【92歳の精神科医に学ぶ】「死」との向き合い方を考える、笑顔で最期を迎えるための心得とは
「人生100年時代」の後半戦に待ち受ける、憂鬱なあれこれと、うまいこと折り合いをつけて生きていくコツとは? 92歳の精神科医・中村恒子先生と、54歳で同じく精神科医の奥田弘美先生のコンビが対談形式で語り尽くす『不安と折り合いをつけて うまいこと老いる生き方』(すばる舎)から抜粋してお届けします。
やりたいことを後回しにしなかった患者は、人生の終わりも穏やかな笑顔をたたえていた。
奥田 ホスピスで働いていたとき、最期まで死を拒絶し、後悔される人がよく口にされたのは、「あと〇年経ったら〜しようと思っていたのに」「仕事を引退したら〜するはずだったのに」といった言葉でした。
中村 反対に、穏やかに最期を迎えられた人はどうやった?
奥田 そういった方々は、「やりたいことは、大体、やってきたから後悔はない」「わがままに生きさせてもらったからほぼ満足」といった言葉を語られて静かに微笑まれていました。死を受け入れて逝かれる人たちが、元気なときから常に死を意識していたかはわかりませんが、やりたいことを、できるだけ後回しにせずに実行されてきたことは共通していたようでした。
中村 そうそう、やりたいことの先送りは、できるだけしない方がいいね。人に大迷惑かけるようなことでなければ、他人の目なんて気にせずに、したいことをやればええと思うよ。
日本は昔から同調圧力が強いから、周りと違うことをすると、すぐ「変わりもの」「わがまま」って言われるけどな。人の目ばかりを気にして、自分のしたいことを後回しにし続けるのは、精神衛生上もよくない。逆に、できるだけ自分のしたいことを積み重ねていれば、もし自分の人生が平均寿命よりも短く終わったとしても、悔いは残らないと思うよ。
奥田 未来のために今を犠牲にするのではなくて、さきほどのマインドフルネスのくだりで話した「今ここ」を大切に、一日一日を、できるだけ自分らしく、自分の気持ちに正直に過ごしていくことが理想ですね。
もちろん、100%自分のしたいことをできる人は少ないとは思いますが、それでも1日1時間でも2時間でもいいから、自分の気持ちに正直に、したいことをする時間を持つことは、心の健康を保つためにも必要だと思います。
中村 今は私らの若い頃に比べると、男性も女性も自由にできることがいっぱい。人様に大きな迷惑かけない範囲でわがまましても何も問題あらへん。「わがままだ」って言ってくる人の大半は、他人が自分の思うように動いてくれなかったり、合わせたりしてくれないから駄々こねてるだけや。日本人の悪い癖。ぜひ私の世代の分も、自由に、自分らしく生きて欲しいと思うな。
奥田 「わがまま大いにけっこう!」ですね(笑)。
中村 そうそう。人によって「自分らしく」は違うから、ぜひ自分が納得する時間の使い方をして欲しいね。
例えば、私は若い頃は家計のために必死で働き、子どもが独立してからも、結局仕事中心の一生だったけど、それは自分で選んだことでもあるから、けっこう満足してる。
私は仕事が大好きというわけやなかったけど、子どもが独立してからも、それ以外にしたいこともないし、仕事をしている方が人の役にも立つし、退屈もしないからと、乞われるままに90歳になるまで仕事を続けてきた。
今振り返ってみると、それが私なりの「やりたいこと」やった。だから、私みたいにずっと仕事漬けの人生もいいと思うし、やりたいことがあるなら、そちらを楽しんで欲しいね。
奥田 患者さんの中には、「子育てで自分の時間が持てない」とか「介護で自分のしたいことが全くできない」と嘆く人もいますが、先生はそういう人には、どのようにアドバイスされていますか?
