【92歳の精神科医に学ぶ】不安と折り合いをつける「老い」の受け入れ方

 【92歳の精神科医に学ぶ】不安と折り合いをつける「老い」の受け入れ方
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「人生100年時代」の後半戦に待ち受ける、憂鬱なあれこれと、うまいこと折り合いをつけて生きていくコツとは? 92歳の精神科医・中村恒子先生と、54歳で同じく精神科医の奥田弘美先生のコンビが対談形式で語り尽くす『不安と折り合いをつけて うまいこと老いる生き方』(すばる舎)から抜粋してお届けします。

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いつまでも若くいられる時代だからこそ老いるメリットを数えてみる。

奥田 先生、今回の本のテーマは「老い」です。日本人の中には、「老いること」について不安を抱えている人が、非常に多いと言われています。世界有数の長寿国であるがゆえに、現役引退後も長く続く老後を、いかに生きていくべきかという「長過ぎる未来に対する不安」を、男女問わず多くの人が感じています。さらに、終わりの見えないコロナ禍でストレスが貯まる一方の昨今、未来に対して希望を持てない人も激増しているようです。

中村 残念ながら、私もそう感じるわ。長生きの人が増えたのは良いことやけど、これからの長い老後について、悩んでしまう人も多いようやな。

奥田 そこでこの本では、90歳を過ぎて「老いのベテラン」といえる恒子先生と、50歳過ぎの「老いの入り口」にいる私とで、「老い」とどうやって向かい合うべきか、いかにうまく付き合っていけば良いかについて、率直に話し合ってみたいと思います。
私たちは、精神科医として長年多くの人々の人生に接してきましたので、きっと読者の方にとっても役に立つヒントがお伝えできると思います。

中村 うん、それは面白そうやな。戦前生まれの私の世代と、先生の世代とでは、色々価値観が違うとは思うけど、戦中戦後を生きてきた経験とともに、思うところを語らせてもらおうかな。

奥田 さっそくですが、「老い」というと、どうしてもマイナスなイメージのある言葉ですが、私はあまり、ネガティブに捉えてはいないんですよ。特に50歳の大台に乗ってからは、どうあがいても老化を認めざるを得ないな、と開き直ったことによって、気が楽になってきました。歳をとることで若さは失われていきます、得られることもたくさんあると思います。恒子先生は、いかがですか?

中村 うん、たしかにそうや。なんと言っても、万事につけて歳をとると気楽になるね。例えば私ら女性でいえば、若さとか、美しさとかをスッキリ諦めてしまうことで、着るものにしても、髪型にしても、所作にしても、人の目とか気にしないでよくなるよ。
他人さんにどう思われるやろ? とか、女らしくないって思われないかな?とか、なーんも気にならへん。着たいものを着て、人に迷惑をかけない限り、したいことをする……まあ気楽ですわ。

奥田 そうですよね。私は、54歳という微妙な年齢で、まだメディアからは「アラフィフの若見えファッション」などと盛んにあおられる年代なんですが、はっきり言って、この歳でそういうことを追いかけるのは、もうしんどい。体は50代になるとたるんでくるし、顔にはシワも出てくるし。そんな状態で服や化粧で表面を取り繕っても、若い頃と違ってそんなに効果がないというか、むなしいというか……。

中村 わぁ、すごい時代になったもんやなぁ。私の頃は、結婚したら、もう「おばさん」扱いで、気楽なものやったわ(笑)。50代だと、もうおばさんどころか、おばあさん扱いされていたわな。せやから化粧も服も、他人さんに不快感を与えん程度で良し。ファッションも、流行なんか気にしないで、適当やったな。

奥田 そうやって「おばあさん」と開き直った方が、50代からは、絶対に気楽ですよね。たしかに先生の時代は、結婚してミセスになったときから、一律に「おばさん」扱いが普通だったようで、1969年に放送が始まった、アニメ『サザエさん』の主人公、フグ田サザエさんの年齢設定は、なんと24歳だとか。お父さんの波平さんが54歳で、お母さんのフネさんが52歳だそうです。現代の私たちから見ると、サザエさんは30代ぐらいの、波平さんやフネさんは70代の雰囲気を醸し出していて、驚きます。

