って書いていたんですけど、それだと何冊もできないから少しずつ若い人に仕事を振るようになりました。若い人に取材に行ってもらって帰ってきたものを添削して戻したら、すごいいい原稿になって返ってきたんですよね。「すごい勉強になりました」と言ってもらうこともあって。ライター塾をやるって偉そうだなと思っていたんですけど、こういうことの積み重ねだったらもしかしたらできるかもしれないと思えて始めました。今ではもう25期まで続いています。 

ーー何年続けられていますか?

4年目です。最初は自宅に集まってもらって開催していました。でもコロナで集まるのが難しくなってからはオンラインで続けています。自宅で開催していた時、北海道や九州など遠方から参加してくださる方もいらして。とっても大変ですよね。せっかく集まってくれたのなら、できるだけ楽しく過ごせるように色々な工夫をしてヘトヘトになりながらも開催していました。今ではオンラインで開催しているので私も参加する側も楽になりました。オンラインになってからは本当に様々な地域から参加してくださっています。

モヤモヤがあるから書きたいと思える

ーー多くの生徒さんと触れ合ってきて、よかったことはありますか?

卒業生はたくさんいますが、育てている感覚ともちょっと違うんですよね。生徒さんたちはそれぞれの生活を持っていて、その中から綴ってくれるので、それぞれのリアリティを聞かせてもらう場にもなっている。色々な年齢の方が集まるから、20代には20代の、40代には40代のモヤモヤがある。モヤモヤしていいんですよね。だからこそ書きたいと思うわけですから。

そして、ライター塾のためには、これまで自分が無意識に書いていたことをきちんと見つめ直す必要が出てきたんです。このことは、この仕事を続けていく上でいいきっかけになりましたし、すごくいい勉強にもなりました。ライター塾を始めたからこそ、書く力についての本が出せたと言えます。

ーーモヤモヤを抱えた時に、実際にはどのようにそのモヤモヤと付き合っていますか?

モヤモヤしたら、なんでモヤモヤしたのかをまず考えます。普段は深く考えずに過ごしていたとしても、モヤモヤがあるおかげで考えるフックになりますよね。考えてみたら、もしかしたら気付きが生まれるかもしれない。気づくためにはモヤモヤがあるといいんです。だから、モヤモヤがあったら、その正体に気づいていく過程を全て書きます。モヤモヤしていないと、私は文章を書けていないと思うんですよ。

ーーモヤモヤも無駄なものではないんですね。

そうですね。これからも、モヤモヤを見つめては、その都度ぽとりと落ちるものを待つようにして書いていくと思います。

お話を伺ったのは…一田憲子さん

一田憲子
photo by Naoki Kanuka

一般商社の会社員を経て編集プロダクションに転職後、フリーライターとして女性誌、単行本の執筆などを手がける。 2006年、企画から編集、執筆までを手がける「暮らしのおへそ」を2011年「大人になったら着たい服」を(共に主婦と生活社)立ち上げる。 そのほか、「天然生活」「暮らしのまんなか」などで執筆。 全国を飛び回り取材を行っている。近著に「明るい方へ舵を切る練習」(大和書房)がある。外の音、内の香運営。インスタグラム@noriichida 

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磯沙緒里

磯沙緒里

ヨガインストラクター。幼少期よりバレエやマラソンに親しみ、体を使うことに関心を寄せる。学生時代にヨガに出合い、会社員生活のかたわら、国内外でさまざまなヨガを学び、本格的にその世界へと導かれてインストラクターに。現在は、スタイルに捉われずにヨガを楽しんでもらえるよう、様々なシチュエーチョンやオンラインでのレッスンも行う。雑誌やウェブなどのヨガコンテンツ監修のほか、大規模ヨガイベントプロデュースも手がける。



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