「肉体の死を考え、やり残しがないか"点検"をした」服部みれいさんが考える、50歳からの人生
心と体が大きく変化する”更年期”。年齢とともに生じる変化の波に乗りながら生き生きと歩みを進める女性たちにお話しいただくインタビュー企画「OVER50-降っても晴れても機嫌よく」。第1弾は、文筆家・編集者の服部みれいさんにお話を伺いました。前後編に分けてお届けします。
移住をしてからのマインドの変化
ーーみれいさんがそのようなマインドに切り替わったのは移住されたことと関係がありますか?
みれいさん:移住するちょっと前から少しずつ変わってきてはいたけど、やっぱり移住してからゆっくりペースになりましたね。たとえば、田舎のお店って、大都市のお店に比べるとお客さんに合わせていないんでだ!ってはじめびっくりしたんです。閉まる時間がすごく早いし、みんな無理してなくて、だから日曜日はこの辺りのお店は休みが多い。自分の時間や家族との暮らしをもっとたいせつにしている気がします。うちの近所の美味しいカレーを提供するカフェの方は東京からの移住者なんですが、週に3日しか開かないんですよ。しかも昼だけの営業で、とてもゆったりしている。全体的にこういうムードの場に自分がいることは関係があるかもしれないです。
あとは、年齢による変化もあります。若い頃のように徹夜できなくなってきているし、それがいいなと思っているんです。この先も長くたのしく働き続けられるやり方を見つけようとしているところです。
ーー働き方を変えようと思われたのはいつ頃ですか?
みれいさん:40代が終わる頃ですね。2020年くらい。その頃から、将来的に「肉体の死が自分にもやってくること」を感じ始めました。死ぬ時にやりきったと思えるよう、後悔したくないなと思ったんです。ほとんどの人が「もっと好きなことをやればよかった」って思って死ぬというお話を聞いて。それはつまらないなと。「ああーよかった!いい人生だった」と思って笑って死にたい。だからやり残しがないか、点検をしました。50代って心身ともにまだまだ元気だからこそ、この10年で自分は何をするのかについて真剣に向き合いましたね。
もう一度人生が始まるという視点
ーー今後したいことをについてお話しいただけますか?
みれいさん:映画や映像作品を撮ってみたいですね。今までは本っていう媒体だったけど、メディアを変えて表現してみたいなと。音楽の活動も増やしたいし、物語も書いてみたい・・・と、こんな風に、本当に後悔がないようにしばらくは自分の気持ちを観察していました。
ーーみれいさんのこれからにワクワクしています。
みれいさん:他の人は50代にどう過ごしていたか調べてみると、たとえば五木寛之さんは50歳前後で2度目の休筆期間に入られ、大学の聴講生となり仏教を学ばれているんです。マヤ暦でいうと51歳で1回転で、52歳が還暦なんです。還暦って「0歳」なんですよね。52歳でもう1回あたらしい人生が始まるんだなと思ったら、さて、次の人生どうするかと考えると楽しくなってきて。年齢を重ねることに別の視点が加わったんです。
声を大にして言いたいことは、人間は進化し続けるということなんです。年を重ねるっていうと、肉体が衰えることばかり気になってしまう方もいらっしゃるかもしれないけど、精神など目に見えない部分、特に霊的な部分はここからどんどん成長し続けるんですよね。もちろんからだだって変わり続ける。私の読者で88歳の方がお手紙をくださったことがあって。私の本を読んでくださって冷え取りを始めたら、数ヶ月でものすごく体質が改善したって。いくつから始めても遅いことはないんですよね。
私の場合も、以前と比べてみると今の自分の方が寛容さがあるし、年齢とともに少しは成長しているかなと思える部分もあります。ピチピチな肌とかツヤツヤな髪とか、わかりやすいアンチエイジングを謳うコマーシャルがたくさんあるからそれこそが若いと思いがちだけど、精神の豊かさや瑞々しさ、霊的な成熟っていうのはこの年齢からこそ成長し続けられる。そんな視点を持っていることが、更年期という大きな変化の時を生きる基盤になると思っています。
ーーそう考えると、年齢を重ねることが楽しみでしかないですね。
みれいさん:そうなんです。さらにいうと、「魂は永遠である」という視点があるかないかなのかな、と。
例えば私はここ数年からピアノをもう1回始めました。ピアノは小さい頃からずっとやっていたんですが、今また再開して。もう子どもの頃みたいに物覚えは良くないけど、今からでも練習したら難解な曲を弾けるようになるかもしれない。それに、今練習したら来世に持っていけるかなって思っています。もうこれからは来世への視点も持ちつつ、です。もちろん、ピアノを練習したら来世でも上手に弾けるかというと、そんな単純なものじゃないとは思います。でも、そこで得た目に見えない何かは、次の自分に刻まれていくんだっていう視点があると、自分を励ますことができるのではないでしょうか。もちろんこの人生は1回きりだから、この今にフォーカスして今を精一杯たのしむということがいちばん大切だと思いますが。