中村 子育てに関しては、「子どもを産もうと決めたのは自分やろ。だから子どもを育てるのは、あなたが自分で選んだ仕事なんだから、頑張りなさい。ときどき手を抜いたり、誰かに預けたりして、息抜きしながら頑張ったらええやん」ってよく言ってたなぁ。
介護に関しては、私は、ありがたいことに両親の介護も夫の介護も、長い間、本格的に経験することなく済んでしまったから偉そうなことは言えへんけど、「『施設に預けないで、家で介護しよう』と決めたのは、他ならぬ自分でしょう? 自分で決めたということは、自分のしたいことなのでしょう?」と、患者さんによく尋ねていたかな。
奥田 「自分で決めたことは、自分のしたいこと」というのは、本質を突いていますね。私も介護に関して、何度か患者さんから相談を受けましたが、「施設に行くのは嫌だと、親に言われたから」「夫が、自宅で親を介護したいと強く望んだから」など、他人のせいにする人ほどストレス度が高かったです。
中村 結局、「ノー」と言わないことを選んだのは自分なんやからね。本当に嫌なら「ノー」とはっきり言って突っぱねることも自由や。せやけど、言わない方を選んだ。
そんな人たちは「無理に施設に預けるのは、かわいそうやから」とか「夫と喧嘩したくないから」という理由を挙げがちだけれど、その奥にあるのは、自分が「優しい人」「いい人」でいる方を選んだということ。結局自分で選んだのと同じやと私は思うな。
奥田 たしかにそうですよね。今は、自分が本当に嫌だと思うなら、よほどのことがない限り「ノー」が言える世の中のはずです。
でも、言うことによって「わがまま」とか「思いやりがない」と、後ろ指をさされたくないから、言わない選択をしたんですものね。これは介護だけじゃなくて、色んな人間関係でも言えることです。
中村 そうそう。何でも自分で「決めた」「選んだ」と思えること、またはそれに気付くことが大切やと思うね。「無理に人にやらされた」というのが、一番ストレスになるからね。
奥田 結局、物事のほとんどは、自分が主体的に決めているんだということに気付けば、自分の人生をコントロールしやすくなります。「いい人」「優しい人」でずっといるのはしんどいから、今回は「わがままな人」になってみようかなと決めると、楽に自己主張ができたりします。
中村 うん、常にいい人である必要なんかないんやからね。例えば、初めは頑張ろうと思っていた介護が長引いてきて、心がしんどくなってきたら、素直にそれを周りに告げて、ヘルパーさんやプロに手助けしてもらったらいいと思うよ。それをわがままやって周りの人に言われたとしても、今度は「気にしない」ことを選べばいい。
奥田 介護でも、子育てでも、仕事でも、自分が我慢できない状況になったら、「わがままと言われようがどうでもいい。とにかく今の状況を変えたい!」と勇気を持って伝えたり、行動したりすることが大切ですね。それが自分の人生を、自分らしく生きることに繫がっていくはずです。
中村 恒子(なかむら・つねこ)
1929 年生まれ。精神科医。1945 年6 月、終戦の2 か月前に医師になるために広島県尾道市から一人で大阪へ、混乱の時代に精神科医となる。二人の子どもの子育てと並行して勤務医として働き、2019 年(90 歳)までフルタイムの外来・病棟診療を継続。奥田弘美との共著『心に折り合いをつけて うまいことやる習慣』(小社)は16 万部超のベストセラーとなった。現在はリタイアして心穏やかな余生を送っている。
奥田 弘美(おくだ・ひろみ)
1967 年生まれ。精神科医・産業医(労働衛生コンサルタント)。日本マインドフルネス普及協会代表理事。内科医を経て、2000 年に中村恒子先生と出会ったことをきっかけに精神科医に転科。現在は精神科診療のほか都内20 か所の企業の産業医としてビジネスパーソンの心身のケアに従事。著書に、『1 分間どこでもマインドフルネス』(日本能率協会マネジメントセンター)、『「会社がしんどい」をなくす本 いやなストレスに負けず心地よく働く処方箋』(日経BP)など多数。
AUTHOR
ヨガジャーナルオンライン編集部
ストレスフルな現代人に「ヨガ的な解決」を提案するライフスタイル&ニュースメディア。"心地よい"自己や他者、社会とつながることをヨガの本質と捉え、自分らしさを見つけるための心身メンテナンスなどウェルビーイングを実現するための情報を発信。
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