中村 そうなんやね。私らの時代は、何も違和感なかったけどな。結婚して子どもを持ったあたりから、女性は「おばさん」、男性は「おじさん」とひとくくりやった。

奥田 これは、私個人のイメージですが、今の時代では「おばさん」「おじさん」は40代からなんです。30代などは、まだまだ若さにあふれた世代。40代くらいから、ようやく「おばさん」「おじさん」のイメージとなってきますが、豊かな時代ですから、お金や手間暇をかければ、まだまだ容姿は若作りできますし、体力もあるからアクティブに仕事や趣味も楽しめます。
だから、40代でも「老い」の気配を全く感じていない人が多い。「まだまだ自分は若い人には負けないぞ」という感じで、若さを手放していない人が大勢います。そして、50代に入ってから、ようやく心身の体力の低下や容姿の変化が取り繕えなくなってきて、否が応でも「老い」を自覚させられる人が増えてくる気がします。

中村 ほう、そうかいな。今は50代になるまで、若さを手放せないとは、えらい時代になったもんやな。私らの時代に比べたら、えらく老いることが先延ばしになってしまっているんやね。

奥田 そうなんです。で、「老い」が取り繕えなくなるから、ようやく渋々自覚し始めて、そのあとも「老いたくない!」と戸惑いながら老いていく人が非常に多いんですよね。だからこそ「アンチエイジング」という言葉が大流行しているわけです。

中村 アンチエイジングって、「老いに対抗する」っていう意味やろ? 私らの時代は、そんな言葉もなかったし、老いに抵抗する、対抗するっていう感覚もほとんどなかったなぁ。すごく自然に老いていけた気がするね。老いることに対して、すごく気楽やった。

奥田 恒子先生の今の言葉に、すごく大きなヒントがあると思います。「老いること」に対抗して、いつまでも若さに執着して苦しむより、潔く老いを認めていく。さらに、嫌なことだと捉えずに、性別の縛りや人の目から解放される、そんなイメージを持てば、自分らしく、活き活きと生きられる気がします。ファッションにしても、世間の基準に惑わされず、自分が本当に心地良いものを身に付けて、のびのび生きた方が楽しいですからね。

中村 私らの世代は、50歳になったらほとんどの人が「老境に入った」と開き直ってたから、老いることに対しての焦りや、不安はほとんど感じなかった気がする。例えば着る物とか暮らしに対しても、妙な執着は一切なかったなあ。好きなようにしていたわ。せやから、今も私が身に付ける服や鞄なんかは、50代や60代の頃に買ったものが多いんやで。流行とか全く気にせえへんかったから、店員さんに勧めてもらって「ええな」と思う、好みに合うものを買ってきた。だから92歳になっても着られるものが、けっこういっぱいあるで。体は多少縮むから、自分でちょこちょこっと直すけど、流行と違って、自分の基本的な好みは、そうそう変わらへんからね。

奥田 先生のお話を聞いていて、私の中で老いへの開き直りの気持ちが、ますます強くなってきました! メディアや流行に左右されないで、自分の感性で、物も生き方も選んでいきたいと思えますね。若さへの執着を上手に手放しながら老いていければ、心も体もどんどん楽になりそうです。

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『不安と折り合いをつけて うまいこと老いる生き方』(すばる舎)より

中村 恒子(なかむら・つねこ)
1929 年生まれ。精神科医。1945 年6 月、終戦の2 か月前に医師になるために広島県尾道市から一人で大阪へ、混乱の時代に精神科医となる。二人の子どもの子育てと並行して勤務医として働き、2019 年(90 歳)までフルタイムの外来・病棟診療を継続。奥田弘美との共著『心に折り合いをつけて うまいことやる習慣』(小社)は16 万部超のベストセラーとなった。現在はリタイアして心穏やかな余生を送っている。

奥田 弘美(おくだ・ひろみ)
1967 年生まれ。精神科医・産業医(労働衛生コンサルタント)。日本マインドフルネス普及協会代表理事。内科医を経て、2000 年に中村恒子先生と出会ったことをきっかけに精神科医に転科。現在は精神科診療のほか都内20 か所の企業の産業医としてビジネスパーソンの心身のケアに従事。著書に、『1 分間どこでもマインドフルネス』(日本能率協会マネジメントセンター)、『「会社がしんどい」をなくす本 いやなストレスに負けず心地よく働く処方箋』(日経BP)など多数。

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ヨガジャーナルオンライン編集部

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ストレスフルな現代人に「ヨガ的な解決」を提案するライフスタイル&ニュースメディア。"心地よい"自己や他者、社会とつながることをヨガの本質と捉え、自分らしさを見つけるための心身メンテナンスなどウェルビーイングを実現するための情報を発信。



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