本能を大切にして生きていく
ーー今、不安感や生きにくさを感じながら生きている現代人はとても多いです。そんな方々にとっても、みれいさんのお話からヒントをもらえそうですね。
みれいさん:不安感の根っこには、もしかしたら自然不足があるかもしれないですね。治癒って、「自然」が行うこと。人間はその手助けしかできないんです。それは医師でも整体師でもそうです。でも、都会に住んでいると特に、自然が物事を解決してくれるっていう実感をもちにくい。そこと不安感はどこか関係しているのではないでしょうか。
私の場合、今の生活には畑や田んぼがあります。口に入れるもの全てを自分たちでつくっているわけじゃないけど、いざとなったらどうにかなるという感覚があります。何もなくなってしまったらどうするのかという解決策を自分の手の中に持っているというのは強いですよね。
人間が土から離れた生活を始めたのは、ここ数百年のことだと思うんですよ。だから大都市でもね、全てのマンションが畑つきならいいなあと思います。銀座や渋谷でも田んぼがあったり。
あとは、食べ物って田舎から都心に届けられ、それを購入する仕組みですよね。今は経済の手段があるからそれでもなんとかなっているけど、このままでは危ういかもしれないって直感で感じているのと漠然とした不安感は関係あるのでは?でもね、身近なところに畑があって、水も食べ物もどうにかなるってわかっていたら、そんなに色々なことにしがみつかなくてもいい。最低限自分に本当に必要なものは何なのかを知っておくというか。そういう風にマインドがシフトできたら生きやすくなると思います。自然が身近にない状態で生きるって、人間にとって実は大変なことなんじゃないかと思います。
これはあくまで私の体感ですが、畑や田んぼがあるとわかっているだけでも安心感がすごいですし、土いじりをしていると菌が体内に入ってくるわけですが、その菌も安心感を作っていると思います。そこでの菌の交換もすごく大切なんじゃないかな。でもね、こんな風に話している私も、熱心にはやっていないんです。本当にいい加減なんだけど、それでも違うんです。最悪な事態に陥ってインフラが全部止まっても、何とかなりそうと思える。それが安心につながっている気がします。
ーー以前、緊急事態宣言が出た時に都心では一気に物がなくなった時に、東京ってなんでもあると思っていたけど、なんでもなくなっちゃうんだと思いました。あの瞬間に潜在的に不安感が刷り込まれたところもあるかもしれません。
みれいさん:人間の本能で感じているんじゃないですかね。だからね、今不安感を感じている方たちってすばらしいセンサーがあるんだと思いますよ。センサーが作動したら、では、何が不安なのか可視化していくといいですね。すると、じゃあ2拠点生活にしようとか、ベランダでたくさんの野菜を育てようとか、もっと快適な場所へ移動しようとか、何かしらの活路が見出せるのではないでしょうか。
時々ふと思うんです。都会って何でもあるけど何にもない。田舎は何にもないけど何でもある、って。この感覚がわかる人がこれからますます増えていくんじゃないかなと思っています。
今、この時代に、私も自分ができることを悔いがないように精一杯やろうと思っています。本当に自分くらいは自分の味方をして、自分を大切にしていただきたいです。今、ひとりひとりが本当に幸福になる選択をする時がきていると思っています。
お話しを伺ったのは・・・服部みれいさん(Instagram@millethattori)
文筆家、編集者、詩人。岐阜県生まれ。育児雑誌の編集を経て、1998年独立。ファッション誌のライティング、書籍の編集・執筆を行う。2008年春に『マーマーマガジン』を創刊。2011年12月より発行人に。オンラインショップ「マーマーなブックス アンド ソックス」主宰。あたらしい時代を生きるための、ホリスティックな知恵、あたらしい意識について発信を続ける。『冷えとりガールのスタイルブック』(主婦と生活社=刊)をはじめ、代替医療に関する書籍の企画、編集も多数。2015年春、岐阜・美濃市に編集部ごと移住。8月「エムエム・ブックス みの」オープン。2016年『マーマーマガジン』を、詩とインタビューの雑誌『まぁまぁマガジン』にリニューアル。近著に『うつくしい自分になる本』(筑摩書房)、『自分をたいせつにする本』(ちくまプリマー新書)、他。2022年11月末『まぁまぁマガジン』24号発刊。YouTubeにてマーマーチャンネル更新中。
AUTHOR
磯沙緒里
ヨガインストラクター。幼少期よりバレエやマラソンに親しみ、体を使うことに関心を寄せる。学生時代にヨガに出合い、会社員生活のかたわら、国内外でさまざまなヨガを学び、本格的にその世界へと導かれてインストラクターに。現在は、スタイルに捉われずにヨガを楽しんでもらえるよう、様々なシチュエーチョンやオンラインでのレッスンも行う。雑誌やウェブなどのヨガコンテンツ監修のほか、大規模ヨガイベントプロデュースも手がける。
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